話の続き
此処で一旦更新止まります。
修理工場には何人かの作業員がトラックや何かの装置を解体したり修理していた。俺は手近に居る作業員に声を掛ける。
「すまんがオーナーさん居るか?ちょっと話があってな」
「オーナーですか?一体、どう言った用件で?」
「何、車を一台買いたいだけさ」
「分かりました。少し待ってて下さい」
暫く待っていると他の作業員と同じ様な作業服を着た男性が近寄って来た。
「私が此処のオーナーですが。車を買いたいと?」
「あぁ、その通りだ。唯、ちょっと手持ちがな?その辺りも含めて別の所で話さないか?」
「……良いでしょう。但し、武器は此方で預かります」
「アンタが直接預かるんなら良いよ。チュリー少尉もそれで良いよな?」
「構わないわ」
手持ちの銃をオーナーに渡す。そして俺達は別室に案内される。
「どうぞ、お座り下さい」
「単刀直入に言おう。端末からの支払いでお願いしたい」
「……良く、私が正規市民だと分かりましたね」
「店構えてる奴は正規市民が多い。特に大きい所は尚更だ。この工場地帯のトップは全員正規市民だろ?」
「…………」
俺の問い掛けに無言で答えるオーナー。それでも構わず話を進める事にする。
「別に答えは期待して無いよ。それで?商品は売ってくれるんだよな?」
「……私が正規市民だと言う事は」
「黙ってれば良いんだろ。分かってるさ。雇ってるゴーストを低賃金で働かせて、その姿を内心笑いながら見下している事もな」
「別にその様な事は」
「どうでも良い事さ。それより商談しようぜ。話が進まないからな」
オーナーは静か頷いて俺達を車がある場所まで案内する。
「どう言った車を御所望で?」
「長距離走っても壊れない奴な。こんな往来の少ない場所の途中で壊れたら詰みになるからな」
「分かりました。でしたら、この辺りかと。型は古いですが大衆車ですので頑丈ですよ。何よりテロリストにも人気車両です」
「確かに良く見るわよね。反政府軍とかが似た様なの使ってる気がするし」
「セダンとトラックか。セダンで良いか。追加の燃料と予備のタイヤも頼む」
そして幾つか追加でオプションとかを頼む。後現金も百万クレジット程お願いした。
「では、お値段は此方になります」
「どれどれ……ぼったくるね。ほらよ」
「毎度です。では鍵と銃です」
俺は無言で鍵と銃を受け取る。そして車に乗り込みエンジンを掛ける。
エンジンはスムーズに掛かり音も実に軽快な物だった。これなら多分大丈夫だろう。
「では、行ってらっしゃい」
「あ、そうだ。アンタに余計な一言を。ゴーストを見下してるのと同時に、こんな場所に居るアンタは同じ正規市民から見下されてる。もう一度這い上がる気があるなら死ぬ気で努力しな」
そう言ってから車を走らせる。オーナーは此方を睨んでいたが、結構ぼったくってたのでザマァ見ろと言った気分になった。
「この車幾らしたの?」
「両替した分抜きで二百万クレジットだな。完全に足元見られてたから仕方無いが」
「……後で半分払うわ」
「要らん。フォーナイトをお釈迦にした時点で無駄使い出来無いだろ。特にフリーの傭兵だとさ。俺はまたスマイルドッグのサラガンに乗るから構わないけど」
「マスターのさり気ない優しさは素晴らしいとネロは感じます」
「お?そうか。やっぱりネロは分かってんな。流石最高の相棒だぜ」
「光栄です」
車を走らせながら他の店に寄って行き食料や毛布も買って行く。そして、そのままゴースト街を出てボロボロになっている舗装された道路に出る。
「ネロ、空港までの経路を端末に出してくれ」
「了解しました。一番近いカモミール空港まで、およそ920キロです」
「結構遠いな。半日以上は確定だな」
「途中で交代すれば大丈夫じゃない?」
「それでも夜に走るのは危険だ。それに、この車も走り続ける事が出来るか分からん」
「分かったわ。取り敢えず疲れたら言って頂戴」
「おう。まぁ、暫くは安全運転で行けば良いさ」
そして車をネロが出した経路に沿って走らせる。所々ヒビが入っている道路だが、普通に走っていれば問題は無いだろう。
俺は適当なラジオを付けて気を紛らわせる事にした。
『では次のニュースです。惑星ニュージェネスで【ゴースト更生労働法】の法案が議会に提出されました。これにより議会での審議が行われる事になります。しかし、ヨハネス・シュナイダー現総統の強い後押しにより法案が可決される可能性が高いと専門家は見ており』
ラジオからは別の惑星の話題が流れていた。しかし、このゴースト更生労働法は他の惑星国家からの関心が非常に高いらしい。
「ゴースト更生労働法ね。シュウ少尉にとって余り良い話題じゃ無いわよね」
「別に気にしないね。俺はもうゴーストじゃ無いからな。後は野となれ山となれだよ」
仮に今でもゴーストだったらどう思うだろうか?まぁ、完全に対岸の火事だと思いながら日々を過ごすんだろうなぁ。
「此処まで成り上がれた自分を褒めてやりたいぜ。あの時から死ぬつもりで戦場に出てたが、結果として今の状況になったからな」
「そう言えば話の続きが気になるわ」
「はぁ?いや、話すかどうかは俺が決めるよ」
「どうせ先は長いんだから。それにあんな中途半端に終わっちゃったんだから話す義務が有ります」
「いや、義務とか無いから」
「なら……話してくれたら貸し一つにして良いから」
「じゃあ今日寝る時に尻尾を抱かせてくれ。それで充分だ」
「……馬鹿じゃ無いの?」
「貸し一つだろ?女に二言が許されるのは惚れられた女だけさ」
俺はチュリー少尉の言葉を無視しながら口を開く。
タクシーでトミオー国防軍の本隊と合流出来た後の話をだ。
あの後、目が覚めたのは医務室の部屋だった。周りを軽く見渡せば他にも何人かベッドで横になっていた。
「そっかぁ、無事帰還出来たのか」
「そうだな。お前のお陰とだけは言っておく」
「相変わらず素直じゃ無いな。タケル伍長殿」
横からタケル伍長の声が聞こえたので見てみると、左足にギプスを装着して包帯を所々に巻いている姿だった。
無論、自分の姿を確認したが似た様な物だった。それでも無事に生きて帰還出来たのだ。
「そう言えば、レイナ上等兵は?」
「レイナは軽症と疲労だけだ。お前も目が覚めたんだ。直ぐに退院するだろう」
「俺が退院したら目の前で美味い物食べてやるから。病院食を楽しんでくれ」
「……お前と言う奴は」
タケル伍長で遊んでいると外人部隊605歩兵小隊のメンバーが入って来た。
そして俺が普通に話してる姿を見たアラン軍曹は、涙目になりながら大きな声を出しながら抱き締めて来た。
「ウオォアァァアア‼︎ジュヴヴゥゥ‼︎生ギデダアァァア‼︎」
「グゥギュエエェェエ⁉︎つ、潰れ、潰れるうううう⁉︎」
「アラン軍曹!シュウ上等兵がもう一回入院しちゃう!」
リロイ上等兵の言葉に慌てて離すアラン軍曹。危うく味方によって物理的にミンチにされる所だった。
「大丈夫?何処か痛い所はない?何なら僕が看病しようか?」
「心配してる振りして人の息子を撫でるな!」
「アン。もう、照れ屋さん」
全く悪びれる様子が無いリロイ上等兵の頭にチョップを喰らわせるが効果は無い。
「全く。所で今さ、俺の事を上等兵って言ったか?」
「私達三人が昇進。今度傭兵ギルドに行って申請するから」
レイナ上等兵……いや、伍長になったのか。レイナ伍長がアラン軍曹の後ろからひょっこりと顔を出しながら教えてくれる。
「そうか。まぁ何だ、お互い昇進おめでとう」
「うん。タケルもシュウ上等兵もおめでとう」
「そうだな。今は昇進した事を素直に喜ぶとしよう」
そして俺は軍医から退院許可が降りたので病室から出る。診断結果も細かい怪我が幾つか有るだけだったからな。
あの後、俺は食事時にタケル軍曹に高カロリーのよく分からないお菓子を上げてから一人で基地内を散策する。
基地と言っても所詮は臨時で敷設された前線基地だ。しかし未来技術と言えるのか簡易型の建屋が立ち並び、パッと見た限りでは立派な前線基地にしか見えない。
そんな基地内を歩きながら数日前の事を思い出す。故郷の惑星ミョーギから一人逃げて、戦火が広がる惑星トミオーにやって来た。そして日々戦っていたがちょっとしたミスで味方から置き去りにされて、身を隠しながら敵から逃亡。そして最後にタクシーで映画さながらのカーチェイスを繰り広げながら帰還。
「我ながら随分と無茶をするものだ」
そして渡された上等兵の階級章と端末から新しくなる新設部隊を見る。
【外人偵察部隊第605機動小隊】
端末から詳細を見ると戦車一台と軽装甲車三台が配備される。そして前線での偵察を行いながら戦うか後退するかだろう。
戦力は増強されたが、代わりに前線に行って死んで来いと言われてる様なものだ。
だが、俺は決して悪い考えには行かなかった。
「戦車か……悪くないチョイスだ」
贅沢を言うならMWの方が良い。だが戦車も悪く無い。
この時代の戦車も充分高い性能を持っている。上手く地形を利用すればMW相手でも互角に戦える。
今回配備された【D1-Bオビリオン】は単座式の戦車だ。操縦系はMWをベースにしているので操縦は容易だろう。唯、足回りは履帯なので横移動は車体を旋回させる必要がある。
それ以外なら充分な性能を持っている。
「正面装甲なら130ミリだって耐えれる。側面もRPGや対戦車ミサイルを防げるだけの装甲はある。何より機動力があるから避け易い」
そして空を見上げると小惑星が二つ見える。俺はその小惑星を見ながら独り呟く。
「此処まで来たんだ。出来る事なら仲間達と一緒にこの戦いを最後まで生き抜きたい」
様々なモノを見捨てて来た俺だが諦めた訳では無い。今は昔と違って少しは力がある。微々たる物だがゼロでは無いのだ。
「俺はやるぞ!全員生かしてハッピーエンドだ!」
「私もシュウ上等兵と同じ気持ち」
「うわっはあっ⁉︎い、いつから其処にいたんだよ!レイナ伍長!」
いきなり声を掛けられたので吃驚して変な声が出てしまった。
そんな俺を不思議そうな表情で見ながら呟く。
「正面装甲なら〜て所からかな」
「そこそこ始めな所だな。具体的に言うと俺が独り言を始めた時だよ」
「そうなの?所で何を見ているの?」
「何って、新しく配備される戦車に関してだよ。操縦は俺が担当するからさ」
「私は戦車よりMWを配備して欲しかったかな」
レイナ伍長は少し残念そうな表情をする。しかしMWが配備されたら俺はお別れになるだろう。
「何言ってるよ。MWが配備されたら歩兵の居場所は殆ど無いよ。使えるとしても待ち伏せか、随伴する歩兵と戦闘になるだけ。と言うかMWは別の部隊になっちゃうだろうし」
「そうなの?初めて知ったかも」
「まぁ、MWと言っても状況次第では歩兵と一緒に戦闘するからな。AWやMWは汎用性が高い分、色々な所に投入されるだろうし」
「そっか。なら戦車で良かったのかな」
「まぁな。それにMWに乗る時は多分別部隊に配属される筈さ」
そう言ってから再び前を向く。僅かな間ではあるが外人部隊第605歩兵小隊のメンバーと共に生き抜きたいと思ってはいるからな。
「シュウ上等兵、貴方は優しいのね」
「はい?いや、別に優しい訳じゃないよ。唯、俺は今の部隊で満足している。けど、何時迄も此処に居続けたい訳でも無いんだ」
俺はレイナ伍長を見ながら自分の夢を語る。
「俺はいつか正規市民になりながらAWパイロットになる。そして誰もが羨むエースパイロットになる!」
「エースパイロット?エースになると何かあるの?」
「あるさ!周りが俺を放って置かないし、高額の依頼が個人で来る!更に美女美少女が俺に対しキャーキャー言いながら寄って来るってなもんよ!」
それから暫く夢を語り続ける。そんな中、俺はレイナ伍長にも夢が有るか聞いてみる。
「レイナ伍長には何か夢はあるのか?芸能人になりたいとか」
「無い。強いて言うならタケルと一緒に生き抜きたいだけ」
「え?それだけ?」
「うん。特に無い」
寂しい。余りに寂しい内容に心の中で涙が出る。
だからだろうか。僅かな同情心から俺はレイナ伍長に向けて言った。
「なら、俺に着いて来い。レイナ伍長もタケルも此処まで生き抜いて来た。唯、生き残る事が全てじゃない。そうだろ?」
「そうかな?今まで他の事なんて考えた事も無かった」
レイナ伍長の発言に少し驚くが、元がゴーストならと納得した。
「良いか。この宇宙にはまだ見た事も無い物が沢山有るんだ。美味しい食べ物や綺麗な景色。そして何より知識と常識さ」
「知識と常識?何でそんな物が?」
「それはな、より良い生活の為さ。後は自分自身を守る為だ。知識が有れば態々危険な場所には行かない。そうだろう?」
レイナ伍長は少し考える素振りを見せる。しかし、これで分かった。やはりゴースト出身では何もかもが不利なんだ。
「今は分からなくても良い。だが、いつか理解する時が来る。その時に色んな事を学べば良い。人は、学べる生き物なんだからな」
「シュウ上等兵は学んだの?」
「勿論。俺は運が良かった。先人達に救われたと言っても良い。お陰で……」
俺はその先を言う事が出来なかった。
考えれば当然だろう?子供達を犠牲にして一人だけ生き残り、周りを助ける事もせず、全て自分だけに使って此処に来た。
果たしてそれは胸を張って言える事だろうか?
俺が黙っているとレイナ伍長は静かに寄って来た。
「シュウ上等兵は色んな事を学んでたんだね。だから色んな事が出来たんだ」
「あ、あぁ。まぁ、良い事ばかりじゃ無いけどさ」
「私はずっとタケルの後ろに隠れてた。けど、色んな事を覚えればタケルを助けれるかな?」
「そりゃあ勿論だ。色んな事を覚えてれば何かの役に立つのは間違い無いんだ」
そして暫くレイナ伍長と夢や将来について話す。
しかし殆ど話してるのは俺だけだ。だが、それでも俺は知ってる事を色々話して行く。
せめて彼女が未来に希望を抱いて欲しいと願いながら。