道化な主人公
あの後、別の兵士がやって来て命令違反と上官侮辱罪により禁錮三日と言い渡された。
命令違反と大佐クラスの人に口答えした挙句、余計なお世話をしまくった割には刑罰は軽いなと感じたのは秘密だ。
そして、俺が牢屋に入れられてると聞いた仲間達も様子を見に来てくれた。紙の束を持って来てだ。
「ハラダ曹長、この紙の束は一体?」
ハラダ曹長から直接手渡された分厚い紙の束。俺の問い掛けに無表情で答える。
「反省文用の紙だ。全部書いて提出する様に。これは命令だ」
「はぁー……泣きたい」
「泣きたいのはこっちだ。基地に帰還すれば部下が牢屋に入ってると聞いてはな」
「いやー、申し訳無いです」
俺は素直に謝る。ハラダ曹長の命令にも背いた訳だからね。俺は仕方ないと割り切る事にした。
「一応、その反省文はアーノルド大佐に提出する事になっている。失礼の無い様にな」
「何で大佐クラスの人間が下っ端の書いた反省文を読むんだよ!嫌がらせか!嫌がらせなのか!」
「知らん。兎に角、馬鹿な事は書くなよ。ちゃんと真面目に書くんだぞ」
「……はーい」
この後も仲間達に弄られたが、少しは気晴らしになったのは間違い無かった。
そして、食事に関してだが予想以上に豪華な物が来たのは少し驚いた。
「何これ?果物のデザート付きじゃん」
温かく美味しい食事を牢屋の中で食べる。最後の晩餐とかじゃ無いよね?
普段食堂で食べる食事より豪勢な食事を食べてると、再び訪問者が現れた。
「シュウ上等兵。元気そうで良かった」
「元気も何も牢獄されてる時点で何とも言えませんよ。ダルトン少尉」
「それもそうだな。だが、食事は美味いだろ?」
どうやら豪勢な食事の正体はダルトン少尉が絡んでるらしい。
「確かに食事は美味いですよ。こんな食事を上の連中は食べてると思うと……羨ましいです」
「まぁ、そうだろうな。それにしても、よく大佐相手に喧嘩を吹っかけたものだ。身内から見ても無謀と言えるよ」
「そうですよね。でも、言わなければ伝わりませんよ。人は心を読む事は出来ませんから」
「そう、だね。うん、やはり君は面白い」
そして静かに頷いて再び口を開く。
「シュウ上等兵。君の活躍によって僕の命は救われた。また、父上からは借りは作るなと言われてる」
「ゴースト相手に借りもへったくれも無いと思いますよ。まぁ、あまり気にする事でも無いですよ」
「そうかも知れない。だが、君は自分が思ってる以上に価値がある。例えゴーストだとしてもだ」
ダルトン少尉はそう言うと手に持っていた端末を俺に渡して来た。
俺は無言で受け取り画面を見る。
「三日後、君は基地防衛部隊に配属される。搭乗機を確認した後、シミュレーターでの完熟訓練を行う様に」
「605の仲間達は?」
「彼等は基地の警備部隊として配属される。君が大佐相手に反抗した事は無駄では無かったよ」
再び端末の画面を見る。画面には基地防衛として優秀な機体が映し出されていた。
【MC-95Gディフェンダー】
以前、シミュレーターで好成績を残したMW。その機体に搭乗する権利を得ただけで無く、比較的安全な基地防衛部隊に配属された。
(これは……奇跡かも知れない。怪我の功名とは正にこの事!)
然も仲間達も基地の警備部隊として前線行きは免れている。
勿論、この基地は前線基地なのは間違い無い。だが、今までよりずっと安全な場所での勤務になる。
「それから、君が配属される部隊の指揮は僕が取る事になった。シミュレーターでの成績もある。君の活躍には期待しているよ。僕を救出しに来た度胸も合わせてね」
ダルトン少尉の言葉を聞きながら俺は僅かに口元を綻ばせる。そして姿勢を正し敬礼する。
「了解しました。シュウ上等兵、命令を受領致します」
「うむ、期待しているよ。尤も、そう簡単には僕達の出番は無いだろうけどね」
そして答礼をするダルトン少尉。
こうして、俺はMWに搭乗する権利を得た。命令違反を犯し、上官に侮辱的な事を言ったにも関わらずだ。
この時の俺は舞い上がった。自分は選ばれた主人公なのだと。俺にはご都合主義が適用されてるのだと。
尤も、そんな馬鹿な考えは直ぐに消し飛ぶ事になる。
仲間の死を目の前で見ながら。
戦友との訣別。
そして……愛する人を救えなかった自分自身の無力を味わいながら。
道なりに車を走らせていたら途中で街を発見。俺達はそこで一旦休む事にした。
「残りは明日にしようぜ。後六時間くらい走らせればカモミール空港に着くしな」
「別に良いわよ。それにシャワーも浴びたいし」
「だな。それに、ずっとパイロットスーツのままだし。着替えも買っとくか」
「ショッピングモールを検索。この道を真っ直ぐに走った左側に有ります」
「この子便利ね」
「まぁな。戦闘補助AIのカテゴリーを何気に超えてるからな」
そして着替えを買い揃えた後に宿を探す。取り敢えず治安が守られてる地域と宿なら何でも良いだろう。
「あの辺りなら良いかもな。街の中心部なら変な連中も簡単には来れ無いだろうし」
「そうかも。あ、宿代くらいは出すわ」
「要らね。それよか明日の就職先でも心配しとけ。AWが無くなったパイロットなんてクソの役にも立ちゃしねえ」
「心配はご無用よ。次の就職先には心当たりがあるんだから」
「そうかい。なら好きにしな」
どうやら、チュリー少尉はそれなりにパイプを持っているらしい。
まぁ、女一人でフリーランスの傭兵やってる訳だ。それに腕前も信頼出来る。引く手は数多にあるのだろう。
買う物を済ませた後は綺麗な宿を選ぶ。勿論、宿代はチュリー少尉持ちだ。
「部屋は各自で良いわよね?」
「何でそんな事聞くんだよ」
「だって、私の尻尾……」
宿のカウンター前で自身の尻尾を抱き締めるチュリー少尉。そう言えば、また尻尾を抱かせてくれと言ったっけ?
「んー、尻尾は魅力的だがな。今回は勘弁してやるよ」
「ホッ、良かった」
安心したチュリー少尉を見ると、やっぱり尻尾をモフりたい気持ちが沸き上がってくる。
しかし、そんな痴漢紛いな事をすれば俺の素晴らしい経歴に傷が付く事になってしまう。
え?お前良く他の女性にやってるって?あれは全部他種族とのコミュニケーションの一環よ、一環。だから問題無いのさ。
「ねぇ、下らない事考えてない?」
「考えてない考えてない。それより飯でも食いに行こうぜ。腹が減っちまったからな」
「それもそうね。何か食べたいのあるの?」
「んー、海老チリが食べたいかな」
「中華料理店を検索。オススメはここから十分程歩いた場所になります」
「しゃあ、そこにするか。ネロ、案内頼む」
「了解しました」
久しぶりに食べたくなった海老チリ。ネロに案内された中華料理店に入り、互いに食べたい料理を注文する。
「正直に言うとね。私、恨んでるわ。アーロンを殺した奴」
「あの機体か。だが、中々変なパイロットだったぞ。バレットネイターは完膚なきまでに破壊されたが、俺は生かされたし」
「何故貴方は生かされたの?知り合いだった?」
「あんな奇抜なパイロットの知り合いは居ないな。だが、一つ気になる事もあった」
「何それ」
俺は注文した海老チリを舌鼓しながら話を続ける。
「チュリー少尉を墜とした砲台野郎なんだが、新たな力を手に入れたとか言ってたな」
思い返すのは砲台野郎との戦闘時。奴は確かこう言っていた筈だ。
"見せてやる!新たな力を手に入れた俺とザイルフェザーⅡの実力をな!"
奴は確かこんな事を言っていた。
新たな力。これが何を意味するのか。そして、俺を見逃したサラガンのパイロットの姿。
「新たな力……」
「QA・ザハロフは何か作った。それはパイロットを強化した物なのかも知れん」
「強化なんて一時的な物が殆どじゃない。薬物を使うにしても使い捨てになるだけよ」
「長期に渡って継続出来る物なら、他の軍も手を出してるだろうし。ネロ、何か丁度良さげなパイロット強化候補ってある?」
「海兵隊、及びパワードスーツ部隊の訓練法です。何方も肉体的、精神的に鍛え上げられます」
ふむ。確かに奴等は筋肉の塊だからな。だが、強化の意味合いが少し違うかな。
「でしたら地球連邦統一軍、ガルディア帝国軍による第四次大戦中期から末期に掛けてAWパイロットに施されたリンク・ディバイス・システムはどうでしょうか?欠陥はありますが長期的に強化は可能です」
「あの欠陥システムか?俺は健康第一主義なんだ。自分の手足の動かし方や記憶を失いたくないね」
「確か、ゆっくりと無くなって行くんでしょう?終戦した後、処理を施したパイロットの多くが自殺したって言うし」
リンク・ディバイス・システム。三大国家がまだ二大国家の時期に発明されたシステムだ。
当時は大規模な戦闘が何度も起きてはいたが、何方も一歩も引かず次々と戦力を投入し続けていた。そんな中、特にAWパイロットの消耗が激しかった。
マルチロール機の代名詞と言われるAW。その特性上、様々な戦場に投入され続けていた。
しかし、その結果AWパイロット不足に陥る事態に発展してしまう。機体だけは生産され続けているのに、パイロットが居ない状況。更にパイロットを育成するには時間が掛かる。
そして、あの悪名高きリンク・ディバイス・システムが開発される事になったのだ。
「AWパイロットの適正が無い奴でも熟練パイロット並みの動きが出来るからな。それこそ自分の手足の様に」
大戦時は多くの兵士達や民間人が死んだ。そして復讐心を持つ者も大勢居た。それこそ志願兵として名乗り出る程に。
最初にリンク・ディバイス・システムを使ったのは地球連邦統一軍だった。そして、たった数機のAWで大隊規模のAW部隊を壊滅させた。
然も、素人同然のAWパイロット達がだ。
この戦果に喜んだ地球連邦統一軍の上層部は直ちにリンク・ディバイス・システムを採用。このまま行けば戦争を早期に終わらせれると信じていた。
しかし、ここから人の業が災いした。戦争が終戦してしまえば兵器が売れなくなる。折角の経済戦争が無くなってしまう。つまり、儲ける事が出来なくなる。そう判断した企業と一部の地球連邦統一軍上層部はガルディア帝国軍にリンク・ディバイス・システムのデータを渡したのだ。
そして互いにリンク・ディバイス・システムを使ったパイロット達の凄まじい攻防戦が各宙域で発生した。
この結果、戦争は膠着状態に陥ってしまった訳だ。
尤も、この状況下に一番喜んだのは銀河自由共和国だろう。この不毛な膠着状態が無ければ独立を果たす事は出来なかったからだ。
「共和国の連中からしたら人の業には感謝しても仕切れないだろうよ」
「それにリンク・ディバイス・システムは開発、生産は中止されてるわ。もし、やったとしたら軍が黙ってはいないわよ」
「しかし、データ上ではサラガンの動きはリンク・ディバイス・システム搭載機に近い物を観測しています」
「ネロちゃん、いつの間にそんな事やってたんだよ。やっぱ、この子優秀だわ」
「お褒めに預かり光栄ですマスター。しかし、詳細なデータはスマイルドッグに戻ってからです」
ネロの先を見据えた働きに満足しながら海老チリを食べる。うーむ、美味い。
「やっぱりリンク・ディバイス・システムは無いわよ。だって、後の人生が……悲惨だもの」
「そうだよな。誰も、あんな風にはなりたく無いだろうし」
強力な力をパイロットに授けるリンク・ディバイス・システム。しかし、その代償は大き過ぎた。
ある日、親や友人の顔を忘れてしまう。当たり前に使っていた家具の使い方を忘れてしまう。自分の手足の感覚が無くなる。
そして、感情すらも消えてしまう。
人によって変わるが、基本的にゆっくりと無くなって行くらしい。そのお陰で早期発見が遅れてしまうケースが多かったのだ。
尤も、早期発見が出来たとしても悪足掻き程度しか出来ないのだが。
「兎に角、私は復讐を果たしてみせるわ」
「良いんじゃねえの?最悪、企業相手にするかも知れんが。だが復讐出来る相手が居るんだ。派手にやってやれよ」
「ん?その言い方だと貴方も復讐した事あるの?」
「復讐する前に吹き飛んだよ。跡形も無くな」
そして食事を済まして宿に戻る。シャワーを浴びてベッドに横になりながら思い出す。
あの日、大切な人を失った時を。
今年ももう終わりになりましたね。
皆さん、コロナ対策をして良い年末年始をお過ごし下さい。自分も家で大人しくゴロゴロしてます( ̄∀ ̄)
だって、一月六日まで休みやもん♡では、お疲れ様でした!
え?お年玉キャンペーン?フン!知らんな(ゴソゴソ