偵察と言う名の……
D1-Bオビリオンの操縦席はMWとほぼ同じだ。無論、戦車とMWとは違うがコクピットのレイアウトはMWをベースにしている。
そのお陰かシミュレーターでも問題無く操縦は出来たし、敵を撃破する事も出来た。
(このまま順調に行けば正規市民になれる日も近いかもな。そうすれば人並み以上の生活が約束される)
それこそ前世以上の明るい未来が待っている筈だ。
動画や画像でしか見た事が無い三大国家の主要都市。宇宙コロニーの内部に所狭しと建ち並ぶ高層ビルの上を沢山のモノレールみたいな乗り物が走り抜ける。更に充実した公共施設や機関に真っ当な仕事。
ゴーストでは絶対に見る事も触れる事も出来ない場所。
(そうさ。全ては自分の未来の為。その為に全てを切り捨てて、此処まで来た)
孤児院で人身売買を黙認したあの日から全てを見捨てて来た。売られる前に孤児院を抜け出した。職場を無断退職した。有り金叩いて傭兵ギルドに登録して装備を整えた。
そして……孤児院に居た子供達を見殺しにした。
俺には力も財力も無い。しかし、一人くらいは救えたのでは無いかと考えてしまう時がある。傭兵ギルドに行った時の金を使えば子供一人ぐらいなら養えたのでは?
だが、その後は如何する?どの道あの孤児院も廃棄場も処分される事が決まっていた。そして力無いゴーストの子供に救いの手を差し出す物好きは居ない。
結局、院長の言ってた事は正しかったのかも知れない。
無残に殺されるなら優しく幸せな気持ちにさせながら殺す事。
「救われねぇよな……本当に」
尤も、殺された側からしたら堪った物では無いだろう。どちらにせよ死んでしまったら意味は無いのだから。
一人コクピットの中に居ると嫌な事ばかり思い浮かんでしまう。MWに似たコクピット内部なのだから少しはテンションが上がると思ったのだが。
「周辺の反応は無し。センサーにも異常無し。偵察だけど少し拍子抜けだな」
無論、他の場所にも偵察部隊は居るのだが今の所何一つとして接敵した報告は無い。
オビリオンで放置トラックの横を通り過ぎようとしながらギフトを使う。こうする事で三秒先に起こる未来が視える。つまり、その前に止まれば多少は未来を変えれるかも知れないからだ。
「うーんと……おっと?全車停止、及び後退」
怪しいと思った放置トラックが爆発する未来が視えたのでオビリオンを停止させる。
『01より12、何かトラブルか?』
「前方の放置車両ですがトラップです。主砲で吹き飛ばしますか?」
『トラップだと?確か』
「間違い無いです。唯、起爆方法は分かりません。センサーで反応するのか。それとも遠隔操作をしているか」
オビリオンのセンサーで周辺を探るが反応は無い。しかし、確かにブービートラップは置いてある。
『嫌な任務。私達は捨て駒同然』
『仕方無いさ。元より俺達には選択肢は無い』
「06、11、そう悲観的な事言うなよ。ピンチは自分達の手でチャンスにも変えれるんだよ」
『ほぉ、12にしては良い事言うじゃ無いか』
「悲観的な事言ってたら余計に気分が落ち込むからな。さて、主砲の照準は良し。01、何時でも撃てます」
『良いだろう。全車、後退し距離を取れ』
ゆっくりと後退しながら主砲を放置トラックへ向け続ける。そして充分な距離を取った後にトリガーに指を当てる。
「誤差修正用無し。射撃開始」
トリガーを引くのと同時に120ミリ滑腔砲が火を噴く。砲弾は放置トラックに当たり砲弾以外の爆発も確認出来た。
「危険物の処理完了しました。01、このまま前進しますか?」
『充分に警戒しながらな。全く、思った以上に12は頼りになるじゃ無いか』
「戦車も頼りになるんですよ。強力な主砲と分厚い装甲。歩兵や装甲車相手なら何とでもなりますよ」
唯のブービートラップ処理なら楽な任務になる。だが現実はそこまで甘くは無い。
トミオー国防軍の動きに反応して、企業側も直ぐに対応する為の部隊を差し向ける。
そして再び始まる殺し合い。
『CPより各ユニットへ通達。現在、ミカヅキよりMWの中隊規模が接近中だ。これより国防軍の増援が到着するまで現地点を防衛せよ』
CPからの余りにも無茶な内容にゲンナリしてしまう。
『全員聞いての通りだ。上からの無茶な命令だがやるしか無い。近くに居る味方部隊と合流して防衛地点を確保する』
小隊での防衛は不可能に近い。だから同じ状況に陥っている連中と生き残る為に協力せざるを得ない。
近くの部隊と合流した結果、MW三機、戦車六輌、歩兵多数になった。しかし、この状況で敵MW部隊と接敵したら壊滅する可能性も高い。
『各機、間も無く敵部隊と接敵する。偵察情報によれば攻撃ヘリ四機が先行して、こちらに向かっている。MWは対空迎撃を優先しろ』
攻撃ヘリ四機が接近中。攻撃ヘリは俺達地上部隊にとって天敵みたいな存在だ。その為、攻撃ヘリは最優先で撃墜したい。
『対空迎撃用意!対空ミサイルを持っている者も直ちに迎撃態勢を取れ!接敵まで三十秒!』
オビリオンを若干後退させながら砲塔を動かす準備をする。レーダーを見れば十時方向から真っ直ぐに此方に向かって来ている。
トリガーに指を掛けながら深呼吸する。
(一機なら確実に墜とせる。ギフトで先読み出来る俺なら)
接敵カウントを確認しながらギフトを使う準備をする。敵攻撃ヘリが近付くにつれてヘリのローター音が大きくなって来る。
緊張の瞬間。妙に喉が渇くが水を飲む気にもならない。カウントを確認して三秒前になったのと同時にギフトを使う。
敵攻撃ヘリは離れた状態で順次廃墟ビルから出て来る光景が視える。ならばと思い真ん中の攻撃ヘリに当たる様に照準を固定。
そして、俺達は躊躇無く攻撃ヘリが照準に入る瞬間にトリガーを引いた。
120ミリの砲弾は吸い込まれる様に攻撃ヘリのコクピット部分に直撃。そのまま攻撃ヘリは空中で爆散して、破片が辺りに散らばる。
『迎撃!撃ち墜とせ!』
臨時隊長の声を聞きながら砲塔上部に付いている12.5ミリマシンガンを操作。そのまま攻撃ヘリに向けて射撃を行う。
「あの距離で弾届いてんのかな?無駄弾撃ってる気がする」
正直に言えば12.5ミリマシンガンより手持ち式の対空ミサイルの方が遥かに役に立つだろう。
だがMW三機の30ミリマシンガンと多目的ミサイルが攻撃ヘリを簡単には近寄らせ無い。
それでも敵攻撃ヘリはチャフをばら撒きながら20ミリマシンガンとロケット弾を大量に空から降り注いで来る。俺の乗るオビリオンにも20ミリの弾が何発か被弾する。
「旋回した時がお前の命日だよ!」
砲塔を回頭させて再びギフトを使いタイミングを測る。次も絶対に外す事は許されない。
「よーく狙って……そこだ‼︎」
再びトリガーを引くと120ミリ滑腔砲が火を噴く。敵攻撃ヘリが此方に頭を向けたのと同時に120ミリの砲弾が直撃。爆発と同時に地面へと向けて墜落して行く。
【チィ、二機墜とされたか】
【この程度の対空弾幕にやられたのか?敵MWからの攻撃にしては妙だが。仕方ない、一度後退するぞ】
【了解。この借りは必ず返す】
残った二機の敵攻撃ヘリは距離を取りながら離脱して行く。どうやら一難は去ったらしい。
『各ユニットへ、敵の地上部隊が来るぞ。負傷者は下がらせて迎撃に入れ!』
MWが前進するのと同時に、戦車を射線が通る位置へと移動させる。
「12より01、誰か負傷者は居ますか?」
『いや、全員無事だ。強いて言うなら10の頬に傷が入った程度だ』
「乙女の柔肌に傷がとか言いそうですね。取り敢えず戦車は移動させます。上手く壁か囮にして下さい」
『頼むぞ。それから攻撃ヘリ二機の撃墜、見事だったぞ』
「それはどうも。さて、次は何が来るかな?」
味方のMWは【MC-61Eオーガ】は人型で重装甲かつ性能が高い。また大型シールドを持つ事も出来るので非常に頼もしいMWだと言えるだろう。
『正面から来るぞ!構え!』
『左の通路からも戦車が接近中!建物の中に入れ!』
『戦車四輌は直ちに左側の通路に向かえ。敵を足止めするんだ』
『対戦車砲の設置急げ!もう時間が無い!』
『敵MWを視認!MC-30Bモールドです!』
『モールドか、助かったぜ。オーガ相手にモールドが勝てる訳が無いんだよ』
『数はこちらより多い。油断はするな』
敵MWと戦車部隊が迫る中、俺はオビリオンの車体を瓦礫の後ろに隠しながら砲塔だけを出す様にする。
「12より01、余り無理はしないで下さいね。相手はモールドですが生身や戦車相手には分が悪いので」
『分かっている。お前の後ろには06、10、11がついて対戦車ミサイルで援護する。それ以外は敵歩兵に対処する』
「了解。06、10、11、しっかりと援護頼むぜ?」
『お前こそ簡単に撃破されるなよ』
『頑張ったら僕がご褒美上げるからね?』
『大丈夫。ちゃんと援護する』
「おう。ご褒美以外は頼もしいよ」
そして照準センサーに敵MWと戦車を捕捉する。それと同時に臨時隊長からの命令が来る。
『目標!先頭に居る敵モールド!集中攻撃で足を止めるんだ!攻撃開始!』
命令と同時にトリガーを引く。それは敵も同じ事で、こちらの先頭に居たオーガが敵の集中攻撃を受けて後ろに倒れながら爆散するのだった。
各地で戦闘が開始された。銃声と爆発音が廃墟の街中に響き、悲鳴と怒声が飛び交う戦場となる。
『リクス2よりリクス3!リクス1がやられた!』
『諦めろ!兎に角目の前の敵を殺せ!』
『畜生……昨日赤ん坊が生まれたって喜んでたのによぉ。父親になるって』
高層ビル並の死亡フラグを立ててたんだなと思いながら照準に捉えた敵MWに攻撃する。
120ミリの直撃を受ければMWとて唯では済まない。しかし技術が進み装甲素材も進化した結果、傾斜した部分だと偶に弾かれる事がある。
「弾かれたのか?あんなヤラレ役の見た目してる癖に生意気な。だったら脚部破壊してやんよ!」
そのまま敵モールドの脚部を狙う。敵も物陰や廃車を盾に攻撃しているが、廃車程度なら障害にはならない。
照準でしっかりと狙いながら廃車越しに敵モールドの脚部を破壊。そのまま敵モールドは横転しながら倒れる。勿論味方がその隙を見逃す訳も無く、集中攻撃を受けた敵モールドはあっさり爆散する。
『戦車が厄介だよね。なら……これで!』
11が対戦車ミサイルを発射。対戦車ミサイルは吸い込まれる様に敵戦車に当たるが、効果は今一つだった。
『駄目だな。やはり正面での破壊は困難だ』
『なら天板を抜く様に撃つとか?』
『それしか無さそう。なら建物の上に行く?』
しかし敵戦車は味方オーガが垂直ミサイルで撃破して行く。
だが敵部隊も負けてはいない。やられたらやり返す。そうやって今まで戦いは続けられたのだ。
【戦車を潰せ!オーガは攻撃ヘリに任せれば良い!】
【歩兵は前進だ!近距離戦に持ち込めば充分だ!数ではこちらが優っている!】
【国防軍の犬風情に負けられっかよ!前進開始!】
【冗談だろ?戦車がほぼ壊滅してるんだぞ!】
【良いから行くんだよ!殺されたいのガッ⁉︎】
一機止まっていたMWに120ミリを撃ったら腰の関節部分に直撃して爆散した。
「やりぃ!クリティカルヒットだ!」
『12、攻撃ヘリ二機とMW一機撃破だね』
「おうよ!正直に言ってこの戦果を持って帰りたい!今直ぐにな!」
『02より12!喜んでる所悪いけど、前方の敵に動き有り!来るよ!』
『こちら03、敵は軽装甲車と歩兵を中心とした動きだ。接近戦に持ち込まれたら厄介だぞ』
『オレ、敵、叩キ潰ス』
『07狙撃開始します』
『08も撃つネ。唯、歩兵の数が多いネ。抜けられたら結構危ないヨ』
敵部隊は戦車と軽装甲車を先頭にMWと歩兵が続いて行く。更に歩兵は遮蔽物や放置車両を盾に銃で攻撃しながら徐々に距離を詰め始める。
「こんなの唯の偵察部隊に任せる内容じゃ無いぜ!」
『ボヤくな。それより目の前の敵を撃て』
「なら砲塔の銃座に着いてくれ。そうした方が身の安全が少しは確保出来そうだ」
『分かった。待ってろ』
『待って06、私が援護する』
『頼む!行くぞ!』
06と11が此方に近寄って来る。なので俺も主砲同軸8.5ミリマシンガンを使い牽制射撃を行う。
『敵歩兵が接近中!歩兵は直ぐに対処するんだ!』
『だったら増援を寄越せ!連中は死に物狂いでこっちに向かって来てる!』
「06!かなりヤバいかも!味方の通信も結構切羽詰まってる!」
『今銃座に着いた!お前は正面の敵を殺せば良い!』
「120ミリで歩兵を殺せってか?勘弁してくれよ!」
『死にたく無いなら殺るんだ!』
砲弾をHE弾に切り替える。そして軽装甲車に向けて主砲の照準を向ける。
(120ミリで撃ったら原型は留めないだろうな)
どこか他人事の様に考えている自分が居る。しかし撃たなければ敵はこちらを殺すだろう。
ならば簡単だ。少しだけ躊躇した人差し指は、何事も無かったかの様にトリガーを引いた。
120ミリのHE弾は軽装甲車を吹き飛ばしながら周りの歩兵も巻き込んで行く。無論、反撃は来るのだがポジション的に良いのか、遮蔽物となっている瓦礫が上手く弾受けをしてくれていた。
被弾しても一番硬い正面装甲の砲塔にしか当たらないので問題は無い。
『左の建物の壁際から寄って来ている。12、吹き飛ばせ』
「了解、目標を確認した。撃つぞ」
味方の戦車も二輌ほど破壊されたが、どうやら今回は俺達の勝ちらしい。
『此方、トミオー国防軍第68機械化師団所属のアルタ大尉だ。これより前線の味方を援護する。カルダ中隊続け!』
味方のAW中隊が増援として到着したのだ。流石にAWには勝てないと悟った敵歩兵部隊は、残っている軽装甲車や兵員輸送車に乗り込み撤退する。
殿としてのMWと戦車は見捨ててだ。
次々と敵MWと戦車を破壊する所を照準器越しに見る。もし、俺達が似た様な立場になったらどうなるか。
考えたら悪寒しか感じなかったので頭を横に振って嫌な事を吹き飛ばすのだった。