強襲
オビリオンに戻り警戒に入る。しかし、一度状況が落ち着けば思い出す事がある。
「アラン軍曹……」
俺は操縦席に座りながら血に濡れた遺書を取り出す。
アラン軍曹から死ぬ最後に渡された遺書。この遺書は俺達に宛てた物らしい。
「まぁ、読むのは基地に戻ってからだけど。しかし、腹減ったなぁ」
アラン軍曹の戦死と同時に思い出すのは空腹だと言う事だ。
俺は仕方無くオビリオンに入ってる軍用レーションを取り出す。一応味付けはされてるので問題は無いが、元の食材が全く分からない軍用レーションだ。
こんな物でも軍で採用されてる物だから食べても平気だと思うのだが。
(あの海老チリと比べるとなぁ。何て虚しい食事だろうか)
食事は軍の士気に大きく関わってるので軍用レーションは激安カロリーバーより遥かにマシだろう。
しかし、それとこれとは別だ。俺は軍用レーションより海老チリが食べたかった。例え男の娘の手作りでもだ。
(寧ろ男の娘の手料理って希少価値高くね?)
物凄くどうでも良い事を考えながら軍用レーションを食べる。じゃないと色々な事を考えてしまって戦闘に集中出来なくなりそうだからだ。
軍用レーションを食べながらモニター越しに周りを警戒していると、オビリオンの通信機から通信を傍受した。
『CPより各ユニットに通達。これよりトミオー国防軍から前線に向けて増援が送られる。よって送られた増援部隊と共にミカヅキの残存部隊を殲滅しながら3キロ前進せよ」
「増援?やっぱり何かあんのかな?もしかしてミカヅキとティーンマーティスが手を組んだとか?だとしたら嫌だなぁ」
折角の三つ巴のバランスによって出来た歪な戦場が崩れてしまう。つまり、俺達トミオー国防軍側にとって不利になる訳だ。
『01より各員へ。内容は聞いての通りだ。いつでも出れる準備はしておけ』
俺達、外人偵察部隊605小隊は必然として前線で戦う事になる。
最初から俺達の様な存在はトミオー国防軍にとって弾除け程度にしか思っていないからだ。
だが、この後に起きた出来事が俺にとって人生の転換期となる。この事が無ければ、俺は戦場の何処かで野垂れ死んでたかも知れない。
尤も、幸運の女神に気に入られたのは俺だけだったのが何とも言えない事だったが。
トミオー国防軍の増援部隊と合流した俺達偵察部隊は再び前進を開始。それと同時に敵部隊からの反撃を大きく受ける事になる。
とは言うものの、今回もトミオー国防軍や傭兵が駆るAW部隊が敵部隊を圧倒して行く。ミカヅキ側もMWや攻撃ヘリで対抗するが、殆ど一方的に蹂躙されていた。
恐らくだが、ミカヅキ社はトミオー国防軍の増援部隊を察知出来て無かったのだろう。でなければ此処まで一方的な戦いにはならない。
だが、それが罠の可能性も有る。
『CPより各ユニットへ通達。これより1キロ先に味方強襲部隊を派遣する。直ちに味方強襲部隊と共に敵を殲滅せよ』
暫くすると上空をスィビーリアの編隊が前線に突入して行く。更に護衛と言わんばかりにF-86マッキヘッドまで着いている。
「何だ?あの編成は。随分なVIPでも居るのか?」
『どうでも良い事だ。それより前方十一時方向にモールドが取り残されてる』
「モールドか。対AWミサイルを積んで無ければ一方的にやれるな」
モニターに映し出されるモールドは二機のみ。然も対空に向かって撃ってるので、こちらには見向きもしていない。
照準にモールドを捉えてからトリガーを引く。被弾したモールドがこちらに気付いたが、10が放った対戦車ミサイルがモールドの脚部に直撃。そしてバランスを崩して地面に倒れ込む。
【クソッタレが!ミカヅキの連中め!俺達を見捨てやがったな!】
【たかが戦車如きに!】
最後の悪足掻きと言わんばかりに55ミリライフルと30ミリガトリングガンを乱射する。しかし、こちらは冷静に照準をモールドの中央部分を狙いトリガーを引く。
120ミリの砲弾は狙い通りの場所に吸い込まれる様に当たる。そしてモールドは内部爆発を起こしながら爆散して行く。
倒れたモールドは既に動かなくなっており、恐らく敵パイロットは逃げたのだろう。念の為に120ミリで破壊しておく。
『敵の抵抗は軽微なり!前進せよ!』
『一機撃破。次はそこに隠れてる歩兵共にするかな』
『歩兵相手に弾代が勿体無いだろ。戦車とかにしとけよ』
『良いんだよ。こう言う雑魚相手にするのもMWの役割なんだよ』
『そうかい。ま、好きにしな』
『間も無く目標座標に到着します。強襲部隊は降下準備に入って下さい』
正規軍以外の傭兵は好き勝手やってるが、作戦は概ね順調に進んでると見て良いだろう。
だが敵を追い詰めれば追い詰る程、最後の悪足掻きをするのだ。それこそ自分の命と引き換えにだ。
味方の強襲部隊が目標座標に到着する。スィビーリアは目標座標付近に居る敵歩兵や軽装甲車に攻撃をしながら歩兵の降下体勢を取る。
しかし、此処で思わぬ伏兵が現れる。何故なら所属不明戦闘機が低空飛行から突然現れたのだ。これにより目視とレーダーで発見が遅れた強襲部隊は慌てる。
『護衛機は何やってる!迎撃しろ!』
スィビーリア部隊も攻撃体勢を取るが既に手遅れだった。
彼等が視認したのはSuD-95シャーク。鮫の名を持つ攻撃機の編隊が鈍重な獲物に一気に襲い掛かる。
【スィビーリア部隊を確認。全部纏めて墜とせ。護衛のマッキヘッドは無視しろ】
シャークから放たれた対空ミサイルか味方の強襲部隊に襲い掛かる。スィビーリアはチャフをバラ撒いて凌ごうとする。
しかし、その行為すら許さないと言わんばかりにシャークは更に接近。機首に搭載されている30ミリバルカン砲が火を噴く。
『うわあああ⁉︎被弾した!被弾した!』
『反撃しッガァ⁉︎』
『二番エンジン被弾!畜生!制御が!』
『二番エンジンの燃料カット。機体を起こせ。体勢を整えれば持ち堪えれる』
『出力低下!駄目だ!墜ちる!』
一気に敵のシャーク部隊に強襲された味方スィビーリア部隊。しかし、まだ数機は浮遊していた。
『キロ1よりCP、現在敵攻撃機と交戦中。強襲部隊に甚大な被害が出た』
『こちらCP、パケット3は無事か?』
『パケット3は無事だ。だが、二番エンジンが被弾している。現在は機体の態勢維持に精一杯と言った感じか』
『CP了解した。CPよりパケット3、直ちに帰還せよ。パケット3は直ちに帰還せよ』
『パケット3了解。これより帰還します』
二番エンジンから黒煙を上げながら撤退するパケット3。無論、上昇すれば敵攻撃機シャークに狙われるので低空で建物の間を飛行して行く。しかし、それは敵歩兵にとって良い的になる。
建物の中から残存している敵歩兵からの射撃を受けるパケット3。しかし頑強に作られたスィビーリアは簡単には墜ちる事は無い。だが、中に居る兵士達は気が気じゃないだろう。
『こちらパケット3、敵歩兵からの攻撃を受けている。帰還ルートを算出してくれ』
『CP了解。帰還ルートはS3から通れ。それが一番味方部隊との合流が早い』
『パケット3了かッ!』
その時だ。パケット3は最悪な光景を目にした。何故なら建物の屋上にRPGを持つ敵歩兵を見たのだ。
反射的にトリガーを引くパケット3のパイロット。それと同時にRPGの弾頭から煙が出る。
放たれたRPGの弾頭を最後まで見る事無く20ミリマシンガンの餌食になる敵歩兵。RPGの弾頭はコクピットの上部を通り過ぎて、後部のジェットエンジンに向かって行く。
そして、RPGの弾頭はジェットエンジンを吹き飛ばす。
『メーデー!メーデー!被弾した。制御不能!繰り返す、制御不能!』
コクピット内にアラーム音が響き渡る。それでもパケット3のパイロットは何とか機体を立て直そうと上昇を試みる。本来の帰還ルートから離れて徐々に味方との距離が開いて行く。
しかし一度崩れたバランスを戻すのは容易では無い。更に敵の追撃は止まる事は無い。
【仲間の仇だあああ!これでも喰らええええ!】
パケット3のスィビーリアに更に衝撃が走る。
『一番エンジンに被弾!駄目だ、高度が上がらない!』
パケット3はゆっくりと降下して行く。唯一の救いは辛うじて操縦が出来た事だった。
だが、そんな物は救いには成らない。
建物にぶつかりながら墜落するパケット3。その様子を司令室のモニターで見ていた一人の将校は、食い入る様に見ながらゆっくりと立ち上がる。
そしてパケット3は広場で墜落してしまう。然も、そこは敵陣深くの場所。
『パケット3が墜落。繰り返す、パケット3墜落』
この事態に将校は無謀とも言える命令を出す。何故なら今回の部隊はその将校が指揮しているのだから。
多少の無茶な命令は強引に行けてしまう。
「直ちに全ユニットをパケット3が墜落した地点まで前進させろ」
「しかし、それでは戦力が足りませんが」
「構わん。兎に角パケット3の救出を第一優先だ」
将校の無茶な命令を渋々ながら伝えるオペレーター。
しかし、その時だった。無謀な命令を下す将校に話し掛ける人が現れた。
「おやおや、それは困りましたね。スタッカード大佐?」
「貴様は……ヤッザム中佐か。コレは私の部隊だ。私に指揮権がある。余計な口は謹んで貰おうか」
そこにはヤッザム中佐が嫌らしい笑みを浮かべながら立っていた。
「貴方の指揮下ではありますが、私の部隊も存在してるんですよ」
「何?そんな筈は」
「何かしようとしていたのは把握してましたからね。少し部隊編成内に追加をね」
「……ッ」
部隊編成を見ると1/4がヤッザム中佐の指揮下にある部隊だった。然も元々派遣する数に変わりは無いので実質陰ながら手を貸された形だった。
「流石に私の部隊を死地に送るのは頂けませんのでね。申し訳無いですが」
「待て、今は私に指揮権がある」
「指揮権があるのは貴方の部隊だけです。私の部隊には無い」
「なら、大佐命令だ。今直ぐに指揮権を渡せ」
「職務乱用と言う言葉をご存知で?尤も、これ以上下手な事をすればどうなるか。ご自身がよく分かっている筈」
「……何が言いたい?」
ヤッザム中佐は徐に脇に抱えていた書類を見せる。その書類を見たスタッカード大佐は目を見開きながらヤッザム中佐を睨む。
「企業から秘密裏に資金を受け取るとはね。トミオー国防軍軍人として実に情け無い」
それは貴様もだろうが!と言葉が喉元まで出るが我慢するスタッカード大佐。今ここで戦力低下は絶対に阻止せねばならない。
「……何が目的だ?」
スタッカード大佐は僅かに口元を震わせながら問い掛ける。その問い掛けにヤッザム中佐は口元に笑みを浮かべながら答える。
「惑星トミオーの発展。そして発展の障害となる企業連の排除。それだけです」
そう、ヤッザム中佐は愛国心溢れる軍人だった。それは過剰とも言える愛国心だったのだ。
そして、スタッカード大佐は確信した。あの所属不明の攻撃機の存在を。
「貴様……まさか、情報を!」
「さて、どうでしょうか?しかし、これで立場は分かったでしょう?スタッカード大佐殿」
しかし、この時スタッカード大佐の無茶な命令は前線に居る部隊に伝わっていた。
そして、その命令にチャンスを見出した傭兵が一人だけ居たのだった。