東郷組
なんやかんやで100話行ったぜい(*゜∀゜*)
敵攻撃機とAW部隊を全滅し終えた頃。東郷組の艦隊指揮官は苦い表情をしながら報告を聞いていた。
【A部隊の信号が全て途絶。通信も繋がりません】
【B部隊はどうなっている?】
【現在も敵と交戦中。またQA・ザハロフ所属のAW部隊も艦隊の護衛に配置されており接近は困難です。また敵艦隊からの砲撃により攻撃機部隊に被害が出ています】
【たった数機の傭兵によってA部隊の全滅か。この被害は誤算だな。予定では挟撃して混乱させた後に艦隊で仕留めるつもりだったが。だが予定に変更は無い。艦隊による挟撃を開始しろ】
【了解しました。各艦へ通達、敵艦隊の挟撃を開始せよ。繰り返す、敵艦隊の挟撃を開始せよ】
【優先するのは敵の護衛艦だ。だが先ずは前方のAWに対し砲撃だ】
何かの残骸や大きな岩石の陰から民間船の改造艦や駆逐艦が姿を現す。
【此処で引き下がれば東郷組の看板に泥を塗る事になる。ならばウチらが簡単に引き退る訳にはいかんよな!】
そして口調が一気に乱れる艦隊指揮官。そもそも彼は若頭としての立場もあるので仕方ない所はある。しかし、その口調とは裏腹に一隻の戦艦が残骸を押し除けながら現れる。その姿は正に戦艦としての力強さが溢れていた。
収縮砲は搭載されてはいないが主砲の数が多い。四連装の主砲が七基搭載。副砲として三連装三基、二連装六基。大型ミサイル発射管を艦首に八基搭載。VLS発射管、対空砲が多数搭載されている。
更に戦艦としては高い機動性で動きが中々に機敏なのだ。
【主砲、副砲、砲撃用意!前方敵AWに照準を合わせろ!A部隊の弔い合戦だ!】
【主砲、副砲にエネルギーチャージ開始。エネルギー伝達システムは全て正常に稼働中】
【照準合わせ確認。敵AWに全て合わせました】
【間も無く主砲射程圏内に入ります】
【まだだ。もっと距離を詰めろ。そのまま突撃して確実に当てる距離でブチかませ!】
レーダーでは既に此方を捉えているだろう。だが今更捉えた所で出来る事は少ない。精々回避機動か小さな反撃程度に過ぎ無い。
仮に敵AWが取り付いたとしても、持ち前の機動力で振り切ってしまえば良い。
そして敵AWが此方に気付いたのか後退する素振りを見せる。更に敵輸送艦隊からは対ビーム撹乱粒子が散布されているのを確認した。
【全艦突撃イイィィイ‼︎東郷組の意地を見せたらんかい‼︎】
そして多数の主砲と副砲から放たれる大出力ビームとプラズマが宇宙を切り裂く様に放たれたのだった。
然もたった三機のAWに向けてだ。
『あいつら馬鹿じゃないの⁉︎』
チュリー少尉の罵倒に同意しながら俺は回避機動を取る。まさか敵艦隊が真っ直ぐに此方に向けて突っ込んで来るとは思わなかった。然も旗艦と思われる戦艦を先頭にしているもんだから、戦術もへったくれも無いのは予想出来た。
唯、予想出来たとしても実際に来るとなると話は別。勘弁して欲しいと言うのが正直な感想である。
『嘘だろ!彼奴ら砲塔全部こっち向けて撃って来てるじゃん!』
「流石グンマー共だぜ。効率も何も無い戦い方……嫌いじゃ無いけどな!」
「警告、多数から捕捉されています。直ちに回避して下さい」
『こんなの無理よ!ダンス2、一旦退がるわよ!』
『了解だぜ!おいヴィラン1後退するぞ!味方と連携すればちったあマシになる筈だ!』
ダンス1、2が後退する中、俺はバレットネイターを敵艦隊の正面に移動させる。
「後退したければ勝手にしな。俺はもう少し稼がせて貰うぜ」
『ちょ、ちょっと本気なの?そんなの唯の自殺行為よ!』
『チェリー!死にたい馬鹿は放っておけ!兎に角一度後退するぞ!』
『でも!』
アーロン大尉はチェリー少尉を無理矢理後退させる。だがそれが正しい選択だ。態々敵艦隊の前に居座る奴は自殺行為に等しい。
だがリスクが大きければ大きい程、得られるリターンも大きくなる。それに、折角敵さんが気合い入れて来たのを無駄にしてやるのは忍び無いからな。
「ネロ、何か良い感じの曲は無いか?出来れば派手目が良いな」
「少々お待ち下さい。現在宙賊放送が流れており、丁度良い曲選が流れそうです」
そして通信から宙賊ラジオが流れる。
《では、次は【先月より成金になったさん】からです。ある人の幸運に僅かに触れられた事への感謝を込めて。そして、その人が今後も上手く生き残ってくれる事を願って決めました。【希望の光に触れたくて】では、どうぞ》
曲が流れるのと同時にバレットネイターのリミッターを解除し、敵艦隊に向けて正面からのチキンレースを挑む。
リミッターを解除した状態のバレットネイターの加速は一言で言うなら強烈。だが、この強烈を自身の手足で操る事に快感を覚えるのも事実。
俺は如何にして専用機であるバレットネイターを上手く操るかに全神経を注ぐ。
【敵一機、本艦隊に向けて接近中。正面からです!】
【……舐めてんのか?それとも頭がイカれてるかだ。正面の敵機に集中砲火!ネジ一本残すな!】
緑色を主体としたビームとプラズマの嵐が此方に迫る。
「スーパーエースを舐めんなよ‼︎ゴロツキ共が‼︎」
そしてギフトを使い三秒先を見通し続ける。無論回避するのは最低でも一秒前だ。でなければ未来が大幅に変わり頭は痛くなるし、未来視の意味が無くなる。
僅かに出来るビームとプラズマの隙間を縫う様に駆け抜ける。モニターを覆い尽くすかの様な緑色のビーム。それは非常に綺麗で、戦場で無ければ見惚れてしまうのは間違いない。
(後で動画にアップしよう。これは決定事項だ)
そして敵艦隊からミサイルが発射されコクピット内に警報アラームが鳴り響く。
「ジャミングプログラム起動中。しかし全弾迎撃は困難になります。回避をお願いします」
「任せな。この程度の弾幕なら問題は無い」
ミサイルが迫る光景が視えた瞬間、ショットカノンで迎撃する。そしてミサイルが爆発した爆炎の中に突っ込みながらプラズマキャノン砲を展開。
【敵本艦に接近中!間も無く接触します!】
【迎撃!護衛機は直ちにあの機体を墜とせ!】
【若!あんな化け物を相手にすんのか⁉︎俺達でですかい⁉︎】
【良いからやるんだ‼︎】
ミサイルとビームを回避しながら敵戦艦の甲板上に着艦する。近くの対空砲を吹き飛ばしながら更に前進して行く。
【全く、最近の若い奴にしては随分と活きが良い。だが、そういう奴は早死にする】
突如上方より一機のAWが前に立ち塞がる。その機体は旧型のAWではあるが所々修繕した後もあり、随分と使い込まれた印象を受ける。更に戦場では中々見掛ける事の無い武装も合わさり余計に妙な威圧感を感じる。
「対艦バスターソードに【BR-Z5ミスト】か。随分な骨董品な物を使ってるな」
【この機体とバスターソードは俺が若い頃から使ってる奴でな。お陰で最新の機体には付いて行けん事が多々有る。だがな……こう言う場合は役に立つ‼︎】
敵ミストが甲板を抉りながら一気に接近する。対して俺はショットカノンと55ミリライフルで反撃する。
しかし敵ミストは対艦バスターソードを盾にしながら突っ込んで来る。
「ッ!此奴!」
【その程度の弾ではこのバスターソードは破れんよ‼︎】
敵ミストの加速により一気に間合いを詰められる。
【粉砕‼︎】
加速の勢いが合わさった力で振り下ろされる対艦バスターソード。しかし当たる直前に左腕に装備されているパイルバンカーを発射して先端で受け止める。
機体に強い振動と轟音が走る。そして両者互いに近距離で睨み合う形になる。
【……ほう、やるな兄ちゃん】
「曲芸みたいだろ?本当は横に逸らす予定だったんだがな」
【ならば、これで!】
再び対艦バスターソードを振るう敵ミスト。此方も至近距離でのショットカノンを発射する。僅かに掠る散弾を尻目に横薙ぎで斬り掛かる敵ミスト。
だが既に動きは視えていた。その為攻撃が当たる前にバレットネイターを前に出しながら55ミリライフルを手放し、右手で相手の腕を抑える。
再び至近距離での睨み合いになるが、別方向からのロックオン警報が鳴る。
「警告、上方より敵機接近」
「チッ、空気読まねぇ奴は何処にでも湧いてくるね。じゃあな、オッさん」
【ムッ、待てッ⁉︎クッ、小癪な】
俺はバレットネイターで敵ミストを蹴り飛ばしながら55ミリライフルを回収してから距離を取る。その間に三機のサラガンが接近して来る。
【オジキ!今助けやす!お前ら俺を援護しろ!】
【任せろ。此処は関係者以外での土足は厳禁なんだよ!】
【東郷組出世頭三人衆!【三連ノ竜星】見参!】
両腕をトゲ付きナックルシールドで防御しながら迫るサラガンを先頭に突っ込んで来る。内一機は両腕が二連装ビームガンで、もう一機は両肩に250ミリキャノン砲を搭載している。
「色々ツッコミ所満載な連中だな。特に三馬鹿流星群とかな!」
【略すな!そして色々違う!】
ビームの弾幕と250ミリキャノンの砲撃を放ちながら、トゲ付きナックルシールド持ちを援護する二機の敵サラガン。
意外にも援護は的確で徐々に敵戦艦の艦首部分に追い詰められて行く。
【オラオラオラァ‼︎俺の拳を受けてみな‼︎】
そしてトゲ付きナックルシールドを構えた敵サラガンが迫る。敵サラガンに対し55ミリライフルで反撃するがトゲ付きナックルシールドで防がれる。
【うおおおおお‼︎これで決めッ⁉︎ なぁにぃぃ⁉︎】
だが、その防ぎ方は減点だ。俺は前方の視界を自ら無くした敵サラガンに蹴りを入れる。
敵サラガンの頭部が吹き飛び宙を舞う。その間にプラズマキャノン砲を展開して250ミリキャノン砲を装備してる敵サラガンを攻撃。
反射神経は良いのだろう。慌てて回避したが脚部がプラズマキャノン砲によって消し去り制御を失う。そして二連装ビームガンを装備する敵サラガンに向けて一気に接近。仲間達があっという間にやられて棒立ちする敵サラガン。
【ヤス‼︎‼︎土下座‼︎‼︎】
【ヘイ‼︎】
その瞬間、敵サラガンを撃破する未来が変わったが気にせずプラズマサーベルを展開。敵サラガンの二連装ビームガンと頭部。そして背中のブースターを切断するに終わる。
「オッさん、中々良い反応するじゃん」
【テメェら退がれ!此奴はタダモンじゃねえ!】
【【【すいやせん!オジキ〜!】】】
再び敵ミストが迫る。だがこのままでは撃墜スコアが稼げないのも事実。それに相手は旧型AWのミスト。加速は良いが最高速は無いと判断。
よって敵ミストと戦艦を一旦放置して別の艦艇を狙う事にする。
【待ちやがれ!逃げる気か!】
「オッさんの相手は趣味じゃねぇんだよ。じゃあな。さて、そこそこの大物で狙い易いのは……やっぱ民間船だよなぁ」
「敵民間船の改造船をモニターに出します」
「ほほぅ、流石は宙賊。やはり主力は民間船が相場で決まりだな」
そして手近な民間船に狙いを絞りバレットネイターを加速させる。
「さぁて、神に祈る時間だ‼︎精々足掻いて幸運の女神に気に入られてみせろ‼︎」
敵民間船からビームとミサイルが飛んで来る。更に護衛の敵MWも弾幕を張り近寄らせない様にする。だがネロのジャミングプログラムにより数発のミサイルはあらぬ方向へと飛んで行く。
【対空砲弾幕!奴を近寄らせるな!】
【奴の頭の中はどうなってんだ!ネジが十本以上外れてんのか!】
【抜けられた!回避しろ!】
【無茶言うな!兎に角迎撃しろおおお‼︎】
そして主砲塔部分に向けてプラズマキャノン砲を連続発射。一度、二度と防がれるが三度目にはシールドを貫き主砲に直撃。更に55ミリライフルを数発撃ち込みながらエンジン部へと移動開始。対空砲を避けながらショットカノン砲を展開。
【二番主砲大破!艦内で誘爆を確認!】
【そんな事はどうだって良い!敵は何処に!】
エンジン部にショットカノンを連射しながら次の獲物を吟味。そして背後で爆発が起きた衝撃波を利用して加速する。
「次はテメェだ‼︎退かねえなら容赦はしねぇからな‼︎」
直後バレットネイターのメインカメラが力強く一瞬だけ光る。そして狙われた艦の艦橋内では悲鳴に近い声が出たのは仕方無い事だった。
ヴィラン1が敵艦隊の中で暴れている頃。QA・ザハロフ輸送艦隊、第0301輸送艦の艦内では言い争いが起きていた。
「君にその様な決定権は無い。直ちにナンバーズを出撃させるんだ」
「No.19の出撃準備なら行なっている」
「No.9もだ!此方もいつ迄も君の我儘に付き合ってられないのだ。直ちにNo.9も出撃させるんだ」
「……言った筈だ。その言葉を使うなと」
「だから何だと言うのだ!企業の物を私物化してタダで済むと思っているのか!」
タケルはレイナをNo.9と呼んだQA・ザハロフ本社から送られて来た男性職員を睨む。だが男性職員は臆する事無く言い放つ。
「今は確かな戦果が必要なのだ。ナンバーズが正式に認められば全ての戦略図が変わる。それこそ弱小組織が上に行ける程にだ。つまり我々QA・ザハロフが宇宙の覇権を手に入れる事になる!その邪魔をするなら容赦はしない!」
「容赦しないとは一体何をするのかな?」
タケルの質問に顔を嫌らしく歪ませながら言い放つ男性職員。
「決まっている。君の解雇とNo.9を使い徹底的な最終調整を行う。幸い身体の殆どが機械なんだ。精々脳味噌に強化剤を投与すれば全て」
その瞬間、タケルの右手が腰に差してある刀の柄を掴む。そして一閃の煌めきがタケルと男性職員の間に走る。
男性職員は一瞬何が起きたか分からない表情をする。しかし次の瞬間、男性職員の首がズレた。
しかしタケルは最後まで見る事無く他の職員に指示を出す。
「No.19の出撃準備は継続。但し戦闘は艦隊防衛のみとする。それから事故死した職員を丁重に片付けておけ。報告書は私が書いておく。以上だ」
そしてタケルはモニターに映るバレットネイターを睨みながら一言呟く。
「そのまま誰からの援護を受けられない間に死ぬが良い。それがレイナの為だ」
今尚敵艦隊の中で暴れているバレットネイター。かつて語り合ったエースの姿が其処にはあった。