異世界とチートスキル
目が覚めると、そこは森の中でした。
いやいやいや、おかしいだろっ!
何なのココ。どうして俺、森にいる!?
周りを見渡すと、そこは鬱蒼という表現がぴったりの薄暗くてちょっと不気味な感じの森が広がっていた。
よし、いったん深呼吸だ。
「スーハー、スーハー…」
ああ、清涼感がすごい。都会暮らしをしていると森の空気ってこんなに美味しく感じるんだね。
うん、間違いなくここは森だ。
マイナスイオンたっぷり(たぶん)の空気を胸いっぱいに吸い込むと徐々に頭が冷静に、記憶がクリアになってきた。
そして思い出す。ついさっきの出来事を。
バイト終わりの夜8時過ぎ、スキップで横断歩道を渡っている途中、恐ろしい衝撃が俺の身体を襲った。視界には入ってなかったけど、アレはたぶんトラックだったと思う。
一瞬だったけど右半身がグシャ、バキバキッて感じで。思い出すだけで寒気がする。人生で一番気持ちの悪い感触だった…。
普通の乗用車じゃああはならないだろうしね。
んで、あの感触だと間違いなく死んでるだろうと思う。アレで生きてたら逆に凄いよ、俺。
要するに、俺はトラックに跳ねられて事故死したってことなんじゃなかろうか。
だとしたら今ここにいる俺はいったい何なんだってことなんだけど。
生まれ変わり? 転生ってやつか?
百歩譲って、この世に転生ってものが存在するとして、俺が転生したんだとして、だったら赤ん坊になってなきゃおかしいんじゃね?
鏡が無いから断言はできないけど、肉体は元の俺っぽいんだよなぁ。
つまり、肉体も記憶もそのまんまに転生したってことか?
なんだそりゃ!? どういう理屈? そんなアニメや小説じみたことあり得るの?
いや転生という時点で既にアレだけどさ。
再びパニックになりかけて、慌ててマイナスイオンを補給する。
「スーハー、スーハー、スーハー………」
よし、自分の感覚を信じよう。
あの時感じた死の感触と、今目の前に広がる光景。
これはもう転生以外には考えられない。
うん、俺は転生したんだ………きっと。
だったらもう1つ確認しなきゃいけない重要案件がある。
そう、ここが地球か否か。
いや、分かってる。流石に異世界転生とか言い出すのは、中二病が過ぎるというかなんというか。だけど、周りに生えてる草とか樹がどう見ても日本ぽくないんだよなあ。ちょっとオドロオドロしくてキショいだもん。
幸いにも、それを確認する術を俺は1つ知っている。
もしここが本当に異世界だったとしたら、パターンからいってあの呪文が使えるはずなんだ。
周囲に人気は無いし、ここはひとつ羞恥心をかなぐり捨てて逝ってみますか。
転生というファンタジー現象を受け入れた今の俺に、もはや怖いものなど無し!
期待と不安を胸に、俺は叫んだ。
「ス、ステータスオープン!」
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名前 高山セイジ 15歳
種族 人族(男)
職業 なし
天職 課金者
筋力 12
持久力 8
瞬発力 10
知力 58
精神力 31
魔力 5
スキル
ガチャ 鑑定 言語理解 ステータス可視化 アイテムボックス
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「異世界転生キターーーーー!!!」
思わず出てしまった歓喜の叫びが森にこだました。
目の前に表れた文字列を、改めて確認してみる。
種族、天職、スキル、そして各種能力値。
間違いない。
ここは異世界で確定です。ありがとうございます!
しかも修得スキルが《ガチャ》って。
これはひょっとしなくてもアレでしょ。異世界転生モノでお約束のチートスキルってヤツでしょ!
きっと廃課金王への一歩を踏み出した直後に死んでしまった俺を不憫に思った神様からのプレゼントに違いない。
うん、そう思うことにしよう。
ありがとう神様!
いや~、それにしても《ガチャ》って。
神様は俺のことをよく分かってるなぁ。
これってつまり、魔力なんかを消費すれば幾らでもガチャを回せるってことなんじゃないのかい?
レアアイテムやらレアスキルをあっさりゲット出来ちゃったりするんじゃないのかい?
もうワクワクが止まんないッス!
よし。それじゃ早速スキル《ガチャ》を使ってみようじゃないか!
ガサッ………。
突然背後から聞こえた音に、体が硬直する。
何かいる!?
そういえばココ、森の中だった。テンション上がり過ぎてすっかり忘れてたよ。
兎か? 豬か? チートをくれた神様か?
まさか魔物なんてことはないよね。
いくら異世界だからって、いきなり魔物とか出たら死ぬよ?
転生直後にゲームオーバーとか笑えないよ?
頼むよ神様!
俺は恐る恐る振り返ってみた。
「………オオカミ?」
狼、だと思う。
体長3メートル近く有りそうだけど。
全身真っ黒いけど。
目が真っ赤だけど。
形は一応狼だ。
「グルルル…」
あ、完全に威嚇してらっしゃる。
逃げたほうがいい…かな?
逃がしてくれる…かな?
一歩後退るも、足が震えてその場に尻餅をついてしまった。
直後、俺の頭上を何かが掠める。
気づくと、目の前の巨大狼は俺の斜め後ろ10メートル程の位置にいた。
え?
今コイツが襲いかかってきたの?
全然見えなかったんですけど……。
巨大狼は尚もその真っ赤な瞳で俺を見据えていた。
それは紛うことなき狩人の目。
眼前の命を喰らおうとする捕食者の目だった。