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昼下がりの電話

夏のホラー2017企画、2作目投稿です。1作目を読んでなくてもこの作品だけで読めます。

軽く残酷描写がありますのでご注意ください。


 軽快な音楽と、笑い声を遠くに聞きながら、男性は一人ベンチに座り、休んでいた。

 たまの休みくらい家族サービスを――と妻と娘がせがむものだから、連休を利用して、近くの小さな遊園地に遊びに連れて来た。その家族は今、トイレに行っており、男は一人で待っているところだった。


 ――その時、くすくす、と子供の声がした。


 子供の声は常にあちこちからしていたが、耳にまとわりつくような響きが、妙に気になって振り返ると、小さな女の子が、自分をじっと見ていた。


 子供は、自分の娘と同じくらいで、幼稚園児くらいだろうか。近くに親はいないようで、ぽつんと立っている。

 迷子だろうか。

 物騒なご時世だ。小さな子供が、一人でいるのが気になった男は、声をかけようと近付くが、子供はまた、くすくすと笑うと、身を翻して、走っていく。


「あっ、……」


 かくれんぼで遊ぶように、女の子は木の後ろに隠れた。

 誘うような動きに、男が子供を追って、木の後ろに回り込んだ時――子供の姿はなかった。


 ――消えた?


 思わず、辺りを見渡す。しかし、小さな女の子の姿はどこにも見えない。

 男は、自分の妻と娘がやってきて肩を叩くまで、そこで呆然としていた。



 裏野ドリームランドが、閉園となったのは、ある年の七月、夏休みに入る直前のことだった。

 表向きの理由としては少子化や、他の行楽地に人が流れたことによる経営不振であり、遊園地の跡地が放置され、廃墟と化しているのも、取り壊しの費用すらなかったからだとされている。

 しかし、ドリームランドには、子供が消えるなどといった奇妙な噂が流れていた――一部の人は、風評被害のために、潰れたとも言っている。


 だが、遊園地を訪れたことのある人の中には、こう語る者もいる。


 ――あの遊園地には、何かがある。


 ■■■


 大学生の夏休みは長い。今日はバイトもないし、家でゆっくり過ごそうとしていた俺は、のんびりスマホでネットニュースを見ていたが、陰鬱なニュースが多くて、気が滅入る。

 そんな風に暇を持て余していたその時、ばあちゃんが俺を呼んだ。


幸晶(さちあき)、電話だよ」

「電話?」


 俺の携帯にではなく、家の電話にかけてくる相手なんて、誰だろうと思いつつ、リビングに行って受話器を受け取る。


「はい、代わりました」

『……もしもし、水落(みずち)?』


 声を聞き、名前を聞くまでもなく誰だか分かった。


「瀬川? おう、久しぶり。卒業式以来か?」


 電話の相手は、高校のクラスメイトの瀬川実波(せがわみなみ)だ。さっぱりした性格で、クラスの中心になるようなタイプだった。だが、いつもは明るい声が、どことなく沈んでいる。


『うん、良かった、繋がって……夏休みだから実家にいたの?』

「や、俺は地元の大学だから、実家暮らしだけど。どうした?」

『……ああうん、あのさ、水落、今もアレ、やってる?』


 アレ――というのは。

 思い当たるのは、一つしかない。俺はジーンズのポケットに入れている、水晶の振り子を取り出した。

 俺、水落幸晶は、振り子を使ったダウジング――人間の潜在能力を使い、物を捜すこと――を特技としている。

 高校の時、他人の失くし物を、ダウジングを使って見つけてみせたことがある。瀬川は、それを覚えていたのだろう。


「まあ、一応。何かあったか?」

『……うん。実は、アタシの義姉さんが行方不明で、捜してほしいんだ』


 電話の向こうの、困り果てたような声。だが、困っているからこそ、いい加減な安請け合いはできない。


「それは、警察に届けた方がいいんじゃないのか……?」

『もちろん届けたよ! けどさ、その、心配で……。実は、義姉さん、最近、病気で息子を亡くしてるんだ……そこから様子がちょっと普通でなくて……何か嫌な感じがするんだよ!』

「それって、ひょっとしてニュースになってた奴か?」

『え? ごめん、あんまニュース見てないから知らないけど……』


 俺は片手でスマホをいじりながら、さっきまで見ていたネットニュースを確認した。

 子供が死んで、その母親が失踪、というニュースがあったような気がしていて、引っ掛かったのだが――、改めて見てみると、報道されていた子供の死因も性別も違っていたので、すぐに違うと分かった。


「あ、悪い。全然別の話だった。……で、その、瀬川のお姉さんだけど。人を捜すっていうのは、物を捜すより難しいんだぜ?」

『……関係のない水落に頼ることじゃないかもしれないんだけど、そこを何とか頼むよ。よし、分かった』


 何が分かったんだ。


『協力してくれたら、私から由佳ちゃんを海に誘ってあげる。私は、当日体調を崩してやるから、うまくやりなさい』

「はあ?」


 思わず受話器を取り落としそうになった。

 由佳は、俺の高校の時からの知り合いの女の子で、俺が通う大学の後輩でもある。そもそも由佳と知り合ったのは、瀬川の紹介なのだが――いや、勝手に自分の後輩を売るな!


「いや、おい、てか……そんなんなくても手伝ってやるから! 俺が言ってるのは、ダウジングの能力に過度に期待されても困るってことで――」

『さすが水落! じゃ、これから迎えに行って大丈夫?』

「え、あ、まあ……迎え?」

『高校前のあのコンビニでいい? じゃあ!』


 電話が切れた。

 何だかハメられた感もあるが……まあ、仕方ない。


 俺は自転車に跨がり、暑い日差しが照りつける中、出かけて行った。


 ■■■


 アスファルトの地面から、陽炎がゆらめいていた。

 誰もいない、静かな遊園地を、一人の女性が歩いている。

 女性はやつれた様子で顔色が悪い。しかし、必死に何かを捜しながら、歩いている。


「……。間違いない……!」


 傾いた看板に、動かないアトラクション。人がいない場所は、こうもすぐに荒れるのかと思わされる。

 廃園になった遊園地は、彼女が夢の中で見た景色とまったく同じだった。


 夢か現か、体が浮くような感覚は暑さのせいか。曖昧な感覚の中で彼女は、彷徨うように歩く。


「どこなの……どこにいるの、優ちゃん」


 彼女の声には、悲痛な響きがあった。

 呼び掛けながら歩き――彼女は、メリーゴーランドの前までたどり着く。


「お願い……ママはここよ、ねえ、優ちゃん……!」


 女性が呼び掛けた時、メリーゴーランドの横で、もぞりと動くものがあった。


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