1 現状把握は物事開始の常套手段
プロローグが終わって本編入ります。
そしてTwitter見てた人は『明日以後から第一章開始』だと思っていたか?
あれは嘘だ。
青白い光が薄らいで、徐々に視界が色を取り戻していく。
よく晴れた空に流れる雲。草花を軽く揺らす風に葉が擦れ、サラサラとした音が響く。
そんな、異世界の光景を見ながら、俺はとりあえずその場に腰を下ろす。
「……既に、ここは異世界なんだよな」
実家のある地域では幾度か見た事のある光景に、本当にそうなのか、と疑問が湧く。
けれど、近くに咲いていた花は見た事もない種類で、肌で感じる陽気は先日まで感じていたような湯で上がるくらいに暑い夏模様ではない。
加えて、自分の衣服を見てみれば、先程までの室内着ではなく、動き易く、前の世界でも着慣れていたデニム生地の衣服に変わっている。
転生した姿で降り立つと言っていたのだから、既に外見に関する変更は済んでいるのだろう。
「だとしたら、最初にやる事は一つだな」
現状を把握する。
何があって、何が無いのか。
自分がいる場所は何処なのか。近くには何があるのか。
それを把握しない事には、今後の行動もままならないだろう。
「色々確認してみるか」
まずは自分のステータスから。
行く前にも確認したが、あの世話焼き創造神の事だ。
俺の知らない間にこっそりと何かをしていてもおかしくない。
そう思って自分のステータスを確認しようとすると、目の前に半透明なウインドウが急に展開されて驚いた。
エルクゥから渡されたものと同じものだが、そういうのが出せると聞いていなかっただけに驚きが凄い。
「……やっぱりか」
そしてステータスの欄を見て、呆れと達観の入り混じった溜息が出た。
予想はしていたけど、こうまで予想通りだと何と言っていいのか分からないくらいだが。
名前:
種族:人間・男
職業:なし
年齢:15歳
Lv.1
HP:400
MP:1500
筋力:60
耐久:55
敏捷:75
精神:600
魔力:『表示不能』
知力:800
微妙というには数値がおかしいものもあるが、出発前よりも増えている。
それは恐らく、ステータス欄にある「スキル」と「称号」のせいだろう。
そこに新しく増えていたスキルと称号は、ざっと見た限りでは以下の通りだ。
・スキル・New!
―【創造神の加護】―
異世界『ウィルマキア』の創造神、エルクゥの加護。
異世界に順応し、生き抜くために必要な力と恩恵を引き出す事が可能となる。
―【異世界適応】―
異世界に適応していく事で、ステータス、成長・習得率、魔術適性などに幅広く影響を与える。
レベルが上がるほどにその影響力が増加する。適応レベルは10/10(最大)
―《生命力強化》―
様々な病気に対して耐性がつき、疲労軽減と自然治癒力を含めた回復力が強化される。
―《限界突破》―
成長限界を無効化し、際限なく成長する事が可能となる。
―《成長・習得率強化》―
能力の上昇値、スキルの習得率を大幅に引き上げる。効果は他のスキル・称号と重複する。
―【閃き】―
能力値と技能の習得などによって、新たな技能や術の開発・習得を可能とする。
但し、初期状態では総てが断片的に検閲されており、開発・習得可能な条件を満たす毎に段階的にだが検閲部分が解除されていく。
―【異世界の知識】―
異世界『ウィルマキア』には存在しない知識を有する。
【閃き】における、技能や術の開発・習得に対して大きな影響を与える。
―【適性魔術・全】―
全ての魔術に適性を持ち、その効力を最大限に発揮する事が出来る。
―【適性職業・全】―
全ての職業に適性を持ち、その職業の恩恵を最大限に発揮する事が出来る。
―《慈愛の治療者》―
回復魔術を使用する際の魔力消費が軽減され、効果・範囲を増大させる。
・称号・New!
―【創造神の寵愛を受けし者】―
異世界『ウィルマキア』の創造神、エルクゥの加護を受けている者の証。
無条件で異世界『ウィルマキア』に完全適応し、総ての能力を強化させる。
―《百の武器を扱う者》―
得物を選ばずとも戦い続ける事が出来る、勇猛なる者。
ありとあらゆる武器を装備する事が出来、自由自在に扱う事が可能となる。
―【異世界から招かれし無名の英雄】―
名声も無く、名は知られずとも、その在り方は確かに英雄であった異世界からの召喚者への賞賛。
自身の成長速度と所持するスキルの効果を高める。
……うん。
この時点で既にチート過ぎるよな。
貰えるからって色々頼んだ俺も悪いけど、誰がここまでやれと言ったよ、創造神。
何もしなくてもいいとは言ってたが、あの女神様は俺に何をさせたいのか分からないレベルだぞ、コレ。
しかも、称号にある【創造神の寵愛を受けし者】の効果で、この世界――ウィルマキアに関する様々な知識が頭の中に『既に存在している』っていう状態なのが恐ろしい。
完全適応って、そういう意味かよ。
あとで口に出しつつ確認しなければ、何かのタイミングでボロを出しそうで怖い。
「……エルクゥに文句の一つでも言いたくなる気分だ」
はぁ、と肩を落としつつ溜息を付いていると。
――はいはぁい、お呼びですか?
頭の中から響くように、さっきまで聞いていた女性の声が聞こえる。
……おい待て。
さっきの感動的な別れのシーンはどうした。
「……ここまでお前が世話焼きだとは思わなかったぞ」
――でしたら、私に対する認識は甘かった、という事ですねー♪
甘かった、か。
あぁ、確かに甘かったな。
称号である【創造神の寵愛を受けし者】の説明を最後まで読んでみれば……エルクゥからの【神託】が受けられるって書いてあった訳だからな。
神託といえば見栄えはいいが、要は通信ナビゲーターやシステムメッセージ、ガイドナレーションの役を創造神にやらせるっていう、とんでもない事実だったりする。
どんな贅沢仕様なんだよコレ。
「異世界の創造神が随伴する異世界転移なんて聞いた事ねぇぞ、おい!?」
――聞いた事がないなら、これから広めればいいんじゃないですかー?
しかも、これを冗談でも何でもなく、真面目に言っている訳で。
止めろと言ったとしても、もう一度言うが……この世話焼き好きな創造神の事だ。
俺が知らない間にこっそりと別の手段で何かをしてきてもおかしくない。
「……まぁいいや。こちらでもよろしく頼む、エルクゥ」
――はいっ、任せてくださいねっ!
色々と思う所はあったが……今更考えた所でどうにかなる訳ではないのだから、俺はアレコレ考えるのを止めた。
とりあえず、心強い味方が出来た。
その事実だけに注目しておいて、一応は不安でもあった現状に喜んでおこう。うん。