RPG‼︎
再び戦場に向かう。防具を取り付け、軍用パワーアシストを身に纏いMG-80軽機関銃を確認しながら弾薬を装填する。最後に防弾ヘルメットを被りフェイスガードを取り付ければ完璧だ。
「全く、人が折角記録更新したばかりだってのに。空気読めよなー」
俺は愚痴を言いながらも準備を終わらせ集合場所に向かう。既に他の仲間達は揃っており、どうやら俺が一番最後だった。
「お待たせしました。ハラダ曹長」
「良し、全員揃ったな。直ちに輸送車に乗り込み現地に向かう」
そして俺達は装甲兵員輸送車に乗り込む。しかし、先程ギフトを多用した為か頭痛が結構酷い。
「大丈夫?顔色が悪いけど」
「ん?あぁ、少し頭痛がするだけだ。けど暫く大人しくしてれば治るよ」
「ふん。どうせシミュレーター訓練で酔ったんだろ」
「違うわ。こっちにも色々事情があるんだよ」
「事情?そう言って基地で休みたいだけだろ」
「タケル、その言い方はダメ。シュウ一等兵が可哀想」
レイナ上等兵に咎められるがタケル伍長の態度は相変わらずだ。
(うーん、アレだ。反抗期と言う奴だな。別名ツンデレ期とも言えなくも無い……無くない?)
あの年頃は親や学校、果てには社会にまで苛立ちを感じる事があった筈だ。
しかし、反抗すれば心の何処かでは罪悪感を抱えながら過ごす毎日。そして気が付けば反抗期は終わっている訳さ。
「だからと言って俺は親じゃ無いからな。残念だけど諦めてくれ」
「誰がお前を親だと言った!」
「タケル、落ち着いて」
「貴様等!良い加減にしろ!また完全装備で走りたいのか!いや、シュウ一等兵はリロイ上等兵と二人っきりで出来る作業をやるか?」
「申し訳ありません!以後、無駄口を慎みます!」
「えー、私は別に良いですよぉ〜?大丈夫、ちゃんとリードして上げるから」
ナニをリードするつもりだ。ナニを。
取り敢えずリロイ上等兵の言葉を無視しながら戦況を確認する。
今回はトミオー国防軍が大企業ティーンマーティスに対し攻撃を行う作戦だ。大企業ミカヅキとの戦闘により市街地に駐屯している戦力が大幅に消耗していると上層部は判断。
その為大企業ティーンマーティスの私兵部隊を撃退した後、大企業ミカヅキの方にも攻め込むらしい。勿論ティーンマーティスとの戦闘後に余力が有ればの話だが。
しかし、滅多に無いこのチャンスを見逃すトミオー国防軍では無い。一部とは言え市街地を取り戻す為なら多少の無理をする可能性は高いだろう。
この市街地を取り戻す事が出来れば戦線を大幅に前進出来る。更に市民達も再び街に戻り復興が行われるだろう。そうすれば企業同士の経済戦争では無く、復興による経済回復が見込まれるからだ。
(尤も、その中でどれだけのゴーストが正規市民の下敷きになるのやら)
装甲兵員輸送車に揺られながら戦地へ向かう。それ以外に俺達には選択肢は無い。
戦い、殺し、生き残る。誰が勝者になるのか?それは俺達では無く上層部が決める事だ。
トミオー国防軍が大企業ティーンマーティスに対し攻撃を開始した。
戦況はトミオー国防軍優勢に進んでいた。トミオー国防軍はAW部隊を前面に出しティーンマーティスの部隊を次々と撃破して行く。無論ティーンマーティス側も反撃はするが撤退を優先しているのか徐々に市街地の中心地へと向かって行く。
そして、俺達外人部隊第605歩兵小隊も他の部隊同様に戦線の押し上げに従事していた。
「十一時の方向にスナイパー!建物上層階に居る!」
『了解ネ!07、私に任せるネ!』
『分かった。索敵と視測をするわ』
08は狙撃銃を構えて狙いを定める。同時に07も敵の位置を把握して直ぐに08に伝える。
『見つけた。目標のビルの八階の寝室に居る』
『こっちも確認したネ。動いちゃ駄目ネ』
一発の弾丸が狙撃銃から放たれる。そして弾丸は見事敵スナイパーの顔面に直撃して血の花を咲かせる。
『スナイパー一人排除ネ。もう一人も……今片付けたネ』
『お見事。良い腕になったわね08』
『まだまだ07には負けるネ。流石に2キロ以上を的確に狙撃は出来ないネ』
『でも咄嗟の射撃は08が上よ』
『各員、このまま交戦を続けろ。敵を殲滅した後に前進する』
部隊長の通信により俺達は物陰に隠れながら前進する。敵歩兵の中には俺と同じ様にパワーアシストを身に付けてる奴もいる。そう言う奴は軽機関銃や盾を持ち味方の援護をしつつ敵のヘイトを集めて行く。
『ッ⁉︎12!そこの岩陰に誰か居る!』
「何ッ!何処だ!」
『姿は見えないが誰かが居る!信じてくれ!』
俺は05が指を差す方にMG-80軽機関銃を向けて引き金を引く。
05の指示に従って撃ったら一部の景色が乱れたかと思うと、血を大量に流しながら倒れる敵兵士。もし、このままあの敵ステルス兵士に気付かなければ味方部隊は被害が出ただろう。最悪俺達の誰かが死ぬか、俺が死んでただろう。
「さ、流石エドガー伍長。見た目完全にグレイなのに。ギャップの差がデカイぜ」
『良くやった05。周囲にも警戒しろ。この場所は既に敵のテリトリーだ』
01からの注意を聞きながら再び戦闘に戻る。周りには他の外人部隊の歩兵が居るので数は揃っている。
敵は俺達の攻勢に怯んだのか後退を開始。それを見た部隊長は直ぐに追撃する様に命令を下す。
『敵の罠の可能性も有ります。もう少し慎重に行動をした方が』
『何を言っている!今此処で敵を殲滅すれば俺達は全員一階級昇進だぞ!お前ら!敵に情けをかけるな!』
戦車とパワードスーツ部隊を前面に出し装甲兵員輸送車と軽装甲車が後に続く。戦車と装甲車の銃座から12.5ミリ重機関銃による弾幕が敵部隊に襲い掛かる。
しかし俺達は敵に誘い込まれていたのだ。これから始まる地獄へ招待する為に。
企業は所詮利益を求める存在だ。合理的、機械的に物事を処理する。そして、二つの大企業にとってトミオー国防軍は自分達の利益を横取りしようとする邪魔な存在なのだ。
【此方ミカヅキより派遣された特戦部隊だ。これよりトミオー国防軍の側面を攻撃する。ティーンマーティスは直ちに反転し攻勢に出ろ】
突如としてトミオー国防軍のAW部隊に襲い掛かる敵の別働隊が現れた。然も大量の攻撃ヘリとMWが国防軍の左右に現れて攻撃を開始したのだ。
『此方第201機甲大隊よりCP!敵の大部隊が左翼より出現!』
『CPより各ユニットへ。直ちに敵増援部隊を迎撃せよ。敵の増援はミカヅキだ』
『敵の戦力は何なんだ!詳細を言え!』
『現在レーダーのジャミングが酷く敵の識別が困難な状況だ。出来る限りの事はする』
『馬鹿野郎!もう敵は目と鼻の先にッ!あ、ああ……AWだあああ‼︎』
その言葉を最後に45ミリの銃声と破壊音と共に通信が切れる。更に上空の攻撃ヘリからの波状攻撃が地上部隊に襲い掛かる。
『チャンパーだ!墜とせ!』
『対空MWは攻撃ヘリを最優先だ!手空きの者も対空ミサイルで迎撃しろ!』
『おい、さっきまで此処に……居たんだよ。俺の仲間が此処に‼︎』
『戦車の陰に隠れろ!このままだと的にされちまう!』
戦車や装甲車に隠れる味方達。しかし敵チャンパーは対戦車ミサイルやロケット弾で纏めて吹き飛ばして行く。
『後退だ!後退しろ!歩兵は兵員輸送車へ乗り込め!急げぇ‼︎』
誰かの叫び声を聞いた。その叫び声は瞬く間に味方部隊に広まり、直ぐに兵員輸送車や軽装甲車に向かう。
そんな中、俺は前衛を張っているミャオ曹長、ロイ軍曹、タケル伍長にインカムで叫ぶ。
「02、03、06!戻れ!後退するぞ!急げ!」
そしてMG-80軽機関銃で前方に向けて援護射撃をする。それに付き合う様に04も12.5ミリ重機関銃を乱射する。12.5ミリの弾丸が敵歩兵を次々と薙ぎ払い、血飛沫を撒き散らしながら殺して行く。
『ウオアアア‼︎誰モ、死ナセナイイイイ‼︎』
04は叫びながら今尚撃ち続けている。このままでは04が狙い撃ちにされてしまう。
そう思いながらギフトを使うと04が何かに当たり吹き飛んで行く姿が視えた。
何事かと思い顔を出すと、奥の方にRPGを持ってる敵歩兵を見つけてしまった。
「04!RPG‼︎伏せろおおおお‼︎」
俺は叫びながら04に向けて体当たりする。04はバランスを崩し倒れるが、直後にRPGの弾頭が俺達の上を通過して壁に突き刺さり爆発する。その際に何人かの味方が巻き込まれてしまったが。
『ア、アリガトウ。シュウ』
「何でも良いから後退だ!走れ!俺が援護する!」
04は身体が大きいし、動きも速い訳では無い。その為、敵からは狙われてしまう可能性が高い。
だから敵の注意を引き付ける為に敵に向けてMG-80軽機関銃で撃ちまくる。ギフトを使い敵が出て来る瞬間を狙い引き金を引く。
しかし、此処に来てギフトを使用し過ぎたツケが回って来た。もはや頭痛が激痛になって行くのだ。
「クソが……フゥ、フゥ、ヤバいかもな」
頭を手で押さえ装甲車を盾にしながら地面に蹲る。そして視界が霞み始めた時だ。誰かが此方に向かって走って来ていた。
『12!どうしたの!シュウ一等兵返事をして!』
「うぅ……レイナ、上等兵?何故、撤退して……無い?」
『ッ!怪我をしているの?兎に角今は後退するの!』
レイナ上等兵に言葉を遮られ、肩を貸して貰いながら後退する。既に周りに味方の兵士は殆ど居らず、敵が近付いて来ている気配が強く伝わる。
『レイナ!何をしている!クソ、この役立たずが』
『何言ってるのタケル!シュウ一等兵の援護射撃が無かったら貴方達は無事に後退出来なかった!』
『それでも現に足を引っ張ってるのは事実だ。ほら、肩を貸せ。逃げるぞ』
右側にレイナ上等兵、左側にタケル伍長。その二人に支えられながら駆け足で後退する。
しかし、俺達は無事に後退する前に敵に捕捉されていたのだ。
意識が朦朧とする中、再びギフトで視えた光景。それはRPGの弾頭が俺達の近くの建物の三階部分に当たり、瓦礫が大量に降って来る光景。
「畜生がああああ‼︎」
俺は最後の力を振り絞って二人を抱え直して建物のドアに向けて走り出す。
その直後、敵から放たれたRPGの弾頭がギフトと同じ様に当たり瓦礫が大量に降り注ぐ。瓦礫に押し潰される前にドアに体当たりして建物の中に入る。
俺はタケル伍長とレイナ上等兵の声を聞きながら意識を失ったのだった。
外人部隊第605歩兵小隊の生き残りは装甲兵員輸送車の中で押し黙っていた。特にアラン軍曹は状況をハラダ曹長に伝え終えると、手で顔を押さえて号泣していた。
そんなハラダ軍曹をケイト伍長とサーシャ上等兵が慰めていた。
「隊長、アラン軍曹だけが悪い訳ではありません。私達も前に行き過ぎて後退するのに手間取りました」
「分かっている。だが、シュウ一等兵だけでなくタケル伍長とレイナ上等兵まで」
「レイナ上等兵とタケル伍長を最後に見たのは自分です。タケル伍長が来たのを確認した後、シュウ一等兵を迎えに行きました。そしてレイナ上等兵を追い掛ける様にタケル伍長も再び戻ってしまって」
エドガー伍長の表情も二人を引き止めなかった事を悔やんでいた。
「いや、俺もタケル伍長を引き止められなかった。直ぐ近くに居たのにさ。これじゃあ、隊長失格だな」
ハラダ曹長は防弾ヘルメットを取りながら深い溜息を吐く。そしてインカムで三人に呼び掛ける。
「三人共、何が何でも生き続けろ。例え死んでたとしても生きて帰って来い。これは命令だ」
無茶を承知とした命令。しかし、ハラダ曹長は隊長としてこれしか出来無いのだから。
だから命令するのだ。例え返信が絶望的だったとしても。