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戦闘が終わり戦艦アルビレオに帰還した。
今回は宙賊だけでなく手掛かりの一つでもあるセクタルとの戦闘になった。勿論エルフの連中は数人の捕虜を確保した。だが捕虜の殆どは下っ端で有力な情報などは知ってる筈は無かった。
唯一つだけ共通する点があった。彼等は亡国の兵士だった。謎の消滅をした惑星ダムラカの元兵士や居住惑星メリアルの元警備兵などだ。全員が黙秘かまともに会話するつもりが無いのだが此方を憎悪に染まった瞳で睨んで来るのだ。
何故そんな事が分ったかって?捕虜がエルフの憲兵に連れて行かれる時に此方を睨んで来たのだ。勿論唯で睨まれるのも癪なので「捕虜になってやんの!メッチャダッサくて草!」と爆笑しながら指差してやったけどな。
その後捕虜が暴れたりジャンボが俺の頭を叩こうとしたのを避けたりと色々あった訳だが。
「引き渡す相手が居ない亡国の兵士ほど面倒くせえ連中は中々居ないわな」
「貴方が煽ったから余計に面倒くさい事になってるじゃない」
「悪魔の所業」
「喧しいわMr.仮面。大体あの程度で悪魔の所業なら、ザードル星系に莫大な経済的ダメージを与えた連中の方がよっぽど悪魔の所業だぜ。中途半端に生かされた貧困層は今や生きる事すら満足に出来やしねえし」
きっと今もこう思ってる奴はいる筈だ。
何故この世に生まれて来たのか。
こうなるなら生まれて来なければ良かった。
こんな感じにネガティブな思考に浸り切ってるに違いない。
「だがそんな風にした最初の切っ掛けを作り上げた存在は絶対に許される者達では無いよ」
俺達の会話にバーグス中尉とアーロン大尉が割り込んで来た。
「ザードル星系だけでなく惑星ダムラカを中心とした惑星やコロニーを全て無に消し飛ばしたんだ。決して許される所業では無い」
「ま、確かにな。あの消失事件で何十億人と軍、民間合わせて何千の艦船が消えたからな」
「でも原因は何なのかしら?この事件も情報規制が入ったから現場を見た軍関係者くらいしか知らないわよね」
「摩訶不思議。真実を知る者は限りなく少ないと見た」
誰もが消失事件について考える。だが俺は此奴らとは少し考えが違う。
「原因なんてどうでも良いんだよ」
その言葉に全員が此方を向く。
「結果的に消失した事に変わりはねえんだ。今更気にした事で何になるよ」
「随分と厳しい事を言うねキサラギ軍曹。なら彼等は何か悪い事をしたのかな?何十億人もの犠牲を出す程に」
バーグス中尉は此方を睨む。その瞳には憎悪が見え隠れし始める。
「無能な上層部が摩訶不思議な力を手に入れた。その力を使えば独立も夢では無いと錯覚する程にな。だから独立宣言を出した。そして夢が覚めて儚く散っただけさ。ああ、巻き込まれた一般市民達には同情はするぜ」
「だがその力さえ無ければダムラカは」
「同じさ。力は所詮力でしか無い。例え摩訶不思議な力が無かったとしても別の力を使ってたさ」
俺はバーグス中尉の言葉を切り話を続ける。
「そして地球連邦統一艦隊によって塵一つ残らずに消えてたさ。今の惑星ダムラカ…いや、元ダムラカか。可哀想に。結局一般市民は無能な上層部の所為で同じ道を辿る事になるんだから。その犠牲が何十億人か何億人かの違いはあるだろうけど」
唯、大半の一般市民はザードル星系から出るだろう。そう考えると今の状況と然程変わらないのではなかろうか?まあ経済面では大分変わるだろうけど。
結局、地球連邦統一政府に反乱を起こした罪は重いから上層部は常に監視され貧困層はより厳しい生活を送るだろうな。
「そもそもだ。身の丈以上の力を使ったから消えたんだろ。その力を使った馬鹿共に同情の余地はねえよ」
「淡白と言うべきなのかしら。キサラギ軍曹は他の人達とは少し考えが違うのね」
「全員が同じ考えだとつまんねえだろ?なら俺が別の価値観を持ってても問題ないと言う事さ」
「成る程納得。軍曹は異端と」
「おうMr.仮面。喧嘩売ってんのか?売ってんのか?」
「落ち着けクソガキ。俺はお前の考えは否定しねえよ」
「いやおっさんの同意とか要らないんで」
「オメェ喧嘩売ってんのか?」
そして俺達の会話は自然に終わり解散して行く。今回の話で互いに多少のしこりが出来たかも知れない。だがそんな事気にした所で意味は無い。
「孤高と孤独は紙一重……とは言わねえか」
俺は一言呟き自室に戻るのだった。
戦闘後に一度補給する為に宇宙ステーションベルモットに寄る事になった。ベルモットは昔からある宇宙ステーションだから型は古い。だが幾度もの改修作業により巨大で歪な形となっている。
この辺りは地球連邦統一の管轄下なので他国の軍隊が補給するには許可がいるのだが、この辺りは流石エルフと言えるのか事前に話を付けてるらしく戦艦や巡洋艦が堂々と補給を受けれたりする。
因みにその辺りにあやかって半日間のベルモットへの滞在が許可された。
「先にギルドに向かうか。そろそろ更新しないとアカンからな」
「キサラギ軍曹は今回の戦果で階級が上がるかも知れないわね。昇進祝いする?」
「此奴が曹長にねぇ?まあ態度はクソ以下だが戦果上げてるからな」
「世も末である」
「キサラギ軍曹なら直ぐに少尉にもなれそうですからね」
「まあ、そうかもな。俺は先にギルドに行くわ。じゃあな」
そう言ってチュリー少尉達とサッサと別れる事にする。そして傭兵ギルドに向かう。
傭兵ギルドとは全ての傭兵が入らなければならない場所だ。この傭兵ギルドから軍や企業への紹介や引き抜きなどが行われる。
因みに傭兵ギルドに入らず傭兵の真似事をしてる連中はマフィアンファミリーや宙賊といった連中になる。それ以外となるとバウンティハンターやスカベンジャーなどのジャンク屋みたいな連中になる。
ベルモットの傭兵ギルドは市役所みたいな清潔感がある。何事もまずは見た目から入ると言うからね。
受付の方へ行くと少しメカっぽいアンドロイド娘がいた。多分見た目からしてモテてると思う。この前はグレイ系だったし、その前はタコ見たいな方だったけど。
「こんにちは。傭兵ギルドへようこそ。ご用件は何でしょう?」
「更新と階級維持を頼む」
「畏まりました。階級維持にもクレジットは掛かりますが宜しいでしょうか?」
「構わない」
「また更新前の功績なども紛失する形になりますが宜しいでしょうか?」
「勿論構わない」
「では手続きを行います。此方の番号が呼ばれるまで少々お待ち下さい」
少しだけ待てば直ぐに手続きは済む。更新の手続きは基本的には雇い主がやってくれる。フリーの傭兵なら自分でやる必要がある。俺は常に自分でやっている。理由は階級維持を行なってるからだ。
階級維持は昇進を一時的に止める事だ。勿論クレジットは掛かるし新人には舐められるから良いことなんて殆ど無い。更に更新前の実績や功績も無くなるので尚更意味が無い。強いて言うならフリーの傭兵なら危険な依頼を断る事が出来る位だろう。
そもそも傭兵ギルドでの階級は中々大きな権利を持つ。最高階級は大佐止まりだが少佐クラスとなると上流階級との繋がりは勿論の事、軍との繋がりも持つ可能性は高くなる。
極端な話だとパーティに呼ばれたり軍からは補給を受け易くなったり合同作戦の時に優遇してくれたりするのだ。
だがそこまで上り詰めるのは難しい。何故なら基本的には戦果の結果を受けて昇進するのだ。また傭兵ギルドでは少尉からが本番だと言われてる。少尉までなら比較的簡単に昇進出来るのだが途端に難しくなるのだ。
以上の事から階級維持は余程の理由が無ければやらない。にも関わらず何故俺は階級維持をし続けてるのか。
「特機を手に入れるまで絶対に軍曹よりは上がらんぞ」
ほらアニメとか漫画とかだとさ低階級で特殊な機体とか試作機に乗る事になるじゃん?最悪少尉までなら良いかなと思うけど妥協はしたくないです。
「必ず特機を手に入れてみせる。そこから俺のセクサスストーリーが幕を開けて」
「受付番号235番の方、3番カウンターまでお越し下さい」
「はーい。今行きます」
呼ばれたので手続きを済ませる。そしてやる事が終わったのでベルモットの施設を探索する事にした。
ベルモットは元々中規模宇宙ステーションだったのだが惑星ダムラカを中心とした惑星群の消滅により経済的価値が爆上がり。更に行き場を失った人々の寄る場所になり一部はスラム化した。またスラム化した事で違法取引をする悪党も寄せ付ける事にもなった。
それでも経済的には繁盛してるので現地の上流階級や企業は黙認してるのが現状だ。
そんなベルモットの施設はかなり雑多な状況となっている。重力下で沢山の店があり何でも揃っている。同じ店内で子供の玩具から大人な玩具もセットで置かれてるくらいだからな。そう言う場所は時間帯によって来る客層が違う訳だが。
俺はAWの戦闘補助AIが売られてる店に来た。
AIと言っても中々馬鹿には出来ない。危険を察知すれば咄嗟に動いてくれたり、状況判断で迷った時に聞けば意見してくれる。
更に高性能だと学習機能が付いてるし冗談や皮肉も言ってくれるオマケ付きだ。中には意識が高過ぎるAIはアンドロイドのボディが欲しいと言うとか言わないとか。
「俺の機体に搭載されてるのは付属品のAIだしな」
自機であるサラガンは所詮は量産機だ。そんな量産機に高性能なAIは搭載されてはいない。まさに無難な戦闘補助装置と言えるだろう。
端末から商品リストを見る。クレジットには余裕はあるから全然買えるのだが、買いたい輸送艇があるので無駄遣いしたくない。寧ろ後少し貯めれたら買えるから尚更無駄遣いはしたくない。
「何か手頃で良いヤツは無いかな〜」
とは言え自分自身のギフトが戦闘補助AI以上の働きを持ってるので特別欲しい訳ではない。それでも人型兵器と言えば喋るAIは鉄板だろう。
「サラガンのヤツは喋らねえからな。マドックの方は喋るけどさ」
優れた量産性と操作性に優れてるサラガンと言えども対抗馬のマドックには少々劣ってしまう。だがサラガンが人気の一番の理由はコスト削減で得られた安価な所だろう。それに付け加え様々な環境下での運用。高い拡張性も保持している。
「まあ、一番気に入ってるのは値段だけどな」
それから暫く補助AIを見てると珍しいAIと言うか会社を見つけた。
「Type-From……だと?」
Fromと聞くと何故か変態と感じてしまう。まあその辺りは突っ込むのはやめとこうかな。
Type-From社はAW関連企業だ。ガチでやればFA-14フォーナイト設計時に頭部廃止を提案したり、ネタでやれば武装に気合い入れ過ぎて命中精度は高いのに連射速度がヤバ過ぎて直ぐに弾切れを起こす銃作ったり。然も噂によればその時の試射の連射速度は一番低速だったそうな。
そんな会社の商品を見てみるとサッカーボールより一回り大きい真っ黒な球体に三点のセンサーが付いている。
商品の詳細を見てみると満足に起動しないらしい。特に故障もしてる訳でも無いのだが戦闘中にフリーズする不具合が示唆されてる。
「フリーズねぇ。戦況報告だけでも出来るなら上等か。価格も異様に安いし。よしコイツ買おう」
端末画面をタップして購入を決める。そして自分の端末を合わせて支払いを完了させる。商品は一時間で配達してくれるらしいが生憎配達先が軍艦なので自分で持って行く事にする。
それから店員から商品を手渡される。その時に返品不可と言われたが気にしない事にした。
俺は黒い球体のAIの電源を付ける。三点のセンサーが赤く光り此方を見る。
「これから不具合で止まる余裕は無くなるけど宜しく頼むな」
そう言うと赤い光りは何度か点滅する。どうやら音声機能は付いてないらしい。俺はこのまま球体AIを小脇に抱えて再びベルモットの探索をするのだった。