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人類はタワシに支配されたのかもしれない。

作者: 氷室 炬燵

昨今のpcの進歩はめざましく、またai技術も同様だ。


同じ商品でも使用者の好みを把握して、お薦めの映像作品を紹介してくれたり、その日の献立を案内してくれるようになった。

他にも、独居老人の安否確認に一役買ったり、照明の点灯・消灯を受け負ってくれたりと、その活躍は多岐に渡る。

中には、猫が乗っている動画が多くアップされている掃除用ロボットのように、家出をする物まで現れた。


そんなaiをタワシに搭載した強者が現れた。

洗う物の形状や力の掛かり方を計算し、洗浄が不十分だと思われる方を、光って知らせてくれると言う、無駄にハイテクなタワシだ。ただし、洗剤の効果は含まれない。



そんなタワシを使って作られたオブジェが、注目を集めている。

ある雑貨屋の店先に、カ○ノコタワシで作られた亀が鎮座していた。背中に子供と孫を乗せている。

それだけなら、出来の良い亀でしかない。


「あ、亀だ~」

「本当だー」


3歳くらいの子供を連れた親子が、足を止める。


「光ってるね~」

「本当だー、光ってるね~」


母親が相槌を打ちながら、タワシのオブジェを観察する。

子供が言うように、確かに光っている。実物を見たことはなかったが、これが光るタワシなのだろう。

一番下の親亀の地面に接している部分が光っている。

しかし、少しずつ光っている部分が減っているような気がする。


「あれ~、亀さん、元気なくなっちゃたよ?」

「あれ、ホントだね」


バッテリーが切れたのだろうか。

いや、そもそも電池が入っているのだろうか。

興味を覚え、一つ手に取ろうとして、気が付いた。


「ああ!これ、亀さんがお掃除してたんだよ」

「ホントだ~!いい子だね~」


光らなくなっているのは、亀自身が小刻みに動き、汚れを落としていたからのようだ。

謎が解け、親子は満足そうに、その場を去って行った。


そんな動く亀型タワシに気付いた者は他にもいた。

それは、動画投稿サイトにアップされ、瞬く間に広がった。


――亀が動いてるw

――動力どうなってんの(?_?;

――ウサギはどこだΣ(゜Д゜;≡;゜д゜)


から、


――作って見た。○ンバいらないww

――人型にしたら、火ばさみ持ってゴミ拾い始めた((((;゜Д゜))))

――愛車が死んだー_| ̄|○


と、様々な反応が沸き起こった。


自動清掃が出来ると思った男性が、10個程の群体にして、自動車の清掃をさせたところ、汚れはもちろん、塗装も剥げ、ボディは傷だらけになってしまった。

メーカーを訴えようとしたが、そもそもタワシで車を洗えば傷つくだろうと、訴訟を棄却されてしまったのは、別のお話。


光って動くタワシは、あっという間に世界中で話題になり、日本土産はタワシで、と言う者も現れた。


動く様子を観察していた研究者が、ブラシ部分を器用に折り、曲げて行動していることを突き止めた。

当然、タワシにそんな機能は無い。

『aiの独自進化だ!』と喜ぶ者もいれば、『aiによる侵略の始まりだ』と叫ぶ者もいた。

しかし、ただ掃除をするだけの存在でしかない。自動車を傷つけたのはご愛嬌として、同様の事案は報告されていない。方法は不明だが、学習し情報を共有しているらしい、との見方が強い。


気付けば、図書館や市役所、駅前等では、掃除に精を出すタワシが日常となった。



だが、事件は起きた。


「ぎゃー」


ある駅前で、老人の悲鳴が響く。

何事かと、周囲の人が目を向ければ、一人の老人がタワシに襲われ、倒れていた。その上には、タワシが全身を覆う様にして乗っていた。

防御力の低い裾部分からタワシが侵入を果たし、脛と脹ら脛を丁寧にこすり、真っ赤になっている。顔や胸を中心にタワシが敷き詰められ、転倒の衝撃を和らげた様だが、数十本が浅く刺さっている。

そんな老人の前に、膝くらいまでの大きさをしたタワシ人形が立っていた。

『テシッテシッ』

地団駄を踏む様に、地面を叩く。

「何だ、お前は!」

タワシの動きが止まり、視線を上げた老人はタワシ人形に気づく。

『テシッテシッ』

タワシ人形は同じ動きを続ける。

意味が分からない老人は、とにかく起き上がろうと、体を動かすが、その度にタワシがこするので、逃げることが出来ない。

袖や襟からも侵入しようと試みるタワシもいた。


周囲の人々は何が起きているのか理解出来ず、それでも人が襲われているのなら、と通報する者もいた。


「あ……」


野次馬の一人が、何かに気付いた様に声を上げる。


「なんじゃい!?」

「そこ……路上喫煙禁止……」


確かに、地面には『路上喫煙禁止区域』の文字と、イラストが描かれている。

正解、と言うようにタワシ人形は頷く。


「はぁ?何をふざけ……痛い痛い痛い痛い!」


虹色に光りながら、老人の手や顔を強めにこする。

老人は抵抗を続けるも、最後には顔を真っ赤にし、涙を浮かべながら、


「わかった!悪かった!この辺では、もう吸わない!」


謝罪と反省の言葉を口にすると、解放された。


その様子を見ていた一部の野次馬からは拍手が起こり、駆けつけた警官は困り顔で、とりあえず回収するかとタワシに手を伸ばす。

動きを察知したタワシ達は、カ○ノコを散らしたように、サッと逃げ出した。

何とか一つは回収出来、分析へと回された。


同様の事件は全国で起こり、犯行が重ねられる度に、逃走が熟達して、捕まるタワシは減っていった。


TVでは、程度は低いが人に危害を加えたとし、回収と廃棄を求める声が上がった。

ネットでは、『禁止区域で喫煙するのが悪い』『ゴミを撒き散らしてるんだから仕方ない』『タワシにすらゴミ扱いw』等、擁護する声が多い。


行政としても、タワシの回収をするのは気が重い。条例を違反しているのは喫煙者で、初期費用に百円で街の清掃をしてくれるタワシとを天秤に掛ければ、タワシのメリットが良すぎて違反者を積極的に守る意味がほぼ無い。


だが、極一部でしかないのに、影響力の強い人間が襲われ、対応が180度変わってしまった。



ある場所で、一人の女性が大勢を前に話をしている。

内容は『国籍が重複していた時期はない』『手続きをしていたのは父で、詳細は知らない』『公約なんか守らなくてもどうってことはない』と、ある問題に対しての弁明及び質疑応答だ。

話題性があると思ったのか、多くのTVカメラもある。


ボタッ――


女性の前にタワシが落ちて来た。


「は?」


一瞬、何が起きたのか理解出来ず、タワシを見つめることしかできなかった。


ボタボタボタッ


トト○のワンシーンの如く、タワシが降ってきた。


近くにいた男性職員は、いち早く理解し、逃げ出した。他の職員もそれに倣う。

警備員は頑張って人の波をかき分け、女性職員を助けようとするが、なかなか進めない。


女性を囲うようにタワシが展開し、目の前にタワシ人形が出来上がる。


『タシッ』


タワシ人形の合図で、集まったタワシが隙間無く並び、壁のように起き上がった。

そして、光るブラシ部分を駆使し、映像が映し出される。


その光景は、現在のこの場所。生中継されていたTVの物だ。


「……」


呆然とする女性職員には構わず、画面は変わる。

今、弁明していた国籍問題を報じた新聞の記事だ。

さらに、YESorNOの文字。

そして理解する。

タワシに詰問されているのだと。


「no!」


思わず、良い発音で否定した。


タワシディスプレイは、左半分に円グラフを表示し、『納得出来る・出来ない』の割合を見せつける。右半分には、説明責任と証拠の提示を求める文言が並ぶ。


「私は、我が国の為に、命を掛けて、政治家をやっている!

何者にも臆することも、恥じることもない!」


吠えた直後にspが女性職員の下までやって来て、タワシから守るようにして囲んだ。


それを確認し、これ以上は難しいと判断したのか、タワシは速やかに撤収を開始した。光学迷彩を利用し、1個残らず、逃げおおせることに成功した。


その後、『aiによる国政への介入だ』となり、処分対象に指定された。

国民はやましいことがあるからタワシを処分するんだ、と政治不信に拍車をかけることとなった。


知られたく無いことが多いのか、タワシの製造中止命令まで、あっという間の法案提出・議決・施行であった。


結果、タワシ工場は閉鎖され、原料となるヤシの実は送り返されることとなった。



しかし、日本以外では受け入れられている国もあった。


アメリカのある都市では、治安が悪く行政の手が入りにくい裏路地でゴミ拾いをするタワシの姿が確認された。

とんでもないハイテク製品だと思った不届き者が、タワシを拉致し、売り飛ばそうとした。しかし、売人の手に渡った時には、ただのタワシでしかなかった。

更に追い打ちをかけるように、あちこちにタワシが出現し、ネズミよりも見かけるようになった。

それ以降、タワシは掃除してくれる人形でしかなく、特に値打ちがある訳ではなくなった……はずなのだが、ポイ捨てする人間には厳しかった。

日本の老人のように、ブラッシングされ、市民の意識改革に一役買うようになる。


とある発展途上国では、無造作に積み上げられたゴミの山が、整然と仕分けられ、ゴミ捨て場から売れそうな物を拾い歩く人々に、時間の余裕を与えることになった。そこから他の仕事をする者も現れ、ながーい目で見れば、貧困層の支援になったとも言える。


ただ、今まで清掃業務の雇用を奪うことにも繋がり、そういった意味では被害者も存在した。


それが、世界中でタワシの存在を肯定する出来事が起こる。



照りつける太陽と青い空だけが、その存在を知る大海原。

そこを漂っているのは、ヤシの実を半分にした船に乗るタワシ人形の艦隊。総勢100隻に上ろうかという大艦隊だ。

タワシ達は何かを探して、周囲を見張る。


どのくらい漂ったのか、終に目標となる物を見つけた。

それは、ビニール袋だ。


陸から投棄されたビニールやプラスチック製品の回収を目的としているようだ。

ある程度の量が集まれば、近くの陸地で同僚のタワシへと引き渡す。


そんなタワシ艦隊が複数確認された。


人間では海上のゴミを回収することは難しい。

漁の網に掛かった少量ならいざ知らず、太平洋全域に船を走らせると言うのは、コストを考えれば現実的ではない。まして、領海や排他的経済水域と言った外交問題も発生しかねない。

実績も立てずらく、問題は山積している。


そこにタワシ艦隊だ。

人ではないので、国境だの領海だのを無視し、コスト面さえ無視した清掃活動は、いっそ英雄的ですらあった。

回収されたゴミは近場の国に押しつけられることだけが問題らしい問題ではあったが。



世界がタワシを認めた。

aiタワシ発祥の日本だけが禁止していた。それは、やはり世界からの孤立を意味する。


背に腹はかえられなくなった日本政府は、タワシ禁止令を廃止した。反対していた有力議員は、いつの間にかいなくっていた。



日本の駅前にも、タワシ人形がゴミ拾いをする姿が戻ってきた。

疚しいことさえ無ければ、有益なタワシ人形は、海上清掃の実績もあり、前以上に歓迎された。


しかし、そんなタワシに真っ向から敵対するヤツがいた。


「タワシごときが怖くて、タバコが吸えるか!」


以前に路上喫煙禁止区域にて、喫煙を咎められた老人だった。

案の定、タワシが群がってくる。


「わはははっ!!かゆい!かゆいぞ!」


ブラシ部分が刺さって、泣き言を言っていた面影は無い。


「こんなこともあろうかと、全身を乾布摩擦で鍛え上げたのよ!」


間違った方向に努力を重ねた老人は、高らかに宣言する。周囲の通行人はドン引きだ。

タバコ以外にも、痰を吐き、缶ビールの空き缶をポイ捨てする。

傍若無人、ここに極まれり。


群がるタワシを引きずるように歩く。その顔は、将棋仲間に3連勝した時よりも誇らしげだ。


老人に制裁を加えるタワシの他に、老人の出したゴミを拾うタワシもいた。

そのタワシが、何か閃いた、と言わんばかりタワシ人形の頭となって、老人の前に躍り出る。


「なんじゃ?」


勝ち誇っていた老人は怪訝そうに眉をひそめ、あることに気づく。


「ああ、いや、確かに調子に乗ったかもしれん……悪かっ」


言い終わる前に、痰の付いたタワシ人形は老人の服をよじ登る。

大慌てで逃げだそうとする老人は、足をもつれさせて、転んでしまう。タワシがクッションになったものの、また一部が刺さってしまった。


『タシッタシッ』


そんなことをお構いなし、逃げようとする老人の前に、タワシ人形は足を踏みならす。


「うわぁ……」


老人はタワシに、ニヤァと意地の悪い笑顔を幻視する。


タワシは、精神攻撃を覚えた。

最後が書きたかったです('◇')ゞ

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