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Big Chance

 ロボットの状態は非常に悪かった。腕部と腰から下は無く、コクピットハッチも無かった。また頭部もかなり破損している状態だ。

 だが、それでも俺の胸のトキメキは鰻登りだったのだ。空想世界の産物と言える人型機動兵器。それがこんな場所で見つかったのだ。


「これは……運命の出会いと言う奴なのでは?いや間違いない。この出会いは運命だ!」


 ちょっと厨二臭い台詞を言うが気にしない。どうせ誰も見てる訳じゃ無いからね。

 俺は足元を注意しながら人型ロボットの残骸に近付いて行く。コクピット内を覗き込むと座席と操縦レバーがあり、何かのスイッチも幾つかあった。唯、モニターは無く随分と寂しい状態になっていた。

 しかし一度火が着いた俺の心は、気にする事無く座席に座る。そして操縦レバーを握りながら適当に動かしてみる。


「本来なら目の前にもモニターが有るんだろうか?もしくはVRヘルメットみたいなものか?それか網膜に直接映し出される網膜投影システムなのか。何方にしろ胸がワクワクする展開になるなら良いんだけどね!」


 しかし実際に座席に座り操縦レバーを動かしながら思うのは一つ。他にも人型ロボットはあるのでは無いのか?

 俺は直ぐに端末から公共ネットワークに繋げて調べる。すると軍事関係で調べれば沢山の軍事兵器が出て来た。そして人型ロボットにも大まかに二種類有る事が分かった。

 一つは民間で多く使用されているモビル・ウォーカー。通称MWと呼ばれる人型機動重機だ。

 民間では重機、警備などに使用される事が多く、治安維持軍でも多くのMWが採用されている。因みに治安維持軍は昔の警察、消防、救急の役割を全て担っている組織だ。故に俺達ゴーストにとってある意味、天敵な存在となっている。

 そして、もう一つは軍や企業。更に多くの傭兵に使用されている存在。それがアーマード・ウォーカー。通称AWと呼ばれる人型汎用機動兵器だ。

 AWは全てにおいて高い水準で作られている。戦車並の装甲。戦闘機の様な機動性。そして戦車と戦闘機を超える火力。この全てを兼ね備える事が出来るのがAWと言う存在だ。

 つまりAWが戦場に現れれば戦況は多少なりとも変化するとまで言われている程だ。勿論、相手側にAWが居ない事を前提としてだが。


 AWやMWにも様々な種類が有る。それこそ局地型、特化型まで様々だ。中には特化型のMWは通常のAWを超える性能を持つ場合もある。

 俺は考えた。どうすればAWやMWに乗る事が出来るのかと。直ぐに端末で調べると絶望的な情報しか出なかった。

 それは操縦する為には試験に合格して免許を受け取る必要があるのだ。また適性検査にも合格しなければ試験を受ける権利すら無い。更に言えば適性検査を受けるにしても金と身分証が必要だと言うのだ。


「金、身分証……無理ゲーじゃん」


 そして止めと言わんばかりの凄く悪いニュースだ。

 実は自分が居る孤児院だが、実は孤児院では無いのだ。正確に言うなら孤児院を隠れ蓑にしながら違法な人身売買を行なっているのだ。

 何故その事に気が付いたのか。それは院長から借りた本を返そうとした時だ。黒服とサングラスを掛けた如何にも怪しさ満点の男性二人と何やら話し込んでる院長を見かけたのだ。そして院長が端末から誰かを呼び出すとイリアお姉さんは三人の年長児を連れて来た。男性と院長が端末で何かの遣り取りをした後、年長児を全て連れて行ったのだ。

 この後、代わりに小さい子供が入って来た訳だが。

 このやり取りを見て確信した。大人組は全てグルなのだと。恐らくイリアお姉さんはこの生き方を選んだのだ。今の時代、身分も金も学歴すら無い女が一人で外の世界で生きて行ける訳が無い。自分自身を守る為なら他者を盾にする。


 それが今の当たり前なのだ。


 しかし、どう言った理由であれ俺は売られたくは無い。今の俺はまだ幼い五歳児だ。それに孤児院には全体で四十人くらい居る。まだ年長組は何人か居る。

 しかし売却されるまでタイムリミットは十歳くらいだろう。更に言えば安全を見積もって八歳くらいには逃げ出す必要がある。

 つまり実質三年で今より安全な場所で職を見つけて働く必要があるのだ。


(働くのは良いとして……他の子供達はどうする?)


 誰か大人に助けを求める?いや、寧ろ助けを求められた人が助けて欲しいだろう。それどころか助けを求めた事を院長に話すだろう。そうなれば俺は確実に終わる。


(何か、何か方法は無いのか?治安維持軍に連絡する?いや、してどうすんだよ。治安維持軍がゴーストを助ける訳が無い)


 治安維持軍が活動するのは正規市民達が住む場所だけだ。ゴーストが何処で野垂れ死のうとも毛ほども気にする事は無い。


 それが今の時代なのだ。


「結局……自分自身を守る事しか出来ないのか。いや、守る事すら出来ない状況じゃん。ハッ、何が異世界転生万歳だよ。だったら今すぐ何とか出来るチートやギフトを俺にくれよ」


 コクピットハッチの無い座席から見る空の色は唯々、青かったのだ。






 取り敢えず画面にヒビ割れの有る端末が今の俺の切り札だ。端末さえ有れば色々調べる事は出来る。それこそ職探しだって可能だ。


「転生した時の精神が大人で良かった。でなければお手上げだった可能性が高いし」


 今でも求人募集や転職サイトはある。勿論こんな時代なのだ。怪しい職も無い訳では無かった。例えば履歴書無しで即決採用で寮完備な場所もあったし。


「しかし、このままだとAWやMWの免許取れないし。と言うか免許云々言う前にやる事はあるだろうが」


 それは金を稼ぐ事だ。金はどんな時代でも裏切る事は無い。確かな価値として残るからだ。


「はぁ……となると。職探ししながらゴミ拾いしか無いか」


 コクピットから出て周りに広がる廃棄品の山を見る。俺が手に入れた端末みたいに使える物は確実にある。ならばそれを売れる所に転売して行くしかない。


「本っっっ当に、異世界転生様々だよ。畜生が」


 結局、ご都合主義的な流れを期待するのが間違っているのだ。俺は再び端末から売れそうな物を調べながら地道にゴミ拾いに精を出すのだった。






 ゴミ拾いと職探しをしながら二年の年月が経った。その間に出来た事は殆ど無かった。この二年間で出来たのは十万クレジット程の貯金くらいしか出来なかったのだ。

 俺は端末から売れる部品を調べてから、廃棄場から部品を回収して転売する。しかし此処に来て子供である事とゴーストである事が足を引っ張る事になった。

 そもそも俺は正規の場所で転売してる訳では無い。更に立場の非常に弱い自分が足元を見られるのは必然。つまり救いようが無い状態なのは言うまでも無い。

 結果として端金で売る事しか出来なかった訳だ。

 それでも辛抱強く愛想良く挨拶したり、希少な物を偶に渡したりしていたので最初よりは少しだけマシになった。特に店員と笑顔で世間話をしてたのを見たオーナーが少しだけ気を使ってくれる様になった。

 しかし、時は既に遅かった。今の孤児院で俺より年上なのは二人のみ。その内の一人は俺を子分にしたミーちゃんだ。

 何だかんだでミーちゃんの我儘を聞いたり、世話をしたりして保護者的な立場になっている。しかし無情な現実は既に目と鼻の先まで来ていた。

 そして、その無情な現実とはミーちゃんを含めた孤児院の子供達を救う力を俺は持っていないと言う事だ。寧ろ俺が助けて欲しいと誰かに頼りたい所なのだ。


「と言う訳何ですよ。なのでオーナーさん、何処か子供でも働ける場所あります?出来れば寮付きで敷金礼金無しで。後、未経験でも大丈夫な所なんですけど」

「お前……本当に七歳か?俺の娘の方がまだ子供やってるぞ?」

「うん!僕七歳のシュウです!だから仕事を紹介して欲しいなぁ〜」


 俺は子供の様に無邪気にオーナーに媚びを売る。そんな俺を呆れた顔をしながら見て来るオーナーと店員さん。

 足元を見られているが決して関係は悪くは無い。正確に言うなら俺が我慢しているだけなのだが。






「ねぇ、一つ聞いても良い?」

「何だよ」

「話してる子供は誰の事?まさか貴方なの?」


 俺が過去の話をしているとチュリー少尉が無粋なツッコミを入れて来る。たっく、空気読めよな。


「俺以外誰が居るんだよ」

「思い出を美化し過ぎてない?今の貴方と比べると、ちょっと……ねぇ?」


 過去の話をするにあたって多少は誤魔化している部分もある。特に転生してる辺りの話は曖昧にしている所は何箇所かある。なので前後の話の辻褄が合わない所はあるかも知れない。

 しかし、この女狐(チュリー少尉)は全く関係無いツッコミを入れて来るのだ。


「喧しいわ。次そんな事言ったら、そのふわふわの尻尾をパン生地の如くコネ回すぞ」

「や、止めてよ。やったら引っ掻くから」


 そう言ってチュリー少尉は自分の尻尾を抱き締めて丸くなる。最初からそうやって大人しくしていれば良いんだよ。






「でもオーナーさん。俺、AWとかMWを動かしたいんです。その為には最低でも傭兵ギルドかバウンティハンターになるしか無いんです」

「ほう、少しは調べたみたいだな。大抵の奴は正規市民を夢見て無茶して死んでいくんだがな」

「まぁね。でも、それくらい調べれば直ぐに分かる事だけど」

「ゴーストは基本無知だからな。そもそも調べる事をしないのさ。それに正規市民になる為に多額のクレジットを手に入れる為に簡単に命を賭けちまう。そして最後に……」


 オーナーは右を向いて顎を動かす。その先には力無く地面に座り込むか寝ている数人の人達。


「ああなって力尽きて行く日々を送るのさ。全く、嫌な事だね」

「でもさ、オーナーも俺の足元見てるじゃん。相場より安い価格で買い取ってるし」

「……さて、仕事の話だったな。生憎ウチじゃあ無理だな」

「いや、誤魔化せて無いから」


 それから暫く話をしてから別れる事にした。一応端末から求人募集を探しては応募しているが、一つも合格してはいない。

 理由は簡単だ。資格も無ければ戸籍も無い。更に年齢も七歳と来れば厄介者以外何者でも無いのは明白。

 帰り道は様々な出店や屋台が出て賑わう場所。こんな場所でも様々な種族は居る。獣耳が生えてたり、手が四本あったり、肌の色が独特だったり。

 こうして見るとゴーストと正規市民の違いは何か。それは、唯生まれた場所、血筋で全てが決まると言っても過言では無い。


「串焼き買っちゃおっかなぁ」


 月に一度の贅沢がこの通りで何か一つ買い食いする事だったりする。しかし今は無駄な出費を抑えるべきだ。今は一クレジットですら惜しい事に変わりは無い。

 しかし俺が暫く串焼き屋を見続けたのに気付いたのか、おっちゃんが此方に気付いて声を掛けて来た。


「よう、シュウ坊。小遣い稼ぎの帰りか?」

「小遣い稼ぎじゃ無いよ。俺の人生が掛かってるんだからさ」

「ハッハッハッ!あんな端金でお前さんの人生が掛かってんのか!随分と虚しい人生じゃねえか」

「余計なお世話だよ」


 口の悪いおっちゃんだが、案外気の良い所があるので憎めないでいる。例えば串焼き一本買えば売れ無い肉の切れ端を焼いてタップリと秘伝のタレを付けてくれるのだ。

 勿論独り占めはしない。自分で買った分以外はちゃんとイリアお姉さんに渡している。すると秘伝のタレの味がするチャーハンが出て来るのだ。


「まぁ、呼び止められたら仕方無いや。おっちゃん、モモ肉一本下さい」

「毎度!しかし、今回は随分とシケた面してんな。どうだ?俺に愚痴ってみろよ」

「どうせ人の不幸をアテにして酒でも飲むんだろ?なら精々美味しく飲める様にしてやるさ」


 俺は精一杯の皮肉を込めながら現在の状況を話す。最早後が無い事、AWやMWに乗りたい事など。

 そもそもAWやMWに関しては話すつもりは無かった。だが、人間諦めが付くとどうも愚痴りたくなるらしい。


「成る程な。なぁ、例えば危険な場所でMWが動かせるかも知れないなら……行くか?」

「勿論行くよ。それで傭兵ギルドかバウンティハンターになる足掛かりになるならね」

「そうかそうか。まぁ、()()ならシュウ坊でも上手く行けるだろ。基本的にMWでの活動がメインだからな」

「MW……だと?おっちゃん、俺MW操縦出来んの!」


 まさかこんな所でビッグチャンスが降って来るとは思わなかった。今なら唯の陰気臭いおっちゃんから救世主の様に後光が見える気がするし。

 我ながら単純だなと思いながらも話の先を促す。


「無理に決まってんだろ。だがお前さんみたいな世渡り上手なら何とかなるだろうよ」

「因みにどんな仕事なのさ?」

「気になるか?そいつはな……」


 おっちゃんは勿体ぶる様に間を空けながら口にした。


「外宇宙のゴミ拾いだよ」


 もしかしたら俺は地上でのゴミ拾いから宇宙でのゴミ拾いにジョブチェンジするかも知れない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 宇宙のゴミ拾い、孤児、...ジュドー●アーシタ(妹抜き)かな?
[良い点] プラネテス懐かしい、(デブリ回収業者の話です) まさか染まる前のキサラギはこんなに純粋なんだ…
[一言] プラネテスいいよね(ボソッ
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