No.19 vs クリムゾン・ウルフ
チュリー少尉は自身のギフト【直感】に従う様に操縦レバーとペダルを操作。すると高熱源アラームが鳴り響びくとほぼ同時に、機体の側に高出力ビームが通り過ぎる。
「クッ!何処から!」
フォーナイトでアクロバティックな機動を取りながら攻撃を回避する。恐らく敵は空の戦力を無くしたいと思っている。ならば簡単に墜とされる訳には行かない。
「敵は……あそこね。ダンス1より各機、敵は郊外一時方向に居る。一度そっちと合流する」
『了解した』
『あいよ。俺も今向かってる』
ダンス2と味方のサラガンと合流する為に高度を下げる。そして速度を落とした瞬間だった。また直感が発動したのだ。
咄嗟に機体を横に傾ける。それと同時に再びアラームがコクピット内に響く。回避機動を取ろうとするが一度落ちた速度は元に戻すのに時間は掛かる。
そして一発のミサイルがメインエンジンに被弾。機体に凄まじい衝撃が走る。
「しまっ⁉︎一体何が!」
『この裏切り野郎‼︎』
突如アーロン大尉の怒声が響く。そして、目視で見たのは味方のサラガンが四連装ミサイルを展開しながら45ミリサブマシンガンの銃口を此方に向けていた姿だった。
チュリー少尉の悲鳴とアーロン大尉の怒声。そして裏切りの言葉。これだけの罠があるのだから何か有るとは思っていたが。
「味方サラガンがダンス1に向けて攻撃。ダンス1は街中に墜落。現在ダンス2と交戦中です」
「味方サラガンの識別を敵に変更。ダンス2、そっちの対処は出来るか?」
『出来るがチュリーが……』
「今チュリー少尉の心配してる場合かよ。幸いバイタルはあるみたいだし。多分気絶してるな。早く助けたければ、そいつを片付けるんだな」
『お前はどうするんだ?』
「決まってんだろ。裏切り者は一匹足りとも逃がしゃしねぇよ」
俺は再び郊外に出てビームが飛んで来た方へと向かう。
「それとも俺の助けが必要か?」
『いや、こいつは俺の手で仕留める。サラガン如きで裏切った事を後悔させてやる!』
「いや、サラガンは良い機体だよ。何処でも転がってるのが良い証拠だよ」
『知るか!とっとともう一機の方を片付けて来いよ!』
「そうかい……死ぬんじゃねぇぞ」
通信を切り不明機へと向かって行く。その間にも断続的にビームが飛んで来る。然も狙いは結構正確だ。
「機体が良いのか、パイロットが良いのか確かめさせて貰うぜ!」
そしてレーダーに敵を捉えたのと同時に識別が現れる。
「チッ……やっぱり嵌められたか。この砲台野郎」
レーダーに表示された識別信号は宇宙での戦闘で発狂してた奴。
【騙して悪いが仕事なんでな。それに、個人的にもテメェには恨みがあってな。この手で殺さねえと気が済まないんだよ】
重装甲の重四脚AWのパイロットは全ての銃口を此方に向けながら言い放つ。
「恨みだと?……あの時か。いや、アレもか?それともアレかな?」
恨みとか言われちゃうと心当たりが有り過ぎて困っちゃう。
例えば身の丈以上の戦果を売っ払って周りから変に期待させたり、逃げて行く奴を放っていたり。時には味方機を盾や囮にしたり。後はオープン通信で煽りに煽りまくったりとバリエーションは豊富だ。
思い返せば色々あるなと思ってしまいプチ後悔。
【忘れたとは言わせない。あの地下鉄での屈辱、此処で清算させて貰うぞ!】
「んー……地下鉄。リリアーナ姫を救出した時だな。こんな奴居たっけ?」
もう少しで思い出せそうなんだがな。喉元まで来てるのは確かだ。
【テ、テメェのマドックを右腕を吹き飛ばした時だ!これで思い出したか!】
「あ、あー!思い出した!12.5ミリでやられた雑魚やん!言われてみれば機体構成も似てるかも。でもプラズマキャノン使って無かったっけ?」
「データを出します。元フリーランスの傭兵シュライク・アーゼス少尉。但し、現在の記録では戦闘による死亡となっています」
「じゃあ何だ?俺は死体に裏切られたと?どんだけ根に持ってんだよ。しつけぇ野郎だぜ」
【何時までも減らず口を叩けると思うなよ。俺は手に入れたんだ。新しい時代を切り開く力をな!】
此方を捕捉しながら12.5ミリ野郎は叫ぶ。
【見せてやる!新たな力を手に入れた俺とザイルフェザーⅡの実力をな!】
そしてザイルフェザーに搭載されている武装が一斉に火を噴く。特に二挺の35ミリガトリングガンから放たれる弾幕は驚異だ。
しかし有効射程ギリギリから乱射しているので回避自体は比較的楽だ。時々ビームとミサイルが飛んで来るが高速で地面を滑走している間は当たる事は無いだろう。
(こんな奴に何時までも時間を取るつもりは無い。次ビームが来たら仕掛ける)
ギフトを展開しながら次の一手を考える。今残ってる武装は60ミリショットガン、ビームガン付き小型シールド、六連装ミサイルポッド、プラズマサーベルのみ。既に要となっていた八連装垂直ミサイルは使い切っている。
総合火力は一気に減ったが機動力は上がっている。幸い相手は35ミリガトリングガンを装備している。多少の被弾は装甲が防いでくれるし、ミサイルもネロのジャミングプログラムで対処可能。
つまりビームキャノン砲の直撃で無ければ何とかなると考える。
無論此方も反撃しながら市街地へと誘い込もうとするが、相手は自機の特徴を理解しているのか郊外から移動しようともしない。
「散々人に復讐だ何だと言ってその様か!力を手に入れる前に度胸を手に入れて来い!砲台野郎!」
【だったら何だ!良い加減墜ちろおおおお‼︎】
叫び声と同時にビームキャノン砲を展開。そして此方に向けてビームを放つ姿が視えた瞬間にリミッターを解除する。
一気にプラズマジェネレーターの出力が上がる。それと同時に大出力のビームが此方に向けて襲い掛かる。
サイドスラスターを使い僅かに機体をズラす。そして大出力ビームが側を駆け抜けたのと同時にメインスラスターを全開にする。
大地を一気に駆け抜ける。モニターに映る景色は既に夕陽に染まり始めている世界。そして35ミリの弾丸が雨の様に此方に向けて襲い掛かる。
【馬鹿め!簡単に近寄られると思ってんのか!此処に来た時点でテメェの負けは確定したんだ!】
十二連装ミサイルから多数のミサイルを発射するザイルフェザーⅡ。此方に迫るミサイルに対しネロがジャミングプログラムを展開しようする。その瞬間条件反射でネロに命令する。
「ジャミングプログラム解除!」
「了解。ジャミングプログラム解除」
迫るミサイル。それに対し60ミリショットガンを向けて連射する。
何発かは迎撃は出来た。だが残りのミサイルが迫る。それに対してシールドを構えながら弾切れになった60ミリショットガンを前に放り投げる。
ミサイルは60ミリショットガンに直撃。そして俺はミサイルの爆発に紛れる様に突っ込む。
【これでトドメだ‼︎】
駄目押しと言わんばかりにビームキャノン砲を爆煙に包まれたバレットネイターに向けて放つ。
「残念だったな。ソレは視えてるんだよ」
だが既に未来が変わった姿を見えていた俺には関係無い。爆煙を突き抜けながらビームガンをザイルフェザーⅡに向ける。
「右肩破損。及び左脚部に被弾。稼働率低下は僅か。戦闘続行に問題は有りません」
ネロからの機体状況を聞きながら目の前に迫るザイルフェザーⅡに向けてビームガン付き小型シールドを撃ち込む。
ザイルフェザーⅡは重装甲に似合わない滑らかな動きで避ける。だが既にビームガンの射程内。後は一気に近付くだけだ。
【言った筈だ!簡単に近寄らせねえってな!】
「じゃあコイツをお前にくれてやるよ!食らいな!」
そして左右の六連装ミサイルポッドから八発のミサイルを発射。八発のミサイルはザイルフェザーⅡに向かって襲い掛かる。
【何ィ⁉︎この距離から‼︎】
慌てて35ミリガトリングガンで迎撃するザイルフェザーⅡ。だが俺はその瞬間を待っていた。
ビームガン付き小型シールドを構えながら35ミリガトリングガンを狙う。そのままビームガンを連射しながら接近。右手に持つ35ミリガトリングガンを破壊されながらも全てのミサイルを迎撃するザイルフェザーⅡ。
そしてザイルフェザーⅡのメインカメラと目が合った瞬間プラズマサーベルを右手に持つ。
「覚悟は良いか」
【ッ⁉︎ざけんな‼︎】
凄まじい悪寒が自身の身体を駆け抜ける。だがそれを振り払う様に叫ぶシュライク・アーゼス。
再び35ミリガトリングガンを向ける。だがバレットネイターから最後のミサイルが四発発射される。発射された四発のミサイルの内、二発を迎撃するザイルフェザーⅡ。しかし距離が近過ぎた為か迎撃が間に合わず二発のミサイルが左腕に直撃。
ミサイルの爆発により一瞬だけお互いが見えなくなる。その為No.19は反射的に後退しながら左手に持つ35ミリガトリングガンを構えようとする。
だが、それは悪手だった。
爆煙から突き抜けて来たバレットネイター。正面から見ればノーマルのサラガン。だが、その姿を見た瞬間凄まじい悪寒がNo.19を駆け抜ける。
反射的にビームキャノン砲を展開。既に至近距離に入っているバレットネイター。その機体に対しビームキャノン砲で吹き飛ばそうとする。
だがビームキャノン砲から大出力のビームが放たれる直前にバレットネイターの右手がビームキャノン砲を掴み上へと無理矢理退かす。
【ッ⁉︎離せええええ‼︎‼︎】
それでも構わずトリガーを引くとビームは空へと向けて飛んで行く。
そしてゴンッと鈍い音がNo.19が搭乗しているコクピットに響く。
「チェックメイトだ」
冷徹な声。その声を聞いたのと同時にシュライク・アーゼスは走馬灯を見たのだった。
ゼロ距離からのビームガンの連射をコクピット部分で受け止めたザイルフェザーⅡ。そしてゆっくりと身体の力が抜けた様になりながら崩れ落ちて動かなくなる。
俺は戦闘による興奮を落ち着かせる様に深呼吸をしながら機体状況をチェックする。
「多少被弾してるが余裕で動くな。兎に角、一旦リミッターを戻そう」
そして武装を確認しながら動かなくなったザイルフェザーⅡを見る。
確かに思った以上に動いていた。特にあの近距離からのミサイル迎撃の高さは見事な物だと思えたくらいだし、引き撃ちでの戦い方も地形に合っていた。
だが力がどうのと言われてもピンと来ないのも事実だった。確かに機体の動きは滑らかだし、ビームガンの攻撃は結構回避されていた。しかし、それだけとしか言えなかったが。
「ザイルフェザーⅡねぇ。確かに見た事無い機体なのは事実。多分QA・ザハロフの自前の機体だろうけど」
所謂、他所に販売せず自身の企業のみで運用しているオリジナル機と言える。しかし、そんな機体は特別珍しい物では無いし力とは無縁な気がするが。
(直ぐに分かる力なら戦略級巨大AWだよな。アレ一度で良いから乗ってみたいなぁ。薙ぎ払え!て言いながら敵を蹂躙してぇなぁ)
全く関係無い事を考えながらザイルフェザーⅡの35ミリガトリングガンを拾う。無論このままでは武器の識別装置が邪魔をして使えない訳だが。
「ネロ、こいつをハッキング出来るか?」
「少々お待ち下さい。数秒程で解除出来ます」
「了解。さてと、ジャンボの様子はどうなってるかな?多分向こうも決着が付いてるだろうけど」
俺はダンス2ことアーロン大尉に通信を繋げながら移動する。
「ダンス2聞こえるか〜?こっちは片付けたけど援護は要るか?勿論、仲間よしみで割引してやるよ」
『…………』
しかし返って来るのは沈黙のみ。俺はまさかと思いレーダーを確認しながらバレットネイターを加速させる。
レーダーを見ればダンス2のラプトルと敵サラガンはほぼ重なっていた。
そしてダンス2と敵サラガンが視界に入った瞬間、身体に緊張が走る。
モニターに越しに映っていたのは陽が傾きオレンジ色に染まり始めた景色。そんな景色の中で二機のAWが重なっている様に見える。
しかし、唯一の誤算なのはコクピットから背中に掛けてサーベルで貫かれていたXBM-001Aラプトルの姿だったのだ。