56 どんな形であれ、経験は活きる
合間合間に執筆していたものが完成したので更新です
部屋に無事戻り、身体を少しでも休めるためにベッドに腰掛ける。
だが、横になって眠るわけじゃない。肩の力を抜くために座りたいだけ。
「……メニュー展開」
扉の鍵を閉め、窓にはカーテンを。
どこかの駄女神のような失態を起こさないように確認を済ませてから、俺は目の前の空間に向かって呟く。
俺の言葉に応じて、半透明のウインドウが呼び出される。
しかし、久しく見ていなかった間にエルクゥによって魔改造でもされたのか、最後に見た時にはなかった機能が色々と追加されているようだ。
事前に登録したメニューへのショートカット。
いくつかある内の1つは、既に【閃き】のフローチャートが登録されている。
チートスキルである【閃き】のスキルチャートは数回手順を踏まないと呼び出せないから、これは素直にありがたい。
ウインドウのステルス化。
エルクゥの失敗と反省がここで活きているのか。有用だから使わせて貰おう。
チートスキルの一覧。
転移してから増えたスキルもあるからな、あとで見て確認しよう。
……で、なんなんだ。この「最果ての地へ行く」とか。
使ったらラスボスに直行するような、壮絶に嫌な予感しかしないんだが。
あとでエルクゥに問い質す。
心に強く誓った俺は、数日振りに自分のステータスを確認する。
名前:ムミョウ・ナナキ
種族:人間・男
職業:なし
年齢:15歳
Lv.27(Lv.62)
HP:1574(56815)
MP:805 (96127)
筋力:246 (3581)
耐久:279 (3763)
敏捷:326 (5166)
精神:675 (15867)
魔力:715 (『表示不能』)
知力:822 (37030)
*()は隠蔽された本来のステータス
「……うわぁ」
前回と同様の、相変わらずの成長率である。
ステータスの成長の仕方がおかしくて、驚くどころか自分でも引いたレベルだが。
加えて、レベルにまで【情報隠蔽】が働いていて、とんでもない見た目詐欺な状態に仕上がっている。
誰が一体ここまでしろと言った。
……俺か。
そういうチートを望んだのが自分自身なんだから、こればかりはエルクゥを責める気になれなくて頭を抱える。
……が、魔王やら勇者やらが出てきて、こういうインフレは上等。
むしろやりこんで伸ばしまくれ的なゲームを知っている身としては、考え方ひとつでスッと受け入れられたりするわけで。
「生きるためだから、仕方ないよな」
この世界で真っ当に生きている人達には悪いが、俺がこの世界で生きるためだ。
悪いとは思うが、このままチートを活用させて貰おう。
「しかし……なんだろうな、このレベルの増え方は」
俺が獲得した経験値にしては、あまりにも多すぎる。
短期間に一気に稼ぎプレイでもしない限り、ここまで増えるはずはないのだが。
……まさか。
ふと気になって、俺は自分の戦闘ログを開いてチェックを始める。
俺自身の戦闘は「人掃いの森」の討伐依頼を済ませてからは行っていない。
だからこそ、ログが増えていれば「おかしい」のだが。
「……増えてる」
戦闘ログには、しっかりと領主館で戦った魔族達とのログが残されていたのだ。
あの場に居たのは下級魔族でもそれなりに力のあるものばかりだったのか、ログを見る限りでは数体倒すごとにレベルアップをしているようだ。
あの場所を強硬派の魔族達が重要視していたのかが分かると同時に、そんな奴らを子供でもあしらうかのように切り倒していったアイツとの力の差を改めて見せ付けられたようで、悔しくもある。
少しでも、差を縮められるように鍛錬しなくては。
……だが、ここで気になる事が出てくる。
「なんで、アイツが稼いだ経験値が『俺にそのまま入ってる』んだ?」
普通なら、同一のパーティに入っていたり、同量の経験値を収得できるようなスキルがなければ起きない事だ。
加えて、そういった効果のあるような装備品やスキルを、俺は持っていない。
だとしたら、これは『俺』ではなく『アイツ』の仕業になる。
アイツとのリンクが切れている今、アイツの情報を知ることは出来ない。
もしかしたら、経験値に関するスキルや装備が含まれていたのかもしれないのだ。
想像したところで本人に確認を取れないのだから、今は思考の隅に追いやっておく。
今は「知らない間にレベルが上がってた、ラッキー」ぐらいに思っておこう。
「だとすれば……」
ウインドウを操作し、俺は【閃き】のフローチャートを呼び出す。
映し出されたウインドウには、未だに多くの検閲された文章が並んでいるが――それでも、初歩的な技能に関しては習得条件が明確になっていた。
どの技能から派生するのか。発展するのか。
どの技能を強化するのが条件か。
必要な情報が提示されているこの状況は、強くなろうと望んでいる今の状況にうってつけだった。
「レベルとステータスが増えたから、か?」
それ以外に考えられないのだが、時々見える特殊条件をみると、一概にそうとは言い切れないようだ。
魔族を規定数討伐する。
特定の属性の魔物を規定数討伐する。
特定の属性の魔法を装備品などによって無効化する:方法は問わない。
これらの特殊条件を、今までの戦闘で満たしてきていたからなのかもしれない。
今は確認しないが、時間を作ってチェックするとしよう。
「最後に、今の俺の状態は……」
ステータスの下部にある【状態】をクリックする。
そこには、こんなことが書かれていた。
・状態・
疲労〈消耗〉
重度の疲労状態。自然回復力とステータスが半減している状態。
適切な静養を重ねる事で、状態が〈消耗〉→〈負担〉→〈軽度〉と軽減していき、最終的には疲労を示すステータスアイコンが取り除かれる。
「そりゃそうだよな……」
ステータスの横に表示されている、赤いスマイルマークをグリグリと押す。
これが取り除かれない限りは、まともに冒険者としての活動も出来ないだろう。
……だが、その説明には「まだ」続きがあった。
なお、この状態で行った鍛錬などは上昇値が高く、適切な休息と静養を併せることで効果が倍増する。
但し、加減を誤ると、その効果は失われたり逆に悪化することもあるので注意すること。
「筋肉の「超回復」みたいなものか?」
知り合いに聞いた話だが、筋肉はある程度のダメージが重なると、修復する際にダメージに適応して以前よりも精錬化された筋肉……つまり、以前よりも持久力や瞬発力に優れた筋肉に成長する。
これが「超回復」と呼ばれる作用で、これを知っているかどうかで鍛錬の結果が大きく違ってくるらしい。
もちろん、適切な休息である睡眠と食事のバランスは必要だろう。
加えて、自然回復力で回復出来る範囲で止めておく、鍛錬の見極めが大事だ。
素人判断でやると失敗しやすいのは、これらのバランスが上手く働いていないからだ。
アスリートがコーチをつけるように、専門の知識があるインストラクターが付いて制御や管理をしてくれるからこそ、結果が出るようなものだ……と、その知り合いは言っていたか。
だとしたら、俺にはすぐそばに適任者がいる。
彼女に相談するのが一番だろう、頼るのも彼女のためにもなるだろうし。
「その為にも、俺が今やるべきことは……」
身体を倒して、ベッドに沈みこむ。
全身を包む倦怠感に身を任せて、眠りに付く。ただ、それだけだ。




