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接触した理由

「メルリン、この一連の大がかりな話の中で、俺の存在が重要な意味を持つ局面をどうしても想像できないんだが、君は俺に何を期待している?」


 正直、俺が何らかの意味で彼の期待に応えられるとは到底思えない。

 何しろ、彼は人間の力を遥かに超えた地球外生命体――それも、今の地球の科学力では殆ど未解明の超対称物質から成る体を持つ超生命体なのだから。


 彼はそんな俺の内心を察しているだろうが、俺の問いに対する彼の回答は、いまいち意図を測りかねるものだった。


〈私の隠密行動に協力してくれる事を、期待しています〉


「隠密行動?」


〈はい。敵の首領は自らの分身の中でも主要な役割を果たすものを地球の地表面付近に複数送り込みました。


 それらの分身は言わば『通常物質側の世界に干渉する為の司令塔』の様なものです。

――これを仮に『司令官たち(コマンダーズ)』と呼称します。


 敵の首領は、あなた方の時間単位に換算して少なくとも約数万年に渡って『司令官』を通じて秘密裡に通常物質側の世界への干渉を続けてきました〉


「その『司令官』どもを見つけた時点で、全滅させる事はできなかったのか?」


〈勿論、首領が派遣した司令官の殆どを、私が殲滅しました。

――それらを見つけた時点ではそれらの機能は不明でしたが、殲滅後の解析の結果、『司令塔としての機能』が判明しました。


 しかし中には、希薄な(もや)の様に分散して密度を低くして、元々存在していた超対称物質の『大気圏』にまぎれ、私の追跡から逃れた者が1体だけいたのです。


 そして私は敵司令官の殆どを殲滅したものの、その時点で敵の首領は、地球由来の超対称生命体から成る『超対称生態系』の少なからぬ部分を既に侵蝕していました。

――敵は月ではなく地球に逃げ込んだため、地球の超対称生態系の存在に気付くのは、敵の方が早かったのです〉


 俺達地球人も、アポロ計画が実行されるまでは、月由来の生命体の有無について詳しい事を断言できなかったわけだしな。


 アポロ計画以後、地球表面と同様の生態系どころか僅かな微生物も月表面に存在しない事は確定したわけだが、それでも、外界からほぼ隔絶された月内部の空洞に微生物がいる可能性については、然るべき分野の専門家でもまだ完全に否定しきれない。


 月由来の生命体の有無の話はさておき、メルリンの敵がメルリンの行動原理をいくらかでも知っているのであれば、当然、敵はその行動原理を利用しようとするはずだ。

 メルリンは確かに『原則として、私の敵を滅ぼす事によって地球由来の生命体に多大な被害が及ぶ事を、私は好みません』と言った。


「敵の本体は、地球の超対称生態系を、言わば『人質』に取ったわけだ」


〈はい。もちろん私は敵による地球の超対称生態系への侵蝕を食い止め、徐々に元に戻す試みを続けて来たわけですが、その間に、敵の首領は「追跡を逃れた司令官」を通じて、通常物質側の支配を強める戦略を進めて来たのです〉


「まるで、原発巣から転移した癌細胞の様だな」


〈その喩えは適切だと思います。


 敵司令官のうち1体が靄の様な形態を取って『超対称大気圏』にまぎれこみ、追跡を免れた事は先程話しましたが、しばらくして敵は、ある程度以上の複雑さを持つ通常物質側の生命体と重なり合う事により、更に追跡されにくくなる現象を発見した様です。


――私も少し遅れてその現象を発見しましたが、その現象も、あなた方にとって未知の量子重力効果に起因します〉


「つまり、君もその敵も、通常物質から成る生命体と『重ね合わせ』状態になっている時は、お互いに見つけづらいわけか」


〈はい。先ほど私は「隠密行動」と言いましたが、私の追跡を免れた敵司令官も「隠密行動」をしています。

 先ほど私が分身の全体をあなたの身体に重ね合わせていたのと、同様のやり方で。


 過去数万年に渡って、敵司令官は重なり合う対象を何度となく変えてきましたが、ここ10年から15年ぐらいの間はある特定の人物に重なり合っています。

 極々最近、ようやくその確証を得ました〉


「今こうやって君が姿を現しているのは、大丈夫なのか?」


〈敵司令官やその下部の構成員あるいは雑兵に対して、ある程度以上の距離を取れば、色々な手段によって敵の探査能力を欺く事は可能です〉


「よく分からないが、レーダーに対するジャミングとかステルス技術の様なものか」


〈はい。今の所、私の存在に気付くほどの近くには、敵勢力は存在しません〉


 ようやく、話が見えてきた。しかし、この話の流れでメルリンが「隠密行動」をしたがる理由と言うのは……


〈はい。敵に対する奇襲ならびに殲滅です〉


 やっぱり。


「……つまり、通常物質の世界にいる誰かに重なり合って隠れているであろう敵司令官とやらに気付かれず接敵する為に、君が俺に重なり合ってる状態のままで、俺が敵司令官とやらの近くへ行く事を期待しているのか」


〈その通りです〉


「それ、俺に危険が及ばないか?」


〈危険性はゼロではありません。しかしながら、私が全力を以てあなたを守る事は約束します〉


「『敵司令官が重なり合っている誰か』はどうなる?」


〈敵司令官による侵蝕の程度にもよりますが、私の力が及ぶ限り、侵蝕前の状態に戻す試みをします〉


「確実に助けられる保証は無いわけだ」


〈はい〉


「……それで、敵司令官が現在重なり合っている人物とは、誰だ?」


〈ヨリヤグループのCEOにして筆頭株主の、依耶(よりや) 瑁人(まいと)です〉


 日本どころか世界規模のVIPじゃんか! しかも、全く面識が無いわけでもないし!


〈あなたの同窓生ですね?〉


「ああ、向こうは俺の事を気にも掛けてないだろうけどな」

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