55 偶然は起きるべき必然への道標
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ルティアとレムリア。
二人のギルド登録は、俺という身元保証人の存在によって身分証作成から登録まで滞る事無く進み、その日の夕方までには終わってしまった。
二人が教会の洗礼を受けている事で、俺のように異世界から来た「流れ人」ではなくこの世界の住人である事が証明されているのだから、俺の時のような手間がかからなくて済んだのである。
この辺りの速さは、元の世界の役所仕事にも見習って欲しいと思う。本当に。
1つの書類を作るだけなのに係や受付をたらい回しにされたりするんだから、どうにかして欲しいものだ。色々と事情があるのは分かるが、ものによっては後日郵送されたものが必要だったりするし。
……と、今となってはどうしようもない愚痴を言った所で意味は無いか。
ついでにそのまま冒険者登録をした二人をギルドマスターに任せて、俺はそっと部屋を出る。
「……ここからが大変、だな」
気楽に自由でいられた、一人旅は終わり。
世話焼き好きな創造神様一行が付いてくるとなれば、今までのように好き勝手する事は出来ないだろう。この世界に転移してから俺がしてきた事が「好き勝手」に当たるのであれば、だが。
何か間違った事をしようとしていたら、彼女達の誰かが止めてくれるだろう。
そうなる前に止める判断は出来るだろうし、仮にそれをされたら受け入れられるくらいには、俺は彼女達のことを信頼している。
だからこそ、ミネルバに「旅に同行する」と言われても受け入れられたのだから。
「でも、その前に……だ」
俺はこっそりとエルクゥに対して【神託】を繋げる。
(エルクゥ、聞こえてるか?)
――ナナキさんですか、どうしました? そちらから【神託】を使うなんて珍しいですね……というか、この使い方はどうやって?
(例のアイツがやってるのを見て、体感的に覚えた。特定の相手に呼びかける、という意味ではスキルの使い方は間違ってないだろ?)
――間違ってはいないんですが……あの、流石に適応能力高すぎません? そういうチートを与えたのは確かに私ですけど。
驚かれているんだが、俺もそうとしか言えないんだからどう説明したらいいのだろうか。
とりあえず、エルクゥの言うように「これはチートのせいだ」という事にしておこう。うん。
――それで、用件はなんですか? この【神託】は私だけに繋がっているみたいですけど。
(あぁ、エルクゥだけが知ってそうだから聞きたいんだ。他の皆には内緒でな)
周りに誰もいない事を確認しつつ、自分が眠っていた部屋へ戻りながらも心で呟く。
(エルクゥ……お前、またとんでもないものを用意してくれたよな、本当に)
――あー、バレちゃいましたか。
(バレないと思ってたエルクゥの思考回路の方に俺がびっくりだわ)
疲れと呆れの入り混じった表情と深くついた溜息。
誰かがいたら見られていたであろう、この二つをそっと処理できたことに安堵しつつも、俺はエルクゥに対しての愚痴を更に呟く。
(今の反応で確信した。エルクゥ……お前、元々書いてた俺のシナリオを更に『書き換えた』だろ)
――分かりますか?
(当たり前だ。こうも都合のいい偶然が重なれば、流石に誰かの意図を感じ取れるようなもんだぞ)
偶然にも、魔族を倒した事がある冒険者が近くにいて。
偶然にも、その冒険者はすぐに動く事が可能で。
偶然にも、その冒険者は奴隷を購入しようとしてもおかしくないくらいの実績を持っていて。
偶然にも、その冒険者は違法運営されていた闇市場を摘発出来るだけの証拠を手に入れ。
偶然にも、その冒険者は依頼を達成しただけではなく、その後に起きた問題も解決した。
こうして状況を整理してみると……ここまで綺麗に『都合のいい偶然』が重なるだろうか?
仮に、その中のいくつかでチートによる助力があったとしても、こうも『俺に対して都合のよい』偶然が重なる理由がないのだ。
それに先人はよく言ったものだ。
偶然というものは無く、それは起こるべくして起きた「必然」なのだと。
この言葉の通りだとしたら、これだけは断言して言える。
(あらすじはどうあれ、俺が『無事にDランクに昇格する』っていうのはシナリオに書いてたんだろ。お前)
この『都合のよい』偶然は、エルクゥが俺に対して行った「シナリオの書き換え」によって引き起こされた現象であり、あらかじめ決められていた結果に導くための「予定調和」だったのだと。
でなければ、これまでの辻褄が合わないのだ。
――ナナキさんを幸せにするのが、私の使命ですからね。そういう風に書きもしますよ。
(創造神直々のチートで運命操作かよ、呆れたもんだ)
――そういうナナキさんだって、その創造神から直々にチートを貰ってるじゃないですか。同じことですよ。
(……まぁ、事実としてそれで助かってるから言い返せないんだけどさ)
クスクスと笑う声が聞こえてくるが、確かにそれを言われるとこちらとしては言い返す言葉は無い。
確かに彼女に貰ったチートスキルや加護のおかげで、こちらは冒険者として何とか戦えているのだから。
(いつか、お前にあっと言わせてやるからな)
――ふふふ、楽しみにしてますよ?
苦し紛れに言った言葉も、余裕の笑みで受け返されてしまう。
出来るはずがない、とでも思われているのか。いつか本当に驚かせてやる。
だが、それよりも今は。
彼女に確認しておきたいことがある。
(……エルクゥに聞きたい事はもう1つあるんだけどさ)
――なんです?
恐らく、彼女は『創造神だから知っている』んだろう。
けれど、それを俺に言うかは、別だ。
(あの二人について、俺に隠してる事はないよな?)
――さぁ、どうでしょう?
……言葉を濁したか。
捉え方を変えれば、それは「肯定」だともいえるのだが。
(それなら、本人から話してくれるのを待つとするさ)
追求するのは簡単だが、俺もエルクゥに対して隠し事をしていた前科がある。
そこを責められると強く出られないので、ここは引いておこう。
彼女達にも事情があるだろうし、どんな決断をするかも分からない。
無用な詮索は自分の首を絞める事にも繋がりかねないのは、過去の経験から知っているのだし。
……それに。
手段を選ばなければ、本人達に聞かなくても調べる事は可能だろうから。
――聞きたい事はこれで全部でしたか?
(ひとまずは。また聞きたい事があれば【神託謁見】で尋ねたり、個別に【神託】を繋げるさ)
――私みたいに急に繋げられたら驚きますから、先に伝えておいてくださいね?
(それはもちろんするさ。付き合いの長いエルクゥだから『俺なら仕方ない』と許してくれると思ってたし)
――確かにそうですけど……もぅ。
繋いだ【神託】による通信の向こうで、エルクゥが仕方なさそうに笑う。
呆れているのかもしれないが、それはそれだ。本当に呆れているのであれば、彼女はこんな風に笑ったりはしないのだから。
(色々と聞けて助かった、ありがとう。こっちでも色々やってみる)
――それもいいですけど、ナナキさんも早く体調を万全にしてくださいよ? じゃないと、私達も旅に出れませんからね?
(分かってる。無茶しない程度で収めるさ)
目の前にいたら、腰に手を当ててプリプリとお姉さん風を吹かせて注意しているだろうエルクゥの小言を聞きつつ、俺は【神託】の接続を切る。
無茶をやった分のダメージはまだ残っているが、このままジッとしているのは俺の性に合わない。程々に身体を動かすくらいは許されるだろう……エルクゥ達にバレた時の反応が怖いが。
(でも、それくらいしないと身体の調子は戻ってくれないよな……?)
気を失ってから丸3日も眠っていたのだから、体力は落ちている。
そう考えると、ステータスにもいくらかの変化が出ているだろう。魔族に狙われるかもしれなくなった立場としては、こういう状態の時に襲われるのが一番きつい。
「……あとでステータスチェックするか」
それを元に、今後をどうしていくかを決めなくては。
鍛えるにしても、静養して体調を整えるのを優先するにしても……原状把握というのは、どの時でも重要なのだから。
個人的な事情(転職活動など)で執筆の時間が取りにくくなっているため、更新速度が遅くなることが予想されます
可能な限り間を開けないように努力致しますが、応援してくださる方々にはお待たせしてしまうと思います




