自分自身の目覚め
待たせたな!補給物資を投稿する!
初めて自分自身だと認識した時は、廃棄場と言う名のゴミ溜めの中からだった。辺り一面日用品からよく分からない機材のガラクタが沢山有った。
周りを見渡しながら後頭部に激痛が有ったのを理解した。自分の立ち位置から察するにゴミ山から転げ落ちたと推測出来た。
「……痛い。それに、此処は何処なんだ?」
この後、自分が子供の姿になっていた事に気付いて「異世界転生キター!」と大喜びしたのは言うまでも無かった。もしかしたら憑依系だったかも知れないが、自分の顔を何も映さなくなったヒビ割れたモニターで見ると子供の頃の自分だったので転生したと判断した。
然も自分自身が蘇る前の記憶を思い出せば、どうやら俺は孤児院に捨てられたらしい。そして孤児院での居場所が無くて何時もこのゴミ溜めで一人で遊んでた訳だ。
「ボッチからのスタートか。けど、異世界転生なら間違い無く特典がある筈!さぁ、俺の真の力を発現せよ!」
誰も居ない事を良い事に厨二全開の台詞を言い出す始末。この時の俺は若かったんだ。
自身の前世についての記憶は何故か朧げだ。社会人としての人間関係や家族構成。更に友人や知人の顔と思い出がボヤけてるのだ。代わりに知識の部分に関してはそこまで酷くは無い。そのお陰か元の世界に対する未練は非常に少なく、今は転生した事を素直に喜ぶ事が出来た。
因みにチート的な物は無く、記憶が蘇る前に発現していたギフトが三秒先を見通すだけに過ぎなかった。このギフトで役に立つ事と言えばジャンケンで必ず勝てるくらいだろうか。
「何処ぞのチート無し少年と同じじゃん!いや、あっちは女神が居るだけ良いじゃん!」
使えるか使えないかは別として、一緒に居るだけで楽しそうなのは間違い無さそうだし。
全く進展しない事に頭を悩ませてると、空から何かの音が聞こえて来る。飛行機のエンジン音かな?と思い空を見上げる。するとそこには大きな艦船が飛んでいたのだ。
自分の記憶の中では旅客機や輸送機がデカい飛行機だと思っていた。しかし、初めて見た空飛ぶ艦船を見て唖然としたのを覚えている。後にこの時に空を飛んでいたのは大型輸送艇だと知ったのだ。
「うわぁ……スゲェ。いや、本当に凄い。俺は未来のSF世界に来たんだ!」
この時はまだ純粋な気持ちを持っていた。自分の今の境遇や立ち位置を気にする前だったからだ。つまりチートが有ろうが無かろうが関係無かったのだ。未来への希望を抱いていた訳だ。
取り敢えず記憶が蘇った後なのだが、俺は一度孤児院へと帰る事にした。先ず最初に情報を集める必要があった。此処が地球では無いのは分かっていた。理由?太陽の他に他の小惑星が二つ見えていたからだ。
(今の俺は五、六歳と言った所か。つまり唯の子供と言う事だ。チートは無かったけど、俺には大人としての知性と知識がある)
例え二十一世紀の知識が役に立たなくとも、大人の知性があるだけで同年代より遥かにマシなスタートな訳だ。
つまり、俺は運が良かったのだ。少なくとも同じ境遇の同世代の子供達より。
孤児院へ向かう道中は非常に古臭い建物の間を通る事になった。
そもそも、孤児院がある場所はスラム街の中にある。しかしスラム街は意外にも人通りは結構多く、市場や屋台などでは食欲をそそる良い匂いがでており結構賑わっていた。
そしてスラム街の奥へ行けば綺麗な街並みが建ち並んでいる。さらに遠くの方を見れば高層ビルが沢山建ち並んでいるのが見える。しかし、俺達の様な存在は綺麗な街並みへ行く事は基本的には出来無い。
何故なら俺達は非正規市民で、向こうは正規市民だからだ。
因みに地形的に言うなら【廃棄場|スラム街|正規市民の街|都市】な感じになるだろう。
「此処だ。しかし、随分と古臭い建物と言うか。とてもじゃないけど、教会とは言えないわな」
大きめの建物だが所々ボロボロで老朽化は酷い物だ。それでも周りに柵があるし、簡易的な警備ロボが配置されてるのでマシな分類に入るだろう。
俺はそのまま正面の入り口から入る。そしてドアを開けた瞬間に他の子供達の声が聞こえた。
「うわーん!ミーちゃんが叩いたー!」
「お姉ちゃん!お腹空いたー!」
「イリアお姉ちゃん!ミーちゃんがアルのおもちゃを取った!」
「ちょっと待ちなさい。ほら、もう少しだからね」
中を見れば子供、子供、子供、ちょっと成長した子供がいた。そう、中は最早戦場その物だった。
「あ、すいません。間違えました」
ドアを閉める直前にイリアお姉ちゃんと思われる人物と目が合ったが気にせずドアを閉める。君子危うきに近寄らずと言う奴だ。
「さて、これからどうしようか」
「お帰りシュウ。早速だけどミーとアルとルイの相手をしてあげてね。私は今からご飯の準備をするから」
「……分かりました」
逃げようとしたら回り込まれてしまった。然も音も無くドアを開ける辺り手強い相手だと瞬時に理解出来た。
母は強し。いや、この場合は姉は強しになるのだろうか。俺は逃げる暇も無くイリアお姉ちゃんに首根っこを掴まれてしまう。そして他の子供達の中心地に置かれる。
「じゃあ、後はお願いね」
「ハァ……マジか」
イリアお姉ちゃん……いや、お姉さんと言うか。流石に年下相手にお姉ちゃんとか言う精神年齢してないし。
兎に角イリアお姉さんは俺を子供達が集まってる場所に放置してサッサと安全圏に離脱して行く。いや、ご飯作ってくれるだけ有難いんだけどさ。
周りを見ると年長の子が五人、同世代位の子が五人、年少の子が十人と言った感じだ。しかし年長と言っても七〜十歳位の子供ばかりだ。
つまり、何が言いたいのかと言うとだ。
「こいつー!やったな!」
「お前が悪いんだ!先にお前が叩いたんだ!」
「うわーん!ママーに会いたいよー!」
「ミーちゃんの馬鹿!もう知らない!」
「此処は……地獄だ」
子供達は統率無く元気に思い思いの事をやっている。正直に言えば子供の相手をするより世界情勢を知りたいのだ。
俺が呆然としていると頭を叩かれた。誰かと思い振り返ると女の子が何故か睨みながら言い放つ。
「今日からアンタは私の下僕よ!」
「唐突過ぎるだろ」
「良いから!私を守りなさい!」
「もうやだ。この職場」
最初の時の異世界転生万歳精神は何処へやら。何故俺は子供のお守りをせねばならんのか。
結局俺は大人としての知性を遺憾なく発揮する事は無く、子供達の世話をするしか無かったのだった。
ご飯を食べてシャワーを浴びたら歯を磨いて寝る。この一連の流れは時代が進もうとも大して変わる事は無かった。食事は色々具が入ったシチューにパンが一つ。実に質素だったが我儘を言うつもりは無い。
何故なら俺達は全員この孤児院で養われているからだ。
今回は院長らしき人物は見なかったが、記憶の中を検索すると特徴の無い細身の中年男性が営んでいるらしい。幸い記憶の中では悪い印象は無かったので慈善家なのだろうと推測した。
(取り敢えず明日だ。明日ゴミ捨て場に行こう。もしかしたら使える物が有るかも知れない)
この時代なら恐らくスマホ以上の端末がある筈だ。捨てられてる物自体は旧式かも知れんが、俺から見たら最新以上の物に違いない。
取り敢えず目下の目標として世界情勢を調べる事。そして院長とイリアお姉さんに媚を売る事だ。何故なら少しはマシな身近な情報を手に入れる為だ。
(寝て目が覚めたら前の世界に戻らないかな?戻ったら戻ったで積みプラ消費したいし)
新たな目標を胸に寝る事にする。しかし周りの子供達の中には静かに泣いてる子も居る。現に隣で寝ているミーちゃんとやらは静かに泣きながら鼻水を垂らしてるし。
「ハァ、何だかなぁ。結局、俺は運が良いだけだったな」
少なくともホームシックにはなって無いし、両親に関して涙を流す事は無いだろう。今でも両親が生きてるとは思わない。少なくとも大きな艦艇が空を飛んでる時点でSFの世界に来たのだから。
俺はミーちゃんの涙と鼻水をティッシュで拭き取りながら静かに目を閉じるのだった。
それから数週間が経った。色々調べた結果、良いニュースが幾つかと凄く悪いニュースがある。何方から聞きたい?
悪いが良いニュースから話させて貰う。そちらの方が多いのでね。
先ず最初に現在の情勢が判明した。この広い宇宙では三大国家と呼ばれる大きな国家が存在している。日々、三大国家の間では三つ巴の睨み合いが続いている訳だ。
そして今居る場所だが中立指定宙域にされている、グンマー星系と呼ばれる辺境の宙域の一つのミョーギ惑星に居る。豊富な地下資源とテラフォーミングにより移住可能惑星となっている。更に資源や特産品により交易は盛んであり繁栄を謳歌している状態だ。
尤も、極稀にだが企業同士の戦闘により流れ弾が年に数回来るのはご愛敬と言えなくも無い。
因みに中立指定宙域の理由は豊富な資源惑星が多数ある為、三大国家の利益をなるべく公平にする為に指定されている。その宙域内では三大国家から資源回収を依頼された大企業同士が常に牽制し合っている。
次に廃棄場で画面にヒビが入った旧式の端末を手に入れた。最初は何も映さなかったが、別の物の端末のバッテリーを入れ替えて充電したら普通に使えたのだ。全て初期化されてはいたが、公共ネットワークは使用出来る事も判明した。
何故公共ネットワークが使えるのか。それは我々ゴーストが無断で中継機を使っているからだ。本来なら違法行為になるのだが正規市民側からは何一つとして注意される事は無かった。
これは推測なのだが、正規市民達はゴーストを自分達の綺麗な街に入れたくは無いだろう。なら多少の違反には目を瞑りゴーストにも娯楽や情報をある程度与える。そうすれば互いに関わる事は少なくなるからだ。
因みに手に入れた端末は自分の道具入れの底の蓋の下に隠している。子供達に見つかれば奪われるのは必至だからだ。
そして院長とイリアお姉さんと日常会話をする関係にまでなった。これは日々率先して片付けや子守をやるのは勿論だが、真面目に文字などの読み書きをしっかり行い、キチンとした挨拶や無礼な事をしない様にしたのだ。お陰で院長からは本を借りれたり、イリアお姉さんからは結構な割合でハグして貰える様になった。
以上が大体の良いニュースだ。大人の知性が有ればこれくらいは朝飯前だ。社会人だった身としては出来て当然の内容だろう。
最後に……廃棄場で有る物を見つけたのだ。それは端末を使い、公共ネット経由で近隣の状況を調べ終えて帰る時だった。何となく顔を上げた先にある物があった。
そう、かつては空想の代物だった物。現実では普通に戦車や戦闘機で充分と言われていた物。
そこには、紛れも無い破損した人型機動兵器のコクピットブロックと頭部が放棄されていたのだった。
偶に兵器一覧を更新してます。ネタバレになるかもだけど興味があれば是非(^^)