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外人偵察部隊第605機動小隊

 タケル軍曹が退院した翌日。俺達は街に出掛けていた。

 あの戦いでは俺達の出番は殆ど無く、本隊やAW、MW持ちの傭兵達しか駆り出されなかったのだ。無論、前線基地の警備として見回りくらいはしていた訳だが。

 しかし再び戦線が膠着してしまった為、ダメ元で外出届を提出したら許可が降りてしまったのだ。恐らく一部の歩兵小隊が居なくなった所で問題無いと判断されたのだろう。


「しかし、こうして部隊の軽装甲車を使えるなんてな。案外管理が緩いもんだ」

「今は下位の部隊まで面倒をみてる暇は無いからな。まだ再編成が完了して無いと聞いている」

「それでも俺達は新しい装備一式と共に前線偵察に赴く事になるけどさ」

「お前は戦車に乗れるじゃないか。文句は言うな」

「いざって時は俺が弾受けしてやんよ」

「少しは期待させて貰うさ」


 俺は運転しながらタケル軍曹と話していた。あのカーチェイスの一件以来、タケル軍曹は少し大人しくなった。いや、正確に言うなら態度が柔らかくなったか。

 以前は必要以上に警戒されてたからな。


「ねぇねぇ、やっぱり戦車があると今までとは違う場所に配置されるのかな?」

「だろうな。けどまぁ、腐っても戦車だ。何百年も前は戦車が陸の主力だったんだ。今でも簡単にはやられねぇよ」

「流石シュウ上等兵ね。頼りになっちゃうなぁ〜……ふぅ」

「ッ!やめろ!この男の娘が!野郎に耳ふぅされたって嬉しく無いんだよ」

「照れちゃって〜」

「照れてねぇよ!会話が通じねえのか!」

「不思議。会話が全然噛み合って無いのに問題無い気がする」


 俺とリロイ上等兵の会話を冷静に分析するレイナ伍長。

 そして外人偵察部隊第605機動小隊は全員無事に街に到着した。この街には戦火が飛び火して無いのか人通りは多い。しかし高層ビルなどの高い建物は殆ど無く、下町みたいな雰囲気だと感じた。

 軽装甲車を有料の駐車場に止めてから各自バラバラに行動して行く。俺達の様に傭兵ギルドに向かうか、街で買い物をするかだ。


「傭兵ギルドに行った後はどうする?」

「なら僕は下着を買いに行きたいかなぁ」

「勝手に行って来い」

「私も行きたい」

「なら皆で行くか。男性陣はその間は別の買い物をすればッ危な!」

「避けんな!」

「避けるわ!」

「何をやってるんだ。お前達は」


 和気藹々としながら各自はバラバラに行動して行く。

 因みに俺、レイナ伍長、タケル軍曹、リロイ上等兵は傭兵ギルドへ向かってる。リロイ上等兵は暇だから俺達に付いて行くらしい。

 俺達は傭兵ギルドで手続きを直ぐに終わらせて、そのまま街を探索する。戦場から離れられたなら普段出来無い事をやるべきだろう。


「で、リロイ上等兵はスーパーの下着売り場に行けば良いんだっけ?安物なら色んな種類が揃え易そうだもんな」

「今夜、勝負下着で行くから……逃げんなよ」

「今夜、タケルの所に行っても良い?」

「俺を巻き込むな」

「何言ってんだよ。お互い死戦を潜り抜けて来た仲だろ?俺達戦友だろ?な?助けてよ」

「それは自業自得な気がする」

「そんなレイナ伍長まで……」


 お喋りをしながら街中を歩いて行く。一般人は戦闘服を着ている俺達を若干避ける様に歩いて行く。

 しかし、それは仕方無い事だ。俺達は日常の中に居る異物みたいな物だ。何より惑星トミオーでドンパチやってる張本人達なのだから尚更だろう。


「シュウ上等兵は何か買いたい物とかあるの?」

「あぁ、ハンドガンを変えたいんだ。出来る事なら大口径な物が良いんだ」

「今のハンドガンはダメなのか?」

「この前のカーチェイスで軽装甲車の窓をノックしてただけに終わったからな。あの時にタイヤを撃ち抜けたのは運が味方してくれてたよ。後は敵の整備不良に感謝だね」

「ふぅん。でもハンドガンなら軍かギルドで買えば良かったんじゃない?」

「パッと見たけど欲しいのが無かったからな」


 そして女性用の下着店にレイナ伍長とリロイ上等兵を連れて行き、俺とタケル軍曹はそのまま銃砲店へ向かう。


「見つけた。銃砲店だ……どうした、シュウ?」

「こ、コレは……まさか」


 銃砲店へ着いた時だった。俺は体の全身に稲妻が走ったかの様な衝撃を受けた。


 この瞬間、俺は運命の出会いを果たしたのだ。


 この世界に来て初めて見たと言っても過言では無い代物。どこぞの大怪盗の相棒が持つ浪漫が詰まった銃。

 効率も何も無い大口径リボルバーがガラス越しの店頭に誇らしげに飾られていたのだ。


「美しい……何て、素晴らしいマグナムなんだ」

「弾は六発しか装填出来んのか。同じ弾を使う物で装弾数が多いのを選んだ方が良い」

「タケル、お前馬鹿なの?このリボルバータイプだからこそ価値が有るんじゃないか!」

「……六発しか入らんぞ?色も実用的では無いし」


 分厚い銃身に頑強な見た目。更に銀色でありながら派手過ぎず、上品な色合いをしている。

 銃身にはM&W500、グリップの上には四つの羽を持つ天使の様奴がカッコ良く彫られている。

 それはこのマグナムを持つ者の魅力を押し上げながらも、決して邪魔をせず一歩後ろで寄り添うかの様な雰囲気を持っていた。


「ほ、欲しい……お値段はッ⁉︎た、高ッ!なんじゃあこりゃあ!」


 今の自分の手持ちでは絶対に手に入らない金額に滅茶苦茶ビビる。


「これは金持ちのアクセサリー用だな。普通なハンドガンを買っとけ。ほら、アレとか同じ弾を使うが手頃な値段だぞ」

「…………」


 動かない俺を無理矢理店内に連れて行くタケル。そして色んな銃を見せて来るがどれも魅力的では無い。

 いや、実用重視ならタケルが選んだ銃は全て良い物なのだが。

 俺は我慢出来ず店主にM&W500の価格について聞いてみた。すると、どうやら古い銃でありながら限定モデルで外には全然出回って無いらしい。更にリボルバータイプ自体既にほぼ廃れているので、尚更希少価値が高くなっているとか。

 無論リボルバータイプは今でも販売されてはいるが、あくまでも護身用か民間止まりになっている。


「はぁ……マジかぁ」

「諦めろ。今回は買うのは止めておくか?」

「そうする。しかし、あー……買うには後、何回参戦すれば良いかな?」


 報酬額がデカい任務なら喜びたいが、生憎俺達は歩兵止まりだ。そう言う任務はAW、MWの特権だろう。

 暫く店頭で飾られているM&W500を眺めているとレイナ伍長とリロイ上等兵が来た。


「何やってるの?」

「某トランペットボーイみたく欲しいオーラ出しながらマグナムを眺めてる」

「窓に顔油が付いてるよ?」

「喧しい」


 余りの欲しさに窓に顔面を押し付けていたらしい。いやはや、全然気付かなかったぜ。


「へぇ、結構綺麗な銃だね」

「お?リロイ上等兵はこいつの良さが分かるみたいだな」

「うん!アクセサリーに良さそうだよね!」

「やっぱりその程度の認識だよなぁ。はぁ、リロイ上等兵の感性にはがっかりだよ」

「……実用性は無いけどカッコいいとか?」

「流石レイナ伍長だ。その素晴らしい感性に乾杯だ」

「えー、六発しか入らないじゃん」

「そうだぞ。だから普通のを選べと言っている」

「何言ってるのさ!この戦場では似合わない見た目と浪漫だからこそ価値が有るんだよ!」

「何となく分かるけど。余り価値は無い」

「ガハッ⁉︎ゆ、唯一の理解者からの無慈悲さが……一番辛い」


 レイナ伍長からの痛烈な一撃により崩れ落ちる。


「大丈夫?僕が側に居るから元気だして。ね?」

「ね?では無い。全く、リロイ上等兵は油断も隙も無い。ほら、早く立て。周りの邪魔になる」

「……おう。まぁ、今回は諦めるか。今度買いに来るまでに金を貯めておけば……あ」


 その時だった。銃砲店の前に一台の金持ち御用達の高級車が止まる。そしてドアから使用人が出て来てドアを開けると、これまたボンボンの小太り小僧と父親が出て来た。

 その瞬間、俺にはあの親子がM&W500を買う姿が想像出来てしまった。


「ねぇパパ。本当にどんな銃を買っても良いの?」

「勿論だとも。ほら、あの飾られてる銃でも良いんだぞ?」


 その言葉を聞いた瞬間、絶望感が身を包み一気に血の気が引いた。

 あの美しくも力強いM&W500を見れば金持ちは直ぐに買ってしまう。そもそも金持ち相手に売る為に店頭に飾られてるのだ。


(あぁ、終わったぁ。さらば、浪漫マグナム!達者でな!)


 だが仕方無い事だろう。今の俺に出来る事と言えば指を咥えて見てるくらいだけだ。金貸しに頼るとしても、所詮は傭兵ギルドに所属してる新兵だ。信用も何もない奴に金を貸す所なんて殆ど無い。

 なので大人しく立ち去る事にした。自身の生まれと文無し人生を恨みながら。しかし、次の言葉を聞くまではだ。


「えぇ〜?何か形が古臭くてやだよ。それより帝国製の最新のアサルトライフルが欲しいよ」

「ハッハッハッ。そうかそうか、なら店の中で一番良い性能の物を用意させよう」

「流石パパ!やっぱりパパは凄いや!」

「何だと!このムガッ‼︎ムームー‼︎」


 M&W500を笑い飛ばしながら店内に入る小太り親子。俺は直ぐに文句を言ってやろうとしたが、タケルに口元と身体を抑えられていた。


「落ち着け。お前が文句を言った所で意味は全く無い。寧ろ売れなかったんだから良かっただろうが」

「それとこれとは話が別なんですぅ!好きな銃を貶されて喜ぶと思ってか!」

「はぁ、面倒臭い。ほら行くぞ」

「待てタケル!あのボンボン親子に文句の一つも言えてない!」


 そのままタケルによって引き摺られながら銃砲店を後にする。


「全く、何でお前は直ぐに無謀な事をしようとするんだ」

「だってさ、あの成金気味の親子共が浪漫満載のマグナムを馬鹿にしたんだぜ?浪漫神に変わって天誅を降さんと思って」

「シュウ、浪漫神って何?」

「レイナちゃん、多分気にしなくて良いと思うよ?」


 結局、あの後は他のメンバーと合流して晩ご飯を街で食べてから基地に帰還した。




 それから二週間後に外人偵察部隊第605へ新たな任務が下された。命令内容を簡単にするなら、前線の様子を見て来いと言う命令だ。


「子供のお使いじゃないんだからさ。そう言う仕事はAW、MWを配備してからにして欲しいぜ」


 戦闘服に着替えてパワーアシストを装着。MG-80軽機関銃を確認してから格納庫に向かう。

 そして格納庫に到着すると既に出撃準備が整ったD1-Bオビリオンが待っていた。

 俺以外の傭兵達も次々と戦車やMWに乗り込んで、エンジン音を唸らせながら戦場へと出撃して行く。その光景を見るだけでも既に俺の中の少年心がワクワクしているのは仕方無い事だ。

 俺はD1-Bオビリオン戦車の操縦席に乗り込む。元々D1-Bオビリオンは二人乗りの戦車だ。それを一人乗りに改修しただけなので運転席にも人が乗れるスペースはある。


「システムの起動を開始」


 狭い操縦席ではあるが、MWの操縦席と殆ど変わらない。その為、シミュレーターでの操作訓練でも直ぐに慣れる事が出来た。

 強いて問題点を言うなら横移動の時は車体を回す必要があるのと、運動性がそこまで高く無い事だろう。


「システムチェックオールグリーン。エンジン始動開始します」


 エンジン始動させると力強いエンジン音と振動が車内に響く。


「12より01。これよりそちらと合流します」

『01了解した。此方も既に準備は完了している。今回は前線への偵察だが戦車の戦力は必要だ。頼むぞ」

「了解。さて、今回は戦車での初陣だ。気合い入れて行くぜ」


 D1-Bオビリオンを前進させて仲間達と合流する。そして他の部隊と共に再び前線へと向かうのだった。






 外人偵察部隊第605機動小隊は指定された場所まで向かっていた。


「戦車一台と軽装甲車三台か。戦力としては心細いよな。 まぁ、生身一つで戦場を駆け回るより遥かにマシだけど」


 企業同士の戦争から国が介入した戦場。最早廃墟となっている街中を警戒しながら前進する。

 D1-Bオビリオンを先頭に目標ポイントまで向かう。しかし廃墟の街は非常に静かな物だ。先日までは銃声、爆発音が毎日の様に奏でていたのだが、今では戦車と軽装甲車のエンジン音しか聞こえない。


『間も無く目標ポイントに到着する。各員警戒は怠るな』

「了解です。今の所はセンサーには人っ子一人反応は有りませんけど」

『気を抜くな。企業側はどんな手段でもやる。罠には充分に気を付けろ。怪しい物には近付くな』

「怪しい物ねぇ。どれもこれも怪しい物にしか見えないんだよな」


 放置車両やゴミ箱。更に誰かのトランクやバックですらブービートラップにしか見えない。

 しかし今の俺達に後退の選択肢は無い。何故ならこれから目標ポイントでの偵察を行わなければならないのだから。


「さて、何事も無く終わってくれれば良いんだけどな」


 心にも無い事を言いながらD1-Bオビリオンをゆっくりと前進させる。

 恐らく企業側から何かしらのアクションはある筈だと認識している。前回のトミオー国防軍が攻勢に出た時だが、企業側の罠だった可能性がある。何せティーンマーティスの援護をするかの様にミカヅキがトミオー国防軍に攻撃を仕掛けたのだ。

 然もAW隊を存分に投入しながらだ。


(最悪なのはトミオー国防軍の上層部が買収されてる事だよな。司令官や上官クラスが買収されてたら作戦もへったくれも無いし)


「はぁ、早くAWに乗りたいなぁ」


 AWに対する憧れを捨てる事無く周囲を警戒している辺り、俺も大分戦場に染まったなと思うのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 再開とても嬉しいです❗
[一言] 更新に感謝をぉおおっ! マグナム、あれは良いものだ...
[良い点] 平和な休息日と一目惚れ [気になる点] ああ、浪漫マグナム良いなぁ 私も欲しい
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