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38 それは唐突に訪れる



「う、そ……」



 私――創造神エルクゥは、平原を写すモニターの画面に表示されている文字を受け入れられずにいた。



「……どういう事なの、母」


「私達にも分かるように説明してよー」


「ナナキは……彼はどうしたのだ?」



 肩を揺らして説明を求める娘達。

 もちろん、説明してあげたいのは山々だけど、状況を理解出来ていないのは私もなの。


 手出しをしないでくれ、と言われたかと思えば一方的に【神託】を切られ。

 それはどういう事なのかと問い質そうとしたら、この状況。


 ――生体反応を確認できません。

 ――接続を解除します。


 画面に出ている、この文章。

 それが意味するところは……



「……ナナキさんの反応が『無くなった』の」


「無くなったって……どういう事?」


「文字通りの意味よ。ムミョウ・ナナキ、という存在の反応が『消失』したの」


『えっ……』



 娘達が言葉を失った。

 母親である私の知らないうちに親しくなっていたみたいだから、それぞれに思うところはあったのかもしれない。


 でも、それは私も同じ。

 彼の立場は、このウィルマキアでは『ただの異世界人』なのだと思う。


 けど、私にとっては違う。

 世界を超えて築いてきた、神という立場を忘れて等身大の私でいられる唯一無二の貴重な『友人』なの。

 そんな友人を、こんな訳の分からない理由と出来事で無くしてたまるもんですか……っ!



「……娘達。すぐに下界に降りる準備をなさい」



 椅子から立ち上がり、私は意気消沈としていた娘達に告げる。

 それは、この世界の創造神としてではあるけれど、この子達の母親としての感情も、一人の異世界人の友人としての感情の方が大きい。



「直接、ナナキさんの生死を確認します。こんな形で彼を失うなんて赦されない事態です」


「「「――ッ、はい!」」」



 私の叱咤に、俯いていた娘達が顔を上げる。


 ……そう。

 ここでただ俯いているだけでは、何も変わらない。


 あの場所で、何が起きているのかをこの目で確かめなくては……!




『――おっと。そいつはちょっと待っちゃあ、くれないか?』




 下界へ向かおうとしたその時、モニターから私達を制止するような音声が届いた。

 振り返ると、そこには画面に新しく現れた黒背景のウインドウに「接続者不明」の文字。音声波形らしき波形線が走っているのが見える。


 けど、ちょっと待って。

 相手はどうやってこの回線に繋いだの?

 これは、ナナキさん……彼に与えたスキルの【神託】用の通信網なのに。


 それに、聞こえてきたその声は聞き覚えがある。

 記憶の中にある声とは似ているのだけど、何となく違っていて……何処がどう違うのかと聞かれても答えにくい。


 そんな、些細な違和感を感じてしまう。



「……あなたは、誰?」


『それは、アンタがこの中で一番知ってるんじゃないかい?』



 身構えるようにして尋ねる私に『声』はからかう様に笑って返す。

 私が一番知っている、とはどういう意味なの?



『……その反応だと、俺の事はおろか、他の奴の事も聴いちゃいないみたいだな。説明を面倒臭がってるんじゃねぇよ、あいつは……』



 そして、疑問に頭を悩ませていると『声』は心底面倒臭そうに愚痴をこぼす。


 けれど、愚痴をこぼしたいのはこちらも同じ。

 この短時間で、とんでもない事実がいくつも明らかにされていて情報の整理が追いつかないのだから。



「……一つ、質問をしていい?」



 そんな中、娘のリーディアがモニターの『声』に話しかける。



『その声は、知識の女神さんか。構わないぜ』


「……あなたは、あの時に私に向かって身構えた『あなた』なの?」



 聞いているこちらが首を傾げてしまいそうな質問だけど、娘の表情は真剣だ。

 そして、その質問の返答としてパチパチと叩く乾いた音が鳴り響く。



『…………へぇ、驚いた。上手く隠したつもりだったんだが』


「……聞いた声の感じが、似てる気がしたから」


『たったそれだけの情報で当てるアンタの推察力も凄いけどな』



 観念した、というのとは違うのだろう。

 ふぅ、と溜息のように息を吐く『声』は、彼とはまた別の意味で人間らしかった。



「……で、結局のところ、貴様は誰なのだ」


『次は戦女神様か、俺も人気だねぇ。となると、末っ子の創造の女神様もそこにいるのかい?』


「そうだよっ!」


『知り合いの女神様が勢揃いって事か。こいつはタイミングがいいんだか悪いんだか』



 けらけらと笑う『声』に、緊張感は無い。

 画面を通してお互いの顔を見ている訳でもないし、相手は確認こそしているが、まるで「以前に出会っている」かのような気楽さで話しかけているのだ。

 私はともかく、二人の娘はそんな相手に思い当たる節が無いらしく、首を捻っているのだけど。



『……知識の女神様は「俺」が誰だか分かってるみたいだけど、他の三人は分かってないだろ?』


「ちょっと待ちなさいどういう意味よソレ」



 そして、こちらに問うような質問に、娘はともかく『一番知っている』と言われた私はカチンと来た。



『どういう意味も何も、アンタが『俺』の正体に気付いてないから言ってるだけなんだが?』


「そうだけど、あそこまで言われて何も言い返せないのが嫌なの!」


『言ってる事は分かるが事実だろ』



 確かにそうだけどー!

 確かにそうなんだけどー!!



『……結論を言った方が早いか、これ?』



 呆れたような声に、一人だけ理解してる感じのリーディアがコクリと頷く。

 ウインドウは未だに音声の波形だけしか写していないけど、画面の向こうで肩を竦めて笑ってる気がするのが気に食わないー!



『まぁまぁ、そうやって地団太踏むなよ? 一番年上なのに大人気ない』



 しかも、向こうからはこっちの様子が見えてる感じっぽいのが腹立つし……!



『エルクゥは分かりやすいんだよ。それよりも、本題だな』



 ようやく話す事が出来る、といった感じで『声』は語り始める。



『俺の正体についてなんだが、まぁ色々と込み入った事情とか説明も必要だからざっくりとした事でしか伝えられないんだが……まぁ、要約して言えば、この一言で片がつくな』



 そして『声』は自分の正体を明かす。



『俺は――ムミョウ・ナナキの『心の闇』だ』




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