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神に感謝を

 目覚めは実に清々しい物だった。しかし、夢の内容は過去の出来事そのものと言っても過言では無かった。

 だが、同時に初心に帰る事が出来たのかも知れない。あの共同墓地で誓った宣誓。今思い出さなければ、遠い彼方の思い出として記憶の奥底に仕舞っていただろう。その点に関してはチュリー少尉に感謝している所だ。

 俺は朝日を浴びて伸びをしながら一言呟く。


「んー、良し!チュリー少尉の尻尾モフったろ。全部あの女狐が悪いんだ。責任は取って貰わんとな」


 そもそも過去話を話す展開になったのが原因なんだからな。

 え?話し始めたのはお前だって?ハッ!こんな長期連載停止してたんだ。大抵の奴は最初の話なんて覚えて無いから問題無いんだよ。

 何のメタ話をしているのか分からないがシャワーを浴びて、歯を磨き、着替える。


「おはよう、ネロ。今日は良い天気になりそうだな」

「おはようございます、マスター。残念ですがこの後の天候は下り坂となっており、昼過ぎからは大雨となっております」

「その頃にはこの惑星から飛び出してるから問題ねえよ」


 ネロを抱えて時間を確認する。丁度良い時間だったので、そのまま部屋を出てチュリー少尉の部屋に向かう。


「どうやってチュリー少尉を起こそうかな?やっぱりマグナムは使ってドアをブチ破った方が良いよな。あ、ならドッキリの立て札もいるな」

「マスター、その場合ですと近隣の方々から通報される可能性が非常に高いと進言します。ですので隠密での侵入を推奨します」

「派手に行きたかったんだがな。残念だ」


 まぁ、下手に騒ぎを立てて余計に面倒臭い事になるのは御免被ると言うやつだ。

 しかし、ネロちゃんの提案は結構リアルで少し引いたのは秘密だ。

 何だかんだでチュリー少尉の居る部屋に到着。ドアを普通にノックしてチュリー少尉を呼ぶ。


「チュリー少尉、起きろよ。さっさと朝食を食べて出発するぞ。午前中には宇宙に上がりたいからな」

「…………」


 返事は無い。しかし人の気配はある。恐らく起きていると思われる。

 もう一度ノックをしようとしたらドアの鍵が開く。どうやら目覚めていたらしい。


「殊勝な心掛けだな。まぁ、人を待たせて無い事に免じて尻尾は見逃して……Oh Yeah。何つーエロい格好してんだよ」

「んー?……今、何時なの?まだ、眠い」


 チュリー少尉は恐らく寝る時は薄着派なのだろう。いつの間に買ったのか知らないが、まさかのワイシャツ一枚でのご登場だ。

 まだ眠そうな表情なのだが、起き抜けなのか妙な色っぽさがある。更にワイシャツの胸元が苦しいのか上二つのボタンを外している。まぁ、この女狐は胸大きいからな。

 そして下に関してなのだが……履いて無いってオチな気がする。だって尻尾がユラユラと左右に揺れているのだが、下着の輪郭が見えないんだもん。そもそも胸だって下着を着けてる気配が無い。だってワイシャツの胸元にポッチが二つあるんだもん。


 外見良し、性格良し、スタイル良し、パイロットとしての技量良し。そして虹色で綺麗な髪と尻尾も加点される。極め付けがアーロン大尉を失ったばかりの悲劇的な展開も追加されている状況。

 これだけの条件が揃っているのはヒロイン候補間違い無いだろう。

 俺は廊下に飾られている天狗のお面を被り、チュリー少尉に問い掛ける。


「チュリー少尉、物語の中盤でポッと出の癖に心に傷を負ったヒロインをどう思う?」

「んー?そうねぇ……人気が出るなら良いんじゃなッ⁉︎痛っ!何で胸を叩くのよ!」


 その瞬間、俺の中の何かが弾けた。ずっと思い続けているヒロインから簡単に乗り換えろってか?冗談じゃ無いよ!そう言うのはヒロインと言う名の便利グッズになってんだよ!

 そもそも本気で誰かを好きになったら簡単に目移りしないんだよ!馬鹿野郎!


「黙れ女狐。お前にヒロインの座が簡単に務まると思うな!」

「いや、意味が分からないから。大体、そのお面は何?」

「天狗だよ。知らないのか?」

「知らないわよ。はぁ、朝から疲れさせないでよ」


 そう言ってチュリー少尉は部屋に戻って行く。多分下に降りて来るだろう。

 俺は天狗のお面を元の場所に戻し、先に下に降りて朝食の用意をしておく。ホテルの朝食メニューは大した物では無かったが、普通のメニューなので良しとしよう。


「あら?用意してくれたの?」

「いや、店員がやってくれたんだよ」

「ふぅん、バイキング形式なのに?」

「お客様大好きな店員で助かったぜ。ほら、早く食べて出発するぞ。長居は無用だからな」

「それもそうね。ちゃんと食べれるメニューだし」

「獣人は基本人類種と同じ雑食だろ。余程の先祖返りしてない限りな」


 獣人と言っても色々ある。人類種に近い者、殆どが獣姿の者、手足など身体の一部が獣化した者。多種多様あるので大半は一括りにされて獣人と呼ばれている。


「これで、ようやく宇宙に戻れるのね」

「そうだな。重力下の生活も悪く無いんだがな。今じゃあ、戦艦の中で過ごすのが当たり前だ」

「そう言えば、貴方ってこれからもスマイルドッグに居るの?」

「いや。大型高速輸送艇を買ったらフリーランスになるよ」

「へぇ、ちゃんと目標があるんだ。ちょっと意外」

「目標は人のやる気に直結するからな。無いと堕落し続ける」


 社長とスマイルドッグには感謝している。だが、所詮は傭兵と言う身分だ。いつ、どこで予定が変わるか分からんからな。

 尤も、大型高速輸送艇を購入しても暫くは居続けてやる予定だ。俺の後任とまでは言わないが、マシな戦力は必要だろうからな。


「チュリー少尉はこの先どうするんだ?と言っても、ツテはあるみたいだが」

「えぇ、一応ね。多分受け入れてくれる筈よ。何たって実績と技量があるからね」

「それだけ有れば大抵の荒事を食い物にしてる所なら問題無さそうだな」

「そう言う事よ。それに、貴方はどうするの?機体が完全にスクラップになっちゃったけど」


 チュリー少尉にバレットネイターの事を言われて苦い顔をしてしまう。

 そうなのだ。俺の愛機でもあったバレットネイターは死体撃ちされた後、爆散してしまったのだ。余りにも無残な仕打ちに全俺が泣いた瞬間だ。


「まぁ、暫くはサラガンで行く予定だ」

「そうなの?てっきりマドックの強化パック仕様に乗るかと思ったわ」

「そこなんだよなぁ。何でか知らないけど、サラガンの強化パックが出て来ないんだよ」


 サラガンとマドックは互いにライバル関係みたいな物だ。なので、どちらかが改修すれば同じ様に対抗するのだ。

 なのに、此処に来てサラガンの強化パックが出て来ないのだ。然も出る気配すら無いのが腑に落ちない。


「後はヘルキャットも有るからな。それに乗り換えるのも有りだな」

「へぇ、スマイルドッグってヘルキャットも有るのね」

「最近になってな。ほら、マザーシップ戦の後でな。色々戦力を補充して強化したのさ」

「ふぅん。そうなの」


 そして互いに朝食を食べ終えて車に乗り込む。後は道なりに走って行けば、カモミール空港に到着する。

 道中は何かしらのトラブルに巻き込まれる事は無く、無事にカモミール空港に到着する。もしかしたらQA・ザハロフが刺客を送って来るかもと思っていたが、拍子抜けする程順調だった。


(もしかしたら、あの時のパイロットは知り合いだったか?んー、あんな奇抜な奴だったら簡単に忘れないと思うんだが)


 車を駐車場に停めて手荷物を持つ。そして車から降りてカモミール空港に向けて歩く。

 歩きながら車の鍵を後ろに向けて放り投げる。車の鍵は車のボンネットの上に落ちる。これで車の回収には困らないだろう。もしくは誰かが乗って行く筈だ。



 こうして、俺達は無事に宇宙ステーションに到着する事が出来た。

 アーロン大尉の戦死。そして俺も死ぬ一歩手前の状況。更にバレットネイターを失う結果になったが、何故か生かされた訳だ。まぁ、命あっての物種って奴だ。

 生きていれば何度でもやり直しが効く。ゴーストと言う非力な立場では無い。正規市民としての下地がしっかりとある立場だから出来る事。少なくとも過去の俺と違い、力ある立場にいるのだ。

 宇宙ステーションにある傭兵ギルドに向かう。そこでスマイルドッグへ通信を繋げて貰い口を開く。


「もしもーし、オペ子居る?迎えを手配してくれ。今直ぐにな」


 いつもの調子で話をする。まるで過去の思い出を無かったかの様に。


 だが、それで良いのだ。過去の過ちをやり直せる訳では無い。


 この世界のゴーストの立場はそう言う物なのだ。同情の余地など無いのだ。


 利用され、消費され、破棄される。


 唯、それだけの事なのだから。











「タケル、答えて。何故、あそこにシュウが居たの?」

「…………」

「タケルは知っていた筈。いつもなら、傭兵に関してもっと詳細なデータを送るもの」


 私は目を閉じているタケルに問い掛ける。あの場所にシュウが居た。そう、奇跡の様な出会い。

 この広い宇宙で、もう二度出会う事が出来無いと諦めていた。だけど、もう一度会う事が出来た。それだけで無く所属する傭兵企業も知る事も。

 だけど、それとこれとは別。私はタケルに聞かなくてはならない。


「もし、あのままシュウだと知らなかったら。私…………シュウを、殺してた。ねぇ、タケルはそれが望みなの?」

「レイナ、奴の事は忘れろ」

「忘れた事なんて一度だって無い。だって、私達に未来を見せてくれた。明るく、希望がある未来を」

「だが、奴の浅はかな希望の所為で皆……」

「シュウの所為じゃない。私が……無理言ったから」

「その無理を可能だと欺かせたのは奴だ。奴そのモノの存在が許されない」


 本当は分かっている筈なのに。あの戦場に行く事自体が自殺行為だった。


 だけど、それでも私は……私達は彼を失いたく無かった。



「タケル……分かった。じゃあ、一つだけお願いがあるの」

「お願い?」

「うん。それはね……」


 私は願いをタケルに話す。その瞬間、タケルは目を見開きながら拒否する。


 だけど、もう決めた事。


「タケルも知ってるでしょう?私は長くは生きられない」

「そんな事は無い。そんな事は無い!まだ、他に方法はある筈だ。だから諦めるな!」


 必死に否定するタケル。だけど、私の身体を一番理解してるのはタケルだけ。

 そして、私自身も。

 今まで私の為に一人で必死に頑張って来たタケル。優しくて、とっても頼りになる私の幼馴染み。そんなタケルを優しく抱き締める。


「タケル……ありがとう」

「……レイナ」

「もう、充分だから。だから……最後に会わせて」

「…………ッ。それで、お前は幸せなのか?」

「お願い。私が……私で居られるまで」

「ッ……ゥ…………」


 互いに抱き合う。そして、タケルは静かに頷く。


 でも、私はそれに気付く事が出来ない。何故なら……タケルの体温も感じる事が出来無いくらい手遅れだから。






「待っててね。もう一度、最後にもう一度だけ……貴方の背中に触れたいから」






 神様、ありがとう。最後のチャンスを私に与えてくれて。

はーい!お疲れ様でした!お疲れ様!オッツー!乙ー!

いやー、長ったぁ。本当に長かったー。もうね、過去編とか二度と書きたくないとつくづく思ったよ。

それでも、読者達の感想や誤字報告に助けられました。本当にありがとうございました。


難しかったのですが、この話は書く必要が有ったんですよ。主人公が如何にして夢が溢れ、希望に満ちた世界に染まるか。そして染まる色は何色になるのか。

また、タケルとレイナの出会いも書く必要がありましたからね。


はぁ、本当に長った。特にAW戦が満足に書けなかったから辛いの何のと。


それでも車、戦車、MWと言ったモブ的な立場は書きたかったのは事実です。

昔から思ってたのは、やられメカで主役機クラスを倒したい事でした。数さえ揃えば主人公機くらい倒せる筈だと。

しかし、実際に書いてみると「これ、無理じゃね?」と思ってしまいましたよ。量産機とは言え戦場の花形AW相手ですからね。そもそも主人公を引き立てる事が出来るスペックを持つ量産機。そりゃあ、書いてて無理ゲーって思いましたもん。


そしてAWのイラストとかですかねー。ぶっちゃけ、これは本当にどうしようも無いね。まぁ、自分がハッキリとしたビジョンを見せて無いのもあるんですがね。

一機くらいはイラストレイターに依頼してみるか?んー、悩ましい。


後は、遂に目標の一つでもあった総合PV1000万突破も無事達成出来ました。途中何度か投稿が止まりましたが、それでも読んで頂き有難うございます。


さて、最後にIII count Dead END第三章をお読み頂きありがとうございます。

色々苦労しましたが第三章、無事に完走致しました。そして、長かった第三章に付き合ってくれた読者の皆さんに感謝を。


この小説を気に入って頂いたら評価、ブクマ、感想、レビューなど宜しくお願いします。次のやる気にも繋がりますので。


それでは、また第四章でお会いしましょう!では!(*⁰▿⁰*)

















正規市民を守る為には犠牲が必要なのだ。そうだ、誰かが踏み台となり、支え続けなければならない。

一人で無理なら十人で支えれば良い。それだけの数はあるのだから。


【ゴースト】


所詮は消耗される存在に過ぎない。ゴーストがどれだけ助けを求め泣き叫ぼうとも、権利を持つ者達に届く事は無い。

そう言う風に出来ているのだ。

この世界はな。




次回【幻想郷】




誰もが認める最高の治安を持つ惑星にする為の犠牲だ。光栄に思うと良い。

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― 新着の感想 ―
[一言] 過去編の書き方マジで上手いと思います!ホントに違和感なく読めた!にしてもな ー…こんな体言ってたし、それで会いたくないだけかと思ったけどデメリットはやっぱあるのか、正直レイナ出て来てこれでヒ…
[一言] 全面禁止されてる技術利用した部署の主任って…都合が悪くなれば即切り捨てられる部署じゃないですかー …どう考えても「ゴーストが会社の名前を勝手に使って我が社の信用を違法研究の為に悪用していた…
[一言] ハッピーエンドを期待しちゃう俺は馬鹿なのかなぁ、馬鹿だよなぁ。 悲しいなぁ。 是非とも頑張ってください!
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