アラン軍曹
オビリオンを前進させながら状況を確認する。敵はパワードスーツ、軽装甲車を盾に歩兵で制圧するだろう。
確かに戦力的にはこちらが圧倒的に不利だ。だが、偵察に辺り防衛陣地を敷いているので簡単制圧出来るとは思えない。特にオビリオンの正面装甲ならパワードスーツのバズーカ程度は平気だからだ。
だが、パワードスーツに接近されたらどうなるか?答えは簡単だ。一方的な蹂躙になる。特に戦車なんてハッチを無理矢理破られて、俺なんて簡単に握り潰されるだろう。
(敵が本格的に攻めて来る前兆か?仮にそうだとしても俺達の様な偵察部隊ならMWを投入すれば蹴散らせるだろうに)
敵の動きにイマイチ納得出来無いが、今は目の前の敵に集中しよう。
オビリオンを所定の位置に停車させて照準器を覗き込む。レーダーを見ながら敵が建物の陰から出て来るタイミングを計る。
「06、そろそろ来るぜ。念仏を唱える準備は出来たか?」
『念仏?確か、死んだ者を弔う為のだろう。何故、今唱える必要がある?」
「んな事決まってんだろ。これから敵さんがお亡くなりになるんだからな!」
レーダーを確認してギフトを発動。すると軽装甲車が勢い良く出て来るのが視えたのでトリガーを引く。
オビリオンの120ミリAP弾は建物の陰から出て来た敵軽装甲車に吸い込まれる様に当たる。敵軽装甲車は120ミリAP弾の直撃を受けて、吹き飛んだ後に空中で爆散する。
『敵影確認!各自、攻撃開始!』
01の指示で戦闘が本格的に始まる。敵パワードスーツが持つ武器は重機関銃や重散弾銃だ。お陰でオビリオンの装甲をこれでもかと言わんばかりにノックして来る。
「06!生きてるか!危なかったら頭引っ込ませろよ!」
『言われる前にやってる!やはりパワードスーツは硬い。12.5ミリでは効果が薄い』
「その為の120ミリだぜ。兎に角こっちに敵のヘイトを集中させる。そうすれば10と11が上手くやってくれる筈だ」
主砲同軸の8.5ミリマシンガンを敵歩兵や軽装甲車に向けて乱射する。無論、敵歩兵も黙って撃たれてる訳では無い。
【あの戦車さえ潰せばこのエリアは確保出来る!対戦車ミサイル!発射!】
オビリオンの車内にロックオン警報が鳴る。そしてギフトを使い敵の対戦車ミサイルが来るのと同時にチャフをばら撒く。
「その物騒な物はお預けだよ」
HE弾に切り替えてからトリガーを引く。軽装甲車と敵歩兵は瞬く間に吹き飛んで行く。
「良し!脅威を一つ排除完了!次はどいつだ!」
『こちら07!建物の屋上にパワードスーツを二体視認!12の上だよ!』
「何ッ⁉︎」
07の報告と同時に前方に居た二体の敵パワードスーツ兵が突撃して来る。
「ヤバイ!後退する!」
一気にオビリオンを後退させる。すると再び警報が鳴り響くのと同時に、先程まで居た場所で爆発が起こる。どうやら上からバズーカを撃って来てるらしい。
「コンチクショウ!仰角はそこまで取れないんだよ!」
『12、大丈夫。僕に任せて』
10の声がインカムから聞こえると、屋上に居る敵パワードスーツ兵に向かって対戦車ミサイルが飛んで行く。建物の屋上で爆発が起こり、瓦礫の破片がオビリオンの天板を叩く。
『装填完了。撃って良いよ』
『オッケー、ならもう一発!』
再び上の方で爆発が起きる。だが、次の瞬間だった。敵パワードスーツ兵が一体上から飛び降りて来たのだ。
【たかが小規模な戦力でパワードスーツに勝てると思ってんのか!】
バズーカを抱えながら降下する敵パワードスーツ兵。それを見た俺は直ぐに前進に切り替える。
そしてアクセルを全開にしてオビリオンを突っ込ませる。
「空から美少女が降って来るなら見逃してやったけどな!」
唸るエンジン音、軋み力強く地面を蹴る履帯。そしてオビリオンの持つ重量が目の前に着地した敵パワードスーツ兵に襲い掛かる。
「残念!野郎は対象外なんだよ!」
【なっ⁉︎ちょっと待っギャッ⁉︎た、助げでああがあああ⁉︎⁉︎】
着地姿勢のまま体当たりされた敵パワードスーツ兵は、そのままオビリオンの履帯と車体に巻き込まれながら消えて行く。
【ハルキ!この野郎!】
下敷きになった仲間を救出しようと迂闊にも近寄って来る。
仲間想いは決して悪い事では無い。だが、状況次第ではより他の仲間達を窮地に陥らせる。
「迂闊だぜ」
その油断した姿は、今の俺にとって格好の獲物だ。主砲の照準を敵パワードスーツ兵に当てる。そして躊躇無くトリガーを引く。
主砲から放たれた120ミリのAP弾。そのまま敵パワードスーツ兵士の土手っ腹に直撃して声を上げる事無く、上下真っ二つになり血吹雪が空を舞う。
だが、敵パワードスーツ兵もこのチャンスは見逃さなかった。態々近付いて来た戦車に一気に間合いを詰めて取り付く。
【よくも仲間をやりやがったな。簡単に殺されると思うなよ。生きたまま内臓を捻り出してやる】
『不味い!取り付かれたぞ!』
先程から12.5ミリ重機関銃で反撃していた06だが、パワードスーツ相手には火力不足だったのだ。
俺は砲塔を振って敵パワードスーツ兵を振り解こうとする。だが、オビリオンの主砲を片手で押さえて一気にタケルの元へ近付く。
【まずは、お前からだ】
12.5ミリ重機関銃を片手で壊しながら引き千切り、放り投げる。
「タケル!逃げろ!」
『ッ!させるか!』
咄嗟に腰に挿してる軍刀を抜き、接近戦を仕掛ける。
【ハッ!パワードスーツ相手に接近戦か!テメェの様な馬鹿な奴なら何人も見て来たぜ!そしてぇ‼︎】
振り下ろされた軍刀を片腕であっさり防ぐ敵パワードスーツ兵。
【そのまま死んじまいな!】
敵パワードスーツ兵の右手がタケルに襲い掛かる。
だが、此処で最高の乱入者が現れる。
『ヌアァァアアア‼︎オデ‼︎仲間‼︎助ケル‼︎』
巨人族の血を引き継いでいる仲間想いの優しきアラン軍曹が敵パワードスーツ兵に体当たり。そのまま敵パワードスーツ兵と一緒にオビリオンから落ちて行く。
『04!助かった!だが、直ぐに離れろ!』
『ヴァアアア‼︎コロス‼︎コロス‼︎コロスウゥゥウウ‼︎』
04はそのまま力任せに拳を振るう。普通ならパワードスーツ相手に素手では勝てない。だが、確実に敵パワードスーツ兵にダメージを与えているのはアラン軍曹の巨人族の血が為せる業だろう。
【グハッ⁉︎こ、この……化け物が!】
だが敵パワードスーツ兵もやられっ放しでは無かった。
何をするかと思えばアラン軍曹に体当たりしながら抱き付く。そして互いに地面に倒れたかと思うと。
【貴様だけは……道連れにする。俺の邪魔をした、ツケは払って貰うぞ】
その憎しみの篭った言葉と同時に敵パワードスーツ兵の背中が眩い光が出たのと同時に大爆発が起こったのだった。
そう、アラン軍曹を巻き込んで。
大爆発が起こるとオビリオンに凄まじい衝撃が襲い掛かる。
「うわっ⁉︎な、何だ?今の爆発は」
『……自爆だ』
「え?今、何て?」
『敵は自爆した。パワードスーツの持つエネルギーを使ってな』
「自爆って……アラン軍曹は?アラン軍曹、応答してくれ!アラン軍曹‼︎」
『待て!戦車から出るな!今直ぐ戻れ!』
俺はタケル軍曹の制止を振り切ってオビリオンから飛び降りる。
爆煙が舞う中で大柄の人影が血溜まりの中で倒れていたのを見た。
「アラン軍曹!しっかり!あ、あぁ……血が、こんなに。09!直ぐに来てくれ!アラン軍曹が!」
『12!何をやっている!戦車に戻れ!敵はまだ残って居るんだぞ!』
「でも隊長!アラン軍曹が!」
『良いから戦車に戻れ!俺達の中からアラン軍曹の様な犠牲を出すつもりか!』
ハラダ曹長の言葉に我に帰る。そうだ、今も敵は居るのだ。そして、今も俺達を殺しに来ている。
ならば、これ以上の戦友達を危険な状況に陥らせる訳には行かない。
俺はアラン軍曹に背を向けてオビリオンに乗り込む。乗り込む時にタケル軍曹と目が一瞬だけ合う。俺は静かに頷いてから中に入って行く。
「こちら12、これよりオビリオンで援護します」
『12、今は目の前の敵を倒せ。そうすればアラン軍曹が助かる可能性は上がる』
『今09がアラン軍曹に向かってる。12は09とアラン軍曹を援護しろ』
「了解……了解!畜生、やってやる。これ以上、誰かを死なせて堪るか!」
アクセルを踏んでオビリオンを前進させる。そして照準を敵軽装甲車に合わせてトリガーを引く。
敵軽装甲車の銃座には敵兵が12.5ミリ重機関銃を使ってこちらを撃っていたが、120ミリの砲弾によって軽装甲車ごと爆発させる。
そのまま主砲同軸の8.5ミリマシンガンで敵兵を薙ぎ倒しながら前進して行く。
【パワードスーツの連中がやられやがった!たった一輌の戦車相手に手古摺りやがって!】
【後退だー!後退しろ!】
【味方の増援なんざ知るかよ!俺は逃げギャッ⁉︎】
【馬鹿が。一人だけ逃げようとするから罰が当たったんだ】
敵歩兵部隊は不利と悟ったのか一気に後退して行く。追撃したい所だがアラン軍曹の方が先決なのでHE弾に切り替えて敵歩兵に向けて撃つだけに終わる。
『12、もう充分だ。敵は撤退した』
「……分かった。それで、アラン軍曹の状態は?」
『分からん。今は09に任せるしか無い』
「そうだよな。俺達はそれしか出来ないもんな」
あの時、爆煙が残る中で見たアラン軍曹の姿。一瞬しか見えなかったが、血溜まりに沈み全身血塗れだったのを覚えている。
『こちら08、敵部隊が後退して行くネ』
『01了解した。05、味方部隊の状況はどうなってる?』
『状況はこちらと同じです。敵の一斉攻撃が行われてます。唯、戦力としてはほぼ同じくらいで一進一退と言った所です』
『成る程。つまり、敵も強行偵察を行なっている可能性は高い。最悪、我々しか居ない戦力だと分かれば大部隊が来るかも知れん』
これから先の状況を考えると今の戦力では心許ないのは明白だ。
だが、今の俺はそんな事よりもアラン軍曹の容体の方が気になっていた。何せ俺達をパワードスーツから助ける為に傷付いたのだから。
「09、アラン軍曹の容体は?」
『……取り敢えず止血と痛み止めは打った。後は基地に戻ってからだが』
『12、今は隊自体を無理に動かす事は出来無い。俺達はこの場所での偵察が任務だ』
「偵察任務ならもう終わりでしょう!敵が攻めて来た。後は後方に居る本隊に任せるだけになります!隊長、隊を動かせ無いならせめて軽装甲車でアラン軍曹を後方に……」
隊員が減れば、その分他の仲間達に負担が掛かる。この時の俺はオビリオンに乗っている。つまり、他の仲間達より安全な装甲に守られた場所に居るのだ。
その事を思い出すと先の言葉が出なくなった。ハラダ曹長は他の仲間達も指揮しなければならない。つまり、無理に戦力を減らせば最悪全滅しかね無い事も想定している。
『シュウ上等兵、今アラン軍曹を無理に動かすのは危険だ。幸い現地点での防衛には成功した。なら、この場所で出来る事をすべきだ。07、08、敵の動きはどうなってる?』
『今は完全に見えなくなってます。増援が来る気配も有りません』
『味方の増援も来る気配も無いけどネ。でも、少なくとも少しの時間なら安全ヨ。私達は引き続き警戒はするネ』
『頼んだ。シュウ上等兵、今からアラン軍曹に会いに行け。その間は他のメンバーでカバーする』
ハラダ曹長のこの言葉の意味。それを理解した瞬間、理解したく無くて首を僅かに横に振りながら隊長に聞き返す。
「隊長……それって」
『見れば分かる。余り情け無い表情は出すなよ。良いな?』
しかしハラダ曹長は最後まで言わせる事無く通信を切った。俺はどうすれば良いのか分からなくてオビリオンの操縦席に座り続けていた。
だが、突然頭に少しだけ衝撃が来る。何事かと思い振り返ると、タケルの足が見えた。どうやら軽く蹴られたらしい。
『ハラダ曹長に言われただろ?情け無い表情をするなって。一瞬でもアラン軍曹を安心させてやれ』
「タケル……でもさ、俺、どんな顔して会えば良いんだよ。俺が無理に前に出なければ」
『仮に前に出なければ他の誰かが死んでたかも知れん。最悪、全滅してた可能性だってあった』
タケルの言葉が俺の心に響く。恐らくタケル自身も色々失って来たのだろう。それこそ俺以上かも知れない。
『余り自分を責めるな。これは、隊全員が負うべき事だからな』
「分かった。すまんが警戒を任せた」
『任された』
俺は意を決してアラン軍曹に会いに行く。例え、もう助からない状態だろうともだ。