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~Interlude 9~ 『決戦の観測者達』

 ヴァクトゥールと、その力を借り受けた者達。

 それに対する、依耶(よりや) 瑁人(まいと)とガーデスの融合体。


 この2つの勢力の戦いを、肉眼で見た人間は(ほとん)どいない。


 開戦前に融合体がわざわざ行った、音波・電波・その他利用できる全ての伝播手段による地球全土への生放送により、『何か悪意に満ちた巨大な怪物が出現し、それと戦っている者達がいる』という大まかな情報は、生き残った全人類の半数のうち多くが知る所となっていた。


 融合体の出現と巨大化によって、全人類の半数が融合体の『滋養』となって消滅しており、地球全土が未曾有の大混乱に陥っていた。

 それに加え、巨大化した融合体が放った無数の超高エネルギーニュートリノビームの雨により、地球上の全ての核兵器が不完全核爆発を起こして消滅し、全世界の原子力艦が(ことごと)炉心溶融(メルトダウン)を起こしたので、しばらくしてそれを知った多くの人々が『世界の終わりか?』と戦慄した。

 更に、融合体が海底を一蹴りしてヴァクトゥールともども宇宙空間に飛び出した際、その反作用により6ゼタジュール(約6×10の21乗ジュール)もの運動エネルギーが地球を襲った。

 その破滅的なエネルギーの約99・9%は、地球に待機したままのヴァクトゥールの分身達が展開した防御結界によって、余剰次元に巻き取られて無効化された。

 しかし約千分の一に減殺されたエネルギーにしてなお、マグニチュード9・3の巨大地震を引き起こした。

 融合体の一蹴りによる巨大地震は太平洋で起こり、数時間後、環太平洋地域のうちヴァクトゥールの分身達の手が回らなかった地域を、津波が襲った。


 その様な大いなる災いの最中に在っても、何が起こっているかを把握する事に努めた人々によって、レーダー・各種観測衛星・地上望遠鏡などを駆使した観測がなされた。


 それらの人々は、地表からの高度2千km以上の中軌道に当たる宇宙空間で、想像を絶する戦いが行われている事を知った。


 全長10kmを超える漆黒の怪物と、それに相対して白金色に光るほぼ同じ大きさの存在。

 白金色に光る巨大な存在の周囲には、全長2km前後の存在が5体。

 蒼穹の天使、半透明の茨を全身に巻き付けている黒い鬼神、蒼い神狼、死神の騎士、そして方舟。

 それらの存在は白金色に光る巨大な存在と協力して、漆黒の巨大な怪物と戦っていた。


 双方とも、消滅させられた地球全土の核兵器すら問題にならないほどのエネルギーをぶつけ合う。

 双方の中には、時折、秒速20km以上で目まぐるしく方向を変えて機動し、追撃を行う者もいた。

 それはまさしく『神』をも超える存在同士の戦いであった。


 恐れ(おのの)く観測者達の中には、戦う2勢力の構図に目を向ける余裕を辛うじて持てた者もいた。


 東洋の龍のようにも西洋の竜のようにも見える白金色の巨大な存在――漆黒の巨大な怪物が行った全世界生放送により、『ヴァクトゥール』という呼称が認知されつつあった――は、あまり動いていなかった。

 その『ヴァクトゥール』は白金色の半透明な光球の中心に在った。

 白金色の半透明な光球のすぐ内側には、緑色の半透明な光球が更に存在し、緑色の半透明な光球の内側に、ヴァクトゥールと蒼穹の天使と方舟が含まれる構図になっていた。

 茨を(まと)う黒い鬼神、蒼い神狼、死神の騎士の三者は二重の光球の周囲に出て、漆黒の巨大な怪物に攻撃し続けていた。

 漆黒の巨大な怪物もまたそれに応戦し、何回に1回かは二重の光球の方に攻撃を仕掛けたが、光球の内側にいる者達はダメージを受けていない様であった。


 戦闘の構図に目を向けていた者は、それまでSFやファンタジーなどの物語の中でしか見た事が無かった、いわゆる『防御障壁(バリアー)』や『防御結界(フォースフィールド)』の実例が、観測された二重の光球である事を知った。


 と、その時。二重の光球の中にいたヴァクトゥールが、極めて急速に変形し始めた。

 変形を始めて数秒後、それは白金色に光輝く真球へと形状を変えていた。その直径、およそ3km余り。


 白金色の真球が現れて更に数秒後、それは白金色の半透明な光球ともども、忽然と消え失せた。


 そしてその次の瞬間、白金色に光輝く巨大な鎧武者の様な存在(もの)が漆黒の巨大な怪物のすぐ眼の前に現れ、剣を突き立てていた。

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