表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/52

審判

「きっ、きっさまぁーーっっ!!!」


 いともたやすく行われた人類史上最大の大量虐殺を目の当たりにし、ついにグレイが耐えかねて叫び出した。


「おい、メルリン、奴にこっちの声を伝える事はできないのか!?」


〈できます。しかし……〉


「いいから、やってくれ!!」


〈……分かりました〉


「おい、そこの化け物!!」


「〈……ん? ……何だ、ヴァクトゥールの体内に引き籠っている奴らのうち一匹か。何か用か?〉」


「お前、自分が何をしたのか分かっているのか!!?」


「〈見ての通りだよ。見て分からないのか? バァーカ〉」


 奴は事も無げに言い放ち、嘲笑を浮かべた。


「あまつさえ、あんな歌を歌いやがって……っ! お前のようなただの人殺しが、あの歌を歌うな!!」


 だが、グレイの憤怒の叫びに対し、奴は更に嘲笑(あざわら)い、大爆笑した。


「〈ハーッハハハハハハハハ! こいつはケッサクだ!!〉」


「何が可笑しいっ!!?」


「〈お前、聖書をちゃんと読んだ事あんのか?〉」


「当たり前だっ!」


「〈じゃあ、質問しようか。……聖書の記述だけの範囲で、最も多く人間を殺したのは、どこのどいつだったっけ?〉」


「……っ! そ、それは……」


 奴の言葉は、グレイの憤怒の叫びを、いともたやすく封じてしまった。

 聖書を詳しく読んだ者ならば、そしてある程度以上の信仰心を持ち合わせている者ならば、今さっきの奴の言葉は効くはずだ。


「〈『神』だよ。厳密に言えば、一神教の信徒どもが崇拝している『「自称」唯一神』の事だがな。

 因みに、聖書の記述から殺害数を推定できる範囲だけで、『神』は少なくとも3千万人殺している。

 悪魔はたった10人。――『神』による殺害人数には異論も有るが、ノアの大洪水の件が有るから、3千万人は楽勝だな。

 ノアの大洪水が起こったとされる紀元前3千年から紀元前2千年頃の世界の人口は、約3千万人だったわけだし。

 聖書の記述の範囲に限れば、どんな悪魔もノアの大洪水を上回る大量殺戮を実現できちゃいねぇよ〉」


 奴はくつくつと嗤う。グレイは絶句したまま、憤怒の形相で奴を睨んでいた。

 続いて、ゴズモフ先生が奴に舌戦を挑んだ。


「『聖書の記述の範囲に限れば』とな?

 ならば、聖書の記述より後の時代において、どうして神が悪魔より多く人間を殺していると断言できる!?

 それに、聖書の記述の範囲において、神が滅ぼした人間は、全て悪徳の徒でござろう!?」


「〈……んー、今度は牧師のおっさんか。

 じゃあ、敢えて質問を質問で返すけどさぁ、

『聖書の記述より後の時代において、神が悪魔より多く人間を殺している』

という命題が偽である事を示す十分な証拠、有んの?〉」


「……ぬ」


「〈バチカンの連中が公式に『悪魔のしわざ』と認めている事例だけじゃ、到底立証の足しにならねえと思うがなぁ。

 連中の奇跡調査委員会の奇跡認定基準が厳しいのと同様、最近のバチカンは軽々しく『悪魔のしわざ』認定を出さねえし。

 ……あ、中世の魔女狩りはノーカンな。魔女とか悪魔とかを認定する基準がガバガバで話にならねーし〉」


 そう言うと、奴はまた爆笑した。腹立たしいが、奴の言う通りだ。

 特に、20世紀後半以降のバチカン奇跡調査委員会に関して言えば、委員会のメンバーには下手な大学教授よりも物理学などの自然科学に対する造詣が深い者が多いらしい。

 科学知識を最大限駆使して厳しく調査し、それでもなお科学的な説明を付けられないもののみを『奇跡』として認定するのだと言う。

 少なくとも、テレビによく出てくるような「自称霊能力者」とかでは、到底太刀打ちできないだろう。


「〈それによぉ、第1次世界大戦じゃ1600万人以上、第2次世界大戦じゃ8500万人以上死んでんだけどさぁ、これら全部を『悪魔のしわざ』って言いたいの?〉」


「む……」


「〈ま、ヒトラーは『悪魔』認定されやすいよなぁ。……当時のバチカンはヒトラーの所業を見て見ぬふりしてたけど。ヒトラー自身、自称キリスト教徒だったし〉」


 奴はニタニタ笑っていた。


「〈確かにヒトラーは大勢の人間を殺してるし、ユダヤ人の主張通りならユダヤ人だけでも6百万人前後を殺しているわけだが、それでもスターリンや毛沢東が殺した数にはぜんっぜん及ばねえんだよなぁ。

 スターリンは2千万人以上、毛沢東は7千万人以上殺してるし。しかも自国民の犠牲者の方がずっと多いときたもんだ!〉」


 奴はゲラゲラ嗤いだした。実はスターリンも毛沢東も、戦争よりは内政の失敗(特に農業政策の失敗)に起因して(おびただ)しい数の自国民を無駄に死なせているのだが、死なせた数の概数は間違いあるまい。


「〈あと、アメ公どもね。

 『原爆は戦争終結を早め、日米問わず最終的な犠牲者数を減らした』とかほざくアメ公が多いけど、連中、広島と長崎の原爆資料館の資料全部を見た後でも、【()()()()()】、同じ言葉を吐けるのかね?

 そればかりかベトナム戦争では、第2次世界大戦に使用された総量の約3倍の通常爆薬をベトナムに叩きこみ、挙句の果てには枯葉剤まで使い、約5百万人殺してるよなぁ? で、結局負けてやんの。

 ネイティヴアメリカンや黒人に対する虐殺と虐待は言うに及ばず。そこまでカウントしたら、何千万人殺しているかなぁ?

 ……ハハハハハ! これまたケッサクじゃないか! ヒトラーだってここまではしてないさ!〉」


 奴の(あざけ)り笑いは止まらない。


「そ、それは……」


 反論しようとするゴズモフ先生の話の腰を遠慮無く折り、奴は自分の言葉を続ける。


「〈まあ、何にしろ、だ。今さっきあげつらった大量虐殺の事例が全て悪魔のしわざだとしても、御生憎様(ごあいにくさま)だが、

『聖書の記述より後の時代において、神が悪魔より多く人間を殺している』という命題は

めでたく偽になる……というわけにはいかねぇんだよなぁ。

 14世紀の間に流行を繰り返したペストの分だけで約1億人死んでるし、他の時代の分や、天然痘・コレラ・結核・チフス・マラリア・梅毒・はしか・インフルエンザとか他の疫病で死んだ数、明らかな人災を除いた全歴史上の餓死者の数……ここまで挙げただけで10億人は下らないだろうよ。

 これらが全部『悪魔のしわざ』か? ……(ちげ)ぇーだろ。いまさら聖書を紐解くまでもなく、疫病と飢饉(ききん)と天災は『神』の専売特許じゃねーか!〉」


 奴の嘲笑が一層強さを増す。残念だが、聖書に記されている『神』が古代エジプト人に疫病と飢饉と天災を(もたら)したという伝承は、あまりにも有名だ。


「〈で、『聖書の記述より後の時代において、神が悪魔より多く人間を殺している』という命題を真だと渋々認めて、人間による大量虐殺の事例をぜぇ~んぶ『悪魔のしわざ』にして一件落着……という事にでもしたいのか? 牧師のおっさん〉」


「ち、違う!」


「〈そうだよなぁ。さもなきゃ、『人殺ししても全て悪魔のしわざにすればオッケー』って事になるもんなぁっ!?

 そんなんだったら、警察も法律も必要()ぇー。『ヒャッハー』どもの天下だ! ヒャッハー!!〉」


 奴は自分の言葉で笑いのツボに(はま)り、悪ノリしていた。その態度が俺達を一層苛立たせた。


「お前、いいかげんにしなよ!」


 キョウコがブチ切れて、舌戦に乱入した。


「お前、日本の事はあまり悪く言ってないよな? お前の構成材料の一部が、日本人の依耶(よりや) 瑁人(まいと)だからか?」


 キョウコの言葉に対し、奴はわざとらしい困惑の表情をしてみせた。


「〈ん〜? ……アッハッハ、(ちげ)ぇーよ、バァーカ。〉」


 キョウコの怒気を、軽く嗤い飛ばした。


「〈よぉ~く聞けや、日本人の血が半分混ざってる狼憑きの女よ。

 俺様は、無能どもと老害どもがのさばっている日本という国もだぁ~い嫌いなんだよ〉」


 奴の言葉に、キョウコはわずかに眉をひそめる。


「……何を以て、私に日本人の血が半分混ざってると思ったの?」


「〈俺は何十億人分もの遺伝子と模倣子(ミーム)を取り込んでいるんだぞ?

 これだけサンプルが有れば、どんな遺伝子とミームの組み合わせでどんな人間になるかシミュレーションし、ほぼ100%の確率で的中可能だ。

 無数のシミュレーション結果から逆算して、お前がどの人種や民族の系譜に属するか当てるのは造作も無い事。

 ……もう少し詳しく言い当てるならば、日本人の血が半分で、北米先住民(ネイティヴアメリカン)の血が四分の一、そしてアングロサクソン系民族と広府民系漢民族の血が八分の一ずつだろ、お前〉」


 奴はニヤリと笑う。


「〈それにしても、俺の構成材料となったガーデスの手を煩わせた狼野郎が、北欧から北米に渡った後、まさか半分日本人の女を契約相手に選んでいたとはな。今は『真神(マカミ)』と名乗っている様だが〉」


「……マカミの事は、随分前から知っているようね」


「〈おうよ。お前に取り憑いている狼野郎が、今お前の近くにいる天使の女や死神の騎士どのや茨の精霊、その他の地球由来の超対称生物ども、そしてヴァクトゥールの分身どもと結託して、ガーデスの邪魔をしてきた事も度々(たびたび)だったなぁ。

 ……まあ、今更そんな事はどうでも良いが〉」


 奴は『ガーデスとしての記憶』を懐かしんで語った後、言葉を続ける。


「〈とにかく、俺は日本という国もだぁ~い嫌いなんだよ。無能どもと老害どもが我が物顔で蔓延(はびこ)る国だからなぁ。お偉いさんどもや報道機関に踊らされて付和雷同するアホどもが多い国でもあるし。

 太平洋戦争の時も、ずっと後の世で世界最大手の検索エンジンから『嘘の新聞』認定された某新聞社が垂れ流す戦意高揚報道に踊らされて、国民のほとんどが開戦イケイケドンドンだったもんなぁ。

 ……嘘だと思うなら、その『嘘の新聞』の当時の記事を読んでみな〉」


 奴は薄ら笑いを浮かべた。


「〈太平洋戦争開戦直前、官民軍の優秀な人材が集った内閣総理大臣直属機関である『総力戦研究所』が緻密(ちみつ)なシミュレーションを行い、『開戦したら必ず敗北する』という結論を出していたにも関わらず、軍の無能な上層部は国民の多くが(かも)しだす脳天気な開戦ムードに押されて、総力戦研究所の結論を黙殺し、御前会議で「開戦止む無し」と進言した。

 もっとも、戦後の東京裁判での『パール判決書』で引用された言葉通り、

『ハル・ノートのようなものをつきつけられれば、モナコ公国やルクセンブルク大公国でさえ戦争に訴えただろう』

と言われるほどに、当時の日本は追い詰められていたわけだが。


 ……その後、シミュレーション通りに日本が敗北すると、軍の無能な上層部の多くは責任逃れに奔走し、開戦ムードに酔っていたアホな国民は全ての責任を軍や天皇になすりつけ、『平和主義者』を気取りやがったわけだ。

 さっき言及した『嘘の新聞』も、戦後はまさしく掌を返すかのごとく軍や天皇を一方的に悪者扱いしてきたわけだが、アホな国民どもを煽動した事に対する責任を申し訳程度にしか取ってねぇからなぁ。

 責任逃れに奔走した軍の無能どもや『嘘の新聞』の連中に比べれば、東京裁判の判決に則って処刑された軍人達や、自分の命と引き換えに国民を救う事をマッカーサーに嘆願した天皇の方が、何億倍も責任を取っているよ〉」


 奴はそこでキョウコの反応を見るかのごとく数秒間言葉を切ったが、キョウコが黙って聞いていたので、再び言葉を続けた。


「〈俺が今さっき言った事には異論が無い様だな? 狼憑きの女よ。

 ともかく戦後の日本は、優秀な人材が復興に奔走する一方、戦争の責任逃れに奔走する無能どもが国の上層部に多数居座った。

 それ以降だよなぁ。日本で、お偉いさんになればなるほど責任を取らない傾向が強くなったのは。

 切腹が一般的に行われていた江戸時代の武士の方がよっぽど責任感が有るってもんだ。


 で、バブル時代に入ると、国民の多くが再びイケイケドンドンになった。

 そしてバブルがはじけ、今度は『経済戦争』に敗北した。

 バブルより後の『失われた40年』、無能と老害ぞろいの『上級国民』サマが下々に負担を押し付ける図式がず~っと、続いて来たわけだ。

 ……全く、歴史に学ばない愚民が多過ぎて、救いようが無いよ。この日本って国は〉」


 奴はおおげさに肩をすくめる。


「〈俺の構成材料となった瑁人もまた、無能どもと老害どもがのさばっている日本という国が大嫌いだった。

 だからこそ瑁人は、日本という国を丸ごと、ガーデスとの契約を履行するための巨大な『地獄の機械』に改造する事を、一切躊躇(ちゅうちょ)しなかった。

 そのおかげで日本が『失われた40年』を脱したのは、実に面白い皮肉な事柄だな!〉」


 奴の盛大な哄笑を不愉快に思いつつ、俺は、依耶がまだ存在していたほんの数時間前に依耶が発した言葉を、思い返した。

 確かに依耶は「大して苦労もせずに、この国丸ごとを、私と私の契約相手の為の巨大な目的遂行機械に改造する事ができました」と言っていた。


「〈そういや、日本の近隣のあの国とかこの国とか、国策で日本を貶めている国がいくつかあるが、これぞ『目くそ鼻くそを嗤う』ってやつだな。

 特に、ベトナム戦争でアメリカ軍に加担して、ベトナムで略奪と殺戮と強姦を繰り返し、『ライダイハン』問題を引き起こした某国とか。

 その国は何かにつけて日本に対して謝罪と賠償を要求するが、ライダイハン問題についてはかけらほども謝罪と賠償をしてねぇもんなぁ!〉」


 奴の嗤いは止まらない。


「〈……狼憑きの女よ。お前、しばらく前から黙っているが、俺が別に日本の味方じゃないって事はお分かりかな?。

 道具として都合が良かったから、俺は『日本』という名の道具を使い倒してきただけだ〉」


「……よぉ~く、分かったわ。

 お前が、結局のところ自分以外のあらゆるものを『道具』もしくは『蹂躙(じゅうりん)して遊ぶための玩具(オモチャ)』としか見做していない事を」


 キョウコはそれだけ言うと口を閉ざし、静謐(せいひつ)な表情の中に怒りを(たた)えて、奴を睨んだ。


「〈ああ、そうそう、まだ牧師のおっさんと話している途中だったな。

 反論は有るか?〉」


「……な、何だと?」


 奴から再び言葉が返るも、咄嗟(とっさ)の事に上手く反応できず、ゴズモフ先生は短く叫んだ。


「〈少しばかり前に「聖書の記述の範囲において、神が滅ぼした人間は、全て悪徳の徒でござろう!?」とか(のたま)っていたが、

『聖書の記述より後の時代でも、神が滅ぼした人間は全て悪徳の徒』とでも宣うつもりか? お前〉」


「ち、違う!」


「〈まったく、これでも人間の物理学界では割と興味深い論文書いてた奴なんだからな。

 『神』について大いにツッコミ所がある事柄を宣った人物と同一人物だというのが、ちょっとした驚きだよ。

 ……まだまだ50代に入ったばかりのくせに、早くも耄碌(もうろく)したか? それとも頭に血がのぼって過熱(オーバーヒート)したか?

 もっと冷静(クール)になれよ。もっと合理的に考えろよ〉」


「ぐぬぬ」


 ゴズモフ先生は低い(うな)り声を上げ、奴の(あお)りに抵抗した。


「〈まあ、無理もねぇわな。そもそも宗教(シューキョー)の聖典とか、矛盾だらけだからな。

 あんな矛盾だらけのシロモノを心のよりどころにする奴らの精神構造とか、ほんと、『わけがわからないよ』って言いたくなるわ〉」


 奴はまたニタニタ笑っていた。


「〈そんな、宗教(シューキョー)の聖典を心のよりどころにする奴らに、これから俺様が()~ぃ事を教えてやろう。

 ――聖書やクルアーンなど一神教の聖典に書かれた『悪魔』こそが実は人間(ヒューマン)であり、『人間(ホモ・サピエンス)』こそが実は悪魔なのだとすれば、あ~ら不思議、よっぽど矛盾が少ない話になる!〉」


 奴のその言葉に、俺達は全員、無言のままで不快感を(あら)わにした。


「〈人間(ホモ・サピエンス)こそが実は『悪魔』なのだとすれば、そりゃあ、『神』が人間(ホモ・サピエンス)を躍起になって殺しまくるというのも道理というものだ!

 (もっと)も、この解釈の場合、『神』は何万年かかっても『悪魔』を滅ぼし尽くせない『無能』という事になっちまうがな!! ハハハハハハハハハッ!!!〉」


「……お、おのれ……」


 ゴズモフ先生がその顔に口惜しさを(にじ)ませた。

 悔しい事に、俺はその時、あの融合体が(ひる)むような反撃の言葉を何一つ思いつく事ができなかった。


「〈さっきの解釈なら、いまだに人間(ホモ・サピエンス)の中に何億人もいる一神教の信者同士が殺し合うのを、『神』が何故止めないのかも、きれぇ~いに理屈付けができる。

 そりゃ、『ホモ・サピエンス』という種族名の『悪魔』どもが互いに殺し合って自滅してくれれば、『神』にとっては願ったり叶ったりだろうさ!〉」


 奴の哄笑に、俺達は怒りでワナワナと身を震わせた。


「因みに、瑁人が昔読んだ日本のマンガの中に、『悪魔に最も近い生物は人間』っていう旨の台詞(セリフ)が有ったなぁ……。

「〈一神教の信者どもが信じているような『神は人間を愛しておられる』とかいう妄言より、日本のマンガの方がよっぽど真理に近い事言ってらぁな!〉」


 そして、30秒近くに渡って響く大音声(だいおんじょう)の哄笑。

 もちろんその大音声の哄笑も含めて、奴は俺達との今までの会話を、音波・電波・その他奴が利用できる全ての伝播手段で、ご丁寧にも地球全土に生放送していた。


「〈と、言うわけで、だ。これから俺様が全ての人間(ホモ・サピエンス)に審判を下す。


 ――判決、全員『死刑!!』〉」


 またまたご丁寧な事に、奴は『死刑!!』の部分を言ったと同時に、某古典的有名ギャグマンガの、警察官を自称する少年の主人公がたびたび行う動作と、同じ動作をした。

 その動作だけで、また地震と津波が起こった。

 これら一連の動作も、地球全土に生放送されていた。――ここまで悪巫山戯(わるふざけ)の過ぎた『死刑判決』を下したのは、後にも先にもこいつだけだろう。


「ふざけないでっ!!!」


 あいつの嘲笑を打ち消さんとする、マリさんの絶叫。彼女がこれほどの大声を張り上げたのもまた、後にも先にもこの時だけだろう。


「お前なんかに、人間を裁く権利なんて無いっ!!!」


 彼女の怒声に、奴は大音声の嘲笑を止めた。しかし、奴はその顔に皮肉な笑みを張り付かせたままで、言葉を返した。


「〈天使憑きの可愛らしいお嬢ちゃん。どんな根拠を以て、この俺様に『人間を裁く権利なんて無い』と断ずるのかな?〉」


「『私が許さない』! それが充分な根拠よ!!」


 捉え方によっては無茶苦茶に聞こえる彼女の言葉に、意外にも奴は感心したかのような声で応えた。


「〈ハッハッハ。実にシンプルで良い答えだ。

 下手に『神』を持ち出す輩に比べて、よっぽど好感を持てる。

 ……しかし、『許さない』だって? だったらどうする?

 お前らに、この俺をどうにかできるのか?〉」


「!……」


 マリさんは無言になるが、毅然として奴を睨む事を止めない。


「〈どっかの数学者の言葉で、『力無き正義は無能なり、……』とかいう言い出しで始まる言葉があったなぁ。

 その数学者よりずっと後の時代に、これまた日本のマンガで似たようなセリフが出て来たけど。

 ……まあ、あれだ、お前らが勝てばお前らが正義。俺様が勝てば俺が正義。

 ただそれだけの話だ〉」


 そう言って、奴は構える。


「〈お喋りはこれくらいにして、これからガチで()り合うわけだが、その前にもう少しだけ言っておこうか。

 『一人殺しただけならただの人殺し、百万人殺せば英雄』なんて言葉も有るが……数万年かかってせいぜい十億人かそこらしか殺してない『神』に比べて、俺様は遥かに強いぜ?〉」


 その言葉を吐いた瞬間――奴は音速の何十倍もの速さで、俺達に向かって突進してきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ