記録更新
8月16日になるとIII count Dead Endを投稿してから一年が経ちます。
此処まで続けれたのも読者の方々の感想やレビュー、評価などが有ったからです。
まだまだ誤字など多数出してしまう素人ですが、それでも誤字報告で修正して頂き本当に有難う御座います。
これからも引き続き読んで貰えると嬉しく思います。
軍人と言う職業は暇な時は暇になる。そして軍人が暇になれば雇われ傭兵も暇な時間は増える物だ。
トミオー国防軍に外人部隊として配属されてから三ヶ月が過ぎた。初陣の時は結構戦ったのだが、それ以降の出撃は実に散発的な戦闘しか無かった。
どうやら大企業同士の戦いが本格化しているようで連日銃声や爆音は聞こえるが、トミオー国防軍は静視を決め込み防衛のみに注力していた。
国土を取り戻す為のトミオー国防軍は、いつの間にか大企業が疲弊して漁夫の利を得ようとするチンケな集団になっている。
こんな事、正規の軍隊がやる事なのか?何の為に国民の税金を使って国防軍を大きくしたのか?全くもって実に情け無い連中だよ!
「勿論口には出さないけどな!」
「急にどうしたの?」
「レイナ、一々気にするな。気にするだけ時間の無駄だ」
「やれやれ、何事も直ぐに決め付けるのは良く無いぞタケル伍長殿」
「煩い。黙って飯を食え」
昼時になったので食堂に向かっていた俺は、偶々タケル伍長とレイナ上等兵に出会った。
同じ部隊の仲間なので一緒に食事をしている訳だが、毎度毎度タケル伍長からは邪険に扱われるのが面倒だなと思う今日この頃だ。
「お前達はこの後予定とかあるの?」
「特に無い。だから本を読む」
「レイナと同じだ」
「ふぅん。まぁ、読書頑張ってくれや」
「シュウ一等兵は何かやる事あるの?」
「そう言えば、お前は最近色々な所に行ってるな。何をやってるんだ?」
「何って……勉強だよ」
「「勉強?」」
何も分かってない二人に俺は簡単に説明する事にした。因みに何度かの出撃がトミオー国防軍により評価されて傭兵ギルドに行った際に階級が一つ上がった。
どうせならMWの配備をしてくれた方が嬉しかったなと思ったのは秘密だ。
「良いか?俺は軍事に関しては素人同然だ。傭兵ギルドでシミュレーター訓練を数時間やっただけの初心者だ。そんな初心者をお前達は笑顔で受け入れられるか?」
初心者の辺りを少し強調して言うと二人は微妙な表情をする。だが、その反応が一般的だ。
「この基地はトミオー国防軍の基地であり、最前線基地の一つだ。今は偶々企業同士の争いが激化しているから暇になっているだけだが、こんなチャンスは滅多に無い事くらい俺にも分かってるつもりだ」
だからこそ、このチャンスを無駄にする訳には行かないのだ。
企業同士が争っている三ヶ月でどれだけ自分の力を蓄えるかが勝負なのだ。例え雑用として良い様に使われようとも、必ず何かは教えて貰う様にしている。その為に常に笑顔で愛想の良い子供を演技しているのだ。
どんな奴でも気さくで礼儀正しい奴を邪険に扱う事は殆ど無い。そして、俺には何より楽しみにしている時間があるから頑張る事を続けられているのだ。
「さて、と言う訳で俺はこれからMWのシミュレーター訓練をやってくるよ。今日こそ、この基地内でMWでのトップスコアを叩き出してやる」
筐体型シミュレーター。コレに乗り込めばあら不思議、最高にハイになれるゲームに早変わりする訳さ。
トミオー国防軍の正規のパイロット達はどうも真面目にシミュレーター訓練をする事が無い。唯、無駄に偉ぶっているだけのチンケな存在だ。今のトミオー国防軍の上層部と立場は同じな訳さ。
「殆ど誰も使わないシミュレーターを使うんだ。文句は無いし、楽しいから最高の場所だよ」
「ちょっと待て。お前、MWの操縦免許を持っているのか?」
「勿論。でないとシミュレーター室に行く理由は無いからな。と言うか持ってるって言ってなかったっけ?」
「……MWの操縦資格は入手が困難な筈」
「そりゃあ覚える箇所は多々有るし、専門用語も多い。だが将来必ずAWに乗ると決めたからには弱音何て吐けるかよ」
俺は食事を終えてシミュレーター室に向かう。無料で遊べ……もとい、訓練出来る場所なのだから楽しみで仕方ない。
しかし、何故か後ろに気配を感じる。何となく振り返るとタケル伍長とレイナ上等兵が付いて来ていた。
「どうしたの?まだ何か用か?」
「お前の腕前を見させて貰うよ。それに良い暇つぶしになりそうだからな」
「私も暇だから」
「別に良いけどさ。周りに喧嘩だけは売るなよ」
そしてシミュレーター室で使用手続きを端末で行い、指定された番号の筐体に入る。
「既に上位には入ってるからな。やっぱり目指すならトップスコアだぜ」
シミュレーターが起動する。
今回は市街地戦奪還作戦。目標となる場所まで移動して敵を殲滅。その後一定時間の防衛を行い味方増援が来れば成功となる。
戦力は何方も拮抗しているが、ランダムで敵AWにエース機が現れる。この敵エース機を如何に味方AW部隊とぶつけるかが勝負となる。
『システムチェック完了。シミュレーター開始します』
AIのマシンボイスを聞きながら四脚の重装甲MW【MC-95Gディフェンダー】を操作する。
ディフェンダーは重装甲、重武装の高価な防衛用MWだ。両腕に中口径グレネードを二挺、上部に二連装120ミリ速射砲を一基、下部に対人用12.5ミリマシンガンを一基搭載している。機動力は悪く無く、市街地戦では直ぐに建物の陰に隠れる事が出来る。
空を跳ぶ事は出来ないが、正面からの戦闘ならAW相手でも互角以上の戦いが出来るだろう。
「さてと、最初は前菜の雑魚を片付けるかな」
前方に見える数台の戦車と二脚MW相手に二連装120ミリ速射砲を撃つ。
二連装120ミリ速射砲を交互撃ちにすれば良い感じの弾幕が張れる。特に動きが限定される市街地に於いては無類の強さを発揮する。
二脚MWを120ミリ速射砲で撃破しながら間合いを詰める。敵戦車も反撃をするが、ギフトを使い三秒先の未来を視ながら回避。そのまま脇道に隠れて敵戦車に近付いて行く。
「ほらよ!転がってな!」
MWの前脚で敵戦車を蹴飛ばしたり、中口径グレネードで纏めて吹き飛ばしながら先へ進んで行く。そして目標地点に群がる装甲輸送車や敵MWに対し中口径グレネードを撃ち込んで行くのだった。
「……凄いね」
レイナの言葉を聞きながら心の中で同意する。敵の攻撃を確実に避けながら的確に反撃して撃破して行くシュウ一等兵。
最初は生意気なガキだと思っていた。外人部隊第605歩兵小隊に配属されたら直ぐに周りと打ち解けた。更に他の部隊やトミオー国防軍とも親しげに話している姿を何度か目撃している。
俺やレイナより年下の癖に妙に世渡りが上手い奴。更に最近ではレイナも若干心を許している様にも見える。
だから余計に奴に対して苛立ちを感じざるを得ないのだ。
戦局は中盤戦に移行する。敵の大部隊が防衛線に到着。そして歩兵では有り得ない火力同士の戦いが始まる。
その中でシュウ一等兵が操るディフェンダーは分厚い装甲を生かし、射撃態勢を取りながら正面の敵MWと敵戦車を撃破して行く。更に周りにいる歩兵や装甲車に対しても12.5ミリマシンガンや中口径グレネードで吹き飛ばして行く。
気が付けば周りには何人かのトミオー国防軍の正規兵達がモニターの前で観戦していた。
「中々やるな。あのディフェンダー上手く立ち回ってる」
「ディフェンダーは装甲があるからな。だが運動性がイマイチだから回避し難いんだよな」
「でも上手く先に物陰に隠れてる。機体ステータスも問題無いし」
「何だ?もしかしたら記録更新されるのか?」
「なら私は更新される方に賭けるわ。アンタ達は?」
「良いぜ。その賭け乗った!」
「俺は敵エース機に撃破されて終わると見た」
そして周りはいつの間にか賭け事が始まる始末。そんな状況でも関わらずディフェンダーはまた一機のMWを撃破するのだった。
『警告、敵AW部隊の接近を確認』
「CPに航空支援を要請。敵AW部隊の足止めを開始させろ」
『CP承認。味方攻撃ヘリ部隊を投入開始』
その間に弾薬を補給した後に陣地転換を開始する。目の前の残敵は殆ど居ないので、残りは味方部隊に任せる事にしたのだ。
「味方AW部隊はどうなっている?」
『敵MW、攻撃ヘリによる波状攻撃を受けています』
無機質な声を出すAIの言葉を聞きながら敵攻撃ヘリを撃破する事を優先する。
味方AW部隊に近付くと敵攻撃ヘリを確認。俺はギフトを使い二連装120ミリ速射砲で狙いを付ける。
敵攻撃ヘリが射線に入る場所に照準を付けてからトリガーを引く。120ミリの弾は敵攻撃ヘリに直撃して一撃で爆散する。
更に同じ様に狙いを付けてトリガーを引く。途中、敵攻撃ヘリが此方に気付いて接近して来たが直ぐに射線を切る様にして回避して行く。
(時間はまだある。確実に回避すれば問題無い)
そして味方AW部隊が敵MWを撃破したのと同時に敵AW部隊が此方に接近。
『警告、敵エース機を確認』
「良し!タイミングは完璧だ!」
敵エース機が率いるAW部隊と味方AW部隊が正面からぶつかる。俺は味方戦車部隊と合流しながら敵AW部隊の側面に移動。
「捉えた。先ずは手前からだ!」
此方に気付いた敵AWに対し120ミリの弾幕が襲い掛かる。何発も直撃を受けた敵AWが一機爆散する。それと同時に二機のAWが此方に迫る。
中口径グレネードと120ミリの弾幕を展開するも距離を詰めてくる二機の敵AW。
(流石AWだ。機動力と運動性が段違いだ。マジで惚れそうだぜ)
舌舐めずりをしながらタイミングを計る。ギフトの多用により頭痛が始まるが無視する。
そして一機の敵AWが建物の横から現れるのと同時に此方も同じ様に建物から飛び出す。そして完全に射線に入ったのと同時に全部の武装で攻撃開始。
流石にAWと言えども120ミリと中口径グレネードの直撃を受ければ倒れる。敵AWを一機撃破すると爆煙の中から現れる敵AW。右手にはプラズマサーベルが展開されている。
このまま何もしなければ俺は死ぬ。ギフトを使うまでも無く分かる結末。
だから必死に足掻くのだ。今迄と同じ様に。
「コンチクショオオオオ‼︎」
操縦レバーを前に出しペダルを強く踏む。するとディフェンダーは俺の言う通りに前に一気に前進する。
振り下ろされるプラズマサーベルは二連装120ミリ速射砲を斬り裂く。その代わりに俺は中口径グレネードを敵AWのコクピット部分に向ける。
「俺だってAWが欲しいんじゃああああ‼︎」
自分の欲望を叫びながらトリガーを引く。中口径グレネードから放たれた弾丸はコクピット部分に直撃。
中口径グレネードの爆風に巻き込まれるも敵AWの撃破に成功。それと同時にAIの声が聞こえる。
『味方AW部隊が敵エース機の撃破を確認。また味方増援部隊の到着を確認』
「つ、つまり?どう言う事だ?」
『お疲れ様です。ミッションクリアしました。また撃破スコアを更新しましたのでネーム入力をお願いします』
そして撃破スコアを見て俺は歓喜の声を上げた。何故ならMWの中で歴代一位の座を射止めたのだからだ。
「やったああああ‼︎俺がナンバーワンだああああ‼︎」
俺は筐体の中でガッツポーズを取りながら喜びまくったのだった。
正直言うと全く信じられなかった。MWでAWを撃破する。然も単機で立て続けに二機のAWをだ。
シュウ一等兵が筐体から出ると周りのトミオー国防軍の兵士達に囲まれる。そしてシュウ一等兵の喜びの声に反応する様に周りも笑い声が聞こえて来る。
「こんな小さい傭兵の癖に中々良い戦い方をするじゃねえか」
「貴方、所属と名前は?」
「ハッ!外人部隊第605歩兵小隊、シュウ一等兵であります!少尉殿!」
「エェ⁉︎その腕前で何で歩兵部隊に居るんだよ!冗談だろ?笑わせるなよな!」
「一等兵……つまり最近傭兵になったのか。うーむ、信じられない戦い方だったな。アレは俺でも無理だぞ」
「いやー、偶々ですよ軍曹殿。そもそもMWも配備されて無いので意味の無い事ですけど」
「おい、誰か此奴にMWを渡してやれよ。あ、お前下手糞だから丁度いい。代わってやれよ」
「ふざけんな。俺よりお前が適任だろ」
「面白え、筐体に乗れよ。負けた方が今晩奢れよ」
「上等!後で吠え面かくなよ!」
あっという間に正規兵の中に溶け込み楽しそうに話すシュウ一等兵。そして此方に気付いたシュウ一等兵はグットサインを出しながらウィンクする。
「本当……凄いね」
「フン、MWが無いなら意味は全く無い事だ。レイナ、行くぞ」
「あ、待って」
俺はレイナの手を握りながら立ち去る。あの場に居続けると何故か余計に苛立つのだ。
同じ部隊でシュウ一等兵は気さくで人当たりも良く、仲間達も既に心を許している。
だからだろうか。俺達と同じ立場なのに狡いと思った。同じゴースト出身で傭兵になった者同士。にも関わらず余りにも立場が違うと。
「タケル?大丈夫?」
「別に平気だ」
レイナの言葉を雑に対応しながら大股で歩いて行く。少しでもシュウ一等兵から離れたかったからだ。
そんな時だった。再び基地内で警報が鳴り響く。
どうやら神様と言う奴は意地が悪い様で、嫌でも俺は奴と共に居なければならないらしい。