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ロイド・ザハロフ

 東郷組による待ち伏せに近い攻撃により、一隻の輸送艦が墜とされた。しかし輸送艦隊は止まる事は無く戦線を離脱。戦艦を含む敵艦隊戦力に対しては上出来な結果と言えるだろう。

 そんな事を考えながらネロを抱えながらバレットネイターのコクピットから出る。そして自分の機体を静かに眺めながら考える。


(タケル。何だってお前が俺に話し掛けて来た?態々互いを認識する必要は無かっただろうに)


 最早、関係の修復は出来ないだろう。今やお互い殺したい奴No.1に君臨しているのは間違い無いからだ。

 かつては共に戦友として戦場を駆けていた時を思い出せば皮肉な物だなと思ってしまう。

 あの時、誰が悪かったのか。今更そんな事を考えた所で死んだ連中は帰っては来ない。


 唯一つだけ言えるのは、俺が偽りの希望を見せた事が……。


「ふん。今更許しを乞うつもりは無い。仮に誰かに許して貰えたとして……意味なんてな」


 取り敢えず頭の中を切り替える。今は過去に浸る時間では無いからな。

 俺はバレットネイターを見る。今のバレットネイターは外視が少し傷が付いてるくらいだが、中身に負荷を掛け過ぎた姿だ。俺が無茶なリミッター解除をし続けた結果の姿が今のバレットネイターだ。


「無理をさせ過ぎたな。いやはや、俺もまだまだだなぁ」

「マスターは充分な戦果を出しています。そう悲視する必要はありません」

「だがリミッターを解除しなければ最後まで戦えた。これは俺の完全なミスだ」


 確かにリミッターを解除すれば機体の出力は大幅に跳ね上がる。一時的ではあるが圧倒的な力を手に入れる事が出来る。

 しかし、それは一時的なだけであって長期戦は無理だと言う事。最悪なのは敵との戦闘中にプラズマジェネレーターが限界を迎える事だ。


「少し機体に頼り過ぎてるな。バレットネイターは確かに良い機体だ。だからこそリミッターを外す時は選ぶ必要がある」

「リミッターを解除する際に時間を制限しましょうか?」

「悪くないな。だが、いざと言う時に使えないとなると意味が無い。リミッター解除は切り札の一つと考えよう」


 以前に乗っていたZC-04サラガンやZM-05マドックを思い出す。リミッター解除するのはほんの数秒だった。理由は大したジェネレーターを搭載してないからだ。

 しかしバレットネイターのプラズマジェネレーターは高出力である程度の負荷にも耐えれる。いや、耐えれてしまう。

 だからこそだ。此処で一度初心に帰るべきだと考える訳だ。

 俺は静かにバレットネイターの頭部に近付きメインカメラを撫でる。何時も無茶する俺の注文に必ず答えてくれる最高の機体。ならパイロットである俺が丁寧に使わなくてどうすると言うのだ。


「悪いな。いつも俺の無茶に付き合って貰って。この戦いが終わったら一度オーバーホールするからな。勿論隅々まできっちりとな!」


 そして他の傭兵達も次々と帰還して来る。その中にはチュリー少尉のフォーナイトとアーロン大尉のラプトルも見えた。

 それから暫く待つとコクピットハッチが開き二人が出て来る。


「よう、お疲れさん。お互い無事で何よりだな」

「そっちも無事で良かったわ」

「流石だなキサラギ少尉。初めて出会った時は此処までの腕前になるとは想像して無かったぜ」

「それが今やクリムゾン・ウルフと言われる始末だしな」


 互いの無事を確認してる間にも他の傭兵達戻って来る来る。その中にはマーキュリー・ファクトリーのメンバーも居た。

 俺は満面の営業スマイルを浮かべながら隊長機へと近付いて行く。そして中から大切なお客様であるロシュ・マーキュリー大尉が出て来きて、此方に気付いて渋い表情をする。


「やあやあ、マーキュリー大尉殿。戦果は如何でしたかな?」

「……キサラギ少尉。別に普通だ普通」

「成る程成る程。なら箔付けには丁度良い戦果が取れましたよ。はい、確認どうぞ」

「これは……確かに、凄いな」


 端末を見せながら戦果を見せる。民間船擬きを三隻、駆逐艦一隻、AW十三機、攻撃機十六機、戦闘機十機。個人の戦果として見れば大した物だろう。


「じゃあ報酬が支払われたのを確認次第そっちに戦果データを送るから。宜しく〜」

「うむ。なあ、改めて勧誘をしたい。今はまだ無理だが、キサラギ少尉の腕前を加味すれば今以上の立場と報酬を約束する」

「勧誘どうも。だが、悪いね。俺はこう見えて義理堅いのさ」


 俺は営業スマイルと共に勧誘を拒否しながらマーキュリー大尉から離れる。あのまま近くに居たら間違い無く勧誘が続くだろうからな。

 そしてチュリー少尉とアーロン大尉の元へと向かう。


「いやはや、モテる男はつらいねぇ。野郎にモテても嬉しく無いけど」

「良いじゃない。貴方の名前が認知されれば自分を高値で売れるわよ?」

「はん!興味無いね。唯、先行量産機とかを受領出来るなら儲け物だがな」

「相変わらずと言うか。あんまり世間の事に興味が無いのか?」

「無い訳じゃねえよ。唯、それ以上にAWが好きなだけさ」


 この後、戦闘態勢の解除と共に敵からの追撃を振り切った。


 しかし俺にとっての戦いはまだ始まったばかりだったのだ。






 QA・ザハロフの輸送艦隊は目的となる惑星への軌道宇宙ステーションに無事に到着した。本来なら此処から先は俺達傭兵の出番は無くなった訳だが。


「追加の依頼ねぇ」

『はい。貴方の腕を見込んでの依頼です。無論、破損した武装の補填などは此方でやらせて頂きます。また報酬も此方に』

「準備が良いな。だが、断らせて頂く。大体そっちには護衛部門だったか。タケル主任様が居るんだろ?」

『そのタケル主任からの追加の依頼となっています。道中、敵の襲撃が無いとも限りませんので』


 成る程と思う。同時に護衛達はどうしたんだと言いたい訳だが。

 しかし、俺の言いたい事を察したのか交渉役の女性は良い営業スマイルを浮かべながら補足する。


『また我々は他の惑星への輸送も有ります。その為、地上での護衛機随伴が難しいのです』

「仮に依頼を受けるとしてだ。他に護衛機は居ないのか?」

『今の所は、ですね』

「ならこっちで選んでも良いよな?嫌ならこの話は無かった事にさせて貰うがな」

『少々お待ち下さい』


 それから少しだけ待つ。恐らくタケルに確認を取っているのだろう。だが俺から言わせれば直接聞きに来いよと言いたいが。


「まぁ、直接やったらやったで話は進まなくなるだろうけどさ」


 話が進まない所か、間違い無く互いに罵倒し合うだろう。そして最悪俺がバレットネイターに乗り込み殺しに行くか、途中で殺されるかのどちらかだろうが。


『確認が取れました。自由にして貰って構わないとの事です。また報酬も人数分用意するとも』

「ふん、そうかい。流石は大企業のQA・ザハロフ様だ。懐は随分と潤っていると見える。まぁ、良いさ。こっちで好きに選ばせて貰うよ」

『分かりました。では本ミッションの内容を端末の方に添付させて頂きます』

「了解した。此方も同行する奴を選び次第連絡させて貰う。それから報酬は全額前払いだ」

『分かりました。では連絡を受け次第報酬を支払わせて頂きます。本日は急な依頼を受けて頂き有難うございました。それでは失礼致します』


 通信が切れた後、俺はチュリー少尉とアーロン大尉に話を振る事にした。あの二人の腕前は既に知っている。味方になれば力強い連中になるのは間違い無い。


「依頼、素直に受けてくれると良いんだが」


 しかし、俺の予想とは裏腹に話をするとあっさり依頼を受ける二人。


「良いんじゃない?だって補充も何もかも向こう持ちだし。それに報酬も高いもの」

「それにお前も居るからな。頼むぜクリムゾン・ウルフ」

「へいへい。詳細は送っとく。今回は地上戦になるからな」


 因みに依頼を受けた理由は報酬が良かった事と俺が居るかららしい。


「彼奴ら早死にしそうだな」


 俺達は惑星へと降りて行く。


 そして、そこで再び彼女に救われる事になると思いもせずに。






 任務内容としては実に簡単な物だ。大型輸送機に乗り込みながら所定の空港へ向かう。その後はQA・ザハロフの傘下企業へと空路、陸路での輸送を行う。

 今回はその内の一つとなる陸路での護衛となる。そして護衛となるのは俺達傭兵三名、QA・ザハロフから送られて来た一名。四機のAWでの護衛になる。


「で?肝心のもう一人は何処に居るんだ?せめて顔合わせして茶菓子の一つくらい持ってくるのが礼儀だろ」

「そんなの知らないわよ。そもそも機体は動いてたから中に居るんじゃない?」

「コクピットの中で引き籠りかよ。そんなのが同行とか萎えるねぇ」

「お前みたいにAWが好きなんじゃねえの?」

「今から任務だってのに私情を挟む馬鹿な真似はしねぇよ」


 そして商品と機体を載せた輸送車列が順次動き出す。


「しっかし、同行する奴の機体がサラガンだとはな。てっきりあの発狂野郎かと思ってたぜ」

「発狂野郎?誰だそれ」

「俺の事を知ってたみたいだったがな。いきなり大声を出したと思えばご乱心よ」

「そんなのと同行とか私嫌よ」

「確かに嫌だけどさ。同行する奴の機体も大概だぜ」


 俺達は同行するサラガンを見る。多少の違いはあるが何処にでも転がっているZC-04サラガンだ。

 だが、そのサラガンに違和感を覚えたのは気の所為だろうか?


(サラガン……だよな?何処をどう見てもサラガンだし。まぁ、生産されてる場所によっては多少の違いは有るだろうけど)


 細かい所を見れば違和感が何なのかは分かるだろう。武装も在り来たりな45ミリサブマシンガン、多目的シールド、四連装ミサイル、多目的レーダーだ。寧ろこの状態で違いを探すのは難しいと言える。

 尤も中にパイロットが引き篭もっているし、サラガン自体珍しい物では無いので問題は無いと判断。その為、大して気にする事無く適当にチュリー少尉とアーロン大尉と話を続ける事にした。


「そう言えばお前ら付き合ってるんだっけ?」

「そうだ。羨ましいか?」

「羨ましいよ。で、いつ傭兵辞めるんだ?将来の事考えたら、傭兵なんざ選択肢には入らねえからな」

「一応決めてはいるんだ」

「パン屋開くとか言うなよ」

「な、何で分かったの?」


 まさか一発で次の職を当てられたのが意外だと言わんばかりの表情をする二人。


「そりゃあ、定番で在り来たりだからな。大方パンに宇宙を感じたから〜とか辺りだろ。だったら自治軍に入れよ。そっちの方がマシだと思うがな」

「結局AWは使う事になるんだが?」

「そうよ。私達はそう言う事とは無縁でいたいの」

「傭兵やってて知らない訳じゃないだろ?俺達(傭兵)は依頼が有れば()()()()()()()()。まあ、もう一度良く考えるんだな。理想では無く現実って奴をな」


 自治軍なら最低でも抵抗する事が出来る。だがパン屋ならどうだ?まさかパン生地捏ねながら逃げる訳じゃないだろう。

 それに傭兵時代に作った恨みや妬みとかは案外直ぐに出会う物だ。今の俺の様に。


(タケル、お前が何を企んでいようと無駄だ。俺は逃げも隠れもしない。正面から叩き潰させて貰うからな)


 輸送車列に揺られながら俺は空を見上げる。空はまだ青く澄んでいた。






 時間は少しだけ遡る。東郷組の襲撃を辛くも逃れた輸送艦隊。艦隊の乗組員は何とか敵を振り切ったと安堵していた時だった。

 タケルはNo.19の戦闘結果を雇主でもあり、同時に自身が最も恐れている人物に報告をしていた。QA・ザハロフ社を立ち上げてから大企業へと成長させ、他にも様々な所で暗躍し利益を手に入れ続けている存在。

 その名はロイド・ザハロフ。アルビノの様な白い髪に白い肌。そして血の様な紅色の瞳。何よりQA・ザハロフ社会長にも関わらず見た目は美少年。

 側から見れば優しそうな雰囲気を醸し出しているロイド・ザハロフ。しかし、その紅色の瞳の奥に蠢く物は決して子供に宿る物では無い。ついでに言えば年齢不詳と言うおまけ付きである。

 もし此処にどこぞの主人公が居れば「悪役要素の欲張りセット」と評するだろう。


【やれやれ、これだけの事をしたのにNo.19の戦果がコレだけなのかい?信じられない事だよ】

「どうやらシュウ・キサラギとの何かしらの因縁が有った様でして。その結果No.19に過負荷が生じました」

【そうじゃ無いんだよタケル。君は勘違いしている。No.19は処置を施してから日が浅い。だけど、四脚を自由に操る事が出来るのは間違い無く才能がある。それこそレイナよりね】

「ッ……それは」

【それなのに結果はこの様。因縁が有ろうが無かろうが、ナンバーズは敵と見なせば相手を必ず殺す様になっているんだよ。なのに、この男は生きている。然もNo.19に目を付けられた上で確かな戦果を出している始末。お陰で臨時報酬と口止め料を支払う羽目になるとはね】


 僕は怒っていますと言わんばかりの雰囲気を出すロイド・ザハロフ。これが年相応の子供なら可愛らしいのだが、実際は年齢不詳の人物。

 仮に此処にどこぞの主人公が居れば「ショタジジィならもっと子供らしい仕草をしてショタコンを底無し沼に堕とせや!」と一喝しただろう。


【まぁ……終わってしまったのは仕方が無い。No.19を抜きにしての輸送艦隊を守り切った我が社の社員と傭兵達には感謝しないとね。特にクリムゾン・ウルフにはさ。もう一度彼を勧誘してみようかな?】

「…………」

【きっとあの男なら成功する。いや、確信がある。シュウ・キサラギとL・D・Sは間違い無く波長が合う。ねぇタケル。もし僕がシュウ・キサラギをナンバーズに入れたら嬉しいかい?】


 ロイド・ザハロフの質問に無言で応えるタケル。しかしタケルの内心では何故か愉快な気持ちとは裏腹な感情が渦巻いていた。

 もしシュウが脳味噌と脊髄を弄くり回され、一生戦いから逃れられない身体になればどうなるか。誰よりも一番に愉快になれるのは自分だと確信している。


 なのに……自分は応える事無く握り拳を作っていた。


 そんなタケルを見たロイド・ザハロフはこれまた愉快な物を見たと言わんばかりの表情をする。


【クククク。中々、旧友思いじゃないか。そう言うの……僕は嫌いでは無いよ】


 そしてロイド・ザハロフはタケルの目を見ながら次の指示を出す。


【これよりNo.19の調整が終わり次第再出撃を行う。次の目標は……彼になる】


 モニターに出された人物を見た瞬間、タケルにとって想定内の事であり実現して欲しいと願っていた事。


【今や時の人だ。ナンバーズにとって不足は無い。またレイナもバックアップとして出撃だ】


 仮に次の依頼を受けなくとも強襲する形になるだろう。何方にせよロイド・ザハロフの思惑からは誰も逃れる事は出来無い。


「レイナも出撃ですか。分りました。機体の方も直ぐ調整」

【そうだよ。但し、機体は練習機で出て貰う。異論は認めない】

「それはどう言う事です!」


 タケルは雇主であるロイド・ザハロフにモニター越しに詰め寄る。しかし返ってきたのは底冷えする様な紅色の瞳。


【簡単な事だよ。レイナの利用価値を僕に示せ。それが出来なければ破棄だ】


 先程まで愉快そうに楽しんでいた子供は居ない。其処にいるのはQA・ザハロフ社の現会長のロイド・ザハロフの姿。いや、もしかしたらそれ以上なのかも知れない。


【タケル、僕は君達に期待しているよ。君達なら生き残って帰って来ると信じているのだから】


 そして通信が切られる。最早誰も映しては居ないモニターを睨み続けるタケル。


「レイナは、絶対に守る。彼奴(シュウ)じゃない……俺が守ってみせる」


 この時のタケルの表情には一切の迷いは無かったのだった。


 誰が犠牲になろうとも必ずレイナを守る……と。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。待ってました。 [気になる点] 話の流れはすごく面白いのですが、キサラギさんをここまでして狙う動機がしっくりこないです。 ザハロフからすれば、ナンバーズの有用性…
[良い点] 辞めたら〜とかパン屋はフラグのハッピーセット… でも一応折ってるね…キサラギさんが 不穏が立ち困ってきました〜 [一言] そしてめ…マーキュリーは完全に逃げられない死亡フラグが立った。
[一言] LDS適合処置って脳と脊髄弄くり回すのか。 んでもってレイナって身体の90%くらい機械化だっけ? それでもタケルが守ってるって認識してるならそれ以前はギリギリ死ぬとこだった?
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