死兵
宙賊相手の戦果は上々だ。艦船しか墜とせて無いが文句は言われないだろう。
「此方トリガー5。装備変更と補給の為に着艦許可求む」
『此方アルビレオ了解した。第二カタパルトから着艦許可を出す。傷を付けるなよ』
「そう言われちゃうと爪立てたくなっちゃうぜ。にゃーおてな。ハハハハ!ほら笑えよ」
『……』
どうやら俺の冗談は通じなかった様だ。これがオペ子だったら通じ……いや通じねえか。
「そもそも猫自体殆どの連中は知らにゃいし」
悲しい事に愛玩動物の猫や犬を俺は生で見た事は無い。聞いた話によると極稀に市場とかで出品される事があるとか。それ以外となるとチュリー少尉の様な獣人などの存在はいるのだ。
「悲しいにゃあ。取り敢えず着艦するにゃあ」
野郎のにゃあ語尾はイラッとするだろう。だが俺は気にしない。勿論反対にやられたらイラッとするので拳を其奴にプレゼントするけどな。
アルビレオに着艦後、D装備からA装備に切り替える事にした。因みにA装備は肩武装の非搭載型でB装備は搭載型に分けられる。大半の連中はA装備で出撃する場合が多い。理由は扱い易いからだ。
換装も直ぐに終わるので推進剤の補給と小休憩をしながら次の武装を選ぶ。
「今度は対AW戦になるからな。サブマシンガンの二挺持ちで行くか。予備弾倉も多目に装備してと」
近距離からの圧倒的弾幕をプレゼントしてやんよ。そして補給と換装が終わり再び戦闘が続いてる宇宙への出撃する。カタパルトにサラガンを接続し45ミリサブマシンガンを二挺装備する。
「シュウ・キサラギ軍曹、サラガン出るぞ」
そのまま再び戦闘宙域へ入り込む。現在アルビレオは仲間の巡洋艦と共にセクタル艦隊へ攻勢を掛けている。現状宙賊艦隊の壊滅により挟撃は失敗。今やセクタル艦隊は嫌でもエルフ艦隊と撃ち合わなければならない状況だ。
「俺がセクタル艦隊の司令官なら自分だけ逃げるな。エルフ共と真正面からやり合うとか御免被るぜ」
しかしセクタル艦隊は逃げる様子は無く果敢に攻撃を続行している。いや巡洋艦一隻と駆逐艦二隻が反転して強行的にワープして逃げ出した。残ってるのは巡洋艦一隻と駆逐艦四隻だ。
【各ユニットへ通達する。撤退の許可は出してある。任意のタイミングで撤退し戦力の温存せよ】
【此方スーザン5、その命令はネガティブだ。此処で奴等を倒す。それが全てだ】
【最早この命に意味は無い。なら最後まで戦うまでだ】
【全てを失ったんだ。せめて道連れは一人でも多く連れて行くよ】
セクタル艦隊とAW部隊の攻撃がより一層激しさを増す。だがエルフ艦隊の火力は絶大で一隻、また一隻と駆逐艦が轟沈して行く。
『此方トリガー1。こいつらは殿にしては随分動きが良い。まさか正規兵か?』
『正規兵?何処の正規兵よ。この辺りの宙域に惑星は無いわよ』
『だが動きは良い。連携も取れてる。セクタルの連中は所詮烏合の集だ。そんな連中にこれだけの戦力があるがイマイチ納得出来ん』
『トリガー1の意見に同意。手練れを殿に残す理由が無い』
『僕もそう思います。ですが今は目の前の戦闘に集中しましょう』
彼等の中に芽吹いた違和感。それが何かは今は分からない。だから直ぐに思考を切り替えて戦闘に集中して行く。
傭兵部隊が色々考えてる中俺は気にせず一人で戦い続けていた。セクタルのサラガンやマドックが交互に射撃をしながら態々接近してくる。
「この距離は俺の距離だぜ」
ギフトを使い攻撃を先読みして回避し敵機との距離を詰める。そして二挺の45ミリサブマシンガンから放たれる弾幕。先頭にいたサラガンが回避機動を取るが視えてる俺に取っては関係無い。
無駄弾を殆ど使う事なくサラガンは爆散。その爆煙の中からマドックがサーベル片手に斬りかかって来る。
【っ⁉︎何だと!】
「残念。全部視えてんだよ」
サーベルが振り下ろされる前に左足を突き出し右腕を抑える。そのまま至近距離で銃口を向ける。
「さよなら」
【ダムラカ再こッ⁉︎】
マドックのコクピットに向けて躊躇無く撃つ。敵パイロットは最後まで言い切る事なく宇宙の塵へと変わっていく。しかし敵パイロットが死ぬ間際に残した台詞が少しだけ気になる。
「ダムラカねぇ。まぁ、所詮憶測にしかならんか」
一瞬だけ浮かんだ考え。それを直ぐに放棄して別の敵に向かう。小難しい事を考えるのは雇い主であって俺の仕事じゃねえからな。
レーダーを見ると前方より下の方でトリガー分隊と敵部隊が交戦していた。然も上手い具合にエレメントなんか組んじゃってさ!
「何だよ何だよ!俺を仲間外れにすんのかよ!寂しいじゃんよ!」
リミッターを解除して一気にトリガー分隊と敵AW部隊へと突っ込む。敵のマドックが此方に気付き攻撃してくる。勿論紙一重で回避して45ミリサブマシンガン二挺の銃口を向ける。
「これがレートの力だ!圧倒的火力の前に……何だっけ?忘れちった」
【な、何だそりゃああああ⁉︎】
取り敢えず敵マドックを撃破。そのまま近距離戦へと殴り込む。
『テメ、トリガー5!何勝手な事してやがる!良い加減にしやがれ!』
「悪いなトリガー1。AWの撃墜スコアをもう少し稼がねえとカッコつかねえからさ」
『なら他の所に向かえクソガキ。こっちも稼ぎがあんだよ』
文句を言いつつ敵機二機を撃破するトリガー1。伊達に軽量機乗りでは無いらしい。それにアーロン大尉の文句も理解出来る。こいつらも俺と同じ傭兵だもん。ある程度働かないと下に見られちゃうからな。
「それもそうだな。俺はもう巡洋艦一隻と宙賊の船を三隻墜としてるから援護くらいしてやるよ」
『……単機で墜としたのか?』
「モチのロンよ」
『お前ギフト持ちか』
ジャンボことアーロン大尉がモニター越しに睨んで来る。いやアーロン大尉だけでは無い。他の傭兵共も此方を伺っている。
「俺は運が良いんだよ。何せラッキーボーイて言われてるからな」
『運だけで巡洋艦を墜とせるか。まあ良い。援護するなら俺とトリガー3の援護に入れ』
「了解。と言っても殆ど敵さん居ないけどね」
『結局投降してくる連中は居なかったわね。まるで死ぬ事を恐れてないみたい』
トリガー3の言葉はまさにその通りだと言わんばかりだった。何故ならこの後の戦いの後では捕虜を数十名しか捕らえる事が出来なかったのだから。