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58 驚きの代価は、更なる面倒事で

更新、長らくお待たせしました

主執筆の琉宮が復帰しましたので、再び交代となります

今後の更新は遅くとも週一に出来る見込みが立ちましたので、今後も応援をよろしくお願い申し上げます


「……よくもやってくれたな、お前ら」



 ルティア達に見送られて、俺が向かった先はギルド長室。

 開口一番にそう言い放てば、そこにいた二人のギルドマスターはお互いに顔を見合わせ……そして笑った。



「ふふふ、竜騒ぎの時のお返しだよ」


「あー、手紙に書いてた昇格試験の時の事ね」



 カタリナは意外と根に持つタイプだったらしい。

 こちらを悪戯っぽく見る彼女の表情は笑っているし、隣で自分の業務をしているであろうアーテラは内容を思い出したように小さく頷いていた。

 俺としてもそこまで怒っている訳ではないので、理由が分かれば「それなら仕方ないか」と一人で納得するのだが。


 そんな二人を見つつ、俺は部屋にあったソファーにドスンと倒れこむように座る。

 仮眠を取った事で少しは体力が回復しているが、身体はまだまだ本調子ではない。無理をして回復が長引くのは勘弁願いたい。



「新しいギルドカードも届いてないのに、あんなの書いていいのかよ」


「ギルドマスターの署名が入った重要な書類を『あんなの』と言うかね、君は」


「こっちの意思も確認せずに一方的に突きつけられたものは『あんなの』で充分だよ。あぁやって発行された以上は受け取るしかねぇけどさ、やり方が強引だっての」



 口を尖らせて、せめてもの仕返しに文句を言ってやる。

 逃げ道を塞いだ上で迫るやり口は、まるで悪質な闇金そのものである。



「それは否定出来ませんね」


「けど、君はそうでもしないと彼女達を預かろうとしなかっただろう?」


「そうかもしれないけど、他にもやり方はあっただろって話だよ……全く」



 文句を言ったところで二人の耳には届いていないであろう事は、二人とは短い付き合いな俺でも分かっている。


 ……ホント、大人っていうのはずるいもんだよな。

 俺も実際の年齢で言えば、その「大人」なんだろうけどさ。


 諦めと共に溜息を吐いたところで、俺は佇まいを正す。




「――で。実際のところ、俺はあの二人に対して何をすればいいんだ?」




 今度は「二人の友人」としてではなく「一人の冒険者」として尋ねる。


 ルティア達が俺に渡してくれたあの書類は、正式にDランクになる前の俺に対して特例で発行された「奴隷所持許可証」であった。

 だが、同時に「奴隷に関する身辺調査の依頼書」も含まれていたのだ。


 その変化に気付いた二人も、佇まいはそのままだが身に纏う空気が一瞬にして「ギルドマスター」に切り替わる。



「二人は一緒に来ているのか?」


「そんな面倒な事しねぇよ。今は俺の部屋で掃除とかやってくれてる」


「奴隷の扱いに慣れているような気がするのだけど、気のせい?」


「そこは、俺が「流れ人だから」って事で納得してくれるとありがたいんだけどな」


「……そうか」



 何かと説明しにくい事に関しては「流れ人だから」の一言で誤魔化せられるのは助かる。


 但し、これは俺の過去――つまり、異世界転移をする前の俺を知っているエルクゥ達には通用しない。

 だが、ウィルマキアの人達に対して通用してくれれば、それで良い。



「二人の事を気にしてるって事は、依頼の内容もあの二人に関係してるのか?」


「あぁ。簡単に言うと、彼女達の素性を調べて貰いたい」


「二人の?」


「えぇ。更に踏み込んで言うと、彼女達が本来いた場所にも送り届けてほしい、という事ですね」



 言いながら、この大陸の地図を広げ始めるアーテラ。

 俺も話の核心を聞くために、重い身体をソファーから引き剥がして立ち上がる。



「彼女達は魔族によって誘拐に近い形で連れ去られて来ました。ならば、彼女達が本来住んでいた場所に帰すのが道理です」


「だが、彼女達の身分を示すものは見つからなかった。正確には『魔族が破棄した』のかもしれないが、どちらにしても彼女達をこのままにしておく訳にはいかないだろう?」


「それを防ぐための手段の1つとして、俺を身元保証人にして仮の身分証を創ったんだよな。それと、俺が二人の護衛をする件と、どう繋がるんだ?」



 俺が二人から直接聞いたのは、受け取った神託を国内に伝える巫女として電波塔のような役割をしていた、という事だけだ。

 それが事実であるならば、国内外でパニックになっているはずである。



「カタリナ達は、あの二人から何か聞いてないのか?」


「神託を授かる巫女として仕え、授かった神託を伝えていた……という事は聞いたな」


「でも、この世界のエルフはそれが普通の事だから、彼女達が住んでいた地域を特定する事は出来ないの」


「そうなのか?」



 元の世界で例えるなら、狩猟民族の集落に医者を兼任している呪術師がいるのと同じようなものなのだろう。

 一家に一つ、という訳ではないが、重要な位置に置かれていた事は確かなはずだ。



「双子の巫女なんて、特徴的だから分かると思うんだけど」


「確かにそうだな。だが、私達もその線で情報を洗ってみても特定に繋がるような情報は出てこなかったんだ」


「うちのギルドに所属しているエルフの子達にも聞いてみたんだけど、神託の巫女を双子が行っている例は今までにも何度かあるそうよ」


「それなら、流石に『自分の国の名前が分からない』なんて事はないだろ。国の未来を支えるために神託を受けているんだから」


「えぇ、私達もそれは間違いないと思っているわ」


「しかし、二人はその事に触れようとすると口を閉ざしてしまうんだ。困ったものだよ」



 カタリナが肩を竦めながら、やれやれといった風に溜息を付く。

 プライベートの事を聞いている訳でもないのに、徹底して黙秘を続けられると聞いている側としては手の打ちようがないよな。



「……じゃあ、あの二人は俺達に嘘をついてるって事なのか?」


「いや、それはないだろう。二人が本心から嘘を言っているような様子はない」


「逆に、私達に迷惑をかけないようにしている部分があるの」


「なんで?」


「それが分かれば、私達も苦労はしないよ……」



 つまり、その部分も含めて「ルティア達の素性を調べて欲しい」という事なんだろう。


 思考がそこまで辿り着いて、俺はカタリナに負けないくらいの深い溜息を付く。

 それを見たカタリナが同情するように肩に手を置いた。


 ……これも「シナリオのうち」って事なんですかねぇ。創造神様よぉ。



「…………まぁ、本人達から俺の旅に同行する事と国元に帰りたいっていう意思は確認出来てるんで、依頼として引き受けるにはいいですけどね」


「面倒をかけて済まないな」


「奴隷の所有者になりましたから、こういうトラブルも盛り込み済みだと思って諦めますよ」


「お詫びというほどではないけど、私達の方でもいくつか支援をさせて貰うから」


「頼みますよ、ホントに……」



 ギルドマスターからの言質を取って、俺は再びソファーに腰掛ける。

 貰った報酬に対して、割に合わない仕事を押し付けられたような気がしなくもない。


 ……だが、エルクゥの書いたシナリオなら酷くはならないだろう、と溜息と一緒に不安を吐き出す。



「やるしかねぇならやるしかねぇ、よな……」



 頭を掻きつつも、腹を括る。

 既にとんでもない事に巻き込まれているような気がするが、関わった以上は最後まで見届ける覚悟をしなくては。


 ついでに、エルクゥには色々と聞きたい事が出来たから、その辺も含めて突っ込みを入れる。



「とりあえず、君の回復を待ってからこの依頼は開始させて貰うとするよ。それでいいかな?」


「それでお願いします……」



 既にドッと疲れた気分だが、そうも言っていられないか。

 エルクゥと【神託】で話すにしても、直接顔を合わせるにしても、まずはこの部屋から出なくてはならないのだから。


 このまま横になっていたい柔らかさのソファーからもう一度身体を引き剥がすと、俺は二人に背を向ける。



「話はこれで終わりですかね? だったら、俺は戻らせて貰いますよ」


「あぁ、回復もまだなのに呼び立てて済まないね」


「何か必要なものがあれば、職員に伝えてください。今回の事件の功労者ですから融通を利かせますよ」



 それはどうも、と答えて、俺は扉を開ける。

 必要なものについては後で考えるとして、俺の足はエルクゥがいる部屋へと向かう。


 どこまでがシナリオのうちなのか。

 どこまでが予期しないアクシデントなのか。


 それを問い質しに行かなければ、休めるものも休めないだろう。


 ……ついでに、飯時に誓った貫手を食らわせる。

 慈悲はない。

 遠慮もしない。


 たまにはちょっと痛い目にあった方がいいのだ。あのフリー駄目創造神は。


 そう考える俺の足取りはいつしか、怪我を押すような痛々しいものからイベントを楽しみにしている子供のような軽いものに変わっていたのだった。



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