擦れ違う者達
此処でストック無くなりましたので一度更新止まります。
そして何時も感想、誤字報告、評価ありがとうございます。正直に言いますと此処まで続けられてるのは皆さんお陰だと感じてます。
今後共、宜しくお願いします(^^)
後、長文タイトルにはしませんので。ご安心下さい(╹◡╹)
茜色に染まるゴーストタウン。その中で俺は敵サラガンを睨み続ける。弾切れになったM&W500マグナムを構えながら。
(年貢の納め時って奴だな。やれやれ、俺の悪運も遂にこんな辺鄙な場所で尽きたか)
恐らく俺が死んで敵サラガンも居なくなるだろう。そうすればスカベンジャー擬きが集まりバレットネイターから使える部品を取っていく。
(ネロは……多分、大丈夫な筈だ。運が良ければスカベンジャーに拾われて便利道具として役立つだろうし)
その為に態々遠くに投げたのだ。流れ弾に当たりましたなんて笑えない話になるからな。
俺はいつしか目を閉じていた。そしてM&W500マグナムをしっかりと握り締めながら覚悟を決める。
「レイナ……待たせたな。もう直ぐお前に会いに行ける」
俺の意識は既にこの世には無い。俺はあの世に行ったらレイナや戦友達に何を話そうかと考える。少々逝くのが早かったかも知れないが、戦友達なら文句を言いながらも受け入れてくれるだろう。
そして、レイナは悲しそうな笑みを浮かべながらも受け入れてくれるだろう。レイナはそう言う優しい少女だからな。
しかし、いくら待てども身体に45ミリの弾丸が貫通する事は無かった。いや、貫通どころかミンチより酷い状態になるけど。
こんな時に俺の為に駆け寄ってくる少年が居れば完璧なんだがなと考えるのだが、一向に何も来ない。
(あれ?まだ撃たねぇのか?こっちは覚悟は決まって……は無いけど。どうせなら一思いにやってくれた方が)
ゆっくりと目蓋を開けると今だに此方に45ミリサブマシンガンの銃口を向けている敵サラガンがいる。
何となく敵サラガンの単眼センサーを見ると結構なスピードでキュイキュイ動いてる。何かを解析してるのか?なら一体何を?
(ッ!ま、まさか、俺がスーパーエースことクリムゾン・ウルフのシュウ・キサラギ少尉だと今更気付いたとか!そしてこのサラガンのパイロットは俺のファンとかか!いやー、参ったなぁ。サインとか書いた事無いからなー)
先程までセンチメンタル的な考えを止めて、適当な考え始める。すると敵サラガンの単眼センサーが点滅し始める。どうやら発光信号らしい。
「何々、【ヘルメットを取れ】だと?おいおい、俺はスーパーエースだぜ?そう簡単に顔割れするのはお断りってな!」
調子に乗って何処ぞの有名俳優気取りで言い出す始末。
この男、今にも殺される一歩手前なのを忘れているのでは無かろうか?
しかし敵サラガンのパイロットは此方の予想を超える行動を取る。サラガンのコクピットハッチが開いたと思えば、中からパイロットスーツに身を包んだ女性パイロットが出て来たのだ。
然も銃も何も持たずにだ。
だが、俺はそれ以上に目を引かれた事が有った。
「何だ……アレは?コードが直接繋がってるだと?」
どう考えても普通とは言えない女性パイロットの姿。何故なら腕、脚、背中に何本ものコードが繋がっている。更にヘルメットにも何かを搭載してるのか普通より大きく見える。
余りにも異常な女性パイロットの姿を見ながらも、俺は自分のヘルメットに手を掛ける。どう言った理由であれ、向こうに主導権があるにも関わらず譲歩してくれたのだ。
此処で駄々捏ねたって虚しいだけだ。
「ふぅ……お望み通りヘルメットを取ったが。これで良いのか?因みに俺のサインが欲しければペンと色紙を用意しな」
【……】
俺の冗談を無視しながらも女性パイロットは此方を見続ける。
女性パイロットはヘルメットを被っているので顔は分からないが、パイロットスーツなのでスレンダーなスタイルが分かる。しかし多数のコードが繋がってる所を見ると、かなりキナ臭い物を感じる訳だが。
「反応が無いのも困るんだがな」
俺は自然体でM&W500マグナムを装填しようとする。すると女性パイロットも直ぐにコクピットに引っ込んで行く。
「やっぱり上手く行かねぇな。あー、クソ。こんな中途半端な感じで死ぬ事になるとは。まぁ、良い土産話にはなるか」
リロードを終えて敵サラガンを見上げる。すると45ミリサブマシンガンの銃口を下げるでは無いか。更に百八十度反転したかと思うと。
「いや、そのオチはねぇよ!馬鹿野郎⁉︎」
慌ててヘルメットを被り後ろに向けて走る。しかし突如背中に途轍も無い風圧に押されて、おれは一瞬だけ空を飛んで行く。正確に言うなら唯、吹き飛ばされたのだが。
そう、敵サラガンは此方に背中を向けたかと思えば、思いっ切りブースターを吹かしたのだ。
「後方確認ヨシ!くらいやれよ!何処ぞのヘンテコ猫だってやってんだぞ!」
地面に叩き付けられながらも、受け身を取りながら地面を転がる。そして文句を思いっ切りぶち撒ける。
すると再び反転したかと思うと45ミリサブマシンガンで俺のバレットネイターを狙う。
そして45ミリサブマシンガンの凄まじい銃声と共にバレットネイターは穴だらけになり、爆散するのだった。
「おいいぃぃいい‼︎何してくれちゃってんのおおぉぉおお⁉︎嫌がらせか!嫌がらせがしたいのか!一体お前は何がしたいんだよ!答えやがれ!」
取り敢えずM&W500マグナムで敵サラガンを撃つのだが効果は無い。まぁ、逆に効果が有ったら凄いんだけどな。
因みにバレットネイターは徹底的に破壊された。態々45ミリサブマシンガンの弾倉をリロードしたと思えば再び空になるで撃ちまくったのだ。
そう、俗に言う死体撃ちである。
「あ、あぁ……お、俺の……俺専用機のバレットネイターが……あ、あんまりだああぁぁぁ……」
そしてスクラップになったバレットネイターを尻目に何処かに去って行く敵サラガン。
何故俺は生かされ、バレットネイターはスクラップにされたのか。理由は分からないが奴なりの理由が有ったのだろうか。
敵の情けで生かされたのは間違い無いだろう。だが愛機を目の前でスクラップにされた事は絶対に許さない。絶対に許さない!
「はぁ……まぁ、命有っての物種って奴だけどさ」
結果的に俺は負けたのだ。この世界で負けた者に慈悲を与えられただけでも運が良いのは間違い無いのだから。
レイナはサラガンを操作しながら混乱していた。
(何で……何で彼処にシュウが居たの?タケルは知っていた筈。なのに……何で教えてくれなかったの?)
最近タケルの様子がおかしく、少々怪しい動きが多いと思っていた。特にマザーシップとの戦いの後からだろうか。
戦闘後に調整の為に直ぐに調整用カプセルに入れられた。しかも何時も以上に長期間調整は続けられた。心配になりタケルに聞いてみたが劣化部分が幾つか見つかったとしか教えて貰えては無かった。
更に言えば今回もそうだ。裏切る予定ではあったが、味方との通信のやり取りを禁止されていたのだ。
殺される連中と無駄話するつもりは私自身も別に無かった。けど、態々指示で出す事だろうか?
そして、結果は見ての通りになった。
「あの拳銃……まだ、持ってたんだ」
私が彼にプレゼントとして買った拳銃。ショーケースに飾られていた時にへばり付いて見ていた彼の姿。そんな姿を私は少しだけ笑い、タケルは呆れながら見ていた。
「今回の傭兵リストの検索」
私は懐かしい思い出を振り切り、今回の任務について調べる。そして乗機から検索すれば直ぐに出て来た。
「……そっか。シュウは夢を叶えたんだね」
調べれば調べる程簡単に出て来た。今や一部の業界では時の人となっている。
"いつかAWのエースパイロットになってビッグになる!"
いつも私達に向かって話していた。そしてAWやMWの話を楽しそうに喋っていたのだ。
あの頃は希望なんて無かった。でも、シュウが私達の部隊に配属されて一気に見る景色が変わった。何も無い白黒の世界が彩りに満ちた世界に。
だからこそだ。タケルが今でもシュウを許していない事。シュウとは二度と会う事を望んで無い事。
そして、何より私はもう……。
「シュウ……貴方が生きてて良かった」
後ろを振り返って見ると一筋の黒煙が立ち昇っている。シュウのバレットネイターの識別反応はロストしている。
これならシュウは死んだとタケルに思わせる事も出来る。その為に死体が絶対に残らない程に機体とコクピットをバラバラにしたのだから。
「……」
正直に言えば今直ぐに会いに行きたい。会って抱き締めたい。そして互いに生きて会えた事を喜び合いたい。
しかし、それは無理な話だ。自身の手を見ながら首をゆっくりと横に振る。
(会いたい。けど会えない。こんな身体になった私を見せたく無い)
既に人としての機能は殆ど存在していない身体。最早リンク・ディバイス・システムの一部となっている身体。
そんな身体で会ったとして、彼は私を抱き締めてくれるだろうか?
「ッ……嫌だ、嫌だよ。シュウ……私は」
拒否されるくらいなら会いたく無い。けど、いつ互いのどちらかが死ぬか分からない。
だから、私はこの時に選んだのだ。彼の夢になる為に。
例え、その夢が歪な物であろうとも。その歪な夢を叶えるだけの力は既に手に入れているのだから。
せめて、夢だけでも共に居たいと思った事に後悔は無かった。
現在、俺はネロを捜索中である。先程のバレットネイターの爆発と敵サラガンがブースターを吹かして跳んで行った結果、ネロが何処かに転がって行ったのだ。いや、もしかしたら地面に埋れてるのかも知れないが。
「ネロちゃーん。何処だよー。もう直ぐ日も暮れるし。このままだとマジでヤバいかも」
ゴーストタウンを見ながら周りを警戒する。今の自分の手持ち武器はM&W500マグナムとコンバットナイフだけだ。本来なら小型のMG-80軽機関銃も有ったのだが、バレットネイター諸共爆散したのだ。
「それにチュリー少尉もどうなってる事やら。最悪、原住民ゴーストの連中に……うん、成仏してくれ」
きっと、あんな事やこんな事をされてるに違いない。もし時間があれば様子だけでも見に行く予定ではあるが。
「先ずはネロちゃんを見つけなければ。多分この辺に飛ばされたと思うんだが」
ネロを探しながら地面を眺める。するとネロらしきボディカラーを発見する。急いで地面を掘り起こすと砂塗れになったネロちゃんを発見した。
「ネロ!無事だったんだな!良かったぁ」
「マスターもご無事で何よりです。あの絶望的な状況で生き残れた事をネロは称賛します」
「ありがとよ。もしかしたらコイツに助けられたのかもな」
俺はネロに大量にくっ付いた砂を墜としながらM&W500マグナムを見る。あの時もレイナに救われた訳だからな。何かしらの守護霊的なのが居るのかも知れない。
「さて、お次はチュリー少尉の捜索だな。多数のゴーストに囲まれてたら諦めるがな」
「チュリー少尉のフォーナイトは此処から十時方向、八百メートル先に反応が有ります。また十二時方向にアーロン大尉のラプトルが有ります」
「アーロン大尉は戦死したからな。なら先にチュリー少尉からだ。さて、後はゴーストに絡まれ無い事を祈るぜ」
俺はネロを抱え、M&W500マグナムを構えながらチュリー少尉の救出に向かう。どう言った経緯であれゴーストが居る街中でドンパチしたんだ。間違い無くゴーストからしたら迷惑極まりない事だ。
そんな中でドンパチ起こした当事者達が居れば復讐したくなる物だ。例え惰性で生きてる連中であろうともだ。
周辺を警戒しながら街中を小走りで走って行く。時々誰かの気配はするが気付かれない様に慎重に行動する。
(いつの間にかQA・ザハロフの輸送隊も居なくなってるし。まぁ、彼奴らが居なくなったのは別に良いんだが。だが、これは本格的に不味い状況になってるな)
ならば、せめてチュリー少尉との合流を急ぐ必要がある。
しかしチュリー少尉のフォーナイトより先にラプトルを発見する事になった。そして一人の人影がラプトルの前で座り込んでいた。
まさかと思い、俺は周りを警戒しながら人影に近付いていく。そして、そこに居たのは予想通りチュリー少尉だった。
「チュリー少尉、無事で何よりだ。サバイバルキットと武器を持ってるのも感心感心」
「…………」
反応は無い。だが仕方ない事だろう。誰だって幸せが目前で消えたら呆然とする。特に愛する人を失ったら尚更だ。
だが、状況はそれを許してはくれない。いつ周りからゴースト連中がやって来るか分からない。ならば早い所移動して身を隠したい所なのだ。
「チュリー少尉、今のアンタの気持ちは良く分かってるつもりだ。だからこんな事言いたくは無いが早くこの場所から移動するぞ」
「……放っといて頂戴」
「そうしたいのは山々なんだがな。生憎俺は手持ちのサバイバルキットも武器も無いんでね」
そう言うとチュリー少尉は無言で此方にサバイバルキットとアサルトカービンを渡して来る。どうやら余程アーロン大尉の死が応えたらしい。
「成る程。だが此処でソレを受け取ると俺に対する株価が暴落するから遠慮しとくよ」
そして株価が暴落して腐って無価値になるんだろ?俺知ってるからな。
俺はチュリー少尉を無視してラプトルへと向かう。するとチュリー少尉が立ち上がり此方にアサルトカービンを向ける。
「何……しようとしてるの?」
「ラプトルのコクピットにあるサバイバルキットと武器を回収しようと思ってな。ついでにアーロン大尉の認識票を取っといてやるのさ。動こうとしないアンタに変わってな。感謝しろよ」
「ふざけないで!大体、貴方がこんな任務に勧誘したからアーロンは死んだのよ!それで感謝?今、私が貴方を殺す事だって出来るのよ」
アサルトカービンの銃口と憎しみの篭った瞳を此方に向けるチュリー少尉。そんなチュリー少尉を見て鼻で笑ってしまう。
「ハッ!だったら何で傭兵やってんだよ?こうなるリスクが無いとでも思ってたとか?だとしたら随分とおめでたい思考回路してんだな。今からでも遅くはねぇよ。転職する事をお勧めするよ」
「ッ!馬鹿にして!この状況で私を挑発したらどうなるか分かってない訳?そっちこそおめでたい思考回路してるわ!」
確かにそうかも知れない。こんな状況で挑発すれば殺されるリスクは高い。だが何時迄も呆然とされたままよりかはマシだ。
だからチュリー少尉をしっかりと見ながら今の状況を伝える。
「今、俺達が居る場所は戦場のど真ん中だ。然も救難信号を出せば間違い無くQA・ザハロフが掃除屋部隊を派遣して来るに決まってる。つまり、俺達が生き残るにはQA・ザハロフにバレない様に傭兵ギルドに行くしか無い。それくらい、チュリー少尉なら分かってる事だと思ってたんだがな」
「……ッ、ふん。勝手にすれば。但し、アーロンの認識票は私が預かるから」
「はいはい。お好きな様に」
俺はラプトルのコクピット部分に行き緊急解除レバーを強く引く。するとコクピットハッチが強制的に開く。そして中を見れば血塗れのコクピットとアーロン大尉だったモノがあった。
「たっく、特注のコクピットだって言ってた癖に。フラグくらいへし折れよ。死んだら意味無いじゃないか」
簡単に手を合わせてから中を調べる。今の俺には手を合わせるくらいしか出来無いからな。先ずはアーロン大尉の認識票を回収。そして椅子の裏に有るであろうサバイバルキットと武器を探す。
「チッ、サバイバルキットは壊れてんのか。なら使える奴だけ貰っといてと。武器は……畜生、重機関銃じゃん。こんなの抱えて移動出来るかよ」
せめて簡易型の強化外骨格があれば話は別だがなと思いながらコクピットから出る。
結局手に入れたのはサバイバルキットに入ってた手持ちのライト、医療品、保存食のみ。水と通信機が無かったのは手痛いし、武器も俺では使えない代物だったのが残念な事だ。
俺は血を拭ってからアーロン大尉の認識票をチュリー少尉に渡す。チュリー少尉はアーロン大尉の認識票を見て泣きながら顔をくしゃくしゃにして再び座り込んでしまう。
「周りの警戒はしといてやるよ。但し、三分間だけな」
俺はチュリー少尉に聞こえない様に呟きながらネロと共に周辺警戒をするのだった。
チュリー少尉が泣き止んだ頃には既に日が暮れて辺りは暗闇に包まれていた。
俺達は適当な廃屋に入って身を隠しながら身体を休ませていた。
「水、少し貰うよ」
「……勝手にしなさい」
取り敢えず保存食を食べて水で流し込む。こうすると腹が膨れるんだ。出来る事ならもっと味付けがしっかりした奴が欲しかったな。
今はライトの光を消して月明かりだけを頼りにしている。尤も、空を見上げれば月は二つあるので目が慣れれば結構明るく感じるだろう。
「さてと、明日に備えて寝るか。ネロ、悪いけど周辺の警戒を頼む」
「了解しました」
「何かあったら起こしてくれ。但しデカい音は厳禁だ」
俺は廃屋に有ったボロボロの布を上手く使い、敷布団代わりに使う。勿論チュリー少尉の分もあるので問題無いぞ。
「ねぇ、やけに手馴れてるわね」
「まぁな。昔は歩兵もやってたからな。硬い地面で如何に身体を痛めずに寝るかが問題だったが。一番楽だったのは座って壁に背を当てて寝る事だ」
「そう。そう言えば、貴方も大切な人を失ったのよね。復讐とか考えなかったの?」
「復讐か。出来る事ならやりたかったけどな。だが、直接殺した奴は味方のAWに殺されたらしい」
「直接?」
「あぁ。実際、誰が悪かったのか。どうしてあの場所にレイナと他の連中が居たのか。今でも知ってるのは奴だけだ」
「その奴って誰か聞いても?」
「幼馴染だったんだ。レイナのな」
俺は月明かりを見ながら昔の記憶を遡る。そして何となく俺は自身の過去話をする。理由なんて無い。唯、何となくさ。
そう、初めてこの世界に俺と言う存在が現れた時の記憶をだ。
【悲報】
バレットネイター爆散しスクラップと化す