47 事後処理は専門職任せがちょうどいい
日が完全に地平線から切り離されて、昇り始めた頃。
ナナキさんが送った手紙を読んで、突撃ともいえる火急の勢いでこちらに向かってきていた冒険者ギルドで編成されていた一団がルコミスの町に到着したわ。
その勢いのまま、先に領主館から脱出していた本物の領主……エトワイト卿と合流して、状況説明。
そこに、最上階から降りてきた私達が現れて、色々と聞かれたんだけども。
「とりあえず、功労者を労うのが先だ。話はあとでいくらでも聞ける」
そう言って、調査の為に率いていた冒険者達を私達から引き剥がしてくれたイシュマのギルドマスターに感謝しないといけないわね。
「……君達は、彼の知り合いか? 彼には、こちらに知り合いはいないと聞いたが」
「旅の途中で知り合いました、実は彼に助けて頂いた事がありまして」
事前に娘達と話し合いをして、私達は「旅をしている途中にナナキさんに助けられた事のある冒険者の家族」という設定にしている。
そのため、私達が着ている服装は神としての衣装ではなく、冒険者としての服装に変えてある。
「この町で休憩しているときに彼の姿を見て、声をかけようと思ったんだが……なにやら、探るような感じで動いていたので声をかけずにいたんだ」
「……夜にこの館に忍び込むのが見えたから、隠れて様子を見ていたの」
「そうしたら、中から奴隷の格好をした人たちがどわーっと出てきて、驚いたんだよ!」
「その中にナナキさんの姿が見えなかったのが少し気になりまして……失礼と思いながらも裏口から中にそっと入りまして、ナナキさんを探していたら……」
「……この二人と一緒に保護する形になったの」
娘達に服を着させて、無理をさせない程度に連れて来た二人のエルフ。
それほど酷い衰弱はしていないみたいだけど、体力が落ちているのは変わらないわ。
私が背負っているナナキさんと同じように、休息が必要ね。
「まずは、三人を静かな場所で安静にさせないと。どこか、いい場所はありませんか?」
「そうだな……三人を同時に、となると宿では手狭だろう。この領主館も調査のために出入りが激しくなるから騒がしくなるだろうし、彼には色々と借りがあるからな……」
彼を休ませてあげたいのは、彼女も同じ。
良案がないか、うんうんと悩んでいるギルドマスターの背中に。
「――でしたら、私達のギルドで身元をお預かりしますわ」
別の女性の声が、ポンと叩かれた手と共に届けられた。
声の先を見ると、そこには彼の世界でいうところの「オフィスレディ」な服装の女性が。
「アーテラか? その服装は……また受付嬢をしてたのか」
「いいじゃない、部下がちゃんと育ってくれてるからこういう事出来るんだし。カタリナこそ、そっちはちゃんと後継育ててるの?」
「選別中だ。なかなか骨のある奴がいなくてな……」
呆れた、と言いたげに溜息を付く女性にギルドマスターは「うるさい」と肘で小突く。
「それよりもアーテラ、お前のギルドで預かるとはどういう事だ?」
「彼に出した依頼は、元はといえば私達が出したものよ。それを貴方経由で彼に届いたのだから、大元である私達が事後処理するのが当然だと思うのだけど?」
「まぁ、確かにそうだが……」
「それに、そこの二人に関しても身の振り方を考えなきゃいけないし」
言って、視線を二人のエルフに向ける彼女。
話の流れから言うと、彼女が『奴隷ギルドのギルドマスター』のようね。
確かに、彼女の言うようにこの二人の今後も考えないといけないわけだから、色々と話を聞きやすい手元に置いた方がいいのかもしれないわ。
「もちろん、貴女方も歓迎致しますわ」
「いいのか? 奴隷ギルドといえば、徹底した秘密主義だと聞いたが」
「あら、世間ではそのように言われているんですね。でも、冒険者ギルドのように誰彼にも開示する訳にはいかない内容ですから、仕方ないんですよ」
「お前が気に入った相手だったら、それは関係ないんだろ」
「いけませんか?」
クスクスと笑う彼女に、ギルドマスターは「はぁ」と溜息を付く。
女性としても策士としても上手なのかもね、見事に転がされているわ。
奴隷ギルドだけは敵にしたくない相手だ、と噂になっているのも納得ね。
「ここで立ち話もアレですから、運んでしまいましょう。カタリナ、何か分かった事があったらお願いしますね?」
「任せておけ」
頼もしく頷くギルドマスターに見送られて、私達は女性について行く。
けれど、私は彼に頼まれていた事を思い出して、死んだように眠っているナナキさんを抱え直す。
「ごめんみんな、あとでナナキさんをお願いしていい?」
「何処か行くのか?」
「えぇ、彼に頼まれていた『おつかい』をしに」
「……羨ましい」
「また今度ね。時間があれば、みんなでいきましょう?」
自分も行きたい、と駄々をこねる娘達をなだめて、私はみんなと一緒に女性についていく。
(……それにしても)
後ろを付いて歩きながら、私は思う。
確かに、ナナキさん……狭山さんは、無名の英雄だった。
普通だったら、子竜を助けるために魔族の前に飛び出したり、奴隷を助けようと行動したりはしないのだから。
それが許せない、という怒りに任せての行動なのは、少し褒められた事ではないけど。
けど、彼は私が書いたシナリオ通りに。
時には、自分で内容を改変しながら。
少しずつ、彼は「本当の」英雄になるための階段を上ろうとしている。
……けれど、私は気になっている。
彼の『心の闇』と名乗った存在が言っていた言葉が。
――心の闇は『一つだけではない』って事さ。
それはつまり、彼には『私達にも見せていない一面をまだ隠し持っている』という事。
信用はされている。
でも、信頼はされていない。
これは、会って日の浅い娘達ならまだしも、友人になって長い私にも当てはまる事なんでしょう。
彼が私に黙って、自分の中の存在に解決を頼んだ事からも、それは分かる。
……彼は一体、何を考えているんだろうか。
(尋問……はダメね。そんな事をしたら、余計に口を閉ざしてしまうかも)
彼の口から話してもらう事。
それが一番なのかもしれない。
……でも、今は彼に頼まれた事を。
この世界に招いた時にした約束を果たさないと。
(……それを知るためにも、行かないといけないわね)
考え事を頭の隅に置いて、私はこれから向かう場所を思い浮かべる。
目指す先は。
向かう座標は――彼が居た世界へ。
今回は珍しく二話投稿です。
次話で、第一章のエピローグとしての【幕間話】となります。




