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即興シリーズ

作戦名=裏切りで

作者:



自習。先生は、黒板に大きくそれだけ書いて隣のクラスの授業に戻った。先生が出て行って。扉が閉まるか閉まらないか、それくらいの一瞬で机や椅子が床をこする音が一斉になり出す。打ち合わせなしなのに、なんとも息のあった連携だ。やってることは、褒められたことではないけれど。



「よっしゃ、自習だ!」


そう言って、私の前の人は回れ右をした。ご丁寧に、座っている椅子ごと。


「嫌いな授業がなくなった時の喜びは格別だよなぁ!」

「無くなってません。プリント、配られてるでしょ」


私は配られたプリントをつまんで顔の前にひらひらとなびかせた。こんな事をしてじゃあやりましょう、なんてパターンが無いことは分かっている。しかし私は彼と違って真面目な小心者なので、出された課題はしっかりとやっておきたいのだ。


「んだよ、せっかく話せる時間増えたのに」

「話すことなんてないでしょ?」

「あのね、内容じゃなくその時間が大切なの! 記録より記憶! …… あれ? 逆か?」


彼が斜め上を見ながら悩む姿を確認して、私は視線をプリントに向けた。…… 厄介極まりない、ただからかってるだけなら良かったのに。


私が黙って勉強に取り組んでいるのに、彼は変わらずこちらを向いている。視線を感じる、段々慣れてはきたけど。


「…… 少しくらい、プリントやったら?」

視線も合わせず、手を止めることなく私は言う。


「お前ってさ、爪、まんまるだな。女って普通伸ばしたがらない?」

「洗い物をする時、なんとなく邪魔に感じるので。あと小学生の時割れたのがトラウマだったりする」

「へぇぇ、そうなん」

「それにこんな私がオシャレとか気にしても意味ないです」


「全然。むしろ可愛いじゃん、まんまるで」



…… あー、難しい難しい。こんなの習ったかな? 覚えてないなぁ、勉強不足かなぁ。こんな不真面目な人より頑張ってるんだけどなぁ。


「…… 照れるなよ、そこは。言った俺が恥ずかしくなるから」

「照れてない、勘違いしないでもらえます?」


本当に、厄介な存在だ。




♦︎




「お前、面白いな」


このクラスになって初めての席替え、前の席の人に言われた第一声。何にも言ってない、何もしてない。第一声での第一印象、とても失礼な人。

それから事あるごとに、彼は話しかけてきた。休み時間も授業中も関係なく、そのせいで悪目立ちもしたし先生に怒られたりもした。


「友達でもないのに気安く話しかけないでください」

「じゃ、今から友達な」


私の拒絶を簡単に受け流して、しまいには連絡先まで交換することになって。知れば知るほど、彼は厄介な人だと理解した。


「暇つぶしですか?」

「まぁ、暇っちゃ暇だね」

「他にも仲良い人いるじゃん」

「うーん。なんか違うんじゃない? 他のやつらと」


なにそれ。面白いことも、楽しい会話もしてるつもりはありません。むしろあなたは私の邪魔をしてるんですよ? 無自覚だとしても限度があります。



こんな厄介者の背中を、もう2ヶ月も見ている私の身にもなってほしい。



♦︎



ひまだねー


プリントの余白に書かれた文字。無視しても良かったけれど、放置したら余白が無くなるまで書かれそうだったから返事を書いた。


わたしはいそがしい


まったくかんけいないこときいていい?


私の考えは伝わっているのだろうか。常に不安になる。ある種の病気ではないかと疑うほどに。


なんですか









好きな人って、いる?


何気なく彼の顔を見た。ふざけた感じもなく、まっすぐこちらを見ている。多分、真面目に聞いているんだろう。それに対して、嘘をつくと言うのは…… 心が痛むものなのかな。




いますよ


だれ?


あなたではありませんよ







噂になってるのは、知ってますか? あなたが私とよく話すから、周りがありもしない作り話をしているのを、あなたは知っていますよね。

付き合ってるの? 好きなの? 告白しなよ。私の気持ちを勝手に決めて、言いたい放題言われてます。女子の間でこれなのだから、当然男子の方でもありますよね?

少し前に、クラスの男子に冷やかされましたね。私は否定しましたが、あなたは「羨ましいだろ」なんて言ってました。


私みたいな女なら、付き合えると思いましたか? そうだとしたら、失礼です。私にも好みがあります、あなたみたいにやんちゃな人ではなくて、優しく真面目な人がいいです。


はっきり言って、私はあなたを好きではありません。




「俺もプリントやろうかな」


そう言って、彼は私に背を向けた。…… 言葉は無しですか。既読無視をされた気分です。

諦めたと判断して、いいですか? どうせ遊び半分だったんですよね。暇つぶしだったと言ってください。私はあなたに対して気持ちなんて無いと伝えたのだから、そちらも言うべきだと思います。

思っても、彼の背中が答えることはない。そう言えば、私から話しかけたことはなかったですね。




ハッピーエンドになると思いましたか? 残念です、気持ちはどう頑張っても一人一つの方向にしか向けられません。あなたがもしも私に向けていたのだとしても、私はあなたには向けていません。交わらなければ、恋にはならないですから。


期待を裏切るというのは、失礼なことだとは思いますが。期待させたつもりはありませんが。好きなんですよ、予想出来なかった結末と言うのは。

あなたが思うほど、私は普通ではなかったと言うことです。ハッピーエンドを望んでいたのなら、同じく望んでる人を今度は選んでください。誰か一人を一途に思ったり、好きだから簡単には諦められない、なんて王道な展開は私には似合わないので。


周りの人たちになんて言われますかね? あなたのことを良く思ってる人もいるので、酷いこととか言われますかね。覚悟は出来てないです、最悪泣きますよ?



でもね、考えてみてください。幸せと不幸と言うのはバランスなんです。私があなたが求めていた答えを出さなかった意味が分かりますか? 誰かの幸せには、誰かの不幸が生まれるんです。


あなたは恐らく、これからいい人に巡り会うでしょう。うるさいけれど、こんな私にも優しくする人ですし。あなたがその人と結ばれたとします、その時に。あなたはどれくらいの人を傷つけると思いますか? 好きという感情に、傷はつきものです。誰も傷つかない恋愛なんてありませんよ。矢印は、一方向だけなんですから。







もう、こちらを見ることはないのでしょう。猫背は直した方がいいですよ? 姿勢が悪いとだらしなく見えてしまいますから。


あなたを好きではありません。ありませんが。あなたと話すのは、嫌いではなかったですよ。伝える気はありませんが、どうか気にせず別の良い人を見つけてください。



今のは裏切り者の、ただの小言ですから。











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