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52 扱いに困るなら責任者に聞けばいい

更新がかなり遅れました。

半端にしてエタるつもりはないので応援して頂けると幸いです。



 自分のステータスを眺めながら静かに待っていると、エルクゥ達がカートに料理を乗せて運んできた。

 朝食というには遅い時間であるし、かといって昼食にはまだ早いので、このギルドにある食堂でわざわざ作ってきたようである。


 ……神様に料理を作らせた、という事実が既に恐ろしいことなんだが気にしないでおこう。うん。



「ナナキさんはまだ身体が弱ってますから、お粥で我慢して下さいねー」


「人が食べられるものであれば贅沢は言わないよ」


「その言い方だと……前に何かあったのか?」


「今みたいに体調を崩した時に、どこかの駄女神様が前に作ってくれた粥があまりにも酷すぎましてねぇ……」




 食器用洗剤の臭いがするし、混ぜられた洗剤の色なのか、汁は青い。

 かき混ぜてみようとしてレンゲを入れてみたら、刺さるという表現が似合うくらいに粘り気が酷く米も硬い。


 とどめを刺して俺を殺す気か、とひっくり返し、辛い身体を無理矢理起こして手順を指示しながら作り直しを要求。

 そうして出来た粥は色は白くてとろみもまともだったのに、水分補給の間に目を放していたらエルクゥが塩と砂糖を間違えるという、王道過ぎる間違いをしてくれました。しかも大量に入れたためにダダ甘。


 醤油に塩。

 それ以外に薬味やツナ缶なども動員して、ようやく食べ切った代物だったのである。


 もちろん、そのあとには気持ち悪くなって吐き戻し、余計に体調を悪くした……というオチもついたが。



 そんな、料理下手と一言で片付けるには恐ろしい惨劇を語ってみせると、錆び付いたロボットが振り向くような速度で三姉妹の女神が母親である女神に振り返る。


 ちなみにその表情は、信じられないものを見たかのような引きつり顔である。



「母よ……流石にそれは駄目だろう」


「……温厚な私でも中身を顔にぶつけるレベル」


「お母様も苦手な事があったんだねぇ……」


「昔の事だからいいでしょ、別にっ! ナナキさんもいつまでもその事で根に持たないで下さいっ!」



 根に持つな、と言われてもこれは仕方ないだろう。

 無駄にさせられた食材と最期の晩餐にされかけた恨みは大きいのだ。



「……でも、それからちゃんとした料理を作るようになったよな、エルクゥは」


「あんな酷い醜態を晒したのに、何だかんだと文句を言いながらも食べきってくれたじゃないですか」


「吐き戻して脱水症状出てたけどな」


「それは言わなくてもいいじゃないですかー!」



 食材がもうそれだけしかなかったのもあるが、俺自身がエルクゥの好意を無碍にしたくなかっただけだ。

 男としての意地、というのもあるが。



「そんなになってまで食べてもらったんじゃあ、ちゃんとした料理の一つや二つくらいは覚えたくもなりますよ……」


「そう言ってデレたお母様が作ってくれたお粥が、こちらになりまーす」


「ちょおっ!?」



 一応は病人扱いなので、俺はアルカナからお粥を手渡される。

 小さな鍋に入れられたお粥からは、食欲をそそるような匂いとほんのりと暖かさを感じさせる湯気が立っている。


 いつかのお粥と比べれば、雲泥の違いだ。

 匂いを嗅いで、能書きはいいから早く食わせろ、と腹の虫が鳴いて催促を始める。



「エルクゥ、ありがとな」


「……早く元気になってくださいよ」



 耳まで赤いまま、こちらには背を向けてさっさと食べ出してしまったエルクゥ。

 これ以上の弄りをすると、照れ隠しにまたとんでもないチートでも与えられそうだから黙っておくとしよう。



「さてと……色々脱線したけど、改めて」



 さっきから俺とエルクゥ達とのやり取りをずっと見ていて、ポカンと口をあけっぱなしにしている二人のエルフに俺は笑いかけた。

 手を差し出すと、金髪のエルフが慌てたように握って応えてくれる。



「俺は、ムミョウ・ナナキ。エルクゥに誘われて、ウィルマキアに来た異邦者だ」


「わ、私はルティア。隣にいるのは、妹のレムリアです」


「……よろしくお願いします、流れ人様」


(まぁ、いいか)



 まだ雰囲気は固いが、それも当然か。

 最初から馴れてくれるとは思っていないし、ちゃんと顔を合わせてから一日も経っていない。


 二人との距離は、ゆっくり縮めていけばいいさ。


 ……三人の女神様達とは急速に縮めただろ、というツッコミはなしで。

 俺だって、エルクゥとの繋がりがなかったらあんな事は起きてないと言えるし。



「エルクゥ。二人は今後、どうなる予定なの?」



 一応は食事時なので、出された料理を食べながらの会話だ。

 失礼にならないよう、口の中に入れたお粥は飲み込んでからエルクゥに尋ねる。



「……そうですね。基本的には奴隷ギルドの管轄の下、新しい購入者を待つのが道理なんですけども」


「何か問題でもあるのか?」


「あると言えば、あるな」



 サンドイッチを手にしていたミネルバが、最後の一口を味わってから飲み込んでから続ける。



「今回、この二人は魔族によって誘拐に近い形でどこかから連れ去られている。正規の奴隷契約を結んでいるわけでもなければ、冒険者ギルドの方で過去の失踪事件と照らし合わせて情報を探ってくれているようだが、まだはっきりとした身元情報も出ていない。奴隷契約を結ぶに当たって、必要な「個人を特定できる情報」がない事が問題なんだ」


「信用問題にも関わる事だからねぇ」



 元の世界でも、製造元の分からない代物は極力避けるべき、という暗黙の了解は存在している。

 大体、そういう代物は危なっかしくて使えた代物ではないんだが。



「そういうわけで、奴隷ギルドとしても二人の扱いに困っているようだったな」


「なるほどね……」



 粥を口に運びながら、考えてみる。


 二人をそのまま「自分の奴隷」として契約することは、状況的には簡単なのかもしれない。

 けれど、それは俺が望んでいる状況ではない。


 二人はちゃんと幸せであって欲しいし、本来いた場所に帰ることが出来るようにするべきだ。

 神託を告げる巫女だっていうのなら、それなりに重要な立ち位置にいるはずなんだろうし。


 それに今頃は、彼女達がいなくなったことでパニックになっている可能性だってある。



「ここのギルドマスターには、俺が起きたって事は伝わってるのかな?」


「……うん。私が二人を連れてくるときに、伝えてきた」



 そういうことなら、話は早いか。


 粥をさっと食べ終わると、俺はまだ痛みの残る身体に鞭を打つように立ち上がる。

 大丈夫、これくらいは日常の痛みの範疇だ。軽いリハビリみたいなものだと納得させれば問題ない。



「どこにいくの?」


「そのマスターに挨拶してくる。とりあえず世話になってるわけだし、礼の1つくらい言っておかないとさ」


「確かにそうだな。だがナナキ、マスターの顔を知っているのか?」


「あっ」



 そうだった、と声を漏らすと、エルクゥ達が一斉に溜息を付いた。

 ルティアとレムリアの二人も残念そうな目で見る。知らないんだから仕方ないだろう、悪いか。



「……私が一緒に行く」


「お願いします」



 詰めが甘いのは、異世界に来ても変わらないか。

 こういうところは直したいんだけどな……どうすればいいんだろうか、これは。



「……大丈夫? こっちに呼ぶ?」


「いや、大丈夫。行くよ」



 これは後から考えればいいか。

 今は、ルティア達の事も含めて、自分の身の振り方を考えるときだ。


 先導するように歩き始めるリーディアの背中を、動かすたびに引きつるような痛みを堪えながら歩く。

 多分、傍から見れば「錆びて壊れかけのロボット」だと言われても仕方ないだろうけど。



 ――ぷぷぷ……っ!



 これで全力なんだよ!

 笑ってるんじゃない、駄女神!


 後で、飯食ったその腹に貫手をぶち込むからな!



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