世界は私に優しくない
一生懸命嘘を吐くように笑顔を作るのには、理由を見つけらなくて。別に毎日楽しくないわけじゃない。でも、毎日楽しいわけでもない。明日地球に隕石が落ちて滅びるとしても、今日の間にやりたい事もなければ、大好きだよって伝えたい人もいない。
「凛ちゃんの考える事って、たまに難しい」
よく言われはする。ちょっと哲学的じゃない? とか、そんなにいろいろ考えて生きてるの疲れない? とか。
「いっくんは仲間だと思ってたのになぁ」
「俺は凛ちゃんの大好きだよって伝えたい人じゃない事が残念だよ」
「いっくん彼女いるじゃん」
「凛ちゃんは別腹」
「食べ物ですか」
「そうそう」
こうやっていっくんと馬鹿な話をしていると、私のよく考え込む迷路な思考の事を忘れていられるし、いわゆる、普通に楽しいのだけれど。
「何かが、足りないんだよ」
そう私が呟くと、いっくんは白い息を吐いて、小さな声で『そっか』と言った。いっくんは眼鏡が似合う。今首に巻いている緑色のチェックのマフラーも似合っていておしゃれさんだ。いっくんの彼女さんもいっくんに劣らずおしゃれさんで可愛い。
「少し、疲れてるんじゃない?」
「私はいつでも疲れてるよ」
「それはそれで心配だな」
日も暮れてきた公園にいっくんと二人。いっくんは缶珈琲で、私はペットボトルのココアを手にもって、ブランコに乗っている。大学は一緒でも、学科も違えばゼミも違う私たちは学校で会う事はまずない。それでもいっくんは幼馴染の私をずっと気にかけてくれて、たまにふらっとこうやって会ってくれる。
「笑う理由なんて、本当は簡単なのかもね。嫌われたくない、感じの悪い人に思われたくない。そんなものかも」
「あー、分かる。俺そんな感じで生きてる」
ブランコを軽くこぎ始めたいっくんは、また白い息を吐いている。
「なんでもいいけどさ、俺は明日隕石が落ちてくるのは困るかな」
「なんで?」
「まだ行った事ないところに行ってみたいし、会った事な人にも会ってみたい。今日喧嘩した友達と仲直りだってしたい。案外世界は俺に優しいから、俺はやっぱり明日も生きていたい。……どう? 真面目に語ってみた」
「今日誰かと喧嘩したの?」
「例えばだよ」
いっくんは優しいから、私が帰ろうって言うまで付き合ってくれる。私が質問したらできるだけ一生懸命考えてくれる。
ねぇ、いっくん。だから、いつも思っちゃうんだけど。どうして、いっくんの隣に、私じゃないんだろう。
笑う理由が分からないのは、笑顔を向けてもいっくんはただ、受け止めるだけ。毎日が充実しないのは、いっくんが傍に居てくれないから。隕石が落ちてきちゃえ、なんて思うのだって、いっくんが隣に居てくれなくてつまらないからだよ。
足りていないのは、いっくん。ねぇ、分かってるでしょ。
「いっくん、電話鳴ってるよ」
携帯を確認したいっくんはマナーモードにして携帯を鞄にしまった。
「出ていいのに」
「今の俺は、凛ちゃんと一緒に居るから」
そう言って笑うのは卑怯だよ。いっくんの優しさは罪だと思う。私の事は幼馴染としてしか見れてないなら、一ミリでも期待させないで。手を伸ばせば届く距離に居ないで。
「隕石、落ちてこないかなぁ」
そうしたら、もう作り笑いなんてしなくていい。いっくんの事を好きな事、隠さなくっていい。私の気持ちに気付いているのか気付いていないのか。今日もいっくんが遠い。