No.19
輸送艦隊に敵艦隊が接近している。然も前方の方には戦艦を筆頭にしていると言うでは無いか。この報告を聞いた傭兵達は焦りを感じていた。
幾らQA・ザハロフの護衛艦隊の艦艇性能が良くても、所詮は巡洋艦、駆逐艦、フリゲート艦に過ぎない。単純な正面での撃ち合いでは戦艦には勝てない。
『此方マーキュリー4!隊長どうするんですか!後方から来てる敵の足止めをするのが精一杯ですよ!』
『諦めるな!此処が俺達マーキュリー・ファクトリーの踏ん張り所だ!もし輸送艦隊を守り切る事が出来たらQA・ザハロフから専属のスカウトが来るかも知れん!』
『その前に俺達が死んじゃいますよ!うわっ⁉︎危ねぇー。ミサイルが来るとか勘弁だぜ』
数で勝る東郷組に対しマーキュリー・ファクトリーとその他の傭兵達は良い戦いをしていた。近場の機体と連携をしたり互いにフォローし合い生き残り続ける。
しかしQA・ザハロフの護衛機はあくまでも輸送艦隊の護衛しかしない。一応砲撃支援をすれば応えてはくれるが敵艦隊が近付いてる状況下では、それも難しくなるだろう。
『どうにかならないのかよ!クリムゾン・ウルフは敵艦隊に突っ込んでるらしいし。なぁ、クリムゾン・ウルフの援護した方が良いのかな?』
『援護する前に俺達が援護して欲しいわい。畜生、何処かに凄腕の傭兵は『あら?呼んだかしら』はぁ?』
女性の声を通信越しに聞いた直後、目の前に居た攻撃機の編隊が瞬く間に撃墜される。何事かと思い上を見れば可変機のフォーナイトと軽量機レーニンの改造機が高速で敵に突っ込んで行く。
『此方ダンス2、これよりマーキュリー隊の援護をする』
『ちゃんと援護して上げるから頑張りなさい。行くわよダンス2!』
『了解ダンス1』
ダンス1、2の二機は綺麗な連携を見せ付けながら敵機を次々と撃破して行く。
ダンス1が敵サラガンに向けて45ミリサブマシンガンで牽制射撃しながら戦闘機モードから人型モードに変形。そのままプラズマサーベルを展開し胴体を斬り裂く。変形した隙を突く様に敵マドックが45ミリアサルトライフルを構える。だが横から突如現れたダンス2のプラズマサーベルでコクピットを貫かれる。ダンス2はそのままダンス1の腕を掴みながら戦場を更に駆け抜ける。
その姿はさながら戦場と言う名のダンスホールの中で華麗に踊ってるかの様に見えてしまう。
『次!行くわよ!』
『背中は任せろ。ヴィラン1ばかりに負荷を掛ける訳には行かんからな』
『そう言う事。せめて私達で輸送艦隊の護衛を完璧にこなすわよ!』
ダンス1、2は次の敵機目掛けて機動戦を仕掛けながら突っ込んで行く。無論、東郷組の連中は迎撃する為に一部部隊を動かす羽目になる。
『ス、スゲェ。あっという間に敵機を撃破しやがった』
『……良い。彼奴らも勧誘しよう』
『団長、やめといた方が良いですよ。断られて余計に傷付ついて凹むんですから』
『へ、凹まんわ!ええい!あの二機に遅れを取るな!相手は所詮宙賊だ!技量と質では俺達マーキュリー・ファクトリーが上だ!』
チュリー少尉とアーロン大尉の戦いを見て士気を盛り返す傭兵達。
だが、そんな物は必要としていない者達が居る。
そして遂に姿を現す新たな力の象徴となる存在。旧世代のシステムが長い時と数多の犠牲者を元に動き出す。
「Link・Device ・Systemのチェック完了」
「機体とパイロットとの同調を開始」
「第一段階開始確認。拒絶反応無し。パイロットバイタルは規定値内」
モニターを注視する研究員達。その中にはタケルの姿も居た。モニターに映るパイロットの背中には搭乗する機体と物理的に繋げるコードが幾つも刺さっていた。
「システム、パイロット共に正常値。第二段階に移行」
「機体との同調率上昇開始。投薬用意」
「投薬用意良し。パイロットバイタルは依然規定値内。これなら投薬は必要有りません」
「良し。最終フェイズに移行。L・D・S出力を戦闘値へ」
研究員達が固唾を飲んで見守る中、タケルは冷めた目で見ていた。まるで失敗すれば良いと言わんばかりだ。
しかしタケルの気持ちとは裏腹にL・D・Sとパイロットの同調率は全て順調に行く。そして全てが戦闘値内で安定した時、研究員達は安堵の息を吐く。
「L・D・S、パイロット共に全てクリア。タケル主任、いつでも行けますよ」
「ふん、ならばL・D・Sの力を見せてやれ。No.19出撃」
格納庫内で一機のAWが起動する。その機体は濃い赤色をベースとし、関節部や一部装甲を黒色にしている。
武装は右肩に十二連装ミサイル、左肩にはビームキャノン砲を装備。更に二挺の35ミリガトリングガンを装備していた。
ベースとなっている機体は不明だが、追加装甲を装着した重四脚で頭部は六つのモノアイが点灯し不気味な印象を与えていた。
そしてゆっくりと機体がカタパルト前に移動する。
『No.19、出撃命令が出ました。出撃用意』
『任せて下さい。俺はやって見せますよ。もう、あの頃の俺じゃない。誰よりも上の存在になったんですからね!』
『ハッチ解放。進路クリア、発進どうぞ』
『ザイルフェザーⅡ!No.19!敵を皆殺してナンバーズの誰よりも優秀な事を証明してやる‼︎』
重装甲四脚機であるザイルフェザーⅡが勢い良く宇宙へと舞い上がる。そして前方の艦隊へと向けて移動を開始。
『No.19、貴様は輸送艦隊を防衛に専念せよ』
『何を言ってるんですか!相手の戦艦を単機で潰してご覧に見せますよ!』
『待て。勝手な行動は』
しかしNo.19と呼ばれる男性パイロットは無視して敵艦隊に向かう。無論、東郷組からの迎撃機が直ぐにやって来るがパイロットは笑みを浮かべるだけだ。
【各機、間も無く艦隊が輸送艦隊と接近する。それまで艦隊に敵機を近寄らせるな!】
【このまま上手く行けば全ての輸送艦を手に入れれる。今出ている損害など無視してもお釣りが来るくらいにな!】
【たった一機で来るか。然もあんな鈍臭そうな機体で。なら、お望み通りに嬲り殺してやれ!】
敵マドックは六機で全て強化パック仕様。普通なら不利な展開の筈なのだがNo.19は気にする素振りは無い。それどころか獲物を狙う肉食動物の様な雰囲気を漂わせる。
『馬鹿が。この俺に勝てると思っているのか?誰よりも上の存在になったこの俺によぉ!』
自機であるザイルフェザーⅡを敵マドックの正面から突っ込ませる。その無謀とも言える行動に一瞬戸惑う動きをする敵マドックのパイロット達。
【奴も戦力の差って奴が理解出来ないらしい。ならば望み通りに殺してやれ!】
散開しながら攻撃を開始する敵マドック。だが迫り来る弾丸を目にしてもザイルフェザーの動きは殆ど変わりが無い。
『死ぬ前に見せてやろう。コレが力に選ばれた存在だ!』
ザイルフェザーⅡの六つのモノアイが光る。そして僅かに機体をズラしながら弾丸が迫り来る中を突き進む。僅かに当たる事もあるが、其処は全て追加装甲でしっかりと守られており攻撃の効果が殆ど無い。
【クソ!此奴もなのか!リロードする!】
【了解、カバーすッ!ミサイルだ!回避!】
仲間をフォローしようとする隙を狙ってかミサイルを放つ。敵マドックの連携が乱れた瞬間、二挺の35ミリガトリングガンの砲身がゆっくりと回転する。
『ほら、踊れよ。俺を満足させれる様にな』
そして35ミリガトリングガンから放たれる無数の弾丸が一機の敵マドックを飲み込む。悲鳴を上げながら爆散する仲間を見て再び攻撃を再開する敵マドック。
だが、その動きの全てがザイルフェザーⅡとNo.19より劣っていた。
いつの間にかビームキャノン砲を展開していたザイルフェザー。目の前に居る敵マドックに向かって躊躇無く攻撃をする。放たれたビームが胴体に直撃し爆散する敵マドック。しかし、直ぐ様態勢を立て直し攻撃を再開する敵マドック。
だが攻撃の殆どが当たらないのだ。見かけに寄らず高い機動性があるザイルフェザー。更に一つ一つの動作がベテランの動き以上に良く、非常に滑らかなのだ。
そう、まるで人間がAWになったかの様な。
また一機、また一機と撃破される敵マドック。更に増援に来た戦闘機のマッキヘッドと攻撃機のシャーク部隊を瞬く間に撃破してしまう。
【嘘だろ?……輸送艦を狩るだけの簡単な仕事の筈。これじゃあ、狩られてるのは俺たッ⁉︎】
そして最後の敵マドックにビームキャノン砲から放たれたビームが直撃。機体諸共パイロットは宇宙の藻屑となってしまう。
『クッ……クックックッ、ハッハッハッハッ!素晴らしい。リンク・ディバイス・システム。正に新時代を作り出すに相応しい力だ‼︎』
殆ど無傷での完全勝利を手にしたNo.19は、更に次の戦果を求める為に敵艦隊へと突撃する。しかし敵艦隊を見れば数隻が墜とされてる事に気が付く。
『誰だ?あの中で戦ってる傭兵は』
リンク・ディバイス・システムを持たない者が自分以上の戦果を出している。その事に苛立ちを感じながらもNo.19は、その傭兵に通信を繋げる。
そして繋がった瞬間、大音量の音楽と傭兵の楽しそうな声を聞いたのだった。
ノリノリの曲と共に敵艦隊の中で暴れ回る。本来ならこんな無茶な戦い方は出来無い。なら何故こんなやり方が出来るのか。
俺自身の腕前!と言いたい所だが、生憎そこまで自惚れでは無い。
その答えは簡単だ。エルフェンフィールド軍の技術者達により改修されたバレットネイターの機体性能の高さ。そして戦闘補助AIのネロの助けがあってこそだ。
特にネロのジャミングプログラム、的確な戦況報告。そして戦闘補助として名を恥じぬ細かな働きがあるからこそだ。
「敵駆逐艦、VLSの誘爆を確認」
「これで終わりだ!墜ちろおおお‼︎」
【総員退かッ⁉︎うわああぁぁあ⁉︎⁉︎】
誘爆が続く敵駆逐艦の艦橋をショットカノンで吹き飛ばしながら離脱。それでも幾つもの対空砲からの攻撃が襲い掛かって来る。
しかし、動きを止める事は出来無い。敵MWを盾にしたりしながら回避して行く。だが既に敵艦隊は意地になっているのか味方諸共攻撃を続行する。
「これで三隻目!だが、中々キツくなってきやがったぜ!」
「直上より敵AW六機接近。十時方向に敵艦の残骸が有ります。その残骸の機関は生きています」
「成る程。良い判断だ!さあ着いて来いよ!」
プラズマキャノン砲と55ミリライフルで牽制射撃を加えながら残骸へと向かう。
【絶対に奴を逃すな!マザーシップを撃破した英雄かも知れんが此処で殺せ!】
【おうよ!此処まで好き勝手にされて黙って引き下がれるか!東郷組を敵に回した事を後悔させてやらあ!】
【殺したら機体の残骸を見せしめにしてやるよ!覚悟しな!】
手持ちの武器を乱射する敵AW。だが冷静で無ければ、その分此方が有利になる。
「品性の無い連中だな!だからお前らはこんな場所で腐ってんだよ!何が東郷組だ!唯の宙賊風情が偉くなったつもりか!滑稽を通り越して失笑ものだな!」
【このクソガキャアアア‼︎】
【殺せええええ‼︎】
牽制射撃で放ったプラズマが敵AWを一機破壊。それでも突っ込む事を止めない。
そして残骸の背後に回り込み武装を全て使える様にする。
「ネロ!フルオープンアタック用意!」
「目標、残骸機関部。フルオープンアタック用意完了しました。タイミングはお任せします」
そして三秒先を見続ける。そして最高のタイミングと同時にトリガーを引く。
55ミリライフル、プラズマキャノン砲、ショットカノンの銃口が同時に吼える。全ての攻撃が生きている機関部に直撃して行く。
残骸の影から敵AWが現れた瞬間、機関部が暴発。暴発による爆発と残骸の破片が一斉に敵AWに襲い掛かる。そして防御姿勢もままならない間に敵AWが全て爆発の中に消えていきながら爆散して行くのだった。
「やっぱりデカい花火は良いもんだなぁ。特に屑を巻き込んだ花火はさぁ……お前らもそう思うだろ?」
敵にオープン通信で話し掛ける。勿論、返答は期待してはいない。
だから更に敵艦を潰す為にバレットネイターを動かす。
【其処までにして貰おうか。クリムゾン・ウルフの兄ちゃん】
「あん?ハッ!さっきのオッさんか。俺に撃破されに来たか」
【本当に活きが良いねぇ。だからこそ、これ以上好きにはさせん】
先程のBR-Z5ミストが対艦バスターソードを振り被りながら接近して来る。本来なら距離を離して一方的に嬲り殺すのが正しい選択だ。
だが対艦バスターソード一本で戦いを挑む姿は非常に輝いて見えた。例え旧式のAWだとしても魅力溢れる姿だと。
だから55ミリライフルを放棄してプラズマサーベルを展開。そのまま真正面から迎え打つ。
【ほう、気概と度胸も持つか。無謀では無い事を願おうか】
「対艦バスターソード一本で戦場に出て来る無謀なオッさんとは違うんだよ!」
【フッ、確かにな。だが、俺にはこれしか出来んのだ。銃を撃つってのがどうにも性に合わないんでな!】
対艦バスターソードを振るうミスト。それをシールドで受け流しながらプラズマサーベルを突き立てる。だがプラズマサーベルがコクピットに刺さる前に対艦バスターソードの柄の部分で防がれる。
そして対艦バスターソードを回転させながら攻め立てるミスト。それに対し俺はパイルバンカーを突き立てる。
【甘い‼︎】
「それが狙いだ‼︎」
左腕ごとパイルバンカーを斬り飛ばされるのが視えた瞬間、パイルバンカーをパージ。
吹き飛ぶパイルバンカーを尻目に左手を握り締めながらミストの顔面を殴る。それも一度だけで無く何度もだ。
【まだまだあああ‼︎】
「グフゥッ⁉︎まだ足掻くか‼︎」
ミストは右脚で蹴りを入れて足掻いて来る。そして距離が僅かに開いた瞬間に対艦バスターソードを振り返しながら攻め立てる。
それに対し追加ブースターをパージしながら12.5ミリマシンガンを撃つ。そして追加ブースターに残る推進剤に引火して爆発。
互いに一瞬だけ姿が見えなくなる。
その瞬間……俺は勝ちを確信した。
「終わりだあああ‼︎」
機体を上方へ移動しながらプラズマサーベルを振り被る。
だが再び未来が変わった瞬間に俺は動きを変えた。何故なら目の前のミストが大出力のビームによって貫かれていたからだ。
機体をSIMとスラスターを使い即座に反転。そしてプラズマキャノン砲を撃つ。それとほぼ同時にビームがバレットネイターとミストの間を走る。
『おいおい、俺は味方だぜ?それに今のは誤射って訳じゃねえよな?』
「今のが誤射に見えるんなら眼科に行く事をお勧めするよ。空気読まねぇクソ野郎が」
【兄ちゃん、お前……】
ビームキャノン砲の銃口を向ける重四脚のAWに対し、俺は苛立ちを感じながらプラズマキャノン砲の銃口を相手に向けるのだった。