57 目覚めは驚きと共に
更新が遅れに遅れまして申し訳ありません
転職活動の方も一旦落ち着く可能性が見えて参りましたので、近いうちに更新速度が早まることがお伝えできるかもしれません
……誰かに揺り動かされている。
そんな感覚を覚えて、ゆっくりと意識が覚醒していく。
誰が起こそうとしているんだろうか。一番ありえそうなのは、寝る前まで【神託】で話をしていたエルクゥだが。
しかし、この起こし方は彼女ではない、と分かる。
エルクゥが俺を起こす時は、頭や身体を叩いたり小突いたりと遠慮がないのだから。
では、今まさに起こそうとしてくれているのは誰なんだろうか?
思い当たる人物はいないのだが、それでも起こそうとしてくれているのには違いない。
それに応えなくては。
寝起きでまだ頭がぼんやりとしているが、それでも身体を起こす。
自分を起こそうとしていた相手を見ようと目を開けてみれば、視界に入ったのは、エルクゥとは違う輝きの金色の髪。
こんな髪を持つ知り合いはいたかな、と覚醒し切っていない頭で考えて。
あぁ、そういえば居たな、と思い出す。
「……もしかして、ルティア?」
「はい」
「私もいますよ、流れ人様」
開ききれていない目を辺りを見回すと、蒸らしたタオルを手にこちらに歩いてくるレムリアの姿が。
そのタオルは顔を拭うためのものなのだろう。ありがたい。
「あ、駄目ですよ。私達に任せてください」
受け取ろう、と手を伸ばそうとしたらルティアに押し止められた。
疑問に思っているとレムリアが俺の顔を優しく拭き始めたので、そういうことか、と納得する。
奴隷ギルドに奴隷として登録されたのだから、こういった日常の世話も奴隷としての役目なのだ。
小間使いや家政婦といった認識が近いか。
もちろん、戦闘に同伴させるための奴隷もいたりするわけだが。
「……お待たせしました」
「ありがとう。それで、二人には2つ聞きたい事があるんだけどいいかな?」
「答えられる範囲であれば」
姿勢を正す二人に苦笑を浮かべながらも、俺は二人と視線を合わせる。
「まず1つ目なんだけど……二人が置かれている今の状況が知りたい」
「私達の状況、ですか?」
「うん。一応、俺は君達の身元保障人として名前を貸しているわけだから、状況を把握したいと思うのが普通だと思うんだけどね?」
身元保証人といっても、依頼書の記述にある抜け穴を使った、やり方としてはあまり褒められない裏技のようなものではあるし、結果的には二人のギルドマスターのおかげで上手くいっただけなのだが。
しかし、身元証明の出来ない彼女達を正規の手順で助けるには、これしか方法がなかったのも事実だ。
「だから、教えてくれるとありがたいかな」
「そういうことか。でしたら、お答えしますね」
二人が説明のために取り出したのは、ギルド登録のために作成した身分証だ。
俺が持っているものと変わりないようだが、奴隷ギルドに登録している事を示す紋章が刻まれている。
「私達は今、奴隷ギルドの保護下で奴隷登録をしている冒険者の一人、ということになっています」
「冒険者?」
「はい」
「なのに奴隷扱い?」
「そうです」
「……状況としてはややこしいけど、それってありえるの?」
「はい。本来はDランク以上の冒険者に限られますが、私達の場合は特例だそうです。状況が状況だったので」
まぁ、確かにそうか。
二人の対応に苦心してくれたあの二人には感謝しないとな。
「自分で払いきれない金額の負債を抱えた場合、奴隷ギルドに負債の肩代わりをしてもらう代わりに返済が終わるまでは奴隷ギルドに所属している事の証明となる『登録紋』が身分証に付けられるんです」
「この登録は暫定的なもので、ギルド側から『自立可能』だと認められれば取り外すことが出来るそうです」
「そういうものなんだ」
「はい。冒険者としての名声が出来たり、何らかの形で財を形成できれば可能だとは聞きました」
「ギルドから誰かに購入された場合も、この登録紋は外せるそうですよ」
「ずっと登録し続けるものだと思ってた」
知識面では完全適応しているとはいえ、知っていても実際に見聞きする事で理解が深められるのは大きい。
感覚としては「教科書にメモ書きを足す」ようなものだが、それでも新しい情報を得る事は重要だ。
「じゃあ、二人は今後どうするつもりなの? これは聞きたかったもう1つの事でもあるんだけど」
「可能なら、流れ人様の旅に同行したいと思っています」
「俺の旅に?」
「流れ人様に付いていけば、いつかは自分達の住んでいた場所に戻れるかもしれませんから」
「確かにそうかもしれないが……魔族に狙われるかもしれないぞ?」
「覚悟の上です」
彼女達の目を見るに、真剣である事は明白だ。
彼女達が俺に嘘をつく理由はないのだから当然だが……それでも、正直に首を縦に振る訳にはいかない。
「……それに、俺も男だよ? その辺分かってる?」
「分かっています」
「でも、そんな事にはならないと信じていますから」
「どうしてそう言いきれるんだ?」
「私達は流れ人様を信じていますから」
「仮にそうなったとしても、私達は『流れ人様が相手だったらいいかな』と思っていますよ?」
「うぐっ」
こちらの事を信頼した笑顔を向けられ、俺は言葉に詰まる。
脅しのつもりで言っただけで、そういった事をするつもりはない。だが、こうも分かりやすく好意を向けられると戸惑ってしまうのも事実だ。
「それに、流れ人様は優しい人だと知ってますから」
「私達の事を心配して、あえて突き放すように言っているんだと」
「……演技かもしれないぞ?」
「それはありえませんね」
ごまかそうとしても、即座に否定が入る。
「私達を助けてくれた時の行動……あれは、相手の事を考えていないと出来ない事です。あんな緊急事態で、そこまで考えを廻して演技をしていたとは思えません」
「エルクゥ様から、あの時の流れ人様の状況を聞いていますから。隠そうとしても無駄ですよ?」
「……あの駄女神め」
頭を抱えたくなったが、こちらを見て微笑んでいる二人の手前でそんな事は出来ない。
苦虫を噛み潰したような顔を手で覆って隠すのが精一杯だ。
しかし、俺を守護している創造神のくせに口が軽いのはどうなんだろうか。
少し前にやった事の仕返しだろうか。
「…………ちなみに、カタリナとアーテラには相談したのか?」
ルティア達がギルドの保護下であるなら、代表である二人の許可が必要なはずだ。
許可が下りていなければ旅に連れて行く事は出来ない。
それを理由にして断ろう。
そう思って尋ねてみたら、二人は満面の笑みで、新品のインクの匂いが残る二枚の書類をそれぞれの手で俺の眼前に突き出す。
「既に相談済みです、二つ返事で許可が出ました」
「彼だったら任せても大丈夫だろう、と流れ人様宛の契約書類も頂いています」
「わーぉ……」
見せられた書類は、確かに冒険者ギルドと奴隷ギルドの公式書類。
しかも、それぞれのギルドマスターである二人の署名がなされた、公的にも重要な書類だ。依頼契約書とは格の違う代物で、その効力は辞令書に近い。
つまり、事前に外堀から既に埋められていたらしい。
エルクゥの仕業もあるかもしれないが、そうだとしてもここまでこの二人が積極的だとは思わなかった俺にも敗因があるか。
この辞令書を書く時のギルドマスター達の表情を想像すると頭が痛いが、状況的に整ってしまったものは仕方ない。
「……聞かなくても結果は同じだろうけど、その様子だとエルクゥ達も賛成なんだろ?」
「はいっ!」
「それどころか、大歓迎されました」
「でしょうねぇ……」
俺の恋人枠である二人をここで引き離してなるものか、と猛プッシュするエルクゥの姿が幻視出来る。
その様子がちょっとイラついたので、後で憂さ晴らしに付き合ってもらおう。
「はぁ……分かった。これからよろしくな、二人とも」
「「はいっ!」」
そんな訳で、俺は正式にDランクに認定される前に。
二人の美少女エルフを奴隷としてパーティに迎え入れる事になったのだった。
次回更新は可能であれば1週間以内に行いたいと思います




