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2 旅立ちとチュートリアル

「それで、ここは何処なんだ」


 ――やだなぁ、完全適応してるから分かってるんじゃないですか?


「それでも不安だから聞いて確認したいんだよ」



 街道らしき道を見つけ、そちらに向かいながらもエルクゥに尋ねる。

 ただ知っているのと、確認が取れているのとは大違いだ。情報が間違っているとは思っていないが、俺の精神的な不安は早めに取り除いておきたい。



 ――そうですね、メニューにあるマップを開いて貰っていいですか?


「マップ……これか」



 先程のウインドウを表示させ、ゲームでよく見る「ステータス」や「呪文」といったコマンドに含まれている「マップ」を選択する。

 その瞬間、別枠の大きなウインドウが表示され、大小様々な大陸が浮かび上がる中に現在地がビーコンのように点滅して映し出された。

 世界地図から大陸地図、地方単位、自分の周囲と拡大縮小が出来るんだが、俺が今向いている方角も分かる親切仕様になっていて思わず苦笑いが出る。



 ――現在地は、エキュリウム大陸の北部に位置する【アルフェル地方】と呼ばれる地方です。比較的温暖な気候で、出てくる魔物もそれほど強くはありません。やろうと思えば、子供でも退治できるくらいですよ。


「そうなのか」


 ――それでも、今のあなたは気をつけた方がいいと思います。ステータス的には強い方かもしれませんが、レベルは1なので。



 どんなにステータスが恵まれていても、レベルという概念から言えばひよっこもいいところだ。

 王道ではあるが、無難に弱い敵を倒して経験値を稼ぎながら強くなっていくのが最善だろう。背伸びをして返り討ちに合うのはゲームの中だけで充分だ。



 ――あと、こうして口答形式で私と喋っていると不審者扱いされちゃいますから、テレパスや念話みたいに言葉に出さなくても会話が出来るようにこちらで機能を改良しちゃいますねー。


「そうかもしれんが、せめて確認くらいは取ろうとしろよ……!」



 返事も待たずに鳴り始めたキーボードの操作音に、俺は頭を抱える。


 確かに不審者扱いされて病院かなにかに隔離されるのは困るが、だからといってこちらに了承の確認も取らずに勝手に仕様変更してくれるのはどういう了見なのか。

 異世界に来る前にも、機械の性能のアップグレードをするかしないかで揉めた問題があったが、その件でも相手に意思確認するくらいの猶予は在ったぞ?

 そのあと、意に反して更新し出して阿鼻叫喚と化した騒ぎもあったが。


 そして、耳元で鳴り響いていたキーボードを叩く音が止み、おあつらえ向きな感じにベルがチーンと鳴った。

 何処で用意してるんだろうな、その小道具。突っ込みはしないぞ。



 ――はい、改良終了しましたっ! 心で念じるみたいにこちらに応答してみてくれますか?


(はいはい、分かったよ。……とりあえず、これでいいのか?)



 どうしてリアルタイムに更新する必要があるのか。

 そもそも、ベルを鳴らす意味はあったのか。


 色々と聞きたい事はあったが、そもそも考えるだけ無駄な気がした。特に理由もなさそうだし。


 無駄に疲れて返事をするのも億劫になったが、試しに思った事を口に出さないで、心に呟くようにしてみる。



 ――はい、大丈夫です! 機能の更新は出来てるみたいですね!


(そんな簡単に出来ていいのか?)


 ――簡単で分かりやすい方がいいでしょう?



 いや、確かにそうかもしれないが、スキルやシステムとしての在り方はそれでいいのだろうか。



 ――ついでに【神託】の保存機能も足しておきましたので活用してくださいね。


(神託というか、殆どチャットや掲示板みたいな何かになってるんだが……)



 とは言うものの、これは非常にありがたいと思う。

 人間の記憶というものは万能じゃない。正確に覚えているようで、その実情は結構雑なものだ。記憶違いから大きな事件に発展した例なんていくらでもある。


 後から何度でも読み返せるのなら、機能としてあった方が良い。



「……とりあえず街道までは出たけど、どっちに向かえば町に着くんだ?」



 周りに誰かが居る訳ではないので、口に出してエルクゥに話しかける。

 街中で尋ねる時は意識して心で聞けばいいのだから、俺自身が注意すればいいだけの話だ。



 ――マップで言うところの「南」ですね。そのまま街道沿いに南へ進めば、この地方で最も栄えている都市に到着しますよ。



 拡大したマップをずらすように動かしてみると、確かに自分がいる現在地から南の方角に都市を示すアイコンが確認できた。

 ついでに、今の歩行速度で向かうとどのくらいの時間で到着出来る、なんて目安の時間までナビ機能として表示されていたりする。

 そこまでド親切にしなくても困るんだが。



「ま、何事も起きなきゃいいんだけどな」


 ――大体、そういう事を言うとフラグが建ったりしますよね。


「チュートリアルイベントの定石だよな」



 そんな事を言いながら歩いていると、目の前の茂みがガサリと揺れた。

 それほど大きくも無い茂みだが、小さな子供が隠れるには充分な大きさだ。



「……なんか、展開が王道過ぎて笑えてきた」


 ――見事なフラグの回収ですね。ちなみに私は何もしてませんよ?


「えっ、エルクゥの仕込みじゃないのコレ?」



 驚いている内に、茂みの中から現れたのは緑色の液体のような何かだ。


 もちろん、ウィルマキアの知識が在る俺には、それが「スライム」であると分かっているのだが……元の世界の知識がある分、目の前のアレをスライムだと認めたくない感情が湧いてくる。


 一般的な知識だと、青色で頭のとんがった形状で微笑ましい顔をしたものを思い浮かべるはずだ。


 ……確かに、あんな感じなのが「スライム」だという認識のゲームも知識の中にはあったりするのだけども。



 ――逃げますか?


「いや、戦ってみる。知識ではそんなに驚異的じゃないと知ってるけど、それが本当かどうかは体験しないと分からんからな……戦うって感覚に慣れるのも必要だし」



 移動速度は遅いから、このまま走れば余裕で引き離す事は出来るだろう。


 だが、俺には「戦う」という事の経験値が足りない。

 相手が弱い事を知っていても、経験を一から積み重ねていく必要がある。



「武器は……これか」


 ――称号の効果で扱いに慣れているとはいえ、油断はしないで下さいね?


「分かってる」



 腰のベルトに差してあった短剣を引き抜いて構える。

 量産品の代物だが、今の俺には価値なんてどうでもいい。実際に戦えるかどうか。求められているのはそれだけだ。



「……シィッ!」



 のろのろとした動きのスライムに向かって、短剣を一振り。

 ゼリー状のものを切り裂いた感覚が刃を通して伝わり、文字通りに真っ二つにされたスライムは形を保てなくなったのか、その場で拡がるようにとろけていった。

 上位の存在になると心臓や頭脳となる核が存在する分、倒したかどうかも分かりやすいんだが。



「ちゃんと倒せてるのか、これ?」


 ――大丈夫です、ちゃんと倒せています。その証拠にほら、ドロップアイテムが出ましたよ。



 エルクゥが示す通り、倒したらしいスライムの身体が淡く光ったかと思うと小さな宝箱が現れた。

 中を開けてみると、スライムを倒した時のドロップアイテムとして知識にある「スライムゼリー」が小さな瓶に入った状態で収まっていた。



「……ふと思ったんだけどさ、エルクゥ」


 ――なんでしょう?


「なんで、宝箱を隠し持っていられなさそうな姿形の奴でも宝箱を持ってるんだろうな」


 ――そこは「大人の事情」なんじゃないでしょうか……?



 本当にふと思っただけなので、明確な答えは期待していなかったりする。

 そもそも、手に入れたばかりのこのスライムゼリー。


 何故、手にする前から「既に瓶に入っているのか」という点も気にはなっていたりするのだが、それを解明出来るだけの理由は正直な事を言うと存在しそうにも無い。


 とりあえず、宝箱も中身を取ったら光となって消えてしまったので『そういうお約束』だという事にして納得しておくのが精神的にも優しいのだと思う。



「それじゃ、町に向かいますか」


 ――経験値稼ぎもしつつ、ですね!


「……手当たり次第には行かないからな?」



 経験値が欲しいのは確かだが、まずは安全を確保しておきたい。


 また余計な機能でもつけてきそうな創造神は放置しておいて、俺はマップが指し示す町の方角へと街道を歩いていった。



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