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50 秘密は共有されるもの


 エルクゥへのお仕置きが終わったところで、俺はリーディアに二人を連れてきてくれるように頼んだ。

 自己紹介もまだだったし、何よりもちゃんと顔合わせをしていない。助けた時に言葉をかわしたといっても、殆ど一方的なものだったわけだから、ちゃんと話をしたいと思うのは普通だろう。


 痛みで頭を押さえてうずくまっている女神様には悪いが、二人が来る前に問いただしておかないといけないことがいくつかある。



「おい駄女神」


「駄女神じゃないもん!」


「あっさりと身バレしてる時点で駄女神以外の何物でもないだろ」



 正論を言って「はぐぅっ!?」と黙らせた所で。

 俺は、スキル《生命力強化》の効力もあって、少しだけ動かせるようになった身体をベッドから抜け出る。



「もう動いても大丈夫なの?」


「まだ痛みはあるけど、最初に貰ったスキルのおかげだな。でなきゃ、あと二日くらいは寝込んでると思う」


「看病、というものをしてみたかったんだがな」


「それはまた今度にしてくれ。今は、急いで確認したいことがあるからさ」



 ミネルバが乗り気だったのは意外だが、それは横に置いておこう。

 俺は床で「の」の字を書いている駄女神な創造神様の背中をべチンと叩いた。



「いったぁっ!? なにするんですかっ!」


「聞き返したいのはこっちの方だ。あのエルフ二人に身バレした件、詳しく話してもらうぞ」


「う……やっぱり話さないとダメです?」


「ダメ。もっかいげんこつ落とされたい?」


「嫌ですよ! ナナキさんのは指関節の角で削るようにして叩くから痛いんですよ!」


「だったら質問に答えろ。今の俺はちょっと機嫌悪いからなー?」



 寝起きでまだ開ききれていない目を細めて、睨みつけるかのようにして見下ろす。


 不機嫌なのは当然だ。

 寝起きに頭の痛い案件を持ち込まれた営業職のような気分で話を聞かなきゃいけないし、それを解決するために走り回らなきゃいけないのだ。実際には走らないけど。


 そして、原因は分かっているのだから、そこを追求すれば良いだけなんだが……これが面倒だし、俺個人としては無駄だからやりたくないのだ。

 責めたところで解決するわけでもないし、問題を無かったことに出来るわけでもないのだから。


 それでも、知っていると知らないとでは対応が大きく違ってくるのだから、やらざるをえないわけで。



「……で、実際のところ、なんで身バレした?」


「私も、身バレするつもりは一切なかったんですよ? でも、タイミングが悪くて見られてしまったという感じでして……」


「何を見られたんだ?」


「ナナキさんの世界からこの世界に転移して、その痕跡を消そうとウインドウを展開して作業をしていた一部始終を」


「あー……」



 確かに、その状況を見られたんじゃあ仕方ないが……。



「それは、面倒だからその場でやろうとしたお前が悪い」


「ですよねー!」



 温情として平手にランクダウンしたが、身バレしているのには変わりないのでそのまま実行。

 背中をバシンと叩いて、もう一度痛みに悶えさせる。身を持って反省しろ。



「それでどうするんだ、ナナキ。二人に対してどう説明する?」


「……説明するにしても、二人がどんな認識をしているかを知らなければ、どうしようもないよ」



 聞かされた状況通りに、二人が「エルクゥ達のことを神だと思っている」のであれば、まだ良い。

 問題なのは、そこから飛躍して「俺も神だと思われている」としたら厄介なのだ。


 俺は神でもなければ、勇者でもない。

 称号的には英雄ではあるけど、それを名乗るだけの実績もない。


 そんな奴なのに、好き勝手に崇め奉られるのはごめんだ。



「まずは話を聞こう。対処はその後だ」


「私も、それがいいと思うよ」


「同感だ。母も、それでいいか?」


「ナナキさんがいいなら、それでいいけど……」



 何かを言いたそうにしていたエルクゥだが、遮るようにノックの音が。

 リーディアが二人を連れてきてくれたんだろう。



「……入っても大丈夫?」


「あぁ、大丈夫。二人を入れてくれないか?」



 ガチャリと扉を開けて、部屋に入ってくるリーディアとあの時助け出したエルフの二人。

 その二人はどこか落ち着きのない様子で周りを見回していたが、俺の姿を見つけると安堵したようにホッと胸を撫で下ろした。


 ……そういえば、二人を助け出した後に気絶してたんだよな、確か。



「あぁ……無事だったんですね」


「あのあと、死んだように眠っていたからお礼が言えないのかと思っていたの」



 二人の言葉に、俺は曖昧に笑ってごまかす。


 実際、状況的には死んでいたも同然の状態に陥っていたらしいからな。

 それでも、俺がこうして生きていられるのは、エルクゥ達の加護があったからなんだが。



「あの時は助け出してくれてありがとう。おかげで、こうして妹と一緒にいられるわ」


「あなたには感謝してもしきれないわ」


「面と向かって言われると、照れ臭いな……」


「素直に喜べばいいのに」


「それが出来ない、難儀な性格なんですよーだ」



 ミネルバから呆れたように言われるが、これでも俺なりに精一杯なのだ。

 喜んでくれているのは分かるが、それをどうやって表現すればいいのか分からなく戸惑っているのだから。



「それで、1つ確認しておきたいんだけど……」


「なんでしょう?」


「君達は、この4人の正体を知っているのか?」



 俺は視線でエルクゥ達を指し示す。

 そして、その問いに彼女達は小さく頷いた。



「私達エルフは、古い時代から神を信仰してきました。今まで信仰し続けた年月の合間に、神が自ら降臨なされた事も何回かあるんです」


「その時の光景の写しが私達の一族に伝わっていて、それに描かれている女神様が皆さんとそっくりなのです」


「顔が似ているだけの、偶然かもしれないよ?」


「……いえ。偶然ではありません」


「私達は、この耳で確りと聞いたのです。神々の名前を口にするのを」



 確信を持って言う彼女達に、俺は小さく溜息を付きながらエルクゥを見る。


 彼女に言えば、二人の記憶からエルクゥが犯した失態に関する記憶を消し去ることが出来るだろう。

 でも、俺はそれをしようとは思いたくない。


 それは、彼女達に対しての不義理でもあるし、何よりも二人の視線が純粋なのだ。

 憧れの人に初めて出会えたかのように、ときめきと感動が溶け合わさった表情をしている彼女達を汚してしまうようなことは、したくないと思ってしまったのだ。



「……エルクゥの責任だからな」


「分かってますよ……」



 本人が一番溜息を付きたいのだろうに、エルクゥは一歩だけ前に出る。



「私達の正体を知っているのであれば、話が早いです。正体については、他言無用でお願い出来ますか?」


「もちろんです、創造神様」


「軽々しく、他者に告げるような真似は致しません」



 その場に膝を付き、まるで女王に対して中世を誓う騎士のように頭を垂れる二人のエルフ。


 それを見ると本当にエルクゥは神様なんだな、と思うんだが……なんでだろうな。

 俺にとっては、どこかだらしなくてドジっ子だけども自分のやりたい事に対して正直な女の子、という印象しかないのだ。



「……それだけ、母のイメージが身近過ぎるの」


「だろうなぁ……」



 俺の表情で何を考えていたのか、読み取ったらしいリーディアからツッコミが入る。

 それだけ、俺の考えは顔に出やすい、という事なんだろうか。


 けど、これで回りに無用な心配をしなくて済む、という事か。

 その事実に、今は安堵しておこう。


 絶対にパニックになったり、魔族に狙われたりするからね!




次回更新は遅くても1週間後の予定です。

場合によっては早まるかも知れませんが、そのときはTwitterの方で告知があると思いますのでチェックの方を宜しくお願い致します。

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