二度目の人生の幕開け
さあ始まりました、二度目の人生!
右手には冒険者から授けられしナイフが一本。
世界には凶悪な魔物たち。
うむ、悪くなし。悪くなしですよ。ハッハッハッハ!!!
うん、また可笑しなテンションになってるな。落ち着こう。
油断は禁物だからな。
まずはアレだ。改めてステータスとスキルの確認だ。
もうこの呪文も恥ずかしくなんて無いもんね。
「ステータスオーープン!」
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名前 高山セイジ 15歳
種族 人族(男)
職業 なし
天職 課金者
筋力 12
持久力 8
瞬発力 10
知力 58
精神力 31
魔力 5
スキル
ガチャ 鑑定 言語理解 ステータス可視化 アイテムボックス
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ふむふむ。
俺がまず気になったのは、どこにもレベルの表示が無いってことだな。
これはつまり、敵を倒して経験値を稼ぎ一定値に達するとレベルが上昇してステータスもアップする、というお馴染みのシステムが存在しないって事なんだろうか?
いや、そもそもシステムという考え方自体止めた方がいいか。
システムなんて言うと、なんか如何にも人工的なイメージがある。
とにかくここはレベルアップで成長する様な単純な世界じゃないって事だけは覚えておこう。
ゲームと混同してるといつか痛い目に会いそうだしね。
次に気になったのが天職。
天職って、その人に向いている職業とかそういう意味合いだろうけど、コレは絶対違うものだろうな。
向いてる職業が《課金者》って……。
課金者は職業じゃねえし。
ゲームに並々ならぬ情熱を燃やす勇者の称号だし。
天職に関しては後回しにしよう。今は分からん。
次、各種能力値。
何故か知力が高い。続いて精神力。
言うまでもなくゲーム漬けの毎日を送っていた俺は、勉強など出来ませぬ!
考えられる可能性は取り敢えず3つ。
1、転生特典で賢くなった。
2、思考速度や記憶力の値であって知識の量は関係無い。
3、こっちの世界の基準に当てはめると、俺の身体能力や魔力はアホほど低い。
残念ながら1は無いだろう。特別賢くなった気はしない。
2はありそう。知識量より思考力の方が言葉のニュアンス的に合ってる気がする。
そして3は、一番ありそう……。
アクセルさんの戦い振りを見ちゃうとね。いや、実際は見えてないんだけどさ。
あのオバケ狼を剣一本で瞬殺とか、どんな身体能力してんだよって話です。あの人たぶん筋力500とかいってそう。
はい、悲しくなって来たから次。お楽しみのスキルチェック!
『言語理解』はもういいとして、まずはなんと言ってもコレ。我が最強のチートスキル《ガチャ》。
早速いってみよう!
「我が魔力を糧として、今、ここに顕現するがいい。ガチャ!!!」
………………………………。
……………………。
あれ?
何も起きず。
何故だ。詠唱しちゃ駄目なのか!?
しょうがないから詠唱無しバージョンでもう一度。
「ガチャ!」
……………………………。
はい、何にも起きず。
何故に?
俺のカスみたいな魔力じゃ使えないってことなのか!?
なんだよー、一番楽しみにしてたのにー。
はぁ……、次いこう。
《鑑定》。
言わずと知れたチートスキルの代名詞。通称『鑑定様』。
有ると無いとで異世界人生が変わります。
コレをチョイスしてくれた神様には心からグッジョブと叫びたい。
まあコレに関しては使わなくても効果は分かるけど、一応使ってみるか。
俺は近くに生えていた毒々しい茸に手をかざした。
「鑑定!」
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名称 ゲトゲト茸
オドロギの森に生える固有種《コーコロ樹》にのみ群生する茸。非常に強い毒性を持つため食用には的さ無い。食べるとゲトゲトになる。
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ゲトゲトってどんな状態? 擬音で言うんじゃねえよ。
この《鑑定》はちょっと不親切かもしれないな。
まあいいや。スキルは問題無く発動出来た。
有毒か無毒かを判別出来るだけでもかなり助かる。
今後の冒険者生活では頻繁にお世話になりそうだな。
じゃあ次。《ステータス可視化》
って、コレはステータスを表示するスキルのことか。
あれ?
そういえばスキル名と呪文が違うな。
今まで「ステータスオープン」と唱えてたけどちゃんとスキルは発動してたぞ。
スキルを使う時はスキル名を唱えるんじゃないのか?
試しに使ってみる。
「ステータス可視化!」
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名前 高山セイジ 15歳
種族 人族(男)
職業 なし
天職 課金者
筋力 12
持久力 8
瞬発力 10
知力 58
精神力 31
魔力 5
スキル
ガチャ 鑑定 言語理解 ステータス可視化 アイテムボックス
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やっぱりステータス表示で間違いない。
んー、じゃあ詠唱ってなんでもいいのか?
詠唱ってなにかね?
そもそも詠唱って要るのか?
……………………。
俺は足元に生えている草を見ると、頭の中で『鑑定』と唱えてみた。
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名称 ペシペシ草
オドロギの森全域に群生する固有種。近くに生物が居ると自力でその身を揺らし、ペシペシと叩いてくる。最大で1m程にまで成長し、ベシベシと叩いてくる。無毒。
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この森の固有種って碌なのがねぇなあ。
結論、詠唱は必要無し。
スキルは使おうと思っただけで発動可能。
いやこれマジ確認出来て良かった。
知らずにいたら人前でスキル名叫んじゃってたかもしれない。
セーフ!
それじゃあ最後
これもまたこの世界には存在しないか、もしくは希少なチート級スキルの可能性が高いと思う。
だってアトラさんたちは大きな皮袋を背負っていたからね。
あの2人は間違いなく実力者だろうし、《アイテムボックス》なんて便利スキル、在れば絶対収得しようとする筈だからな。
てことで、さっきから俺の足元をペシペシと叩いてくるウザったい草を引きちぎり《アイテムボックス》と念じてみた。
すると手の中の草が何の演出効果も無くフッと消える。
おおっ、出来た!
もう一度念じると、今度はフッと現れる。
お、面白ぇー!
これだけでちょっとした魔法使い気分を味わえるな。
楽しくなって何度も出したり消したりしてみる。
そこでふと気になった。
このスキルってMPとか消費しないんだろうか?
もう20回ほど使ってるけど、体調には特に変化無し。
そういえばステータスにもMPの表示は無かったっけ。
まあスキルはちゃんと使えたし、今はこれで十分だろ。詳しい検証は追々やってくって事で。
俺は頭を切り替えると、手に持っていたナイフをアイテムボックスへと収納した。
さて、これで一通りの確認は済んだな。
結果的に俺の武器がナイフ一本という現状は変わらなかった訳だが、この状態で魔物と戦うのは正直不安が残る。
俺みたいな素人がナイフ一本で倒せる魔物なんて居んのかねぇ。
あ、別に1人で戦う必要は無いのか。冒険者といったらパーティを組むものだしな。アトラさんたちもそうだった。
よし、町に着いたら仲間を探そう。
もしかしたら冒険者ギルドが誰か紹介してくれるかもだしな。
うんうん。なんだか急に肩の荷が下りたというか気持ちが軽くなってきた。
良い人に出会えたらいいなぁ。
出来れば可愛い娘がいいなぁ。
なんつって。また少し浮かれ過ぎたな。
足元を掬われないように気を引き締めていこう。
良き出会いを求め、いざバルザークへ。
と、勢い勇んでみたは良いが肝心の森の出口がなかなか見えてこない。
おかしいなぁ。もうそこそこの時間は経ったと思うんだけど。
ひょっとしてアトラさん、ベテラン冒険者を基準に30分とか言ってたのかな?
だったら都会のもやしっ子たる俺の足じゃ倍以上掛かかっても可笑しくない。
ただ歩くのも退屈だったので《アイテムボックス》の容量とMP消費の有無を確認するために、その辺に生えてる茸やら何やらを適当に毟り取ってはどんどん収納していった。
更に暫く歩くも、まだ出口は見えない。
…………………。
…………。
……。
いや待て、流石に不安になってきた。
行けども行けども景色は変わらず。
30分どころかもう1時間は歩いてると思うんだけどね。
体感だから実際何分経ったかは分かんないけど。
ちなみにポケットに入っていた筈のスマホは財布と共に消えていた。
空を見上げても太くて曲がりくねった樹木が複雑に絡み合って太陽を隠しており、今が朝か昼か夕暮れかすら判断がつかない。
薄暗い空間が益々不安を後押しする。
もしこのまま夜になったりしたら、たぶん俺泣くぞ。
ひょっとして迷子になってるか?
真っ直ぐ歩いてるつもりが、途中から別の方向に進んでたとか。
それともまさかアトラさんに騙されたとか。
一度疑心暗鬼に陥るとどんどん不安が募っていって、悪い方向にばかり考えが向いてしまう。
すると、今まで敢えて忘れようとしていた事が頭に浮かんできてしまった。
そう、俺が死んだ後どうなったか。
具体的には俺の遺体がどうなったかだ。
こっちの世界に魂だけが移動したのか、それとも肉体ごと移動してしまったのか。
魂だけならまあ問題無い。普通に事故死として処理された筈だから。
だけどもし肉体ごと消えていたら。
唯でさえ早死にするっていう親不孝をやらかしてしまったのに、生死不明じゃいつまで経っても両親の心に暗い影を落としてしまいかねない。
そして心配事がもう一つ。
俺が横断歩道を渡った時、信号機は青だったのか、それとも赤だったのか。
正直覚えてない。
というか見てない。
普段は信号無視なんてしないけど、あの時は給料袋を片手に舞い上がっちゃってたからなあ。
トラックが信号無視をしたんだったらまだいい。腹は立つけど俺はこうして転生出来た訳だし、まだ許せる。
だけど信号無視をしたのが俺だったら……。
こっちに過失があったとしても、それでもきっとトラックの運転手さんは何らかの罪に問われると思う。
俺の両親や世間から人殺しと責められたかもしれない。
仕事を失ったかもしれない。
刑務所に入れられたかもしれない。
信号無視して事故死した挙げ句に両親どころか赤の他人の人生まで狂わせたんだとしたら………。
……………。
駄目だ、思考がどんどんマイナスになっていく。
これに関してはもう考えるのは止めよう。
実際どうだったか確認なんて出来ないし、どちらにせよ親不孝には違いない。
だったらこの世界で十全を生きる事を考えよう。
もう二度と馬鹿な死に方をしないで済むように。
でないと折角神様に貰った二度目の人生までを無駄にしてしまう。
そして、もし向こうの世界に帰る事が出来たなら、その時は本気で謝ろう。
うん。よし。
決意を新たにしていると、森の奥が徐々に明るくなってきた。
うおおおっ、やっと森を抜けられたのか!?
アトラさん。疑ってすんません!!!
俺は堪らず走り出した。
希望と不安を綯い交ぜに、全力で走り出した。
誰かに見られたら、青春映画の主人公気取りかとツッコまれてしまいそうだな。
剥き出しの樹木の根やペシペシ草に足を取られて転びそうになりながらも、俺は勢い良く太陽の下へと飛び出す。
こうして俺の二度目の人生は幕を開けたのだった。