スタートライン
私には最近彼氏が出来た。とても素敵な人で、常に希望を抱いて生きている人。タケルとの仲は良い……と思う。タケルは余り素直になれないから良く不貞腐れてる表情をしている。
けど、最近は少し良くなってる。もしかしたら彼の事をやっと認めたのかも知れない。
彼は私達と同じ立場なのにMWパイロットになってしまった。部隊が別々になって少し寂しいけど、基地内なら何時でも会えるから大丈夫。
でも、今防衛線がとても危険な状況らしい。
HQからの通信を傍受した情報によれば前線の味方が合流するのは、後10分は掛かるらしい。
彼が心配だ。そう思いながら敵をアサルトライフルで撃ち殺す。既にこの場所も敵歩兵が多数侵入している。
仲間も何人も負傷している状況。それでも、彼が心配なの。
そんな時だった。防衛線側から味方のMWが帰って来た。間違いない。防衛線を敷いていた部隊のMW達だ。
その中には彼と同じ部隊マークのMWも居た。
けど、彼は居ない。
「助けないと」
私は今一番頼りになる仲間達に助けを求めた。
私達の希望を助けたいって。
「俺は死なない!死なないんだよおおおお‼︎」
叫び声を上げながら30ミリガトリングガンの銃口を敵ヘリオスのコクピットに当てる。
【ッ⁉︎こいつッ⁉︎】
「くたばれえええええ‼︎」
至近距離からの30ミリの弾丸を撃ち込む。幾らAWのコクピットが頑強に作られてるとはいえ、至近距離での攻撃を受ければ一溜まりも無いだろう。
そのまま敵ヘリオスは横に倒れ込み動かなくなる。
【サード9!この、雑魚の分際でえええ‼︎】
残った敵ヘリオスが250ミリバズーカ砲を構えながら撃つ。咄嗟に左に回避するが避け切れずに右前脚に被弾してしまう。
「くううぅぅ、脚部のバランサーの再構成を」
機体を何とか維持させながら30ミリガトリングガンで反撃する。
しかし、所詮は無駄な足掻きに過ぎなかった。
敵ヘリオスは上空に高く跳び30ミリの弾幕を回避する。それでも撃ち続けていると弾が出なくなった。
モニターに弾切れの表示が出る。残りは対人武装の12.5ミリマシンガンのみ。
上空から250ミリのロケット弾が飛んで来る。ギフトを使い回避しようにも既に機体も頭も限界だった。
そして、凄まじい衝撃と共にディフェンダーは動かなくなる。
「う……くぅ、いっつぅ…………被弾、したのか」
コクピットはアラート音が響きまくっていた。モニターもヒビ割れし、機体ステータスは赤い色だらけ。おまけに怪我をしたのか視界も紅く染まり始めていた。
【随分と足掻いてたな。全く、惜しいパイロットだよ。出来れば敵では無く味方として出会いたかったくらいだ】
雑音が入っていたが、どうやらオープン通信を入れて来たらしい。
「そう……かい。どうせ、MWなら……捨て駒扱いするだろ?ゴーストなら……尚更だ」
【そうかもな。まぁ、お前さんは良く足掻いてた方だ。まさか、味方を二機潰されるとは思わなかったからな】
そして、ゆっくりと近付き250ミリバズーカの砲口をこちらに向ける。
【せめてもの敬意を表して、最後の言葉くらいなら聞いてやる】
「そう……だな。色々、後悔した人生だった。けど、な…………良い人生でもあったよ」
俺は新しいホルスターからM&W500を取り出す。死ぬ時くらい、良い思い出の中で死にたいからな。
【そうか。命乞いをしないのは好感が持てる。尚更、味方として出会いたかった】
もう、何かを言うつもりは無い。既に勝敗は決している。
そう、俺は死ぬ。後、三秒後に。
(レイナ……ごめん)
覚悟を決めて目を閉じた瞬間だった。頭の痛みと共に未来が変わる。
そして次の瞬間には敵ヘリオスが別の所に攻撃をしているではないか。
「一体、何が……ッ!何で、此処にお前達が」
信じられなかった。AWやMWと言った通常兵器とは次元の違う戦場に居る事が。
軽装甲車がこの場所に近付いて来る事が。
唯の歩兵がこの場所に居る事が。
「やめろ……やめろ、やめろ」
敵ヘリオスに向けて対戦車ミサイルだろうか。数発が放たれる。それをあっさりと回避して行く敵ヘリオス。
「やめろやめろやめろやめろ‼︎」
俺のギフトは最悪な光景を視せて来た。爆炎の中に消えて行く大切な戦友達。
「やめろおおおおおおおおお‼︎‼︎‼︎‼︎」
そして……三秒後にそれは現実となった。
敵ヘリオスは軽装甲車相手に確実に250ミリのロケット弾を当てて行く。
一気に近付いては軽装甲車を蹴飛ばして行く。
ブーストを一気に吹かし吹き飛んで行く軽装甲車。
【どうやら仲間だったみたいだな。仲間想いの良い連中だったなぁ】
「殺してやる‼︎今直ぐに‼︎お前は‼︎お前だけはああああ‼︎‼︎」
【ククク、実に良い悲鳴だな。特にゴーストの悲鳴は最高だ。踏み潰しても何も問題無いんだからさ】
そして全てを終えた敵ヘリオスは再び250ミリバズーカを構える。
【じゃあな。あの世で仲間達が待ってるぜ】
「ッッッ⁉︎‼︎⁉︎‼︎‼︎⁉︎」
最早言葉は出なかった。取り敢えず撃てる武装は撃っていた。けど、効果は全くと言って良い程無いんだ。
今度こそ死ぬ。だが、それもまた変わった。何故なら250ミリバズーカの持ち手の部分に対戦車ミサイルが直撃したのだ。そのお陰でロケット弾は逸れて、後方に着弾する。
誰が撃ったのか。確認した瞬間……背筋が凍り付いた。
そこに対戦車ミサイルを構えた彼女が居た。
彼女は最後にこっちを見ていた。
彼女がどんな表情をしていたのか思い出せない。
だから……手を伸ばしたんだ。
モニター越しに映る愛しい人を。
逃げてくれと願いながら……。
そして、爆炎の中に消えていった。
そこから先は良く覚えていない。唯、叫び声を上げながらトリガーを引き続けていた。効果の無い12.5ミリの弾丸が敵ヘリオスに当たり続ける。
そして、敵ヘリオスがトマホークを構えて近付いて来たと思えば再び凄まじい衝撃が襲い掛かる。
その瞬間、俺の意識は一気に闇の中に消えて行くのだった。
「………………」
暗い。周りは暗く、何も聞こえない。
「軍医!出血が止まりません!」
「止血剤を投与。後は祈れ。次だ」
周りが煩い。それに、どこかで嗅いだ事のある臭いがする。
そうだ、死に際のアラン軍曹を近くで見た時。血の臭いだ。
「……ぅ……ぁ」
段々周りの声がはっきり聞こえて来た。それと同時に視界に光が溢れる。
「呼吸停止を確認。現時刻をもってKIAと断定」
「い、痛い。痛い痛い!」
「我慢しろ!痛みが有るのは生きてる証だ!」
「ぎゃあああ‼︎やっぱり痛い!麻酔を⁉︎」
「麻酔は重症患者専用だ!」
「俺も重症患者だよ!」
目をゆっくりと開ける。周りがボヤけて見える。一体、此処はどこなんだ?
「……ぅぅ……ぅん」
目を何度か瞬くと視界がはっきりと見えた。辺りは血塗れのシーツに包まれた人や白衣が紅く染まってる軍医達が居た。
「此処は……医務室?いや、どこかの部屋か。何か……忘れてる様な」
思い出したく無い筈の記憶。それを思い出した瞬間、意識が一気に覚醒した。
「レイナは?それに、タケル達は!後、基地の防衛は!」
身体に痛みが走るが無視して近くに居た軍医の腕を掴む。軍医はこちらを振り向くと、カルテを助手に渡して体を向ける。
「目が覚めた様だな。体調は大丈夫か?気分が悪いとか。痛みがあるとか」
「そんな事はどうでも良い!アイツらは、外人部隊603歩兵小隊はどうなった!」
「落ち着け。603歩兵小隊だな。少し待ってろ」
軍医の動きが止まる。恐らく脳内チップを入れているのだろう。そのお陰で通常端末より素早く、的確に調べたい物を短時間で調べれる事が出来る。
「外人部隊603歩兵小隊だったな。生存者は二名出そうだ」
「な………二名?嘘だ」
「嘘では無い。内、一名は手遅れの状態だ」
「な、名前……は?」
脳裏に浮かぶのは最後の光景。モニター越しに見た最悪な光景。
そう、爆炎の中に消えて行ったレイナの姿。
「レイナ上等兵だ。息がある事が不思議なくらいだがな」
「ふ、ふざけんな!クソ軍医が!何冷静に分析してるんだよ!治療をしろよ!それがテメェの仕事だろうが!」
余りにも他人事に言う軍医に苛立ちが募り、つい暴言を吐いてしまう。しかし、軍医は気にする素振りは無い。
「気になるなら見に行きなさい。それで現実が見えるだろう。レイナ上等兵に関しては痛み止めを投与した後、処置無しと決定している」
「な……ん……クッ!レイナ、待ってろ!」
痛む身体を起こしながら立ち上がる。しかし、上手く立つ事が出来無い。
「見て来いと言ったが、本当に行こうとするな。全く、これだからゴーストは馬鹿で嫌なんだ。良いか、お前の身体は内臓関係は殆ど無傷だ。精々脇腹付近に鉄板が刺さった程度で済んだ。だが右目の損傷、右腕骨折、左足骨折、肋骨三本骨折。よって、貴様も充分重症患者だ。大人しくしていろ」
通りで視界が微妙に狭い訳だ。だが、そんな事どうでも良い。今はレイナの事が一番重要なんだよ。
「レイナの……場所は、どこだ?答えろ」
「はぁ、やれやれ。忠告はしとくぞ。会えば後悔する事になる」
「黙れ‼︎テメェは、言われた事を答えれば良いんだよ‼︎」
「……外の一番左側だ。そこのベッドで寝ている」
俺は近くにあった松葉杖を使いながらレイナの元へと向かう。
あの軍医は会えば後悔すると言っていた。だが、会わなかったら余計に後悔するかも知れないだろうが。
「待ってろ。レイナ、今……行くから」
身体を動かす度に痛みが走る。満足に走る事の出来無い自身の身体に苛立ちながらも外に出る。
途中の通路や部屋は怪我をした軍人で溢れていた。ガラスは割れ、壁には弾痕や血の痕も残っている。それだけ基地の被害が大きかったのを物語っていた。
基地の外に出れば被害の大きさが良く分かった。今だに一部では火災が続いているし、防衛設備の殆どは大破している状況。滑走路の火災は消化出来ているが、未だに使用出来る状態では無い。
唯一の救いと言えば味方のAW、MW部隊が周辺警戒をしている事くらいだろう。
辺りを見渡すと、一部の場所にテントが多数置かれてる場所があった。一つ違和感があるとすれば、妙に静かな雰囲気を出していた。
いや、静かと言うより切羽詰まった感じが無いのだ。
だが、この時はそんな事を気にする余裕は無かった。
レイナに会いたい。
唯、それだけだったんだ。
テントに近付くと血の臭いが鼻についた。だが、周りに軍医は居るのだが怪我人達はとても静かだった。そして、静かな怪我人の近くで泣いている人達が多くいる。
軍医に言われた言葉が脳裏に過る。会えば後悔する。だが、会わなかったらもっと後悔するに決まってる。
周りを見渡してレイナを探す。辺りのベッドの患者達は小さな呻き声を出すか、静かになってる者達ばかり。手足が無い者、下半身そのものが無い者、顔の判別が付かない者だっている。
そして、意外な程簡単に見つける事が出来た。何故かって?見知った戦友がベッドの側で椅子に座って居たからだ。
無論、タケルもボロボロだった。包帯だらけだったが、五体満足で居たんだ。
「タケル?良かった、無事だったんだな」
「…………」
こちらを一度見たタケルは直ぐにベッドの方に視線を戻す。タケルが向いている視線に目を向ける。
自分の鼓動が早くなる。
こんな現実を認めなければならないのか。
数時間前は普通に話して、キスもしていたじゃないか。
だが、タケルの様子が全てを物語っていた。
ベッドには包帯で全身を包まれた人が横になっていた。左腕と両脚が無く、右腕だけが残ってる。その右腕も手の原型は留めてはいないだろう。包帯の幾つかの場所には血が滲んでおり、既に手遅れな状態だと素人目でも分かる事。
「レイナ…………なのか?」
「…………」
タケルは答えない。だが、代わりに握り拳を強く握る。
その瞬間、俺は身体に力が入らなくなった。その場に崩れ落ちて地面に座り込んでしまう。
だが、一つ疑問が浮かんで来た。いや、あの時から疑問は出ていた。
何故、あの場所に外人部隊603歩兵小隊が居たんだと。
本来なら基地の防衛をしていなければならない筈。AWやMWが戦闘している中、何故歩兵である603部隊が居たのか。
「タケル、何でお前達は……あの場所に居たんだ?本来なら基地に居る筈じゃ」
「…………ッ」
返事は無い。それでも答えを聞かなければならない。もう、答えを知っているのはタケルしか居ない。
「答えてくれ。お前達は基地防衛が任務だった筈。前線に出れる装備はして無い。なのに、何であの場所に」
「…………黙れ」
「今、何て言った?黙れだと?それで、俺が納得すると思っているのか!」
満足に答えようとしないタケルに苛立つ。そして立ち上がり松葉杖を放り投げながらタケルの胸倉を掴み、タケルの顔を見る。
「巫山戯るのは気を紛らわすか、場の空気を和ませる時だけにしろ!今、俺は真面目に聞いているんだ!お前達があそこに居た理由を!生身同然でッ⁉︎」
突然だった。一体、何が起きたのか暫く理解出来なかった。
俺は気が付けば仰向けで倒れていた。そして、頬に痛みがあった。俺は殴られたんだ。誰に?
決まってる。タケルにだ。
「お前が、お前が……お前さえ居なければ」
タケルの表情は怒りと憎悪に染まっていた。
「お前さえ居なければ…………レイナも、誰も死なずに済んだんだ‼︎」
タケルから放たれた言葉。その言葉を聞いた瞬間、俺の中の何かが軋みを上げた。
「俺の所為だと言いたいのか?MWに乗ってた俺が何したって言うんだよ」
「お前が無闇に何もかも出来てしまう。それが、俺達にとってどれだけ眩しい事か。貴様には分からない!全てが恵まれた貴様には!」
「恵まれてる?ハッ!笑わせんな!恵まれてたらこんな場所に来てない!それに……お前みたいに人の所為にする奴とも出会わなかった!」
「ッ⁉︎」
その瞬間、タケルと取っ組み合いになる。周りの迷惑も考えず、只々殴り合った。
「テメェは状況判断も満足に出来ねぇのか!」
「レイナが……お前を」
「また人の所為にするか!仮にレイナが言ったとしても、引き止めるのがテメェの役割だろうが!何の為にレイナと一緒に居続けてたんだ!無茶をさせない為だろうが!今までもそうやって来たんだろうが!」
タケルはまだ子供と言ってもいい年齢だ。なのに俺は、この時躊躇無く言葉を使って責め続けた。
子供相手に本気で怒鳴り散らす大人の図。タケルだって、レイナを引き止めたのは考えるまでも無い。それでも、レイナも他の仲間達はあの戦場に来てしまった。
タケルが悪い訳じゃない。間が悪かったんだ。
タケルはこの時も自身の無力を痛感していると言うのに。それでも俺は責め続けた。
言葉に歯止めが効かなかった。
俺は……最低最悪のクズ野郎だ。
「殺す。貴様は此処で殺す‼︎」
「ハッ!殺してやるよ。掛かってきな!」
本気で相手を殺そうとした。
お互い大好きな人を守り切れなかったと言うのに。
責任を押し付け合い相手が悪だと決め付けて。
この時、レイナの目元の包帯が血が僅かに滲み出していた事に誰も気が付か無かった。
身体も動かせず、声も出せなくなったレイナは何を思っていたのか。
今にしてみれば、残酷な事をレイナの側でやっていたんだ。
この後の記憶は無くなっていた。そもそも、タケルは五体満足で、こっちは大怪我負っていた状態。
お陰で決着は直ぐに着いたのだろう。幸い、殺されなかったのが唯一の救いだったが。代わりに怪我が悪化した為、後方の基地へ移送される形となった。
それから退院して数日後には再び元の前哨基地へと戻った。
前哨基地は殆ど元に戻っていた。強いて言うなら対空セントリーやAWが増えた事くらいだろう。
基地にはレイナもタケルの姿は無かった。唯、共同墓地に外人部隊603歩兵小隊の名前が追加されていただけだった。
「ハッ、何だよ……これ」
俺とタケル以外の全員の名前。その横にKIAと記入されている。
共同墓地に浮かび上がるホログラムの文字。アラン軍曹の時はまだ周りに仲間達が居た。だから、見送る時でもマシな状況だった。
じゃあ、今の状況は?
「何で、こんな事になっちまったんだろうか?」
戦争だ。今も誰かが死んでいる。誰かがその死を悲しんでいる。
だが、それは正規軍やそれなりの規模の傭兵団に所属する連中だけだ。俺達の様な力無きゴーストは誰からも見向きはされない。
周りを見渡してみろ。俺以外、誰も見送りに来ていない。仲間想い?そいつは戦場では足枷になる。
いや、ゴーストなら当然なんだ。自分だけを第一に考えるのは当たり前なんだ。
死んだ連中がそれを俺に教えてくれた。
どのくらい立ち竦んでいただろうか。その間、誰も来る事は無かった。
そう、これが正しいんだ。流れに逆らわず、自分だけが生き残る様にする。
ゴーストに生まれた以上、そうやって生きて行くのが正しいんだ。
「フ……クククク、フハハハハ。何で、こんな単純な事に気付かなかったんだろうなぁ」
面白くも何とも無いのに、笑いが込み上げてくる。馴れ合いをした所で意味何て無い。利用し、自分の地位を高める事に全てを注ぐんだ。
それが、正規市民になる為の最善の道なんだ。
「なぁ、皆。俺……ようやく理解したよ。この世界に、ゴーストの俺達に希望も、夢も、未来を思う気持ちを持つ権利は無いって」
正規市民を養う為にゴーストが犠牲になる。
正規市民の生活を豊かにする為に日夜、企業同士による経済戦争が行われている。
正規市民の権利と立場を守る為にゴーストが消費され続ける。
最初から分かっていた。なのに、本当の意味で理解していなかった。
頭では分かっていた事なのに、心の何処かで他人事の様に考えていた自分が居た。
自分は大丈夫だと。根拠の無い自信を持て余していた。
権利は誰にでもある物何だって。だから、ゴーストにも生きる権利はあるんだって。
余りにも愚かで、何も理解していない大馬鹿野郎が楽観視して周りを巻き込んでしまった。
「俺は生き残ってやる。生きて、生きて生きて生きて……必ず正規市民になる。その為なら何だって利用してやる」
彼等の前で誓う。
「もう、同情なんてしない。簡単に誰かを助けたりなんてしない。価値ある者達に媚を売り、価値無き者共を踏み台にして!」
そう、これは宣誓だ。この世界に対する宣誓なんだ。
正しい生き方では無い。このクソみたいな世界での生き方を徹底する。
例え、レイナや仲間達が軽蔑しようとも。
「だから、お前達が成仏する必要は無い!俺の側に居て見ているんだ!俺が正規市民になり、有象無象を蹂躙する姿を!それこそ!この世界の正しい生き方だと言う事の証明を‼︎」
簡単な事だ。戦場に絶対は無い。利用出来るモノは何だって利用するんだ。
そう……それが同じ部隊の連中であろうとも。
笑いが止まらない。俺はようやくスタートラインに立ったんだ。
この世界での正しい生き方を見つけ出したんだ。
「ハッハッハッハッ‼︎アッハッハッハッハッ‼︎次の戦場が楽しみだなぁ。それに、早くAWパイロットにならないと。やる事が沢山ある。それこそ、山ほどなぁ」
共同墓地に背を向けて歩き出す。先ずはMWの状況だ。幸い敵AWを最低一機は撃破した。それを込みすれば次もマシなMWが配備されるだろう。
「さぁて、これから忙しくなる。まずは挨拶からだなぁ。ハハハ、良い顔して好印象を持たせないとな」
もう、後ろを振り向く事は無い。感傷に浸るのは全て終わった後だ。
だから前を向いて歩く。己が生き抜く道をしっかりと見定める為に。
前哨基地の防衛部隊の奮闘により、前線に居た味方AW部隊の到着が間に合った。
その結果、敵AW部隊を全て撃破する事に成功した。
戦死、また生還した防衛部隊の諸君達に最大の敬意を表する。
トミオー国防軍、ヤッザム・パイラール中佐の手記より