MWパイロット
新年、明けましておめでとう御座います。
今年も完結目指して頑張ります!(╹◡╹)
そして、この話が俺から皆へのお年玉や!
ヒィヤッホオ!(((o(*゜▽゜*)o)))
投獄されてから三日後。無事に外に出た俺は、シャバの空気を満喫する様に深呼吸した。
「んー、これから飯時が悲しい物に戻ると思うとなぁ。世知辛い世の中だぜ」
取り敢えず605部隊の仲間達の元に向かう。すると途中でレイナ伍長と出会った。
「シュウ、良かった。無事に出られたんだね」
「何とかな。それより、基地の警備部隊になるんだろ?良かったな」
「うん。シュウが無茶をした結果だね」
「その無茶に付き合った奴が良く言うぜ」
そして、お互い微笑みを浮かべてしまう。だが仕方ない事だろう。何故なら前線と言う危険な場所に行く必要がほぼ無くなったのだ。こんな嬉しい事は無い。
「それからね……今からアラン軍曹の所に向かうけど」
「あぁ、そうだな。他の皆は?」
「もう待ってる。後はシュウだけ」
「じゃあ行くか。あ、ちょっと買いたい物があるんだが。良いか?」
レイナ伍長は無言で頷いて了承する。俺は食堂横にある売店コーナーに向かい酒とグラスと食べ物を買う。
「向こうでも腹空かせてるだろうからな。これで少しは満たされるだろう」
「そうなの?でも、アラン軍曹は死んじゃったからお腹は空かないと思うけど」
「まぁな。でも、こう言うのは気持ちの問題だからな」
「気持ち……そっか。なら私も」
そう言うとレイナ伍長も売店で食べ物を買う。そして俺達はアラン軍曹が眠っている共同墓地に向かう。
共同墓地には身寄りの無い連中が入っている。そこには正規市民とゴーストの区別は無い。尤も、大半の正規市民は親族が居るので共同墓地に入る事は無い。
それでも、死ねば同じ場所で眠る事が出来ると言うのは何とも言えない皮肉な物を感じてしまう。
「お待たせ。シャバの空気は相変わらず鉄と油と火薬が入り混ざった匂いがしてテンション下がったぜ」
「全く、少しは反省してるかと思ったが。全然変わって無いじゃないか」
「たった三日で人が変わるかよ。それよりアラン軍曹の名前は?」
共同墓地に置かれてるのは石碑に似たホログラムだ。そこをタッチして名前を検索すれば経歴と写真が出て来る。
アラン軍曹の名前を入力すると直ぐに出て来た。後は似た様な名前の人も候補に上がって来たけど。
「何だか、実感が湧かないな。アラン軍曹が死んじゃうなんてさ」
「仕方ないネ。戦場に出れば誰かが死ぬネ。寧ろ私達は運が良いヨ」
「そうよ。こうやって見送る為に集まれるメンバーが揃ってるんだから」
サーシャ上等兵とミャオ曹長の言葉に仲間達も頷く。やはり傭兵同士で馴れ合う事は稀なのかも知れない。
もしくは、仲間意識を持つ前に戦死するかだ。
「シュウ、アラン軍曹の手紙だ。読んでおけ」
タケルが俺にアラン軍曹の手紙を渡す。俺は無言で血が大量に付いた手紙を受け取る。
中を見れば仲間達の事が書かれていた。そこには俺の事も書かれていた。
「やれやれ……俺はそんな大層な人間じゃ無いんだがな」
アラン軍曹の手紙を読み終える。綺麗な字とは言えなかった。だが、俺達に対する想いは確かに感じられた。
そして、アラン軍曹が俺に対し憧れを抱いていた事も。
(ならば、やってやるさ。アラン軍曹、そっちで見守っててくれ。俺が……俺達が這い上がる姿をな)
手紙を丁寧に折り畳みハラダ曹長に渡す。
「もう良いか?」
「はい。大丈夫です」
「そうか。もう一度読みたい奴は居るか?」
他のメンバーに確認を取る。そしてハラダ曹長はライターを取り出して手紙に火を着ける。
ゆっくりと燃える手紙。灰が風に吹かれて空を舞う。そして自然と消えて行く手紙。
ふと、思ってしまう。もし、俺が死んだら誰か見送りに来てくれるだろうか?
(考えても仕方無いか。さてと、お酒でも開けるか)
俺は買ってきたお酒を開けグラスに注ぐ。それに続く様にレイナ伍長もグラスにお酒を注ぐ。そして石碑の近くに食べ物と一緒に添える。
「アラン軍曹、貴方が居なかったら俺は殺されていたかも知れない。身を挺して守ってくれた事……俺は一生忘れん」
俺は姿勢を正し、しっかりとした敬礼をしてアラン軍曹を見送る。
俺に続く様にタケル軍曹が、レイナ伍長、タケル軍曹、そして皆も敬礼をしてアラン軍曹を見送る。
全員が静かに敬礼をし続ける。そして頃合いを見計らって敬礼を止める。
「さてと、残った酒とお菓子だけど食べようぜ。残してても誰かに食われるだけだろうし」
「それもそうだがな。だが、もう少し言い方があるだろ」
「別に良いんだよ。それより、皆は警備部隊に配属になるんだろ?」
俺は話題を変える為に話をする。するとリロイ上等兵が不必要に寄って来た。
「そう!そうなんだよ。これもシュウ上等兵が無茶したお陰だよ〜。お礼に今夜、僕を好きにしても良いよ?」
「マジで止めろって。俺はそっちに行く気は無いんだよ」
「そうなの?でも、シュウ上等兵ならきっと気に入ってくれると思うよ。それに、良い人に唾は付けておきたいじゃない?」
どうやらリロイ上等兵は純粋に俺の事を気に入っているらしい。
確かにリロイ上等兵の見た目は可愛いし、そこら辺の女より女性らしさが溢れている。だからと言って俺がリロイ上等兵に靡く訳では無いのだがな。
引っ付いて来るリロイ上等兵を引き剥がそうとしていると、思いもよらない人物が横から割って入って来た。
「シュウが嫌がってる」
「アレ?レイナちゃん……意外、まさかレイナちゃんがねぇ」
レイナ伍長が止めに来たのを逆に感心しているリロイ上等兵。普通なら邪魔する相手に罵声の一つくらいある物だが。
「シュウが嫌がってるのはリロイ上等兵なら分かってる筈」
「んー、でも無理矢理行けば行けそうな気がするんだよねぇ。多分シュウ上等兵のストライクゾーンは広いと見た!」
「広いと見た!じゃねえよ。確かにある意味広いけど」
前世の記憶から男の娘は寧ろお得と言われていた。女になろうと努力している上に付いてるのだ!ある意味女性に生まれただけで惰性に過ごしてる連中より好感は持てる。
まぁ、好感が持てるだけであって付き合うつもりは無いんだけどな。何故かリロイ上等兵はイケると思ってるらしい。
「でも、レイナちゃんが止めに来ちゃったからなぁ。今回は見逃して上げるね」
こちらに向けてウィンクをするリロイ上等兵。本当にこの人はブレないよな。別の意味で感心するよ。
「有難うレイナ。お陰で命の次に大切な物を失わずに済んだよ」
「別に、シュウが困ってたから」
「困ってたら率先して助け様とする。それが出来る奴は少ないからな。だから感謝するのさ」
俺がそう言うと、レイナは少しだけ頬を染めてそっぽを向く。その初々しい反応に俺の男心が擽られる。
「まぁ、一番近くに居たにも関わらず素知らぬ顔をしてる奴も居るけどな。な!タケル軍曹殿!」
「ふん。俺は気を使っていただけだ。邪魔するのも悪いだろ?」
「何が悪いだろ?だ。寧ろ助けに来いよ。俺達戦友やろ」
互いに間近で睨み合う。本当にタケルは天の邪鬼な子供ですこと!
俺達はアラン軍曹の墓の前で騒ぐ。誰も注意する事は無く、寧ろ率先して騒いでいた。
アラン軍曹が死んで辛いのは間違い無い。だが、いつまでも死んだ人を想い続ける訳には行かない。何故なら戦争はまだ終わってはいない。
この後、俺は別の部隊へと配属される事になった。しかし、配属場所は同じ基地内での防衛と警備だ。
つまり、会おうと思えばいつでも会えると言う訳だ。
なので特別寂しいと思う事が無かったのは唯一の救いだったのかも知れない。
俺は新しいMW部隊へと配属された。ダルトン少尉と共に配属される部隊の元へと向かう。
しかし、そこで待っていたのは歓迎とは程遠い出迎えだった。何故なら俺はトミオー国防軍の正規部隊に配属されたのだ。然も臨時編成と言う形でだ。
「諸君、彼は外人部隊のシュウ上等兵だ。本日を持って第4防衛部隊の第4中隊に配属となる」
「本日付けで第4中隊配属となります!シュウ上等兵です!宜しくお願いします!」
第一印象は大事なので営業スマイルも付けての挨拶。しかし、第4中隊からの反応は今ひとつだった。
「ダルトン少尉、貴方が第4防衛部隊の指揮を取る事は聞いてます。そして、オマケの腰巾着のゴーストの事も」
第4中隊の隊長と思われるガタイの良い男性が立ち上がり近寄って来る。そして、こちらを値踏みする様に見て来る。
まぁ、彼等が言いたい事は簡単だ。側から見れば親の七光りのダルトン少尉にゴマ擦って正規部隊に入り込んだゴーストの小僧。
一つでも厄介なのに二つも来たもんだから第4中隊の連中からしたら堪った物では無いだろう。
「歓迎しますよダルトン少尉殿。そして、臨時のゴーストもな。おい、お前のコールサインはギャンブル13だ。覚えておけ」
「ぎゃ、ギャンブル13、了解しました」
「はぁ、全く。戦場を知らない少尉の子守りにゴーストの面倒も見るのか」
全く声を小さくする気も無い隊長さん。そして、その言葉に同意するかの様に沈黙を貫くメンバー達。
(こ、これは……所謂、アウェイって奴だよなぁ)
辛い現実が目の前に広がる。これから先の不安が脳裏に次々と浮かんで来る。しかし、そんな現実は格納庫に行った瞬間に全て吹き飛んだ。
「うおおおお!こいつが俺のMC-95Gディフェンダーか!」
俺は真っ先に自分が搭乗するディフェンダーに近寄る。
四脚の脚に、硬い装甲を身に纏う胴体。胴体の中央にはメインカメラとサブカメラを搭載。そして両腕には固定式の30ミリガトリングガンを装備している。
「これから色々と頼りにさせて貰うぜ!相棒!」
脚部を触りながらディフェンダーを見上げる。MWの中では間違い無く上等な分類に入る機体。
俺はこの時テンションMAXになっていた。何せSF世界と言えばロボットだ。そのロボットが実戦で使用されてる世界。
(これだけ条件が揃ってて興奮しない訳が無いと言う物!)
全てはAWに乗る為。その為に傭兵になった。そして、AWに乗る為の第一歩にようやく来れたのだ。
俺は早速ディフェンダーのコクピットに乗り込む。ハッチを開けて中に入ると、目の前には操縦レバーとモニター。更に計器やスイッチもある。
勿論動かす事は出来無い。だが電源を入れてシステムチェックくらいは大丈夫な筈だ。
俺は電源を入れる。するとモニターに光が入りシステムの起動シーケンスが始まる。
「キタキタキター!待ってました!」
そして各システムと武装システムの確認が始まる。オビリオンとは違い細かいチェックが入るが、基本的には似た流れになっているので直ぐに理解が出来る。ついでにモニターで外の状況も確認する事にした。
『武装システム、オフライン。メインモニター起動』
「やっぱり、戦車と違って視界は高くなるな。それにメインカメラもほぼ固定に近いかも」
視界は左右上下に動かせるが、後ろを見る為には機体を動かすかバックモニターを使うしか無い。戦車の場合はそのまま後ろも見る事が出来たが。
「考えたら上の部分には武装が付くんだっけ。確か120ミリと155ミリの速射砲」
リロードは出来無いが強力な武装なのは間違い無い。何より155ミリは地球連邦統一軍の主力戦車でも使われてる筈だ。
「そう考えると両腕の武装は30ミリガトリングガンのままが良いかな?でも中口径グレネードは近距離では強いし。何より爆発範囲がデカイから使い勝手が良いんだよな」
選べる武装がそこそこ豊富なディフェンダー。それだけある程度の状況に対応が出来る万能機だと言える。
俺はコクピットの中で色々考え続ける。考える事を続ければ最終的には納得が出来る。寧ろ考える事を途中放棄するなんて論外だ。
最後までしっかりと準備をした者に女神は微笑むものさ。
暫く考えていると整備兵の人が来て確認しに来た。どうやら随分と長く思考の中にいたらしい。
「随分と若いパイロットだな。所属と名前は?」
「第4防衛部隊、第4中隊所属になります。シュウ上等兵です」
肩に軍曹の階級章を付けた整備兵が聞いて来たので、しっかりと丁寧に答える。
「そうか。君が新しく来た臨時要員か。君の話は聞いてるよ。随分と無茶をして上官に気に入られたとか」
「気に入られたかは分かりませんが、無茶をしたのは間違いありません。何せ命令違反と上官侮辱罪で三日間牢屋入りしましたので」
「その結果、此処に配属と言う訳か。普通は最前線送りになると思うが」
「運が良かっただけですよ」
そして他の整備兵達にも軽く挨拶をしてから格納庫から出る。今後も間違い無く付き合いがあるだろうからね。
暫く基地の外を歩き続ける。未だに高揚している自分を少しでも冷静にさせたいからだ。
(長かった。本当に長かった。媚び売って、愛想を振り撒き、嫌いな相手でも我慢をして来た)
そして、ようやくMWのパイロットにまで成り上がれた。後は時間が全てを解決してくれる筈だ。このままの状態で時間が経てば正規市民になれるのも夢では無い。
俺はゆっくりと深呼吸をしながら空を見上げる。地球から見た空とは全く違う景色。二つの小惑星が近いのか結構大きく見える。そんな空を見上げてると背後に気配を感じた。
後ろを振り向くと、そこにはレイナ伍長がこちらの様子を伺っていたのだった。