53 ランクアップ
一月ぶりの更新となります。
待たせてしまった方もいるかもしれません、申し訳ないです
しばらくの間、広報担当である私、稗田が代筆として引き継ぐことになりましたのでよろしくお願いいたします。
詳しくは後日に活動報告にてお知らせします
筋肉痛で顔をしかめながらも、時々振り返っては待ってくれるリーディアの背中を追い。
辿り着いたのは、この建物……奴隷ギルドの中枢部。
要は、ここのギルド長がいる部屋だっていう事だ。
「ここに、奴隷ギルドのギルドマスターがいるのか?」
「……えぇ。冒険者ギルドの人もいたけど、ナナキに伝えたい事があったみたい」
「カタリナ……かな。何の用事だろう」
首を捻りながらも、俺は扉をノックする。
少し間を置き、内側から「どうぞ」と声をかけられた俺は扉を開けて、リーディアと一緒に中へ足を踏み入れた。
ギルド長の部屋なのだから、それなりに調度品や道具が置かれているんじゃないか――?
そう思っていたのだが、室内は意外とシンプルに抑えられていた。
必要な資料を収めているであろう棚が二つほど並んでいて、来客用のテーブルセットが部屋の隅に用意されている。
初めて来た場所なのに既視感を覚えたのは、この雰囲気がカタリナの執務室と似ているからだろう。
そう考えていたのが分かったのか、俺の顔を見たカタリナが口元を押さえてプルプルと震えているのが見える。分かりやすくて悪かったな。
「身体の具合はいいんですか?」
そんな様子のカタリナに苦笑をこぼしつつも、執務用の大きな机に腰を下ろしていた人物に俺は視線を向けた。
その相手の顔を見て、俺は「やっぱりそうか」と表情を柔らかくする。
そこに座っていたのは、俺を奴隷市場に案内してくれたファッションブティックの店員の女性――その人だからだ。
「えぇ、おかげさまで。まだ痛みはありますけど、こうして動ける程度には」
「その様子ですと、私の正体なんて既に分かっていたようですね」
「確証を持てたのは、俺が奴隷市場を見た後の反応からだけどね」
奴隷市場に立ち寄る事は、奴隷を買えるだけの冒険者ランクと購入の意思がある、とも取れる。
しかし彼女は、市場の中に入らずに遠くから眺めていただけの俺に対して、奴隷を買うかどうかの質問を「しなかった」のだ。案内をしてくれたというのに。
それは、俺が「どんな人物であるか」を知っていなければ出来ない事。
もうすぐDランクとなる冒険者で。
奴隷を購入する事になったとしても問題はなく。
魔族を倒したという情報と、それを実証出来るほどの実力を備えた人物。
加えて――冒険者ギルドのギルドマスターからのお墨付き、となれば。
「お眼鏡に適いましたかね? 奴隷ギルドのマスターさん?」
そう言ってとぼけてみせると、カタリナがギルドマスターの肩を肘で突く。
含み笑いに近い表情から見るに、こうなる事は予測済みだったのだろう。全く、趣味が悪いよな。
「だから言っただろう? 彼の目には驚かされるところがあるぞ、と」
「確かに、私も驚かされましたわ。話で聞いていた通りの洞察眼でしたから」
知らない内に試されていたようだが、それはこちらも同じ事。
お互いに素性を隠して探り合いをしていたのだから、これで手打ちという事にしておこう。
それに、これからが本題なのだから、終わった事で話を引き伸ばしても仕方ないのだし。
「……それで、その回復中の身体を酷使してまで、こちらに来た用件はなんでしょうか?」
「ん? 特に何もないよ。敢えて言うなら、怪我が治るまで世話になります、って挨拶をしに来たくらいかな」
「それだけ、ですか?」
「あとは、助けてくれてありがとう、と礼を言いに来たぐらいなもんだよ」
消耗していた状態で助け出されていたとしても、こうして整った環境下で適切で手厚い看護がなければ、スキルの恩恵があったとしても俺はまだ身体を動かせないくらいに衰弱していただろう。
そういう意味では、命の恩人として礼を言うのは当然の事だと思う。
それに、カタリナと彼女の様子を見ていると、ただの「仕事の同僚」という関係だけではなさそうだ。
彼女に紹介をしてくれたカタリナの顔を立てる意味でも、礼を尽くしておくのが道理だろう。
――そんな事を考えていると、女性はこちらをぽかんと口を開いたままで見つめていた。
その隣でカタリナが堪えきれずに笑っているのは、どうかと思うんだが。
「なっ? 変わった奴だろう?」
「……確かにそうですね」
「なんだよ二人とも。俺が変人みたいな言い方じゃないか、それ」
「……私も、否定はしない」
「ひどいっ!」
味方だと思ってたリーディアにまで言われ、俺は泣き真似をする。
そっと聞こえるように「……冗談だから」と言われても、俺は信じないぞ。
リーディアさん。
ポーカーフェイスを装ってるようですけど、口元が笑ってますからね?
「……と、寸劇はここまでにして。話を進めましょうか、ギルド長?」
泣き真似をやめ、俺は姿勢を正してカタリナに視線を向ける。
俺が雰囲気を変えた事を察してか、カタリナも表情こそ変わらないが、こちらを見る視線は間違いなくギルドマスターとしての視線だ。
「そうだね。私としては、ここで話してしまっても構わないんだが……」
何かを言いたげに視線で指した先には、こちらを小首を傾げて見つめているリーディアの姿が。
確かに、俺が引き受けた依頼の内容的に、部外者には聞かせられない話なのかもしれない。
……だが、よく考えてみて欲しい。
あの世話焼きの創造神が、危険のない場所だと分かっていてもこんな無茶をしている俺を「監視もしないで放って置いている」はずもないのだ。
どうせ、創造神の特権でミネルバ達と一緒に音声中継でもして聞いているに違いない。
事情が事情なだけに、あのエルフの二人には内緒にしているだろうけど。
「……確かに、懸念している事は分かるわ。でも、私を含め、母達もこの件に関わってしまっている」
「俺の素性を知っていて、魔族に関わった事も知っている。その上で好意にしてくれているんですから、信頼出来る相手です。口も堅いですから大丈夫ですよ」
俺からも太鼓判を押しておくと、カタリナも「君がそう言うなら……」と小さく頷いてくれた。
カタリナ達から見れば、エルクゥ達は得体の知れない相手だから、警戒するのも仕方ないのだろう。
「では、話に入る前に彼女を紹介しよう。今回、君に調査を依頼した奴隷ギルドのギルドマスターが、彼女だ」
「アーテラハイド・エルキュリーよ。アーテラと呼んでくれると嬉しいわ、ナナキ」
アーテラから差し出された手を握り、俺はカタリナに視線を向ける。
彼女が微笑んでいる所を見るに、目覚めるまでの間に色々と俺の事を話していたらしい。
「潜入捜査という危険な依頼だったのに、引き受けてくれてありがとう。おかげで、この町にあった闇市場を暴く事が出来たわ」
「だが、その闇市場は魔族が主体となって他種族を誘拐し、裏ルートで売り捌いて運営していたものだとはな……」
「領主から聞いたのか?」
「彼が知りえる範囲でな。それに、彼の執務室には魔族が奴隷の取引に使っていた帳簿が残されていた。これを元に、既に売却されてしまった人達を救出する事は出来るだろう」
そうか、と安心するも、帳簿が見つかった事に俺は疑問を覚える。
確か、帳簿はローザリア卿と呼ばれていた魔族が持っていったはずだが。執務室に残されていたのは、帳簿の写しなのかもしれない。
「正式な交付は後日になるが、今回の闇市場の瓦解に一役買った事が評価されて、君には冒険者ギルドからDランクの認定が降りるだろう」
「加えて、名実共に魔族殺しを達成した事と、ギルドからの指名依頼を達成した事。功績の大きさを考えると、一気にCランクになる可能性もあるわね?」
「そればかりは私にも分からないな。だが、Dランク入りするのは確実だ。おめでとう」
「……ありがとうございます」
「ふふ、もう少し嬉しそうにしてもいいのよ?」
アーテラがそう言ってくれるが、その功績は俺ではなく『もう一人の俺』が居たからこそ成し得たもの。
純粋に、自分だけの力ではない。
だからこそ、素直に喜ぶ事は出来ないのだが……言ったとしても理解はしてくれないだろう。
言おうとした言葉を飲み込み、俺は曖昧な笑顔で二人からの賛辞を受け取る。
「……ナナキ」
そんな、どこか陰のある笑みをする俺を、リーディアは心配そうな表情で見つめていた。
今回の更新から 小説家になろう!勝手にランキングにも登録することにしました
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