59 面倒の芽は早めに摘むべし
更新が遅れまして申し訳ありません。
ここであれこれ言っても変わらないので、更新速度で代返とさせて頂きます。
扉をノックし、中に入る。
部屋の中にはエルクゥの他にリーディア達もいたが、彼女達には笑いかけるだけにして、ずんずんとエルクゥに歩いて迫る。
「えっと、ナナキさん? 一体どうしました?」
「どうしたもこうしたもねぇよ、また勝手にメニューを魔改造しやがって」
驚いたようにも怯えたようにも見える表情をする彼女に対して、俺はウインドウを表示させる。
「便利にしてくれてるのは分かるんだけど、前にも言ったよな? するなら事前に言えって」
「あはははー……そう言えばそうでしたね」
その反応は『言った事すら忘れてて、たった今思い出しました』的な奴だな?
俺も同じ事やるから強くは言わねぇけど、それでいいのか創造神。
「うっわ、なにこれ」
「原型は私達が使っているものと同じものなんだろうが……改修の手が入り過ぎていて別物になってしまっているな」
表示させたウインドウを俺の横から覗き見たアルカナは、そのでたらめ具合に顔を強張らせ。
ミネルバは冷静に確認しつつも、自分では手の施しようがないと両手を挙げていた。
リーディアもその隣で俺のウインドウを見ているのだけど、表情はそのままで黙って首を横に振っている。
つまり、娘達も目を覆いたくなるような魔改造っぷりだ、と。
「これ以外にも色々聞きたい事はあるが、その前に貫手をぶち込ませろ」
「なんでですか!?」
「お前が約束破ったからに決まってるだろ、この駄女神!」
「いたぁっ!?」
スパァン! と駄女神の頭を引っぱたく。
顔を横に向けてみれば、そこには良い笑顔をした三女神がサムズアップ。
むしろ末女は「もっとやって!」と乗り気である。それは良いけど、手を下すのは俺なんだが。
「なんで叩くんですかぁ!」
「そりゃ、悪い事したら叱るのが普通だろ。エルクゥの場合は口で言っても聞かないから手を出すだけ」
「私だって、言ってくれればちゃんと改善しますよっ!」
「じゃあ、これを魔改造する前に戻せ」
「それは嫌です」
即答で拒否。
故に、俺は再び頭を引っぱたく。
昭和のコントか、これ?
ペットの躾か何かかよ、と一瞬考えてしまったが、ある意味間違ってもいないので反応に困る。
「に、二度も叩いた! 親にも叩かれた事ないのに!」
「親なんているのか、お前に」
「いないけど、ここは言っとく所かなー、と」
「この状況でふざけていられるとは良い度胸してるよな、お前……」
「だって私、神様ですし!」
「そこだけ聞けばいい台詞だ、感動的だな」
にっこりと笑いながら、俺は身体を捻り、半身となって引いた右手の指を鏃のように重ねる。
空手の正拳突きのように深くは腰を落とさず、その代わりに上半身の捻りを加える事で威力を高める。
武術の達人ともなれば、たった指一本で果物を突き刺す事も出来るらしいが……俺はそこまでの武術の高みを求めてはいない。
今回のこれも、殴打の衝撃を体内に叩き込むための手段として使うだけだ。
この異世界で戦って生き抜くための技術の一つとして。
スキルとして身に付けた技術ではあるが、手に入れた力の使い方だけは真に間違えるつもりはない。
「だが無意味だ」
「げぴゅっ!?」
――しかし、使える技術は必要に応じて使うべきだと思うのだ。
それが、技術に対しての礼儀だと思うし。
そういう訳でエルクゥの脇腹へ抉り込むように貫手を叩き込むと、女の子が言ってはいけないような悲鳴を上げた。
やってからでは遅いけど、良い子は真似しないように。
いやホント、これはマジで。
身体もその衝撃で軽く跳ね上がったが、すぐに叩き込まれた場所を押さえてその場でしゃがみこんで震えている。
あまりの痛みに汗をだらだら流して静かに呼吸をしているその様子に、アルカナが若干引いた表情をしていたがスルーしておく。
一応、コレは自業自得な訳だし。
「色々とやり過ぎるから全部台無しにしてるんだよ、この駄女神」
「お……おのれ、でぃけ」
「それ以上は言わせん」
駄女神の頭へ垂直に拳を落とし、再び沈黙させる。
お前は何を言おうとした。流石に固有名詞はヤバイだろうが。
「処刑完了、と」
埃を払うように手を叩き、肩の力を抜く。
やってる事は私刑に近いかもしれないが、これでエルクゥがまともになってくれるのであれば、俺が支払った犠牲に対してお釣りが有り余るほどだ。
少なくとも、隣で一部始終を見ていた三人の溜飲が下がるのだけは間違いないわけだし。
……それに、俺も何度も喰らった事あるから分かるんだが。
この「貫手」という技、地味に痛いんだよな。
殴られた場所が痛いのではなくて、衝撃が身体の中をそのまま通っていくから「内臓が痛い」のだ。
イメージとしては、腹一杯食べた直後に全力疾走した時の腹痛感が分かりやすいか。
そんな痛みを耐えているエルクゥを見ていると、盛大に頭の中でファンファーレが。
――おっと。レベルアップですぜ、流れ人の旦那。あんたもますます強く成長するってもんだ!
「フラグ管理が適当過ぎるだろ、これ……」
神様を殴ってレベルアップとか、どこのRPGなんだ。
しかもログには割と良い量の経験値も入っていたので、ついででもう一発叩き込もうか、と構えようとした自分を自制する。
俺がしたいのはそういう事じゃねぇんだし。
ステータスのチェックもざっくりと行っていると、メッセージログに残されていた未読の文章が目に入る。
――必要条件の達成を確認。武術スキル「貫手」をマスターしました。
本当にフラグ管理が適当だなぁ、おい!?
「大丈夫か、ナナキ?」
頭痛がしたので手で頭を押さえていると、ミネルバが心配そうに声をかけてくれる。
それはそれで嬉しいんだけど、内容が内容だからなぁ……
「いや……あの人は本当に適当だよな、と再確認しただけだから」
「……本当にすまない」
「気にするなって。それを知ってて、エルクゥとは仲良くやってるんだから」
本当に申し訳なさそうな表情で頭を下げるミネルバに、俺は肩を軽く叩く。
娘だから、というのもあるだろうが、根が真面目なんだろう。エルクゥの事で色々抱え込んでいそうだから、悩みを聞いたり息抜きに付き合ってあげたりしたらいいのかもしれない。
もし、俺に世話の焼ける家族がいたとしたら、こんな感じなのかもしれない。
そこまで考えて、元の世界でやってた事とあまり変わらないな、と一人苦笑する。
……そうだ。
確かに、エルクゥには迷惑をかけられている。
かけられてはいるが、それを補って余るくらいに楽しい事に巻き込ませて貰ってもいる。
だからこそ、普通なら縁を切ってもおかしくないような事が起きても彼女に付き合っていられるんだ。
その「楽しい事」の極みが、ウィルマキアへの転移だった訳だけども。
俺が断ってたらどうするつもりだったんだろうか。
エルクゥの事だ、無理矢理巻き込んでたに違いない。断るつもりはなかったけど。
「……ナナキ。楽しい?」
苦笑はいつの間にか、思い出し笑いに。
その笑みを見て、リーディアが優しい表情で尋ねてくれる。
「そうだな……うん、楽しいよ」
これからも色々な面倒事に巻き込まれるんだろうけど、この瞬間だけは胸を張って言える。
だからこそ、この状況を乱すような原因は早めに取り除かなくてはいけない。
「エルクゥ、少しは考え直した?」
……身内にその原因があるのであれば、尚更に。
「な、何の事でしょうかねぇ……?」
「お前、分かってて言ってるだろ」
このまま調子に乗らせていると『てへっ』とかやりそうなので、先にアイアンクローで無駄口を塞いでおく。
調子乗ってる時のコイツに喋らせてると悪い事しか起きないのは、今までの経験則から知っている。
そして、エルクゥの方にも変化が見えた。
表情こそ笑顔だが、目の奥は笑っていないのが見えたのだろう。
さっきまでニコニコ笑顔だったのが、ぶるぶると震え出している。
「俺もさ、他人にガミガミ言うのはあんまりやりたくないのよ。エルクゥは付き合い長いから、分かるよね?」
他人を叱った所で、相手に反省する意思がなければ意味はないし、労力の無駄だ。
しかし、やりすぎるとそれは暴力に等しい。
その辺りの加減は難しく、加えて自分のためにもならない。
心も身体も疲れるうえに、後で「こうすればよかったんじゃないか」と考えてしまう。お互いに嫌な気分になるし、消耗しかない。
であれば、そうなる前の段階で「叱って」止めてやれればいいのだ。
……それでも駄目だった場合。
「全部戻せ、とは言わん。ただ、決めた約束ぐらいは守れよ。いいな?」
人は、怒る。
怒る、というのは行動に置き換えると「他者への攻撃」だ。
こうなってしまったら、どちらかを屈服させるか、相手との関係に溝を作って冷戦状態になるまでは、一度持ち上げた刃を下ろせない。
それが嫌だからこそ、今までも何回もやんわりと言ってきたのだが……この女神様は本当に学習していないらしい。
今回も顔をアイアンクローされた女神様は、こくこくと頷いて修正を承諾。
言質を取れたので、俺はアイアンクローを解除。その辺にあった椅子に座り、深く溜息を吐く。
……本当、こういうのは慣れてないから止めて欲しいんだけど。
「ナナキ……ちょっと怖かった」
「優しい人間はキレると怖い、を地で行くタイプらしいな。私達も注意しておこう」
俺の急変にちょっと怯えてるアルカナには悪いと思ったし、ミネルバの指摘は全くもってその通りだ。
0か100か、でしか対応出来ない自分の浅はかさに嫌気が差す。
エルクゥはこっちを悲しそうな目で見てるし。
俺が悪いんだから、エルクゥがそんな顔をする必要はないんだって。
「……大丈夫」
そんな自己嫌悪に陥っているのを察してくれたのか、それとも自分がそうしたかったのか。
ギュッと、リーディアが俺の手を握ってくれた。
……一体、何が大丈夫なんだろうか。
根拠もなく言ったようなその言葉に苦笑を浮かべながらも――俺は、少しだけ彼女に心を救われたような気がしたのだった。




