鬼神のゲン
『何だテメェは。俺に楯突こうってか?』
此方に銃口を向け続けるザイルフェザーⅡ。それに対し文句を一つ言ってやる事にした。
「はん!人がカッコ良く戦ってた所に無粋な事しやがって。何が味方だ。お前みたいな空気読まねぇ奴なんざ味方として見てないんだよ」
『……死にたいのか?俺に楯突けばどうなるか分かってるのか』
「どうなるか言ってみろよ。雇い主にチクっても良いぜ。それで気が済むんならな」
再び沈黙する時が流れる。今敵に囲まれてる状況。にも関わらず手を出してこない辺り敵に好感が持てると言うのは皮肉としか言えんがな。
『そうか……なら望み通りに殺してやる!』
「なら来いよ。砲台みたいな機体構成の分際でイキッてる奴にはやられねえからよ」
『ッ!テメェ……その言い方。あの時の傭兵か!』
そして此方に向けて攻撃を開始するザイルフェザーⅡ。ザイルフェザーⅡから放たれるビームと35ミリの弾幕を展開する。
味方?からの攻撃を回避しながら反撃する隙を窺う。しかし話し方からすると俺に恨みを持つ奴なのは理解出来る。
『貴様だけは絶対に殺す‼︎その為に力を手に入れたんだ‼︎』
「あっそう。それは良かったねぇ。で、アンタ何処で会ったっけ?生憎倒した奴とか雑魚の顔は覚えない主義でな。まぁ、そもそも俺の記憶に残ってねぇって事は程度が知れてるって訳だがな!ダッハッハッハッ!」
「該当データを確認しましたが一致する機体は有りませんでした。しかし類似するデータは有ります」
「興味ねぇな。雑魚のデータなんざ」
『ッッッ⁉︎⁉︎⁉︎こ、殺すううううう‼︎‼︎‼︎』
「ハッ!簡単にキレやがって。なら俺がテメェの雇主に代わって躾ってやつをやってやるよ。感謝しな!」
変に相手を煽ったら言葉にならない返事が返って来るくる。いや、そっちの方が変な風に印象が残っちまうぜ。
しかし相手は発狂寸前にも関わらず的確な射撃を行い中々近寄らせてはくれない。然も動き出した敵からの攻撃にも対処しながらなので、腕前は全然悪くは無い。寧ろ敵として出会ったら手強い相手になるのは間違いない。
(だとしたら記憶に残ると思うんだがな)
今尚通信からは罵声と奇声聞こえる。しかし機体の動きは悪く無く、そのギャップの差が地味に感心してしまう。
「まぁ、良いや。殺しに来てるなら俺が殺してやるよ。感謝しろよ!砲台野郎!」
『殺す殺す殺す殺すううぅうう‼︎‼︎』
「ザイルフェザーⅡの識別を敵に変更しますか?」
「おう、やってくれ」
レーダー、モニター共にザイルフェザーⅡが敵として表示される。そして回避している途中で55ミリライフルを回収。そして55ミリライフルで数発牽制射撃をする。
しかし55ミリの弾丸を分厚い装甲で受け止め気にする素振りは無い。それどころか、此方に接近して来る始末。
『ウラアァ‼︎』
ザイルフェザーⅡからミサイルが発射される。それをネロのジャミングプログラムと回避機動で避けて行く。
『No.19、バイタルが異常に上昇しています。一度帰還して下さい』
『黙れええええ‼︎此奴だけはああああ‼︎』
「何だよ。雇い主の言う事も満足に聞けねぇってか?どうしようもねぇ奴だな。まぁ、そんなどうしようもねぇ奴は腐る程見てきたからな。そりゃあ記憶にも残らねぇわな!ダッハッハッハッ!」
『ああああああ‼︎‼︎‼︎』
更に煽り続けると面白いくらいに反応が返って来る。然も周りに居る敵に見境無く攻撃するもんだから良い囮にもなってくれている。
(相手の35ミリが弾切れになったら一撃で仕留めてやる。ビームキャノンの射撃なんざ怖くねえし)
そして俺は勝利を確信してつい一言呟いてしまった。
「フッ、勝ったな。風呂入ってくる」
「マスター、残念ですがバレットネイターには入浴機能は付いてません」
「そいつは残念。さて、そろそろだな」
アレだけ無駄弾……とまでは言わないが、連射し続ければ必然的に弾切れになる。そうなった瞬間、奴のコクピットに風穴空けてやる。
「安心しな。優しい優しい俺ちゃんが直ぐに楽してやる。痛みは一瞬も無いくらいにな」
そしてザイルフェザーⅡを仕留めようとした時だ。別口からの通信が入る。
『此方QA・ザハロフ護衛部門所属のタケル主任だ。聞こえているなシュウ・キサラギ少尉』
其処にはもう二度と出会う事が無いと思っていた、かつての戦友がモニターに映っていたのだった。
正直な所、お互いに生存している事は認識すべき事では無い。それがお互いとって尤も幸せな事だからだ。
だが、状況がそれを許さなかった。このままNo.19が破壊、もしくは自壊する様な事があれば間違い無くレイナにも危害が加わる。それだけは何としてでも阻止しなくてはならない。
例え殺したい奴との会話をする事になってもだ。
『これはこれは……こんな所で出会うとはなタケル。で、何の用だ?いや、今は雇い主側だから敬語使いましょうか?』
「結構だ。貴様と無駄話をするつもりは無い。直ちにザイルフェザーⅡを輸送艦第0301に連れて来い。以上だ」
『断る。何故なら俺がそいつを殺すからだ。文句有るか?』
「……ザイルフェザーⅡは味方機だ」
『今は敵機になってるがな。それ以上もそれ以下も無い。唯、俺に恨みがあったらしいけどな。今度からは理性を維持させる様にしっかり教育でもしとくんだな。でないとQA・ザハロフの程度が知れるぜ』
そして一時の沈黙。しかし敵の攻勢は既に輸送艦隊に襲い掛かり始める頃。今此処で時間を浪費するのは互いに宜しくないのは理解していた。
『まぁ、俺自身に問題が無かったとは言うつもりは無い。どう言った経緯であれ、俺が最初にトリガーを引いたのは間違いない』
「ならば、その件に関しては不問にしてやる。変わりに任務は遂行しろ」
『フン、相変わらず気に食わねぇ野郎だ。今なら俺を殺せる大義名分があるってのに』
そして一方的に通信が切られる。それを見た瞬間に次の指示を出す。
「No.19を直ちに眠らせろ。自動操縦に切り替えて帰還させる」
「了解しました」
「それから護衛機を全て前進させろ。全く、今回はナンバーズの実用試験だと言うのに。シュウ、お前は本当に気に食わない存在だ」
モニターを見ればNo.19のバイタルが徐々に落ち着いて行くのが分かる。だが、このままではレイナの身を危険に晒す事になる。
「それだけは絶対に阻止してみせる。誰を犠牲にしようとも」
タケルは考える。どうすればレイナを守れるのかと。
例え元戦友を殺す事になろうとも。
ザイルフェザーⅡの動きが止まり自動モードに入ったのと同時に回収して輸送艦隊へと向かう。しかし敵も簡単には帰してくれはしない。
【奴を逃すな!東郷組の看板汚されたまま帰せば面子に関わる!】
【囲め囲め!囲んで確実に殺せ!】
【一機は動いてないぞ。今がチャンスだ!】
一機分の荷物を持ちながらの敵艦隊内からの離脱。勿論簡単に逃して貰える筈も無く追い詰められてしまう。
その為慣性の力と自動モードの力を信じてザイルフェザーⅡを蹴り飛ばす。逆に俺は蹴り飛ばした反動を使い東郷組の旗艦に向かって突っ込んで行く。
「畜生。相手がオーレムのγ型程度なら楽に仕留めれるんだがな」
しかし相手が普通の戦艦となると話が別だ。オーレムと違いレーダーや迎撃システムの搭載な上、武装も豊富で装甲は硬い。
そんな相手をしながら周りの敵機も相手しなければならないと思うと少々苦労はする。
しかし、それは俺一人だった場合だ。今は相棒の補助により正確な敵機の位置情報とジャミングプログラムにより生き残れている。
「これ以上何を望むのか分からねえくらいだな!行くぜ相棒!」
「はい、マスター。敵機下方より三機接近。前方に放棄された45ミリサブマシンガンを確認」
ネロの指示を受け取り45ミリサブマシンガンを回収。基本的に敵勢力が使う武装には識別信号と連動したセーフティが掛けられている。だが、ネロにはそんな物は意味が無い。
「ハッキング完了。残弾は十四発です」
迫って来る敵AWに対し45ミリサブマシンガンを構える。しかし相手は気にする素振りを見せる事無く突っ込んで来る。
「目標、有効射程内」
「貰った」
そして敵AWが45ミリサブマシンガンの弾が確実に当たる距離に入った瞬間に指切りしながらトリガーを引く。
此方の45ミリサブマシンガンが脅しだと思っていたのか先頭の敵AWに直撃。肩に搭載していた小型ビーム砲に誘爆して爆散する。更に爆風に巻き込まれバランスを崩した敵AWにも45ミリの弾をプレゼントする。
【このクソ野郎‼︎くたばれええええ‼︎】
「残弾二発です」
「問題無い」
最後の敵AWからミサイルが発射される瞬間にトリガーを引く。そして二発の45ミリの弾丸はミサイルハッチが開いた所へと吸い込まれて行く。
【へっ?】
敵AWのパイロットは何が起きたのか理解する前に機体諸共ミサイルの誘爆に巻き込まれる。それと同時に弾切れになった45ミリサブマシンガンを放棄して、再び敵戦艦に取り付く為に近付いて行く。
【敵機、本艦に再び接近中】
【たった一機に好き勝手されてたまるか!兎に角、前方の輸送艦隊に砲撃を集中させろ!この際鹵獲は出来ればで良い!】
【若!大変です!前方より敵のAWが大量に来ます!】
【此方の迎撃機を向かわせろ!】
【無理です!クリムゾン・ウルフに時間と戦力を奪われ過ぎました。これ以上は】
【〜〜ッッ‼︎‼︎ド畜生が‼︎‼︎たかが一機のAWに負けるってのか‼︎そんな事が露呈すれば、俺達東郷組は間違いなく舐められる‼︎それだけならまだ良い。最悪攻められるぞ!】
東郷組の若頭は今の状況を頭では理解しているが気持ちでは理解出来ないでいた。
簡単な仕事の筈だった。たかが輸送艦隊を襲い二、三隻を奪う予定だった。更に護衛艦隊には戦艦は見当たらず、巡洋艦二隻が良い所だった。
しかし結果はどうだ?最近名前が出て来たクリムゾン・ウルフを筆頭にした傭兵共によって被害は増すばかり。
【輸送艦だ。輸送艦を出来るだけ仕留めろ!一隻でも多く撃沈させるんだ!】
【目標、敵輸送艦。主砲照準合わせ】
【撃ち方始めええええ‼︎】
東郷組の旗艦から放たれる四連装主砲のビームが輸送艦隊に襲い掛かる。
しかしQA・ザハロフの護衛艦隊もやられっ放しでは無い。大企業の護衛艦隊としての練度は高く、その辺りのゴロツキ程度には負けるつもりは無い。
『前方に向けて対ビーム撹乱粒子ミサイル発射!そのまま敵艦隊と擦れ違いながら切り抜ける!』
『護衛艦隊は直ちに前へ!輸送艦隊の盾となれ!』
QA・ザハロフの護衛艦隊も負けじと艦隊を加速させる。
対ビーム撹乱粒子によってビームの威力は減衰する。しかし近距離で戦艦の主砲となれば話は別だ。だからこそQA・ザハロフ所属のAW部隊は戦艦に狙いを集中させて取り付こうとする。
【若、此処は一旦退くべきだ】
【オヤッサン。此処で退けば俺達の面子が】
【面子以前に、この辺りの連中に大きな隙を作る事になる】
【だが……】
東郷組の今後を考えればこれ以上の戦力喪失は抑えるべきだ。しかし何一つ満足に手柄を得られないのも今後に響くのも事実。
だからオヤッサンは言うのだ。東郷組の若頭となっている若者に。
【若、此処は一つ俺に任せてくれねぇか。なぁに、お誂え向きに丁度いい感じで来てくれている。今なら一隻くらいは取れるさ】
若は苦悶の表情をしながら決断する。
【すんません、オヤッサン。後をお願いしやす!】
【おう、任せな】
【艦隊離脱開始!これより戦線を一時離脱する!但しオヤッサンの援護をしながらだ!良いな!】
そして此処から始まる一人の漢の戦い。かつて対艦バスターソード一本で敵勢力を叩き潰して来た存在。【鬼神のゲン】と呼ばれる鬼が再び目覚めるのだった。
【さて、腕慣らしはもう済んでるからな。感謝するぜ兄ちゃん】
クリムゾン・ウルフと呼ばれる傭兵が操るバレットネイター。奴は確かに強い。だが俺から言わせればまだまだヒヨッコよ。
『なぁにが腕慣らしは済んでるだ!先にオッさんから潰してやんよ!』
【フフフフ、良い気概だ。なら……もう遠慮は要らねえか】
鬼神のゲンと呼ばれる漢はスイッチを押す。すると機体の振動が激しくなるのと同時にジェネレーター出力が一気に跳ね上がる。
【俺とそれなりに渡り合ったんだ……兄ちゃん、死ぬなよ】
『ッ⁉︎マジか‼︎』
その瞬間、一気に加速するBR-Z5ミスト。あっという間に距離を詰められたキサラギ少尉は焦りを感じながらもショットカノンを展開する。
しかし、それは悪手だった。
【甘いぜ、兄ちゃん‼︎】
『のわあッ!あ、危ねぇ……て、抜けられた!なら此奴で!』
一瞬の擦れ違いでショットカノンの砲身を斬り飛ばす。しかし、まだ戦う意欲を衰えさせないキサラギ少尉はプラズマキャノン砲を展開しながら狙いを付ける。
『背中がガラ空きなんだよ!』
『警告、ジェネレーターの熱量が許容範囲を超えました。リミッターを設定。緊急冷却に入ります』
『そ、そんな〜、そいつは困るよネロちゃ〜ん』
『申し訳ありませんマスター』
『い、良いんだよネロちゃん。寧ろ謝る必要は無いさ。それに今日は良く頑張ったし。武器の補充も兼ねて帰ろっか』
最早戦えないと悟ったキサラギ少尉はネロを労る様に撫でながら帰還する。そう、彼の目には鬼神のゲンも周りの東郷組も既に眼中に無い。
『あ、此方ヴィラン1。俺もう戦えないから帰還します』
『貴様は何を言っている?』
『だーかーらー、戦えないから帰還するの。機体状況はそっちからも確認出来んだろ。少しは察しろよな』
挙げ句の果てに雇い主側への文句も垂れ流す始末。その通信を聞いて呆然とするタケルの姿が目撃されたとか。
その間にもミストは対艦バスターソード一本で護衛のAWを次々と叩き潰して行く。
『奴を止めろ!これ以上輸送艦に近寄らせるな!』
『目標敵AW!ミサイル発射!』
『バスターソードで弾を防いでるのか。何て無謀な奴。左右から迎撃するぞ』
しかし敵に囲まれながらも全ての攻撃を防ぎ、逸らし、避ける姿は正にエース機そのもの。更に旧式AWとは思えない高い機動性で瞬く間に一隻の輸送艦に取り付く。そしてスピードを墜とす事無く対艦バスターソードを振るう。
【先ずは艦橋を頂く‼︎】
輸送艦の艦橋に向かって対艦バスターソードが振り下ろされる。そして艦橋を潰して直ぐにメインスラスターへと向かう。
しかし、簡単には行かせないとばかりにダンス1、2が立ち塞がる。
『これ以上は行かせないわよ!食らいなさい!』
『うおおおお‼︎行くぞ‼︎』
ダンス1から放たれたミサイルを防ぐ様に対艦バスターソードを傾けるミスト。ミサイルが当たり爆煙が舞う瞬間にプラズマサーベルを展開し一気に接近するダンス2。
しかし、今回は相手が悪かった。
【悪くねぇ連携だったぜ】
『何ッ⁉︎』
爆煙を斬り裂きながらダンス2のラプトルの右腕とプラズマサーベルが宙を舞う。そして振り下ろされる対艦バスターソード。だがダンス2に当たる直前にダンス1が対艦バスターソードに向けてビームガンを連射。僅かにズレた軌道により命拾いするダンス2。
『今よアーロン!逃げて!』
『了解!此奴は……本物だ!』
そして邪魔者が居なくなったのを確認したゲンは対艦バスターソードをメインスラスターと繋がるエンジン部分へと突き立てるのだった。
No.19……一体何者なんだ?(๑╹ω╹๑ )