Hey TAXI
俺達は慌てて目の前の建物の中に窓から飛び込む。同時に20ミリの弾幕が勢い良く此方に襲い掛かる。
(耳元以外で死神が鎌を振る音を堪能するとか!マジヤバタニエン⁉︎)
内心叫び声を上げながら急いでレイナ上等兵の手を再び握りながら走り出す。そして此方に気付いた敵タランチュラは再び俺達を捕捉する。
【良いじゃねえか。あの攻撃の中で生きてるんだ。此奴は久々に殺し甲斐のある獲物になりそうだぜぇ!】
次々と建物の壁に穴が開いて行く。足を止めれば死ぬのは確実。俺達はミンチにならない様に必死に駆ける。
「そこのドアから出るぞ!」
返事を待たずに目の前のドアを押し開ける。そのまま裏道へと俺達は出る。しかし何時迄も逃げ続ける事は出来ない。恐らく敵は俺達をギリギリまで追い詰めた上で殺す筈だ。
「あの蜘蛛野郎は腐った性根してる。だが、それがチャンスだ。何か、何か使える物は?」
周りを見ると埃塗れの車が二台路肩に止まってるのと自販機が置いてあるくらいだ。だが、こんな物は使えそうに無い。
「二人共……俺を置いて行け」
タケル伍長が突然馬鹿な事を言い出す。だから俺はバッサリと切り捨てる。
「タケル伍長、そんな馬鹿な事言ってる暇があったら逃げ切る方法を考えてくれ」
「そうだよ。絶対にタケルを置いて行かない」
再び周りを見ながら走り出す。そして走ってる途中で一ヶ所だけ足に違和感を感じた。
振り返って見ると、其処には一筋の希望が見えた。
「マンホールだ!レイナ上等兵の力を見せる時だ!」
「わ、私そんなに力持ちじゃ無いもん!」
「パワーアシスト身に付けてるでしょう!良いから早く!Hurry Hurry!」
レイナ上等兵の乙女な部分を刺激しながらもマンホールを開けて貰う。それと同時に建物の屋上から敵タランチュラが降り立ってくる。
【鬼ごっこは終わりかい?だったら……あん?そうはさせねぇよ!】
敵タランチュラのパイロットは俺達がマンホールに入る所を目撃。そして20ミリマシンガンを此方に向ける。
だが、それは既に想定範囲内だ。俺は冷静にXA-11アサルトライフルに付いている最後のグレネードを撃ち込む。放たれたグレネードは右腕の20ミリマシンガンに直撃。そのまま一つを無力化させる。
【このクソガキャアアアア‼︎‼︎】
「あばよ!一人で吠えてな!」
そしてレイナ上等兵達が降りてる途中でも構わずマンホールの中に飛び降りる。途中、足元に何かの感触と二人の悲鳴が聞こえたが気にしない。
そして下水道に落ちた俺達は上を見る。すると此方に向けている20ミリマシンガンの銃口が見えた。
「諦めの悪い野郎だな!」
慌てて二人を引っ張るのと同時に20ミリの弾丸が襲い掛かる。俺達は慌ててその場から駆け足で逃げる。
【逃さねえぞ。このまま焼き殺してやる‼︎】
焼き殺すなんて物騒な声が聞こえたので後ろを振り返る。すると灼熱の炎が此方に迫って来る。
このままでは焼き死ぬ。そう思った瞬間、俺はタケル伍長に引っ張られ引き倒される。そして倒れた先は下水道に溜まってる汚水。
灼熱の炎は俺達の上を通り過ぎる。そして少し時間が経った後に汚水から出る訳だが。
「……くちゃい。フェイスガードの中に汚え水が!水が!」
「我慢しろ。レイナ、済まなかったな」
「……平気、我慢する」
「確かに助かったし逃げ道なんて汚水の中しか無かったもんな。それよりタケル伍長の足大丈夫?汚水とかめっちゃ入ってるんじゃね?」
「少し染みたが平気だ」
「平気な訳無いだろ。敵から逃れたら先ずはタケル伍長の左足を洗うぞ。水は少しは残ってる」
「俺は平気だと言っている」
「今はな。後から足が使えなくなったらどうすんだよ?それに感染症に罹ったら?足の治療費以外にも出費を増やしたいのか?」
俺はタケル伍長の返事を聞かずに歩き出す。そして俺に続く様にレイナ上等兵も付いて来る。
「だけど、実際さっきのはタケル伍長に助けられた様な物だったな。もし足元の汚水に入る前に炎を受けてたらずっと燃えてただろうし」
現に火炎放射器から撒かれた液体は今でも燃え続けている。このまま此処に居ると酸欠にもなる可能性も高い。
「だからさ、もし感染症に罹ったら少しくらいは出してやるよ」
「お前が常に素直な奴なら俺としては喜ばしい事なんだがな」
「喧しいわ。それより早く移動しよう」
「うん。私、基地に帰ったらシャワー浴びたい」
「俺も同感だよ」
「そうだな。この臭いは正直言ってキツい」
俺達は下水道の中をライトを付けて歩いて行く。暗い通路では俺達の足音しかしない。しかし、それでも敵がいつ何処で現れるか分からない状況。
五感を集中させながら敵の気配を探る。ギフトばかり多用すれば、また倒れる可能性が高い。少しでもギフトを使うのを抑える事も重要だ。
それから無言で暗い通路を歩いて行くと梯子を発見。俺は静かに頷いてから梯子を登る。そしてギフトを使いマンホールの蓋の先の周辺を確認する。
「よし、誰も居ない。どうやら敵は撒いた様だ」
二人にも合図を送りながらマンホールの蓋を押し開ける。そしてXA-11アサルトライフルを構えながら周辺を警戒する。
「あのスーパーに行こう。あそこなら水くらい残ってるだろうし」
「そうだね。なら急ごう」
「なら一度端末で場所の確認もしたい。それから味方の状況もだ」
「それなら尚更スーパーで一息入れたい所だな」
そしてスーパーに侵入しながら水や食料を探す。
既にこのスーパー自体も荒らされた後があり、棚に陳列されている筈の商品は一つも残ってはいない。ならばと思い従業員用のドアを探してバックヤードに有ると思われる在庫を探す。
「うへぇ、有るのは死体だけかよ」
暴徒と化した人々に襲われたのか。従業員と思われる三体の腐敗しながらも僅かに干からび始めた死体。そして従業員が作ったであろうバリケードも破壊されていた。
更に奥に進めば破壊され機能停止状態の警備ロボットもあちこちに転がっていた。
「そう言えばレイナ上等兵、パワーアシストのバッテリー残量は?」
「えっと、後二時間くらい」
「充電出来る場所はあると思う?」
「いや、無いだろうな。此処は唯の店だ。そんな場所にパワーアシストの充電装置は無い。作業用のパワーアシストがあれば話は別だが」
「唯のスーパーにそんな上等な物は無いだろうな。仕方ない。レイナ上等兵、パワーアシストを切って此処でタケル伍長と待っててくれ。俺が水を探して来る」
レイナ上等兵は静かに頷いてパワーアシストの電源を落とす。そしてタケル伍長を椅子の上に下ろす。
その間に俺は再びバックヤードの中を探索する。暫く探索していると500mlの水と何かの肉の缶詰を一つ見つけた。
食料は僅か一個の缶詰だけだったが、タオルは沢山見つけたのでタケル伍長の役には立ちそうだった。
「お待たせ。水と缶詰を一個ずつしか見つからなかった。けどタオルは沢山見つけた」
「ありがとう。タケル、足の布を外すからね」
「あぁ、分かった」
「痛いだろうから俺が手でも握っててやろうか?」
「要らん」
レイナ上等兵がタケル伍長に応急処置を行なってる間、俺は外の様子を確認しながら味方のオープン通信を繋げる。
しかし、オープン通信から聞こえるのは現在の地点で身を潜めて待機せよを繰り返すだけだった。恐らく再編成にはもう少し時間が掛かると思われる。
外の様子は若干明るくなり始めており、徐々に周りの様子か見えて来た。
道路の脇道には車が数台止まっているが、見える限り全ての車のタイヤはパンクしていた。更に道路にも事故車が何台も放置されており動かせる車は見当たらない。
「チッ、一台くらい動きそうなのがあっても良いと思うんだけどな」
つい舌打ちが出てしまうが絶望的な状態が続く中なので仕方ない。再び周りを警戒しているとある文字が見えた。
それは看板なのだが上半分が壊れていたが、下の文字にはタクシー株式会社と書いてあったのだ。まさかと思い端末を取り出し周辺の一般の地図で検索。
「どうやら、まだ希望は残ってるかも知れんな」
俺は地図を見ながら呟く。何故ならこの直ぐ近くにタクシーの会社があるからだ。
「タケル伍長、レイナ上等兵、もしかしたら良い物が有るかも知れない。少し其処で待っててくれ」
『何かあったの?』
「此処からの脱出に使えそうな物が残ってるかも」
『それは本当か?』
「運が良ければな。だが俺達は此処まで生き残って来れた。少なくとも流れは悪くねぇよ」
俺は周辺警戒を行いながらタクシーの会社まで走って行く。そして辿り着いた先にはシャッターが閉じられた車庫を発見。俺は事務所から中に忍び込み車庫の中に入る。
「やっぱりな。まだ残ってる」
車庫には五台のタクシーが残っていた。多少埃を被っていたが、どれも直ぐに使えそうな状態に見える。
事務所から拝借した鍵とタクシーのナンバーを確認して鍵を外す。そしてエンジンスタートのスイッチを押す。
しかし、此処に来て問題が発生した。
「バッテリー切れか。多分エンジンも何か壊れてるのかも」
エンジンルームを開けて中を確認するとヒューズが数個焦げていた。しかし俺は慌てる事は無く車庫に残されている在庫の部品を漁る。
「残念だったな。俺は今まで何となくで色んな物を直して来たんだ。今更エンジンの故障した部分を直すなんて朝飯前なのさ」
鼻歌混じりで手早く壊れた部品やタイヤを交換して行く。しかし流石にバッテリー切れに関してはどうしようも無い。
バッテリーの充電装置自体はあるのだが、大元が壊れているのかウンともスンとも言わない。
「クソ、動けよ。このポンコツ!」
充電装置を何度か叩いたり蹴飛ばしたりするが動く気配は無い。
他に何か使える物が無いか探すが見つからない。
「此処まで来て……あ、そう言えばパワーアシストのバッテリーがあったな」
俺は直ぐに二人を此方に来る様に伝える。勿論、周辺警戒は怠らず行ってだ。既に日が昇り始めており、周りは明るくなりつつある。
暗い夜中だからこそ隠れたり、移動出来たりする場所が使えなくなるのだ。
そして直ぐにレイナ上等兵からパワーアシストのバッテリーを回収してタクシーのバッテリーに繋げる。
「頼むぜ。掛かってくれよ!」
エンジンスタートのスイッチを押す。すると何度かエンジンが咽せ、次の瞬間エンジンは快調に始動する。
「よっしゃあ!どんなもんだ!」
「凄い。これなら脱出出来るかも」
「急いだ方が良いだろう。敵のMWがエンジン音を確認したかも知れん」
「だろうな。確か対人特化型MWの筈。最悪を考えるともう探知されてる可能性も高い」
そしてタケル伍長を後部座席に乗せて、レイナ上等兵は助手席に乗せる。
「さて、お客さん。行き先はトミオー国防軍の本隊で宜しいかな?」
俺はタクシーの運転席に乗りながらタクシーメーターを動かすのだった。
サタール中佐率いる残党狩り部隊は一度集結していた。何故ならサタール中佐の乗るMC-44Fタランチュラが僅かな機械音をキャッチしたのだ。
【この辺りだ。良し、戦車隊と歩兵隊は三方向に分かれて捜索だ】
【中佐、あの歩兵共の捜索は如何します?】
【連中は上手い事逃げやがった。だが、まだこの辺りに居る筈だ。序でに逃げた羊共も狩っておけ。あぁ、生捕りにする必要はねえ。全員皆殺しだ】
【了解しました。ではA小隊、敵の捜索を開始します】
【B小隊、捜索開始】
【C小隊も行くぞ。良い加減飽きて来たし。早い所、残党共を仕留めて帰還するか】
そして戦車と共にシュウ達を探索する。廃墟と化した家や荒らされた店。どの建物ももぬけの空と言える状態だ。
しかし敵は所詮無力な歩兵三人に過ぎない。とてもでは無いが、間抜けで腰抜けなトミオー国防軍本隊に戻れるとは思えない。
【精々自軍の弱さと自身の運の無さを恨むんだな。だが安心しろ。俺が痛みを感じる前に殺してやるからよぉ】
同情する気など微塵も無い感情を込めた台詞を口にしながらタランチュラを動かすサタール中佐。
その時だった。タランチュラのセンサーが僅かな熱源を検知。直ぐにその方向に移動させるサタール中佐。
【他の仲間と合流したか?それならそれで殺し甲斐があるから問題ねえんだよなぁ!】
そして建物の角を曲がった瞬間だった。突然黄色の何かがタランチュラの外側を横切って行く。
【何だぁ?タ、タクシーだとぉ?】
タクシーはそのままタランチュラを無視して通り過ぎて行く。そしてタクシーの中に三人の生体反応を確認した。
【良いじゃねぇか。逃げ切れればテメェらの勝ちだ!楽しませてくれやぁ‼︎】
サタール中佐は獲物を見つけた獣の様な表情になりながら、20ミリマシンガンをタクシーに向けてトリガーを躊躇無く引いたのだった。