表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

真夜中の温もり


 俺は病院で、瀬川のお兄さんと、その息子さんに会った。

 かなり遅い時間だったので、和也くんは眠いのか、かなりぐずり気味だったが、それでも母親に会いたいとだだをこねたので連れてきたらしい。


「妹から聞いた時は驚いた。君が妻を見つけてくれたんだってね」


 深々と頭を下げるお兄さんに、俺は手を振った。


「いいんです……その代わり、俺が見つけたってことは、適当にごまかしてもらえますか」


 さっき、俺と瀬川は、警察から事情徴収を受けた。

 そこで、「三花さんがドリームランドと書き残したメモを、瀬川が見つけた。一人では心細いので同行を頼まれ、適当に園内を歩き回っていたところ、偶然に倒れていた三花さんを見つけた」――と、経緯を適当にぼかして説明している。

 瀬川にも言ってあるのだが、俺のダウジング能力の話を警察相手にするとややこしいことになるのだ。オカルト的にも思える能力は信じてもらいにくく、下手をすれば、そんな能力を使って首尾よく対象のものを見つけたのは、俺があらかじめそれを知っていたから――失踪に関与していたからだとも、疑われかねないのだ。


 過去にも色々あって、事情徴収は慣れている俺だが、今回もうんざりするほど同じ話を繰り返しさせられた。

 俺と瀬川が、ぐったりしているのを見てとり、警察官は、最後に一言だけ、ドリームランドへの不法侵入を注意して話を終わりにした。


「廃墟といっても、人の土地だからね。今回はそれで人の命が助かったから、あまりうるさくは言わないけど。どうもあそこは肝試し感覚で忍び込んで、事故に遭う若者が多いんだ。やめてくれよ」


 俺と瀬川は素直に頷いた。俺だってあんな場所、関わりたくはない。




 しばらくして、三花さんの意識が戻ったと連絡があり、瀬川のお兄さんが息子を抱いて、慌ただしく向かった。家族以外が病室に入るのも何なので、俺は待合室で待っている。


「ごめん、水落、こんな遅くまで……電車もなくなったし、帰りは兄さんが車で送っていくからね」

「気にするなよ、それより、瀬川は行かなくていいのか?」


 瀬川は、うん、と頷いた。


「しばらく、兄さん達だけにさせとく。三花さんとは、また話せるし」

「そうか。ま、お疲れ」

「本当にありがと……水落って、実はいい男だよね」


 俺は苦笑する。

 待合室のテレビでは、ニュースキャスターが、今日のネットニュースでも見た、陰鬱な事件を読み上げていた。


『――自宅で亡くなっているのが発見された河野あげはちゃん(4)は、司法解剖の結果、虐待による疑いがもたれています。また、同居している母親の河野芹香さん(23)は、行方がわからなくなっており、あげはちゃんの死因と合わせ、内縁の夫に事情を聞いており――』


 ニュースを聞き流しながら、ソファーに座っているうちに、俺達は眠くなってしまい、そのまま意識を手放した。


 眠りに落ちる瞬間、瞼の裏に映った、闇夜にきらめくメリーゴーランドは――あの、おかしな遊園地が見せた幻影だろうか。


 ■■■


 消毒薬の臭いに目を覚ますと、白く明るい蛍光灯と、無機質な天井が見えた。頬が濡れていて、自分が涙を流していたのが分かる。

 周りでは人々が慌ただしく動き、三花に何かを話しかけてきた。三花はそれに、ぼんやりとしたまま答えた。


 それよりも三花は――自分が見たものを思いだそうとしていた。だが、頭の中の靄を掴むように、まとまらず、じきに靄は完全に晴れてしまう。

 再び眠ろうとして瞼を閉じても、さっきまで見ていた金色の粒は見えず、蛍光灯の残像の細長い影が、チカチカしただけだった。


「ママっ!」


 そんな風に、半ば夢の中にいた三花を一気に現実に引き戻したのは――息子の、和也の声だった。

 ベッドに横になったまま、顔をそちらに向ければ、夫に抱かれた幼い息子が、泣きながら自分に手を伸ばしていた。


 わあわあと泣き出す和也を、点滴に繋がれていない方の手で撫でる。がむしゃらにしがみつこうとする和也を止める夫もまた、涙を流していた。


「良かった……いなくならないでくれ、三花、お前まで」

「――あ」


 心身共に疲れきって憔悴した夫と、泣きわめく息子に、三花ははっとする。

 三花は、自分が死んでもいいと思っていた。だが、それは――目の前の二人から、妻や母親を、家族を奪うことだ。


 自分が優也を失った悲しみと同じものを――また二人に与えてしまう。


「……ごめんなさい」


 三花は、小さく謝るが、夫は顔を抑えた。


「いや、俺も悪かったんだ。俺が、ちゃんと……ちゃんとお前を見ていれば」

「……大丈夫。もう、大丈夫だから」


 夫はまだ心配そうな顔をしたが、三花は確信を持ってそう言った。


 夢で見た景色は、もう思い出せないが、心の中には確かに温かいものが宿っている。

 それは、母親想いの優しい息子がくれたものだと、三花はどこかで知っていた。


後日、電話にて。


『本当にありがとね、三花さんもだいぶ元気になったよ』

「お、良かったな。……でさ、」

『うん、兄さんが、水落にお礼に洋菓子と和菓子のどっちが好きか聞いてって』

「いや、気を遣わなくていいって。……それよりさ」

『ん? 何? あっ、甘いものより、ハムとかの方がいいかな?』

「……。」


由佳との海デートをセッティングしてくれる話はどうなったのか、聞き出せない水落。


ちらほらと水落が、裏野ドリームランドに行ったことがあるというような雰囲気を醸し出してますが、それは次回で。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ