赤鼻のトナカイ真伝
やあ、僕はトナカイ。
この真っ赤かなお鼻のせいでよくいじめられてたんだけど、サンタさんが「夜道って暗いじゃん、おまえの鼻が光るおかげで助かってんだよな、正直」って言ってくれたから、もう平気!
さあ、今日はクリスマスイブ。今年もサンタさんと一緒に世界中の子供達にプレゼントを届けに行くぞ!
僕は荷物の準備に大わらわのサンタさんに声をかける。
「サンタさん、今年も頑張りましょうね!」
「おお、トナカイじゃん……あれ、俺言わなかったっけか? 今年からトナカイは使わないことになっただろ?」
「………………え?」
「世の中不況じゃん、サンタ業界も経費削減しなきゃじゃん? で、どうせ飾りだし、トナカイはもうイイかなって」
「イクないですよ! そんな軽いノリでお役御免とか! トナカイはクリスマスになくてはならないものじゃないですか!」
「でもさあ、今や空飛ぶソリが全自動で各家庭まで運んでくれるだろ? トナカイの仕事ってぶっちゃけ空飛んでる時にそれらしく脚を動かして、いかにも『トナカイが動力です』って見せかけることだけじゃん?」
「それ言ったらサンタさんだってソリに座ってるだけじゃないですか!」
「サンタは荷物を子供たちの部屋に運び入れる作業があるだろ。それにな、問題はコストなんだ。上のヤツらが言うにはな、何かを削らなきゃもう会社が立ち行かねーんだとよ。で、サンタ削るかトナカイ削るかっつったらそりゃトナカイ削るだろ、フツー」
ドヤ顔のサンタ。このクソジジイいいい!
「じゃあ、何か他の仕事に回されるってことですか?」
「いや、おまえは派遣社員だからな、今年のクリスマス前に契約が切れてんよ」
「そ、そんな、僕は正社員じゃなかったんですか? 派遣でも雇用されてから三年勤続すれば正社員になれるって決まりじゃあ」
「ちゃーんと契約書読めよ。はじっこのほうにちっちゃく『ただしトナカイは除く』って明記されてんだろが」
ぐ、と僕は詰まった。サンタさんはへらへらと続ける。
「まーな、俺もカワイソーだとは思うぜ。でもな、誰かが会社を出てかなくちゃいけねえからな」
「じゃあてめーがさっさと定年退職しろ、このクソジジイ!」
こうして僕は株式会社サンタクロースを辞めさせられた。
クリスマスから一ヶ月。僕は蓄えを切り崩しつつ、ハローワークに通っていた。成果はない。希望職種を「サンタのソリ引き」に限定していてはダメかも知れない。でも、真っ赤なお鼻のトナカイに勤まる仕事なんて、サンタのソリ引き以外に何があるというのだろう。
となりに座ったおじいさんも、ため息をついて肩を落としている。髪もひげも真っ白で、この人、なんだかサンタさんに似ているな。なんかぼそぼそ言っている。
「……ちくしょう、厳しいな、希望職種を『サンタさん』に限定したらダメかもな……」
「ってサンタさんじゃん!」
「ん、おお。トナカイじゃねえか、元気だったか」
サンタさんもリストラされていた。経費削減の波にはかの赤服白ひげ老人も勝てなかったようだ。
「勤続50年の俺をよー、ポイッ、だぜ。希望すれば何歳まででも働けるって決まりだったのによお、契約書のはじっこのほうにちっちゃく『ただしサンタさんは除く』って書いてあったなんて知らねーよ! あの会社の半分はサンタさんだろうが、除くんじゃねえよ!」
僕たちは赤提灯の屋台で呑んでいた。
「へ~50年はすごいですね。サンタさんはなんでサンタさんになろうと思ったんですか?」
「そりゃあれだよ、サンタって働くのクリスマスだけじゃん? 楽そうだなって思ってな、ハッハッハ」
「クズじゃねえっすか」
「だがなあ、サンタになってみたらクリスマス前の準備とクリスマス後の片付けもあってな、5日間も働かなきゃいけなかった」
「年休360日ってほとんどニートじゃねえっすか」
「あの頃はよかったなあ、ソリも全自動じゃなくて、トナカイが引いて、サンタが操縦してさあ。便利な世の中だけどさ、こう、ぬくもりがないっていうかね」
僕は思いついた。
「そういえばサンタさん、地球という星ではまだ全自動ソリが発明されていない上、そもそもクリスマスにサンタさんがプレゼントを配るっていう風習もないらしいですよ?」
「ひゅー、ブルーオーシャンじゃん! よっしゃ地球進出じゃー! いくぞトナカイ!」
「あいあいさー!」
こうして地球にサンタさんとトナカイというプレゼントが届けられたのであった、めでたしめでたし。