初任務完了
俺達は建物の屋上で身を潜めながら、敵部隊が来るのを待ち続ける。
「やっぱり文明は滅茶苦茶進んでるんだなぁ」
空でドッグファイトをしている戦闘機達。背後を取られた戦闘機はスピードを緩めたと思えば変形して人型になった。そして、そのまま反転して戦闘機を撃墜したのだ。
「あの可変機は確か帝国軍のFA-11ヘルキャットだな。でも国防軍の所属の機体じゃないし。あ、撃墜された」
空中で可変するのは良いが、他の連中からしたら良い的となるだろう。速度が落ちたヘルキャットはそのまま複数のミサイルを受けて地面に向けて墜ちて行く。
『屋上から頭を出すなよ。出したら一発で敵MWに見つかる』
時代が進めば兵器も進化する。特にカメラやセンサー関係に関しては目覚ましい進化を遂げたと言っても過言では無い。
嘗て、先人達はこの未知の宇宙を探索し続けた。その時に最も重要視されたのが探索用カメラとセンサーだ。
人が住める惑星、資源が眠るアステロイドベルト。そして未知の異種族との接触。
全ての未知に対応する事は出来ない。しかし先に危険を察知する事が出来ればリスクは減らせる。その為、如何に先に見つける事が重要だと分かる。
その結果、高性能の探索用カメラとセンサーは直ぐに軍用に転用される事となり現在に至る。
『チャーチル1より60501、敵部隊を視認した。合図と共に攻撃を開始せよ』
『60501了解。国防軍の活躍に期待させて頂きます』
『無論だ。我々は傲慢の塊である歪んだ企業連には負けはしない』
通信が切れるのと同時に01から俺達に向けて通信が繋がる。
『間も無く国防軍と敵部隊が交戦する。俺達が狙うのは敵MW四機。MWさえ撃破すれば攻撃ヘリの優位性は確実な物になる』
俺は対戦車ミサイルを構え直しながら話を聞く。
『MWが撃破されたと知れば歩兵が此方に流れ込んで来るだろう。だが、俺達には国防軍のパワードスーツ部隊が居る。だから安心してMWを撃破しろ。以上だ』
全員の心が一つになる。敵MWを撃破して凱旋気分で全員で帰還する。今はそれ以上の事を望む事は無いのだ。
『オレ、腹ヘッタ……』
「空気読んでよ。ほらカロリーバーで良ければどうぞ」
『アリガトウ。シュウ二等兵、優シイ奴。オレ、オマエ守ル』
「野郎に言われても嬉しく無い台詞ありがとさんよ。ほら食って集中だ」
緊張の瞬間だ。手に持つ対戦車ミサイルを見ると、本当にMWを破壊出来るのか疑問になる。こんな手持ちのミサイルでMWなんて物と戦う羽目になってる始末。
(まだAWに乗れてないんだ。絶対に乗るまで死んで堪るか!適正値もそこそこ有るんだから尚更死ぬに死に切れん!)
俺は自分の夢を叶える為に此処に来たんだ。なら、叶えるまで生きる為に足掻き続ける。
今までそうやって来たんだ。全てを見捨てて此処まで来たんだ。
今更……人殺しを躊躇するつもりなど俺には無い。
大企業ミカヅキより雇われた傭兵達は、それなりに良い装備を身に纏い前進していた。
【MC-30Bモールド】六機の内、二機は対空仕様。更に戦車八輌に歩兵部隊を率いている為、周辺への対応は完璧だと自負していた。
【敵歩兵部隊を視認。敵は建物の中に籠城しています】
【偵察隊をやったのは此奴らか。なら死んだ仲間達の敵討ちと行こうじゃねえか!MW隊、前進!敵を建物ごと吹き飛ばしてやれ!】
【戦車隊も続け!MWばかりに戦果を取られて溜まるか!戦車乗りの意地を見せてやれ!】
そしてMW六機が前進しトミオー国防軍と外人部隊が居るショッピングモールへ攻撃を仕掛ける。
【撃て撃て!バラバラにして欠片も残さねえ様にしてやらあ!】
【命乞いなら今の内だぜ?尤も、聞いてくれる相手は居ないがな】
【反撃は無視しろ!このまま蹂躙してゲームオーバーだ!】
そしてMW六機が攻撃を開始したのと同時に敵側の通信が聞こえた。
『ゲームオーバーは貴様等だ。殺れ』
その言葉を聞いたMWのパイロット達はまさかと思い手が止まる。
【警告。上方より熱源接近中】
MWに搭載されているAIの無機質な声がコクピットの中で響いたのだった。
チャーチル1の合図と共に対戦車ミサイルを屋上から構える。視界に入るのは丁度真下に居るMW六機。
『対空仕様を優先して潰せ!攻撃開始!』
01の号令の元、狙いを付けていたMWに向けて対戦車ミサイルのトリガーを引く。
シュポンと言う少し気の抜ける音が鳴ったのと同時に対戦車ミサイルは真っ直ぐに敵MWに向けて飛んで行く。
そして対戦車ミサイルが敵MWの天板や射撃武装に次々と着弾する。その内の二機は天板を貫通して内部で対戦車ミサイルが爆発。そのまま二機は一気に崩れ墜ちて行く。
『次!立ち直させる時間を与えるな!』
そして素早く隣に居る11の対戦車ミサイルをリロードする。再び六発の対戦車ミサイルが敵MWに向けて放たれる。
【て、敵襲⁉︎MWが!】
【上だ!敵が上に潜んでいやがった!】
【何が敵戦力は少数だ!ふざけた情報言いやがって!後でCPの連中は殺してやる!】
辛うじて生き残った敵MWは態勢を立て直そうとするが、既に手遅れだった。二発の対戦車ミサイルが再び天板と弾倉に着弾。弾倉が爆発した後にMW自体も爆散して行くのだった。
「ついでに拾った手榴弾だ!季節外れのサンタクロースの参上ってな!」
ピンを引っこ抜いた大量の手榴弾を屋上から墜とす。そして敵兵士の悲鳴が聞こえたのと同時に大爆発が起きる。
『お前……結構エゲツない事するのな』
「喧しい!クッキーに振られた分際で言うんじゃねえ!」
『お前はまた!もう許さんぞ!』
『貴様等!こんな時に遊ぶな!帰ったら完全装備で基地内二十周だ!』
「……あ、死んだ」
01からの辛いお仕置きを受ける事を忘れる為に、再び対戦車ミサイルを装填してから構える。そしてギフトを使って安全か如何かを確認してから攻撃を始める。
「遠慮無く受け取ってくれ!」
次に狙うのは最後尾の敵戦車。照準に敵戦車を捉えてから引き金を引く。対戦車ミサイルは敵戦車のエンジン部分に直撃。そしてエンジンから白い火柱が立ち上がり周辺に火の粉を撒き散らしながら止まる。
最後尾の戦車が止まった事で敵戦車部隊は後退が上手く出来なくなる。
【この建物を吹き飛ばせ!照準狙え!】
【止めろ!建物が崩れたら俺達も巻き込まれる!今歩兵に建物を制圧させている。それまで耐えろ!】
【警告!上空に攻撃ヘリだ!】
【迎撃!対空ミサイルで墜とせ!】
慌てた様子で攻撃ヘリを迎撃する為に対空ミサイルを発射する。しかしスィビーリアはチャフを前方に展開させて対空ミサイルを無力化させる。
『バード1、敵戦車部隊を確認した。これより航空支援を開始する』
『対空兵器が殆ど無い連中だ。徹底的にやってやるよ』
味方の攻撃ヘリ【MtO-24 スィビーリア】はロケット弾を連続で発射。多数のロケット弾は装甲輸送車を次々と破壊。更に対AWミサイルにより敵戦車が瞬く間に爆煙の中に消えて行く。
【もう駄目だ!逃げろぉ⁉︎このままだと全員殺されギャッ⁉︎】
辛うじて生き残った敵兵士は自分達の持つ小銃や装甲輸送車に取り付けられている重機関銃で反撃する。しかし反撃した分、空から20ミリの雨が彼等に降り掛かる。
『バード2より60501、敵歩兵が建物内に侵入したのを確認した。これより機銃掃射を開始する』
そして一矢報いる為に俺達が居る建物に侵入していた敵兵士達も20ミリの餌食になる。
「あーあー、降伏するかサッサと逃げれば良かったのに。俺なら尻尾を巻いて逃走するけどね」
『お前にはプライドは無いのか?』
「そんな物、とっくの昔に廃棄場に置いて来たよ」
そしてバード1、2は自分達の任務を終えて悠々と撤退して行く。
「しかし、ヘリが墜落しないとは珍しいな。こう言う場合は運悪く流れ弾が当たったりするだけどな。それで墜落地点が俺達の真上になるんだよ」
『そうなの?』
「おうよ。定番でお約束だからな。だから俺は絶対にヘリのパイロットには成りたくないね」
『そうなんだ』
『レイナ、其奴の馬鹿な話を真に受けるな。馬鹿が移る』
「いやいや、嘘じゃないから!特定の企業が作ったヘリコプターは高確率で墜ちるんだよ!特に主人公の援護や救出しようとしたりするとな!」
そんな話をしてる間に俺達に待機命令が下される。そして、次の日の早朝には撤退命令が来たのだった。
こうして、俺の初めての実戦は終わった。
仲間達は誰一人として失わず、尚且つ上等な戦果も得た。無論戦果の大半はチャーチル1の物になる訳だが。
それでも生きて基地に戻れただけでも良しとすべきだ。
贅沢を言った所で余計な災を呼び込むだけだからだ。
俺にとって全員と共に生き残った事を喜ぶだけで充分なのだから。
因みに蛇足なのだが、夜の見張り役はハラダ曹長の命令によりリロイ上等兵とコンビを組まされた。
あの時のリロイ上等兵の舐め回す様な視線を一身に受け続けた俺は、本気で大切な物を失うかも知れないと人知れず覚悟をしたのは秘密だ。
「本っっっ当に無事に帰還出来て良かったぁ」
「……チッ、ガードが思った以上に固い」
この台詞が基地に戻った時の二人の発言になったのだった。
基地に戻り俺達外人部隊はヤッザム中佐に呼び止められた。
「諸君、ご苦労であった。君達外人部隊がそれなりに任務をこなしていたと報告を受けた。特に外人部隊第605歩兵小隊に関してはな。他の部隊も605歩兵小隊をしっかりと見習い、我々トミオー国防軍に貢献したまえ。以上だ」
難癖に近い様な事を言って立ち去って行くヤッザム中佐。その態度を見た他の外人部隊の傭兵達と一部の正規兵達は不満を次々と口にする。
「ハラダ曹長、もう解散で良いですか?」
「ん?あぁ、そうだな。基地に戻れたんだ。次の任務が来るまで全員休みで良い」
ハラダ曹長の言葉を聞いて俺は一度武器や装備を預けに行く。無論自分でも整備したいのだが、まだ完璧には出来無い。特に軍用パワーアシストの調整や出力調整が分からない。
なので教えて貰う事にしたのだ。誰にかって?そんなの整備している専門の人達にさ。
「こんにちは。銃とパワーアシストの整備を教えて下さい」
「あん?教えてくれだぁ?此処は学校じゃねえんだよ」
武器を預かる国防軍の兵士が居る。その兵士はいつも無愛想な表情をしているが、腕は確かでほぼ完璧な状態にするのだ。
しかし偏屈な性格なのか人とのコミュニケーションを全く取ろうとしない変人なのだ。
「無料で教えてくれとは言わないよ。教えてくれる分だけ手伝いするよ!」
「要らねえよ。帰れ」
「んな事言わないでよぉ〜。これでも仲間を死なせたく無いと思ってるんだよ。もし戦場のど真ん中でジャムって直せなくて仲間が死んだら死ぬに死に切れないんだよ!」
「……ふん、武器と装備は預かる。後は俺の邪魔をするな。邪魔だと感じたら蹴り出すからな」
そう言って武器庫のドアを開ける。俺は少し驚いて聞いてしまう。
「良いんですか?その、こんな事言うのは何ですけど」
「……仲間、死なせたく無いんだろ?」
「うん。傭兵だけど昨日今日と共闘した仲間だもん。簡単にお別れ何て、したく無いから」
どうやら見た目と性格に似合わず熱い魂を持っているらしい。なので俺は嘘偽り無い気持ちを伝える。
例え傭兵だとしても簡単に見殺しにはしたくない。そもそも外人部隊に配属された時点で俺と似た様な立場の連中だ。だったら尚更、戦場では助け合うべきだ。
「そうか。なら、短時間で全部覚える気概で見てろ」
「あ、ありがとう〜。何か、生まれて初めて好意的な物を感じたよぉ〜」
「良いからさっさと入れ。整備するぞ」
「はい!親方!」
「誰が親方だ!」
こうして俺は基地内で様々な事を手伝って行く。幸い正規兵達からは、それなりの好感で迎え入れたのは幸運だった。恐らく、俺がまだ子供だと言う事も迎え入れられた理由の一つだろう。
後は俺の無邪気な子供の演技の賜物だ。ニッコリ笑顔で挨拶すれば大抵の連中からは受け入れられたのだから。
そして、様々な手伝いをしながら実践での勉強をして行く。どうせ今みたいな暇な時は何もする事が無い。
正直に言うとワーカーホリックの癖が出ていたのかも知れない。元々は社会人だったし、真面目に働いて日々を過ごしていたのだから。
「今日もお願いします!親方!」
「うるっせえ声を出すな!蹴り出すぞ!」
こうして、俺はトミオー国防軍の正規兵達から様々な技術の端くれを伝授して貰ったのだ。
それは整備や料理の作り方だけで無く、MWやAWの操作のコツを教えて貰ったりしたのだった。