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32 歯車は動き出す


「依頼達成の確認をお願いします」



 どさり、と討伐部位が入った背嚢とギルドカードをカウンターに置く。

 俺が納品する時は大量にするものだから、初めて俺の事を見る冒険者は目を見開いて驚いている。

 見知った冒険者達は「いつもの事か」と笑っているが、中にはゼニーをいくら稼いだかどうかの賭けもしている輩も居る。俺に迷惑がかかってる訳じゃないのでほっといているが。


 逆に、儲けさせてくれたから飯を奢らせてくれ、なんて誘いもあるからこちらも懐具合の方面で助けられてもいるんだけど。



「うわー、いつも通りに大量ですねぇ」


「Fランクの時はまだ楽だったんですけどね……」



 動きは鈍く、慣れれば子供でも倒せるスライムとグリーンキャタピラー。

 数が集まると面倒だが、落ち着いて一体ずつ対処すれば問題のないゴブリン。


 子供達の小遣い稼ぎにも使われている依頼なのだから、楽なのは当然だ。


 俺がいるEランクは、冒険者としての入口に立ったばかりだと言える。

 一人の冒険者として一人前だと認められるには、次のDランクに上がる必要性がある。



「地味かもしれませんが、これもDランクに上がるために必要な事ですからね。頑張って下さい」


「勿論ですよ。首都に行くならDランクになっておきなさい、とカタリナさんから言われてますし」



 首都にある冒険者ギルド本部にも、実はFランクとEランクの依頼は存在する。

 しかし、その依頼の量は各地に置かれている支部と比べると半分以下であり、本部でも支部でのランク上げを推奨しているほどだ。


 理由は簡単で、首都は他国との交易や人の行き交いが頻繁に行われる。

 そのため、実力があってすぐに動ける冒険者を多く求めている。要は、一から手塩にかけて育てている余裕は無いから自分達で支部に行って何とかしてくれ、という事だ。


 そして、支部では逆にDランク以降の仕事は少ない。

 緊急依頼などで発行される事もあるが、基本的には本部からの代行で、現地に滞在していて信頼の置ける冒険者達に向けて発行される事が多い。

 こちらでは、仕事や冒険者としての名誉が欲しければ本部に行きなさい、という事になる。


 こうして、本部と支部とでランクによる依頼量を調整する事により、冒険者達の流れを作っている訳だ。


 元の世界の感覚で言えば『出向先に応じた能力に合わせて派遣社員やアルバイトを振り分けているようなもの』かもしれない。


 もちろん、ランクが上位に上がれば上がるほど、ギルドへの信頼や本人の実力が重視されていく。

 国を行き来する飛行船便や飛竜便などの積荷の警護や商隊の護衛といった仕事がDランク以降に多く存在するのも、それが理由だ。


 そして、Dランクになる事で解放される項目も多く存在する。



「ナナキさんは、Dランクになったあとの予定はないんですか?」


「今のところは。流れ人だからっていう理由で注目されてるだけで、クランを組んでくれる人はいないでしょうね。拠点作成も今は考えていないですし」



 冒険者登録をした者同士で1つのチームを造る「クラン」も、その国での拠点となる家を持つ事も、Dランクになった冒険者には許されている。

 色々と手続きが面倒なのは元の世界と変わらないのだが、冒険者の多くは自分の拠点を持ち、クランというほどではない少人数のパーティを組んでいるのは確かだ。


 Dランク以降になっても拠点を持たず、クランやパーティを組まない冒険者は少数派ではあるが、別に居ない訳ではない。



「旅をして各地を回る予定ですから」


「ナナキさん、以前からホウライに行きたいって言ってましたからね。その方が良いかもしれません」



 拠点を持てば、その国からは離れにくくなる。

 各地を回り、色々と見聞を拡げていきたい俺としては「拠点の作成」に対して躊躇したくもなる訳だ。


 ……ステータスが育って【異世界の知識】にある空間魔法を【閃き】で修得出来たのなら、話は変わってくるが。



「でも、ずっと一人旅、というのは大変だと思いますよ?」


「……確かにそうですね」



 俺も、この先ずっと一人で旅をし続ける趣味はない。

 だが、信頼出来る相手がいるか、と聞かれると首を横に振ってしまうのも事実だ。


 エルクゥのテコ入れが入る前に何とかしたい、と思うのは彼女を知っているからだろうか。

 本当、あの人ならやりかねないから困るんだけど。



「まぁ、その辺りは考えますよ。冒険者のパーティが無理でも、他に手はあるでしょうから」



 答えながら、俺はアンナからギルドカードと報酬を受け取る。


 Dランクとなった冒険者には、パーティの補強として奴隷を購入する権利もあるらしい。

 俺としてはあまり選びたくない選択肢ではあるんだが、四の五の言っていられない状況になったら選ぶんだろう。


 そのためにも、色々と調べては確認を取っておかなければいけないな。

 奴隷の相場とか、そういう裏側の知識を。



「……そういえば、森の奥にあるっていう『例の館』を見ましたよ」


「奥地まで行ったんですか!?」


「ちょっと迷い込んじゃっただけで、見たらすぐ戻ってきましたけどね」



 ガタッと立ち上がるアンナの叫び声に、奥にいた冒険者達が目を丸くする。

 そして自分に集まる視線を感じてか、そそくさと座ると声を落として俺に尋ねてくる。



「……大丈夫だったんですか? あの館、最近は胡散臭い噂も流れてきているんですよ」


「胡散臭い噂?」


「なんでも、魔族があの館に出入りして『人形術師の遺産』を探している、っていう噂なんですよ。本当かどうかは知りませんけどね?」


「へぇ……」



 あくまでも噂ですから、と念を押すアンナだが、実際に魔族と関わりを持ってしまった俺としては笑い飛ばせるような話ではなかった。


 遺産がどんなものかは分からないが、それが魔族の益になるようなものである可能性は否定できない。

 加えて、噂の中には事実も含まれていたりする。


 ……魔族の動きに関して、俺も注意しておいた方がいいのかもしれない。




「――あぁ、ナナキ。ここにいたのか」




 魔族に対しての対策を考えていると、ギルド長室からカタリナが出て来る所だった。

 その手には資料らしき紙束があり、いかにも「問題を抱えています」といったような表情をしている。



「ちょうど良かった。君に頼みたい『依頼』があるんだ」


「ギルド長が、俺に直々の依頼ですか?」


「うん。ちょっと困った事が起きていてね。登録して日は浅いが、何かと実績を上げている君なら出来ると見込んでの依頼なんだ」



 カタリナの言葉に、ギルド内にいた冒険者達がざわつく。

 俺がカタリナに目をかけて貰っている、というのは周知の事実ではあるが……カタリナがこうも俺を持ち上げて言うのは、どうも不自然だ。



「……詳しい話をギルド長室で聞いても?」


「あぁ、頼めるかな?」



 表立って話せる事ではないのだろう。

 そう踏んで、俺は会場を防音の効くギルド長室へと誘導させる。


 カタリナも頷いて、アンナに伝達するべき事柄を伝えてから部屋へと戻っていく。

 それを見送ってから、ギルドカードと報酬を懐にしまい込みつつもギルド長室に向かう。


 ……後ろから興味深そうにこっちを見ている冒険者達の視線がチクチク当たっているが、気にしてはいられない。


 付き合いは短いが、それなりにカタリナの人柄というものは理解している。

 だからこそ、気になるのだ。


 カタリナが、俺を指名した理由が。



「……俺への依頼って、なんですかね」



 部屋に入り、しっかりと施錠をした上で、尋ねる。

 カタリナが困った表情をしているのは何度も見てきているが、それはアンナが何か問題を起こした時くらいなものだ。


 しかし、今回は『そういう類のもの』ではない、と感じ取ったのだ。



「……あぁ、うん。ちょっとばかり困った事になっていてね」



 カタリナは困ったように頷きながらも……受注者が『俺』でなければいけない理由を、口にした。





「……魔族が関わっていると思われる案件を見つけた。君に対処をお願いしたいんだ」




 

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