ゴースト
再び傭兵ギルドへ向かった俺は手頃な依頼が無いか探す事にした。依頼自体は端末からも探せるみたいだったが、初めての事も多いので相談出来るならしたいと思って来た訳だ。
(一番良いのは戦闘にならない所だよな。それで尚且つMWに乗れれば最高だけど)
依頼を探していると警備の仕事が幾つかあるので受付の人に聞いてみる事にした。
受付に行くと今度は肌が青白く耳が結構長い美人さんが居たので聞いてみる事にした。
「すみません。警備関係の仕事をしたいのですが、幾つか質問がありまして」
「まぁ、可愛らしい坊や。構いませんわぁ。何を聞きたい?」
少し色っぽい雰囲気も追加された受付嬢にドキドキしながら質問する事にした。
「えっと、警備とか、その、色々未経験なんですが大丈夫でしょうか?」
「勿論大丈夫ですわ。それに、もし不安なら歩兵の一般講習も受けれますよ?」
「でも、お高いんでしょう?」
俺の不安を余所に受付嬢は良い笑顔で答える。
「今なら五万クレジットですが、坊や可愛いから半額にしてあげちゃうわよ」
「やります!」
決して美人さんの笑顔に絆された訳では無い。一般講習が半額になるなら受けるべきだ。うん……でも、スッゲェ色っぽい笑顔だったなぁ。
「クスクス、オマセさんね」
「そ、そうですかねー。えへへへ」
この後、約六時間に渡る地獄のシミュレーター訓練が始まるとは。この時には全くそんな事は考えても無かったのである。
シミュレーターの中で俺は地獄みたいな戦場を駆け抜ける羽目になった。
最初は鬼軍曹とか言う定番キャラから射撃訓練とか匍匐前進などの基礎的な物を教えて貰っていた。そして一通りの訓練が終わると突如警報が鳴り響き、何者かの攻撃によって周りが爆発した。
「敵が陣地内に侵入しました。直ちに迎撃して下さい」
「総員直ちに戦闘配置!急げ!」
「走れ走れ走れ‼︎敵は待ってはくれんぞ‼︎」
「嘘でしょおおおお⁉︎何処の戦争ゲームのオープニングだよ!」
「さっさと武器を持って走れ!」
「理不尽の馬鹿野郎!」
それから一時の休みも無く銃を撃ちながら走り続ける。
味方と合流して防衛線を張れば敵戦車が来たり。航空支援をすれば敵MWによって撃墜されたり。味方のAW部隊が増援として来るまで戦線を維持しろと無茶な命令が来たり。
兎に角、様々なパターンの戦場で戦う羽目になった。勿論シミュレーターの中での話だが、余りにもリアルな為本当に戦場に居る感覚しか無かったと記載しておく。
「お疲れ様。どう?楽しかったかしら?」
「……マジ、ヤバタニエン」
「やばたに?そう、沢山楽しめたみたいね。私も頑張って設定弄った甲斐があるわぁ」
「お前が犯人かこの野郎」
「うふふ、坊やが必死になって足掻き続ける姿を見るのは凄く楽しかったわぁ。ありがとう」
「唯のSっ気の強い美女かよ。はぁ、死ぬかと思った。いや、何回か死んで無理矢理復活されたけど」
シミュレーターの中では人を撃ち殺したりもした。唯、余りにも敵が多かったので我武者羅に撃ちまくっていた。更に敵戦車相手にも側面に回り込んで対戦車ミサイルを当てる羽目にもなったし。
「因みに、少し離れた場所にMWも置いてたのよ?残念だったわね」
「後からそう言うのやめて貰って良いですかね!美人だからって噛み付かれないと思ったら大間違いなんだからな!」
しかし、滅茶苦茶為になったシミュレーター訓練だったのは間違いない。今も何時でも戦闘出来る態勢になってるし。
「そう怒らないで。ほら、お腹空いてない?ご飯食べに行きましょう。奢るわよ?」
「ッ……い、頂きます」
結局、大人の経済力には勝てなかったのだった。
ご飯を他の女性ギルド職員達と一緒に食べてる時にも、俺は色々質問した。そして先ずは歩兵装備一式を揃える事をお勧めされた。
理由は誰であれ大半の人は歩兵から始めるからだ。無論、自前のMWやAW、果てには艦艇を持っている場合は其方を使う事をお勧めする訳だ。
唯、最初からMWやAWを買える経済力があるのは一部の人達のみなので基本的には歩兵からスタートする訳だ。
「ギルドでも装備は売ってるわよ?買って行く?」
「買いますけど中古が良いです。予算は七十万クレジットまでですけど」
「七十万クレジットで中古なら良い装備が揃うかも。確か保管庫に有るわよね?」
「有るけど。唯、結構種類がバラバラだし宙賊版もあるから危ないけど」
「どうする?私としては新しいのをお勧めしたいけど」
取り敢えず傭兵ギルドへ戻りながら色々と考えて行く。
「時間はまだ有ります。取り敢えず両方見てみたいです」
「良いわよぉ。私達も今暇してるから付き合って上げる」
「ど、どうもです」
こいつら妙に付き合ってくれるなと思ったら暇人なのかと納得する。確かにシミュレーター室でも数個しか稼働して無かったし。
「今は惑星トミオーが激戦区になってるからねー。この辺りの傭兵達は皆そっちに行っちゃってるから」
「成る程。だから変な奴に絡まれたりしないのか」
お陰で女性ギルド職員と外食に行けるなんて珍事も起きた訳だ。
それから端末から歩兵装備一覧を調べると、これまた沢山出て来る。最早種類が多くて何社の何とかが良いとか言われても分からないのが実情だ。
「ち、中古はどんな感じですか?」
「中古はもっと混沌としてるわよ。そもそも規格外の物が取り付けてある改造品も多いし」
「でも七十万クレジットあるなら新品の歩兵装備一式は揃えれるわよ。それに銃も結構選べるから問題無いわ」
「あ、このラピッド社の新作出てるー。見た目超可愛いんですけどー」
「悪い事言わないから新しいのにしておきなさい。戦闘開始から一ヶ月間の保証が付いてるから」
結局、色々聞いたけど中古より新しい方が良いと言われ続けた。理由を聞くと新しい方が誤作動も無いし、何より自分に完全に合う装備になるからだ。
「お勧めはウチのギルド職員が見繕った装備一式よ。見てみる?」
「流石ギルド職員。やる事が早い」
そして傭兵ギルドが見繕った装備一式を見てみる。此処で歩兵についてだが、歩兵にも幾つも種類はある。
軽歩兵、重装歩兵、強襲歩兵、ライフルマン、狙撃兵、など様々だ。歩兵は基本的にパワーアシストを装着して行動する。このパワーアシストは非常に画期的で軽歩兵で有りながら軽機関銃を運用出来る様になる。更に弾数も通常の三倍以上は持ち運び出来る様になる。
パワーアシストを装着すれば歩兵の戦闘力を飛躍的に向上させる事が可能となる。しかし、パワーアシストは地味に値段が高い代物。全ての兵士にパワーアシストを配備させる事が出来る訳では無い。
それに兵種によってはパワーアシストが要らないし、パワーアシストよりもっと金を掛ける必要がある兵器は山の様にあるのだ。
蛇足だが、作業用パワーアシストの元は軍用パワーアシストになっている。軍用の物に比べて廉価版以下になっているが、それでも作業用としては充分なパワーを持っている。
現に作業用パワーアシストを使うと重たい物でも結構楽に持ち運び出来るのだ。
「なら、お勧めの中から選びますよ。其処から自分に合うのを見繕えば良さそうなので」
「本当?やった!売り上げ貢献よ!」
俺の言葉に軽くハイタッチをする女性ギルド職員達。此奴ら、本当に暇人なんだなと改めて納得した瞬間だ。
そして幾つか見て決めたのが傭兵ギルドお勧めの基本装備一式だった。
軍用パワーアシストに多目的フェイスガード、防弾ヘルメット、防弾戦闘服10型。後は大型多目的リュックを購入する。
先ず多目的フェイスガードは防弾は勿論の事、暗視装置と熱感知装置が搭載されている。これを使えば暗かろうが茂みの中だろうが視界で有利になるのは間違いない。そして見た目が滅茶苦茶カッコいい。四つのセンサーが付いており、視界は網膜に直接投影される網膜プロジェクション方式を採用している。
防具や軍用パワーアシストは旧式ではあるが、充分な性能を持っているので良しとしている。
そして最後に大型多目的リュックは沢山荷物が入ります!
「後はこのMG-80軽機関銃を買います」
「そうなの?でも、これ発射レート高いわよ?こっちの複合アサルトライフルの方が」
「何言ってるのさ!弾幕は正義だ!て、偉い人も言ってるじゃ無いか!」
「言ってたかしら?」
「えー、エリカ分かんなーい」
「今時ぶりっ子やってる女子とか初めて見たよ」
そして迷わず無骨なデザインのMG-80軽機関銃を購入した。MG-80軽機関銃は圧倒的な弾幕を形成する事が出来るが、直ぐに弾切れになるのが欠点でもある。しかし弾自体の威力は高い為、歩兵の防具程度なら確実に撃ち抜ける威力が有る。
そして武装と防具を購入する。そして気になる値段は七十万クレジットぴったりになりました。え?意外と安いって?全部型落ちの旧式だからね。
「いや、もう少し余裕があると思ったんだけど」
「だってぇ、結構高い装備選んだでしょう?でも、命を守る装備をたったの七十万クレジットで買えたと思えば良いじゃない?」
「そうかな?そうかも」
「後は十万クレジット以上のお買い上げキャンペーンのフラッシュライトね。それじゃあ、ついでにこの依頼受ける?今此処が熱い場所なんだけど」
お勧めされたのは今が旬で最も激戦区とも言える惑星トミオーだった。
惑星トミオーにある大規模な市街地が現在、企業同士の争う地域となってしまった。更に惑星トミオー国防軍が事態を重く見て軍を派遣。停戦させる筈だったが、いつの間にか三つ巴の争いに発展。
現在、国防軍側は他の企業群から様々な支援を受けながら二つの企業を潰す為に戦っている状態だ。また現地政府は自由惑星共和国寄りの政策を採っており、共和国より型落ちした兵器が多数送られている。
しかし対立している企業側もグンマー星系ではそれなりの影響力を持っており、かなりの戦力を保持している。然も噂によれば、それぞれ地球連邦統一とガルディア帝国から支援を受けているらしいのだ。
いや、惑星トミオーの国防軍さん?貴方、完全に代理戦争の捨て駒になってますよ!寧ろライバル企業や三大国家が互いの面子を潰す為の当て馬になってますよ!
「思いっきり死地にぶち込もうとすんなよ!俺装備こんなんだぞ!歩兵でAWやMWがドンパチしてる戦場を駆け抜けろってか!」
「何言ってるのよ。バトルライフルまでなら防げる防具買ったんだから。彼処はね、もっと軽装で戦場に行ってる人達が沢山いるんだから。我慢しなさい」
「でも、それって軍の歩兵だけなんじゃない?ほら、装備支給されてない部隊とか」
「まぁ、トミオーの国防軍……大抵の軍の上層部は大分腐ってるからねぇ。今も企業群から大量のクレジットを受け取ってるだろうしぃ。結局、苦労するのは現場の人達だけなのよねぇ」
しかし、他の依頼を探すと碌な物が無い。と言うか、殆ど惑星トミオーの依頼しか無い。然も結構良い値段で提示されてるし。
「どの道、惑星トミオーに行くしか無さそうだな。戦況は国防軍が優勢なのかな?」
「そうよぉ。唯、対立してる企業も結構大きいからねぇ。これを機に惑星トミオーを乗っ取るつもりなのかも。後ろ盾も大きいから尚更かも。そうしたら、この惑星ミョーギも他人事じゃなくなるかも」
「それに惑星トミオーの紛争のお陰で経済的打撃は大きかったけど、今は随分と盛り返してるわ。この地区の都市開発計画も惑星トミオーの代用としてるし」
「坊やはある意味運が良かったのかもね。彼処のゴースト街とも遅かれ早かれ繋がりが無くなるんですから」
「繋がりが無くなる?」
そんな話は聞いた事が無い。そもそもゴーストだって、この街の経済活動に貢献している。彼等の食事の大半は此処から食材を手に入れてる。
態々、消費してくれる客を締め出すなんて有り得ない。
「どうも、この辺りを本格的に拡張するらしいの。丁度位置的にも他の都市部との中継地点としては良いし。だからゴースト達はこの場所からは御退場って訳ね」
「それに廃棄場が近くにあるのも景観を損なうとして撤去されるわ。ゴーストと一緒にね」
それを聞いて目の前が暗くなるのを感じた。自分の故郷とも言える廃棄場。そしてお世話になった親方、おっちゃん、イリアお姉さん、院長。そして多くのゴーストの住民達。
決して良い場所では無いと断言出来る。しかし、彼処には人々が毎日を一生懸命生きている場所なんだ。生まれがゴーストと言うだけで苦労してる人達が沢山居るんだ。
「もし、もしゴースト達が抵抗をしたらどうなる?」
「ん?……あぁ、そう言う事。多分殺されちゃうんじゃないかしらぁ?だって抵抗するんだもの。殺されても文句は言え無いわぁ」
「シュウ君は本当に運が良いわ。恐らく来年には撤去活動が本格的になる筈だもの。あ、でも安心してね。貴方はゴーストだけど傭兵ギルドに所属してるんだもの。だから傭兵ギルドに迷惑を掛けない限り身分と立場は保証されるんだから」
価値観の違いなのだろう。人以外の知的生命体が多い世界。今尚、時々新しい種族が生まれたり見つかったりしているこの御時世。更に発達を続ける科学、技術。それを当然の権利として享受する正規市民達。
そして増え続けるゴースト達に無関心な正規市民達。
未来の世界には俺が思っている以上に発達している。しかし、それ以上に命の価値が余りにも無さ過ぎた。
(違う……価値が無いのはゴーストだけだ)
此処に来て三大国家を始めとした国家の思想を何となく理解した。
悪い事は全てゴーストの所為にすれば良い。治安が悪いのも、犯罪件数が多いのも。
そして、スケープゴートとしての役割も。
ギルド職員はまだマシな方なのだろう。俺みたいなゴーストが傭兵ギルドに入って来るのだから。だから普通に対応してくれるのだろう。
尤も、それ以上の事に発展する事は無いだろう。所詮は彼女達も正規市民なのだから。
「そうですか。なら、自分は運が良かったですね。あ、依頼はこの国防軍行きの惑星トミオーを受けますよ」
「本当に?良かったわぁ。今、結構人手不足なのよね。国防軍側ねぇ。じゃあ明日の八時には傭兵ギルド前で待っててね。向こうから輸送車が来るからぁ」
「分かりました。では、今日は帰ります。色々相談に乗ってくれて有難う御座います。あ、装備は今から着て行きます」
そして戦闘服に着替え、パワーアシストを身に付ける。そして購入した装備を持ちながら廃棄場まで走り出す。
パワーアシストのお陰か今まで以上の速さで走って行ける。俺は孤児院に向けて走り出す。彼処にはまだ沢山の子供達が居る筈だ。此処が撤去されるなら絶対に何処か安全な場所に逃すべきだ。
そして道に転がっている障害物を吹き飛ばしながら孤児院へと近付いて行く。そして目的地でもある孤児院に着いてドアを思いっきり開ける。
「院長!イリアお姉さん!話があるんだ!ハァ、ハァ、居ない?」
人の気配が全く無かった。不思議に思い孤児院の中へと入って行く。外はまだ明るいと言うのに孤児院は妙に暗く感じる。
俺はキャンペーンで貰ったフラッシュライトを付けながら前に進む。そして食堂室へと近付くと異臭が鼻に付いた。
嫌な予感がした。俺の中の本能が中を見るなと訴えて来る。しかし、それを理性で封じ込めながらドアへと近付いて行く。
そして、シミュレーターで覚えた動きでゆっくりとドアを押し開けながらMG-80軽機関銃を構えると勢い良く中に入る。
「ッ!……こ、こんな。こんなのって」
視界に入った光景を頭が理解出来なかった。そして理解した瞬間、俺は口元を抑えて吐き気を我慢する。
そこで見た光景。
それは、子供達だったモノが転がっていた。
どの死体も数日が経って多少干からびていた。そして全ての死体に踠き苦しんだ跡があったのだ。
「ハァ、ハァ……クソ!こんな、こんな事が」
俺は吐き気を我慢しながら多目的フェイスガードを装着して食堂室へと入って行く。
死体を順に見て行くと俯せで倒れている長髪の女性の死体を見つけた。俺はまさかと思いその死体の顔を見る。
「イリア……お姉さん。何で……」
何故、彼女が死んでいるのか。そう思った瞬間、足音が聞こえた。
咄嗟に前に滑り込むと断続的な銃声が鳴り響く。俺は倒れ込みながらMG-80軽機関銃で反撃する。
先程の銃声より大きい音と圧倒的な発射レートの高さに相手は怯む。その隙に俺は立ち上がり、指切りバーストしながら近付いて行く。
そしてフラッシュライトの明かりに照らされた人物を見て言葉を失ってしまう。
「院長……?」
そこに居たのは腕で身を庇う院長の姿が居た。
「ま、待て!話せば分かる!武器も捨てる!だから、頼む!殺さないでくれぇ」
怯えた表情を向けながらサブマシンガンを手放す院長。そんな彼を見てると徐々に冷静になる自分が居た。
「何故こんな事を?」
「何故?そんなの決まっているだろう。これ以上、此処には居られないからだ」
「居られないなら何故子供達を殺した?答えろ!」
「邪魔になるからだ!それに態々殺してやっただけ感謝して貰いたい!どうせ遅かれ早かれ死ぬ運命になっているんだからな!」
意味が分からなかった。態々殺す理由が邪魔になるから?
俺が理解出来ないと察したのか院長は話し始める。
「良いか?ある程度、安全な環境の中で生活していたガキが外で生きて行けると思うか?寧ろこれから始まる撤去活動の邪魔になるだけで無く、外に居るゴーストの食い物にされる。それなら生かしておく意味は無いのだからな」
「意味が有るか無いかを決める権利が貴様にあるとでも言うか!」
「遅かれ早かれ誰かに殺されていた!今以上に無残に惨たらしく!なら腹一杯にして死んだ方が幸せなのだ!その為に子供達が好きな甘いデザートに毒を入れたのだ!」
どうせ死ぬなら苦しませずにか。俺は院長の歪んだ愛情と言える心理の一部を見た気がした。院長は院長なりに悩んだのかも知れない。
俺は振り返りテーブルを見る。確かにデザートのショートケーキと思われる物も転がっている。
「……そうか」
「あぁ、そうさ。そして子供達が寂しく無いようにイリアも行かせた。きっと彼女と子供達は今ごろ、天国で幸せな時を過ごしている筈だ。何せ自殺では無いのだから」
「……んな事、知るかよ」
そしてMG-80軽機関銃を院長に向ける。院長は表情を強張らせながら後退りする。
「ま、待て待て!こんな事をしても意味は!」
「んな事……知るかああああ‼︎」
引き金を引くと銃声が鳴り響き、銃火が部屋を照らす。それと同時に院長の悲鳴が少しだけ聞こえた。
弾切れになったMG-80軽機関銃。銃口からは硝煙が漂う。
そして院長の呻き声だけが聞こえる。
「院長、俺は……アンタに拾われた一人だ」
「ッ!う、嘘だ」
「四年前。当時、七歳の子供が一人帰って来なかっただろう?」
「君は……まさか、シュウなのかい?あぁ、成る程。君は昔から聡明だったからね。はは……いや、参ったね」
俺は院長に近付いて見下ろしながら言う。
「少なくとも、俺は院長に救われた命でもある。幾つの時に拾われたのかは知らないが。少なくとも二年以上は養って貰ったのは事実だ」
「…………」
「だから、今直ぐ失せろ。もう二度此処には来るな」
そう言い放つと院長は立ち上がり、俺から離れる様に走り出す。院長を見送りながら俺は物置小屋へと向かうのだった。
この孤児院には子供達を外で遊ばせるスペースがある。俺はそこに穴を深く掘って子供達の死体を布で包みながら、ゆっくりと入れて行く。
「イリアお姉さん。串焼き屋のおっちゃんを振ったのか?まぁ、確かに少々面倒臭いし良い年したおっちゃんだったけどさ」
最後にイリアお姉さんも布で包みながら穴に入れて行く。物置小屋に残っていた灯油みたいな液体を掛けて行く。
そして、マッチに火を着けてから穴の中に放り投げる。火は勢い良く燃え上がって行く。
既に周りは暗く、炎の明かりが周りを照らしている。
「ごめん、何も出来無くて。助けられる力が無くて……俺一人で逃げる事しか出来無くて」
燃え上がる炎に向けて呟く。結局、俺にはチートも無ければ、ご都合主義も無い。偶々俺が此処で目覚めただけに過ぎないんだ。
そんなどうでも良い事実を胸に抱きながら炎を見続ける。俺は罪滅ぼしがしたくて燃やしたのか。それとも院長を殺さなかった事を嘆くべきか。
色々な考えが浮かぶのを無理矢理消して行く。そして徐々に強くなる炎を見続けるのだ。
せめて、俺だけでもイリアお姉さんと子供達を見送る為に。