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シュウとレイナとタケル

 レイナと晴れて恋人関係になった次の日。案の定と言うべきか。俺はタケルに格納庫裏に呼び出されていた。


「やっぱり、こう言う場所に連れて来るのは定番なのかな?」

「…………」


 俺の言葉を無視しながら歩き続けるタケル。反応が無いとこっちも困っちゃうんだけど。

 タケルはこちらに背を向けたままだ。だから俺はタケルが話始めるまで待つ事にした。そしてタケルは一度大きく息を吸うと、こちらを向いて口を開いた。


「レイナと付き合うらしいな」

「まぁな。唯、その様子だと素直に祝ってはくれないんだろ?」

「レイナは俺が守り続けて来た。ずっと、ずっとだ」


 タケルは口を開くと過去を思い出す様に話始める。


「俺は生き抜く為に色々な事をして来た。だが、そんな中でレイナと出会った」

「最初から一緒じゃなかったのか?」

「そうだ。レイナとの出会いは決して良い物では無かった。だが、それでも俺はレイナを連れて行く事を決めたんだ」


 しかし、タケルの表情は暗いままだ。


「色々あった。色々あったんだ。そして、レイナを守り続けると。あの人との約束を果たすと」

「あの人?その人は今」

「もう居ない。だが、最後に言われたんだ。『頼む』と。だから……俺は守ると誓ったんだ」


 あの人とは誰なのか。俺には分からない。だが、レイナとタケルにとっては大事な人だったのかも知れない。


「だから俺はお前に聞く。シュウ、お前はレイナを守り続ける事が出来るか?俺は……上手く出来なかった。結局、レイナに助けられる事も沢山あったからな」

「それは……仕方ないだろ。寧ろ、ゴーストでありながらレイナを守ると決めた事は凄いぜ」


 それでもタケルは静かに首を横に振るだけだった。


「それでもだ。結局、俺は暴力でしか解決出来ない。レイナを危険に晒した事だって」

「タケル……自分を責める必要は無い。ゴーストに生まれた以上、生き残る為の障害は多い。俺だって……色々見捨てて来た訳だからな」


 タケルが悪い訳では無い。誰かが悪い訳では無い。時代が悪いんだと。


 この時は俺はそう思っていた。この時はだ。


「そうかも知れん。だが、それは今も変わる事は無い。レイナは俺が守り続ける」

「因みに俺がレイナと付き合ってもモーマンタイ?」

「…………」


 俺がそう言うとすっごい嫌そうな顔をするタケル。そんな表情をすると俺が傷付くんですけど。


「その下心丸出しにするのはやめろ。見てて不愉快になる」

「付き合うって事は下心が無い訳じゃ無いよ。俺はレイナが最高に良い女だから告白したんだ」


 俺は真剣な気持ちでタケルと向き合う。タケルは部外者では無いんだ。レイナを守り続けて来た存在。血の繋がりが無くとも、家族以上にレイナを大切に思っているんだから。


「タケル、俺は本気でレイナに惚れたんだ。あいつの優しさにな」

「…………」

「だから、認めろとは言わない。代わりに見守ってて欲しい」

「……そうか」

「勿論、レイナの優しさに甘え続けるつもりは無い。寧ろ、俺がレイナを今以上に惚れさせる為に努力するからな」


 そう言うとタケルは深く息を吐く。それを見たら俺も体の力が抜けるのを感じた。どうやら思ってた以上に体に力が入っていたらしい。


「あいつを、レイナを泣かせたら殺すからな」

「怖い事言うなよ。これから嬉し泣きさせる予定なんだからさ」

「ふん、やってみろ」

「やってやるさ」


 そしてお互いに笑みを浮かべる。タケルもレイナの事が好きな筈だ。だが、それ以上に守る事を優先して来たのだろう。


「しかし、アレだなぁ。ぶっちゃけ、タケルはレイナの事好きだったんだろ?何で告白しなかったのさ」

「べ、別に好きとかでは無い。俺はレイナを守ると決めてだな」

「それでもさぁ、レイナに手を出さないとか馬鹿じゃないの?あんな可愛い子を守るだけとか無いわー。は!まさか、リロイ上等兵狙いとか?」

「煩い!お前と違って俺は真面目なんだ!それから俺は普通だ!」


 哀れリロイ上等兵。無駄にタケルにも振られる。まぁ、男の娘の需要はあるから問題無いか。


「全く、そんなんだからNTRされるんだよ!NTRはフィクションだから燃える展開だろうが!戦友からNTRしちゃう当事者の身になれよ!今後が気不味くなるやろ!」

「知るか!大体NTRって何だ!」

「はぁ〜、やれやれ。これだからお子ちゃまは〜」

「その上から視線が非常にムカつく!」


 それからタケルが掴み掛かって来たので回避する。そして取っ組み合いを始める。しかし、お互いにギフト保有者。互いに一進一退を繰り返す。


「もう許さんぞ!今日で上下関係を叩き込んでやる!」

「ケッ!生意気な小僧に大人として躾をしてやらんとな!」

「お前の方が年下だろうが!」

「精神年齢は俺が上じゃあ!」


 互いがヒートアップする。誰も居ない格納庫裏で何やってるんだと心の隅で思いながら。


「レイナは俺が守る!そう決めたんだ!」

「過保護も程々にしておけよ。その内娘の反抗期みたいに「タケル、ウザい」とか言われても知らないぞ?」

「レイナがそんな事を言う訳筈が無い!」

「レイナも一人の女だよ。何時までも子供扱いはダメさ。それにだ、レイナは凄く良い女だ。優しいしスタイルも良いし」

「どこでスタイルの良さを知った‼︎」

「怒るのそこかよ!」


 互いにギフトを使いながら無駄にレベルの高い格闘戦を繰り広げる。会話の内容に関してはノーコメントで。


「女は何時までも同じ場所には居ないぜ?気が付いたら自分より前に居るからな」

「知った口を叩くな!お前に何が分かる!俺達がどれだけ苦痛を味わって此処に来たか!」


 その時だった。タケルの本音が溢れた。


「アイツを守る為に周りに居た連中を殺して来た。誰も頼る事が出来無い状況でだ。だが……結局、俺は守る事が出来なかった」

「タケル……」

「気が付いたらレイナは俺以上に稼いでいた。そうさ、暴力から守る事しか……いや、俺は結局何も出来なかった」


 その言葉で全てを察した。考えたら当たり前の事だ。俺と違いタケルとレイナは年相応な少年少女であると。

 だから俺は項垂れるタケルに一言言った。


「お前は凄いよ。ゴーストの辛さは良く分かってる。その中でレイナを守り続けたんだろ?そして、此処まで来た。俺より立派な奴だよ」

「……煩い。心にも無い事を」

「俺は孤児院の子供達を見殺しにしたよ。誰一人救う事無くな。タケルが一人の女を守る事が出来たのに、俺は自分の事しか考えなかった」


 ふと自分の掌を見る。なんて事の無い普通の手。だが、もう血に塗れている。

 銃を撃つ前から……それこそ、ミーちゃん達を見送ったあの日から。

 だからこそだ。自分を下卑し続けるタケルが許せなかった。タケルは簡単には出来無い事をやって見せた。それこそレイナを見捨てたって誰も文句は言われないのにだ。

 大体、レイナだってタケルの足手纏いになってる事ぐらい理解している。だから彼女は彼女なりに出来る事をやったに過ぎない。


「お前は立派な男だよ。少なくともそこら辺で威張り散らしてる連中より遥かにな」

「…………」

「タケル、良く頑張ったな」


 俺はタケルを褒めた。唯、素直に褒めたんだ。

 誰が何と言おうと、タケルがやって来た事は立派な事だ。レイナを守る為にずっと一人で戦って来たんだから。


「よ、余計なお世話だ。別に、頑張った訳じゃ」

「何だ?照れてるのか。まぁ、ようやく年相応の姿を見た気がするけどな」

「煩い!年下の癖に生意気だ!」

「言ったろ?精神年齢は俺が上だってな。ほらほら、褒めて欲しかったら俺が褒めてやるよ」


 俺が両手を広げて迎え入れる態勢を取るが、タケルはファインディングポーズを取って拒否する。

 やれやれ、思春期特有の照れ屋さんかな?


「此処で決着を着けるぞ。シュウ!」

「へ、遊んでやるよ。掛かってきな!」


 そして、お互いボロボロになるまで格闘戦を繰り返し続ける。

 しかし、不快な空気になる事は無かった。どちらかと言えば互いに認め合ったと言うべきか。


 この時は本当に楽しく、幸せな時間を過ごしていたんだ。






 前哨基地とは言え、比較的安全な場所となっている。

 暫くの間、前線配備が無くなった事から暇な時間が出来る様になった。無論、そんな時間も新しい部隊メンバーと整備兵達との交流に使っていた。

 尤も、部隊メンバーとはシミュレーターでの模擬戦で多少は認めて貰える様にはなった。中には未だに認めて無い奴も居るが、この辺りは仕方ないと割り切る事にした。

 乗機であるディフェンダーに関しても整備兵達に混じって整備に参加したりもした。その結果、整備のコツや優しい操縦の仕方も教わったりもした。

 しかし、流石は整備のプロ達だ。機体の構造や正しい動かし方を良く理解している。下手なパイロットに教えて貰うより余程為になる事ばかりだ。


「さて、設定はこんな物かな。後はテストして見ない事には分からんな」


 現在、俺はディフェンダーのシステム設定を弄っていた。簡単に言えば瞬発力を上げたり、操作性をマイルドに設定したりだ。

 因みに、俺はどちらもピーキー設定にしてある。そうした方が敵弾を避けるのに適しているからだ。無論、操作ミスをした瞬間が命取りになる事もあるが。


「んー、一旦休憩しよっと。後はレイナとタケル達の様子でも見て来るか」


 ディフェンダーのコクピットから降りる。そして近くの整備兵達に挨拶をしながら格納庫から出て行く。何事も基本を守れば悪い印象は持たれないものだ。


「今の時間なら丁度休憩してる頃だろう」


 恐らく食堂か休憩室に居るだろう。そう思って歩いていると曲がり角から人影が飛び出して来た。

 俺は咄嗟にギフトを使うと直ぐに両手を広げて人影を抱き締める。


「レイナをゲットだぜ☆」

「ゲットとされちゃった」


 現れた人影は今、最も逢いたいと思っていた恋人(レイナ)だった。


「此処に居るって事は俺に会いに来たのかな?だとしたら、めっちゃ嬉しいな」

「うん。シュウに逢いに来た」

「はぁ、俺って幸せ者やな」


 レイナが居る幸せを噛み締めながら抱き締めている腕の力を緩める。

 するとレイナは俺の腕を掴んで来た。


「付いて来て」

「勿論。因みに、手繋ぐ?」

「うん。繋ぐ」


 俺が手を差し出すと素直に握り返してくれる。この素直さにも惚れたんだろうなぁ。

 暫く歩いて行くと人気の無い場所に来た。そして、こちらを見ながら手に持っていたラッピングされている箱を渡して来た。


「コレ、シュウに上げる」

「ほぅ、プレゼントか。何か、お祝い事ってあったっけ?」

「ううん。私がシュウに上げたかった。前に欲しがっていたから」

「今開けても?」

「うん。良いよ」


 ラッピングを剥がすと黒い皮作りの箱だった。そして、箱の表面にはどこかで見た四枚の翼を持つ天使が描かれている。


「まさか……マジか。M&W500マグナムじゃん」


 箱の蓋を開けると、そこには銀色に輝く無骨なマグナムがあった。

 M&W500を手に入れるのには、まだ時間が掛かると思っていた。だが、そんな物がレイナから手渡されるとは思いもしなかった。


「どう……かな?嬉しい?」

「嬉しいけど。コレ、高かっただろ?値段を知ってるだけにレイナを心配しちゃうんだけど」

「大丈夫。ちゃんと貯金はしてるから」

「そうか。けど、もし金銭的に辛かったらちゃんと言うんだぞ。俺もMWのパイロットってだけで給料アップしてるし」


 もし、レイナがまた身売りする真似をするなら断固阻止するつもりだ。何ならタケルに助力を求めるのも良いだろう。レイナの為なら何でもやりそうだし。


「安心して。前みたいな事はするつもりは無い。私はシュウが喜ぶ顔が見たいだけ」

「そう?なら、良いんだけど」


 俺はレイナとM&W500を交互に見ながら内心は不安で仕方無かった。何せこのマグナムは普通に値段が高い代物だ。そんな代物を買って来ただけで無く、躊躇無く俺にプレゼントしたのだ。

 尽くす女と言うべきなのかも知れないが。


(レイナの前で欲しい物を言うのは極力止めよう。言っても食べ物くらいだな)


 食べ物ならレイナも一緒に食べれるからな。後、ついでにタケルも加えておくか。


「兎に角、凄く嬉しいのは間違い無いよ」

「良かった。シュウが喜んでくれて」

「唯、無理だけはしないでくれ。俺は物目当てでレイナと付き合った訳じゃない。その、レイナと一緒に居られるだけで……幸せだからな」


 ちょっとキザっぽい事を言って恥ずかしくなったので、明後日の方向に顔を背けてしまう。しかし、レイナは嬉しかったのか俺にくっ付いて来た。


「うん。シュウ、ありがとう。私、今すっごく幸せだよ」

「あぁ、俺も幸せだ」


 前世のお父さん、お母さん。お元気ですか?俺は戦場で彼女を作ってリア充してます!だから心配ご無用です!


 こうして、楽しく幸せな時間はあっという間に過ぎて行った。

 しかし、時代はハッピーエンドを求めていなかった。時代が求めているのは利益と一部の者達の利権のみ。そこに付属している恋愛ごっこのやり取りは不要だったんだ。



 唯、時代の流れに身を任せていれば……こんな辛い気持ちにはならなかったんだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] あぁぁ、僕この構図見たことある。某賞金稼ぎアニメで。
[一言] 約束された崩壊が辛い(´・ω・`)
[良い点] 甘さのあとに辛いのは勘弁よ。カライんだか、ツライんだか。 にしても、タケルのシュウへの憎しみはntr起因かよならしょうがない(違 [一言] 転生主人公が成り上がる中で、恋人出来ても普通失わ…
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