カーチェイス
20ミリの弾丸が襲い掛かる前に、俺はタクシーのハンドルを動かし左の角を曲がり射線を切る。
「タクシー相手になんつー物撃ち込んでんだよ!味方との通信はどうだ!」
「駄目。呼び掛けてるけど繋がらない。もしかしたらジャミングされてるのかも」
「だとしたら本隊に近付くしか無い。そうすれば直に繋がる!」
タクシーを加速させてる間にも後方からは軽装甲車二台とタランチュラ一機が追い掛けて来る。
【奴を追い込め。楽しい狩りの始まりだぜぇ!】
【【了解!】】
タクシーを追い掛ける軽装甲車。更に銃座に取り付けられている12.5ミリ重機関銃に二人の兵士が配置される。
そして12.5ミリ重機関銃の銃口から火が噴いたのと同時に此方の後部ガラスが派手に割れる。
「敵が撃って来る!反撃してくれ!」
「分かった」
「弾はまだ残ってるな」
レイナ上等兵は助手席からXA-11アサルトライフル、タケル伍長は後部座席からMG-80軽機関銃を構える。
「近づかせない!」
「銃座を撃たせるな!当たったら一溜りも無い!」
反撃して銃座に攻撃を集中させる。しかし銃座にもしっかりと盾が付いており簡単には行かない。
「掴まれ!曲がるぞ!」
再び右へ曲がる。そしてギフトで先を視た光景に思わず舌打ちしてしまう。
そのままの流れで細い道へ入る。それと同時に一台の戦車と二台の軽装甲車が追加される。
【勘の良い奴だ。B小隊、そっちに向かったぞ】
【了解した。待機する】
細い道にはゴミ箱や空のバケットが散らばっているが全て無視してタクシーを加速させる。
「まだ追い掛けて来る」
「どうするんだ?このままだと追い込まれるぞ」
「まぁ、見てなって。俺のギフトの力を存分に発揮してやるからさ」
細い道から出て再び大通りに出る。再びタクシーを加速させて行く。
無論後方から軽装甲車四台が追い掛けて来ている。俺は最後の手榴弾を一つ取り出しピンを抜く。そしてギフトで先読みしたタイミングを合わせて手榴弾を放る。
抜けたピンと共に地面を転がる手榴弾。そして一台の軽装甲車の右下で爆発してタイヤが破損。そのまま歩道へ突っ込み放置していた車を巻き込み停車する。
「一丁上がりってな!」
そして次に視えたのが戦車一台が此方に迫りながら主砲を向けている光景。
「たっく、もう!」
逃げた所で壁ごと撃ち抜かれるだろう。ならば正面から行くだけだ。
今度は左に曲がると戦車が目の前に現れる。そして主砲を此方に向けて狙いを付ける敵戦車。
【敵を正面に確認。味方は左右に別れて退避しろ】
そして戦車と正面で対峙する。俺はタクシーの速度を緩める事無くアクセルを全開で走らせる。
【度胸が有るのか。それとも無謀な賭けに出たか】
戦車の操縦者は主砲の照準をタクシーに合わせる。
「さぁ、来い来い来いいいい‼︎」
俺は叫びながらタクシーを走らせる。同時に二人から悲鳴にならない声が出る。
(チャンスは一度っきりだ!)
全神経をギフトとハンドルを握る腕に集中させる。
そして戦車が発砲したのと同時にハンドルを切る。戦車から放たれた砲弾がタクシーの左側スレスレを通る。同時にミラーが吹き飛び運転席のガラスが割れる。
【ッ!避けただと!】
慌てて主軸同軸に付いている機銃を撃つが既に戦車の横を通り過ぎる所だった。
「少し派手に行くぞ!しっかり掴まれよ!」
タクシーを追い掛ける軽装甲車三台。そして右へ一旦曲がったのと同時にサイドブレーキを引きながらハンドルを一気に回す。
タクシーは上手く半回転してくれて、そのままギアをLに入れてアクセルを全開に踏む。そしてライトをハイビームにしながら再び加速する。
【なっ⁉︎光が!】
ハイビームの光によって一瞬視界を奪われる軽装甲車の運転手。慌てた様子でハンドルを切りながらブレーキを踏む。
先頭にいた一台の急な動きによって後方に続いていた軽装甲車が追突する。しかし、もう一台の軽装甲車はギリギリ避けて此方の追跡を再開する。
「ハァ、ハァ、な?如何なもんよ」
「ねぇ、大丈夫?顔色が悪いよ?」
「問題無い。それより水貰える?」
「うん。はい」
流石にギフトを多用しているからか、頭痛が酷くなって来た。水を飲んでも特に変わらないが安心させる為に軽く笑っておく。
【早く追い掛けろ!逃すな!】
【何やってんだ!テメェは!早く動かせ!】
【野郎、もう勘弁ならねえ。絶対にぶっ殺してやる!】
【ターゲットはデーリック通りを南下しています。恐らくトミオー国防軍との合流が目的かと】
タクシーを走らせてると再び銃撃戦が始まる。此方も反撃はしているが相手は軽装甲車。馬力の差で一気に距離を詰めて来る。
「一気に来やがったか!」
「安心しろ。お前は……前を見て運転しろ!」
タケル伍長はMG-80軽機関銃で軽装甲車のフロント部分の一点を集中的に狙う。8.5ミリの高い発射レートにも関わらず殆どズレてない。その結果、あっという間にエンジンを破壊して軽装甲車は爆発する。
「終わったぞ」
「流石タケル伍長。少しは楽に……ならねぇんだよなぁ。これがさ」
破壊した直後に新手の二台の軽装甲車がタイヤを滑らせながら横から現れる。ついでに戦車一台も細い道を無理矢理突っ切って瓦礫を撒き散らしながら主砲を此方に向けて来る。
「もう一戦だ。頼むぜ!」
タクシーを左に曲がる。それと同時に戦車が発砲して建物を吹き飛ばす。吹き飛んだ瓦礫がタクシーのボディに降り注ぐが無視してギアをDに入れて走り続ける。
大通りを走り続けるとタケル伍長がリロードしている隙を見計らって一台の軽装甲車が馬力を生かして一気に距離を詰めて来る。
そして真横に着いたと思ったら此方に体当たりをしてくる。軽装甲車に押されて歩道に乗り上げると、看板や放置自転車やゴミ箱を吹き飛ばして行く。
「このクソ野郎!煽ってんじゃねえよ!」
俺は拳銃で反撃するが意味は無く、ドアを軽くノックするに終わる。
再び軽装甲車が体当りをして来るので、俺の代わりにレイナ上等兵が俺の前にXA-11アサルトライフルを突き出して反撃する。
耳元付近で撃つので鼓膜にダメージが入りそうだったが、軽装甲車が僅かに距離を取ったので良しとしよう。
「このままだと逃げ切るのは難しいぞ。どうする?」
「こいつらだけじゃ無い。多分敵MWも追い掛けている筈」
《その通りだぜぇ。中々殺し甲斐のある展開にしてくれてるじゃねえか》
突然街中に響く声。そして敵のMC-44Fタランチュラが建物の屋上から降って来て、俺達の前に立ち塞がる。
《だが、鬼ごっこはもう終わりだぁ。楽しかったぜぇ》
その言葉と同時に俺は急ブレーキを掛けてスピードを落とし、軽装甲車の後ろに隠れる。無論、敵の軽装甲車は左右に動かしてタランチュラからの射線をズラそうとする。
「壁になってくれてありがとさん!じゃあの!」
そして隙を付いて左に抜けて広場に入る。それと同時に敵タランチュラと軽装甲車二台も追従。更に二台の軽装甲車が追い付いて来た。
広場には茂みが豊富で中央には噴水がある。恐らく街の住人達の癒しの場だったのだろう。しかし、今は俺達が広場を荒らしており癒しとは無縁の場所に成り果てていた。
タランチュラから20ミリマシンガンが此方を狙うが、広場の段差によってタクシーは飛び跳ねながら予想が付かない動きをする。そのお陰か被弾する事無く広場を抜ける。
しかし抜けた先は長い下り階段。
「あ、やっちまった!舌噛むなよ!」
「待て!此処は階段だ!走る場所じゃ」
「わぁ、シュウ一等兵凄いね」
そのまま一気に階段を下って行く。凄まじい振動が車内を襲うが我慢してハンドルを握り締めながら前を見続ける。
【逃すなぁ!此処で殺せぇ!】
四台の軽装甲車も負けじと追い掛けるが一台が操作ミスをして横転しながら階段を転げ落ちる。もう二台の軽装甲車からは銃座から12.5ミリの弾丸を此方に撒き散らしながら追い掛けて来る。
そして何とか階段を下り切り再び大通りに出る。
「レイナ上等兵!現在位置は!後通信は繋がるか!」
「本隊まで残り2キロ。通信は……あ、繋がった」
そして直ぐにトミオー国防軍の本隊に通信を繋げる。
例え正規軍では無くとも一応は味方だ。多分少しくらいは助けてくれると俺は信じている。
トミオー国防軍本隊は間も無く再編成が終わり、残存する味方部隊を救出する為に行動していた。
無論、外人部隊第605歩兵小隊も救出任務に参加する予定だった。
仲間が三人居なくなったが死体を見た訳では無い。もしかしたらの可能性は限り無くゼロだが、ゼロでは無いと信じている。
(やれやれ、今までだったら簡単に諦めていたのだがな)
ハラダ曹長は武器と装備を確認しながら出撃命令を待ち続けていた。
今までも似た様な状況は有った。そして諦めて次の補充を待つ。それが今までの流れだった。
それは今も変わらないと思っている。だがシュウ一等兵が入隊してから隊の空気は一気に明るくなった。
シュウ一等兵は世渡りが上手いのか正規軍と兵士と簡単に話をしている。そして様々な情報や面白い話を俺達に話してくれた。それに彼には明確な目標があり、それに向かって速いスピードで突き進んでいるのが分かる。
だからだろうか。そんな彼に刺激を受けて俺達も改めて目標を思い出したのは。そしてシュウ一等兵となら叶えられるのでは無いかと思い始めたのだ。
(幻想なのは分かっている。だが、今の隊の雰囲気は間違いなくシュウ一等兵が居てくれたからだ)
何より彼は仲間を見捨てたりはしなかった。寧ろ無理して救う時がある。そんな彼を個人的にも見捨てたくは無い。
そんな時だ。通信機から誰かの声が聞こえた。まさかと思いインカムを着けてから通信機を取る。
『此方……第605歩兵…………上等兵。応答』
上等兵と言えばレイナ上等兵だ。俺は慌てて返事をする。
「レイナ上等兵か!無事なのか!タケル伍長とシュウ一等兵はどうなっている!」
『全員無事…………追撃され……援護…………』
通信状態は悪い。だが状況は直ぐに理解した。俺は通信機に声を掛け続けながらトミオー国防軍の指揮官の元へと向かう。
例え援軍派遣が拒否されようとも俺は絶対に見捨てる事はしたくない。
「待ってろ!直ぐに援軍を送る!それまで生きて逃げ続けろ!これは命令だ!」
俺は彼等に生き続けろと命令する。そして彼等が無事に帰還出来る様に仲間達に通信越しに出撃用意をさせるのだった。